怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
……星、綺麗だなあ。
そういえば都会の明かりが無い森のド真ん中だと、夜空の星って綺麗に見えたりするよね。仕事柄、闇夜の廃墟探索は慣れっこで特に目新しいことなんかないのだけれど、この夜空に満開の星々を眺める瞬間はちょっと好きだったりする。
ぼーっとした頭でそんなことを思いながら、冷たい石畳の真ん中で仰向けに寝転がっているわたし、タチバナ=リリセ。
言っとくけど、別に
だけどそれは叶わないこと、なぜならば。
今のわたしは全身を縛られているからだ。
両手両足はぎっちぎちに縛り上げられていて自由に動かせない。体の節々に入った絞り縄のせいで、身体を弓のようにピンと伸ばして寝転がったまま、起き上がることすらできなかった。
とにかく窮屈なのでもぞもぞと体を捩る。
ギチッ、ギチギチギチギチ……ッ!
「く、うぅぅ……ッ!」
途端に全身を絞り上げられ、わたしは歯を食い縛って唸った。
少しでも姿勢を楽にしようと僅かに身動ぎしただけなのに、縄がよりいっそう固く食い込んでしまい、体の関節という関節すべてに鋭い痛みが駆け回る。苦痛のあまり体表から冷や汗が滲み、体を伝いなぞって、シャツとズボンの背中をじっとり湿らせてゆく。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
縦横無尽にかけられた縄で全身を締め上げられ、満足に息をつくことすら出来ない。短く浅い呼吸を小刻みに繰り返し、酸素不足の脳へ酸素を必死に送り込む。
……まずい、酸欠で顔が真っ赤に紅潮してゆくのを感じる。頭の中もぼーっとしてきた、気絶してしまいそうだ。
どうして、こんなことに。
酸欠と痛みに喘ぎながら、わたしは回想した。
事の発端は、沖縄旅行の帰りである。
予定どおり沖縄旅行を終え、南の島でのバカンスを満喫したわたしたち:タチバナ=リリセとエミィ=アシモフ・タチバナは、本土行きの船に乗って帰るはずだった。
ところが帰りの航海の途中、運悪く野生の大海老怪獣:エビラに遭遇した。
エビラ自体は船に装備されていた武器で追い払うことは出来たものの、折り悪く今度は嵐が直撃して船が遭難してしまった。
わたしとエミィはなんとか同じ救命ボートに乗ることが出来たけれど、そのまま激しい嵐に呑まれて流されて三日ほど漂流した末に正体不明の島に漂着してしまった。
……ここはいったいどこなんだろう。エミィと二人っきりになってしまったわたしは、ひとまず島を探索した。
(……しっかし、暑いなあ。)
額と首筋でべたつく汗を、手の甲で拭う。酷い湿気に強い日差し、まるで熱帯のようだ。
森の樹々、そのあいだをカラフルな鳥が飛び回り、見たこともない毒々しい体色の蜥蜴が木の陰を這っている。森のざわめきの中を、鳥だか獣だか判別つかない動物の声が響き渡る。
植物の植生をざっと見たかぎりどうやらここは南洋の島、それも日本からは相当離れているようだ。
水筒の少ない水を二人で分け合い、時折木陰で休憩を挟みながら、森の中を進んでゆくわたしとエミィ。
……わたしは内心、焦っていた。
頭上を見上げれば日が傾き始めている。時計を見ると正午過ぎ、このままではじきに日が暮れて夜になる。暗闇の森の中を彷徨う羽目になる前に、どこか安全な寝床を見つけなければならない。
それにここは無人島なのだろうか。一日中歩いているのに人っ子ひとり出会えていない。
もしも本当に無人島だとするとかなり困ったことになる。エビラを筆頭に海洋性の獰猛な怪獣がほっつきまわっているこの昨今、通りがかりの民間船による救助を期待するのは難しい。といって、あの小さな救命ボートで大海原に漕ぎ出すのは猶更心許ない。つまり、詰んでしまうのである。
かといって長期戦も厳しい。濾過その他が可能なサバイバルキットがあるから飲み水はどうにかなりそうだが、食糧がさほど多くない。あるいはこの島そのものが野生の怪獣の棲みついた所謂“怪獣島”という可能性もある。
無人島なら野垂れ死、怪獣島だったら怪獣のエサだ。どちらにしても勘弁してほしい。
……おっといけない。わたしは頭の中に浮かんだネガティブ思考を振り払った。
ネガティブな考えは顔に出る。わたし一人ならいくらでもネガティブになればいいと思うが、今はエミィが一緒にいる。エミィまで不安にさせちゃいけない、年長者のわたしがへこたれてどうする。
そうやって崩れそうになった気持ちを引き締め直したとき、草葉の陰から物音がした。がさがさと草むらを掻き分ける音。誰か、もしくは何者かがやって来たのだ。
……人間? それとも怪獣??
わたしは咄嗟にエミィを背中に庇い、腰のピストルに手を伸ばす。使わないで済んだらいいけどね、もし人間だったら撃ちたくないし。
草むらを掻き分け、森の奥から現れたのは人間の集団だった。
この島、どうやら無人島ではなかったようだ。よかった、少なくとも『無人島で野垂れ死』だけは避けられそうだ。とりあえず懸念事項の一つが解消され、心の中で安堵する。
だが味方、というわけでもなさそうだ。顔には派手なフェイスペイント。体は最低限の部位を布で覆っているだけで、あとは藁で編んだと思われる大きな蓑を纏っている。
そして何より武装している。鋭い目つきで警戒しながら、木の棒に石の鏃を括りつけた槍だとか、怪獣の骨を削ったと思われるナイフなどの鋭い刃先を向けながら、わたしたちをぐるりと包囲した。
……まさかこの御時世、こんな原住民族みたいな人たちが暮らしていたなんて。
一瞬の緊迫感がその場を覆う中、そのときわたしはふとこんなことを考えた。
(……そういえば、こんな映画あったな。)
緊迫感の中で何考えてんだって気もするが、考えちゃったんだから仕方ない。
わたしが思い出していたのは、遠い昔遥か彼方の銀河系で宇宙サムライが宇宙戦争を繰り広げる、わたしが好きな傑作映画シリーズだ。
映画の主人公である宇宙サムライの青年は、悪の帝国が建造した宇宙要塞を破壊するために訪れた森の惑星で、テディベアそっくりの毛むくじゃら原住民族に取り囲まれてしまう。それが今の状況となんとなく似ているのだ。
あの映画では主人公の宇宙サムライは虜にされて危うく喰われかけるのだが、
わたしに出来ることといえばエミィを背に庇い、原住民族たちを精一杯睨みつけることだけ。
……わたしはともかく、エミィには指一本触れさせない。死に物狂いで暴れてやる。
そのとき、わたしたちを取り囲んでいる原住民族たちに割って入ってきた人物がいた。
おそらく現地の言葉だろう、わたしたちにはわからない言葉で周囲の原住民族たちに声をかけ、わたしたちを中心とした包囲網の内側へと割って入る。
現れたのはお面の人物だった。
背丈はわりと低いが、他の原住民族と同じく大きな蓑を纏っていて体型はよくわからない。顔には粘土で出来たおどろおどろしいデザインのお面を被っており、頭頂部には大コンドルの羽根を染めたと思しき大きな飾りがついている。如何にも南の島の呪術師、って感じの風体だ。
お面の人物に、原住民族のリーダーと思しき中年の男が話しかけた。現地の言葉、何を喋っているのかは全く分からないが唾飛ばす口調は激しく、中年男がひどく興奮した様子なのは間違いない。そんな男の言い分を、お面の人物はフンフンと相槌をつきながら聞いている。
やがてお面の人物はわたしたちへと振り返ると、お面越しにくぐもった声で言った。
「ここ、スカルアイランド。わたし、司祭。おまえたち、島に〈深海の恐怖〉、連れてきた」
……スカルアイランドというのか、この島は。
髑髏島、聞いたこともない島だった。あるいは文字通り未開の島なのかもしれない。この御時世にそんな島が存在するとは到底思えなかったが、実在しているのが現実だった。
しかしそんなことより気になったのは『深海の恐怖』の方である。
「深海の恐怖……まさか、エビラが!?」
わたしが漏らした言葉に、お面の人物あらため髑髏島の司祭も深々と頷く。
深海の恐怖、怪獣図鑑にも載っているエビラの別名だ。なんてこった、おそらくわたしたちの船を襲ったエビラが、逃した獲物を追ってこの島までついてきてしまったのだ。
司祭は、大声を張り上げた。
「だから島の王、〈コング〉呼ぶ! 深海の恐怖、追っ払ってもらう!」
『コング』。その名前が出るや否や、周りを囲んでいた原住民族たちは一斉に沸き返った。人々は興奮した様子で騒ぎ始め、呪文のような言葉を一生懸命に唱えたり、あるいはその場にひれ伏して天を仰ぎ見始めた人もいる。
……コング、いったい何のことだろうか。島の王というからには王様のことだろうが、エビラを追い払えるというからには間違いなく人間のことではない。
コングというネーミングからわたしはかつて戦ったロボット怪獣、メカニコングのことを思い出した。スペースチタニウムで出来た機械仕掛けの恐ろしい殺人ゴーレム、あいつもコングという名前を冠していたけれど、ここで出てきた『コング』も怪獣だろうか。怪獣だとすればなんだか相当強そうである。
そんな思考をぐるぐる巡らせるわたしを見据えながら、司祭はこの場にいる全員へ聞こえるように大声で言った。
「おまえたちのせいで、
言われて初めて気が付いたが、司祭の後ろには三角巾で片手を吊った青年が立っていた。顔立ちを見れば、司祭と話し込んでいたリーダー格の中年男によく似ている。おそらく彼が
司祭は「おい、そこのチチデカ」とわたしを指差した。
「チチデカ、おまえ、コングの捧げ物、なってもらう。チチデカ、おまえ肉付きが良い。きっとコング、気に入るだろう」
「え、なに、それちょっとどういう意味……」
司祭の言葉に気を取られていたのがまずかった。
丸太のように屈強な腕が、わたしの両腕を鷲掴みにした。いつの間にか背後に回り込んでいた原住民族の男二人に、わたしは両腕を羽交い締めにされてしまった。
「しまった……ッ!」
力一杯に抵抗してみたが相手は大の男だ、わたしは凄まじい腕力であえなく後ろ手に縛り上げられてしまい、唯一の武器であったピストルも取り上げられてしまう。
「はなせっ、はなせったら!!」
わたしを取り押さえた二人の男は、藻掻き暴れるわたしの両脇を抱えながら、森の奥へと引きずり込んでゆく。
「エミィ!!」
「リリセ!!」
その後に追いすがろうとするエミィを、司祭は「おい!」と遮った。
「キンパツ、おまえはこっちに来い!」
「リリセ、リリセ――――――」
―――エミィ!
わたしは声のかぎりにエミィを呼んでみたけれど、エミィは原住民族に取り囲まれ、あっという間に見えなくなってしまった。
エミィと引き離されたわたし、タチバナ=リリセは全身を縛り上げられたのち、原住民族たちに担ぎ上げられて森の奥へと運び込まれた。
森を抜けて砦の門をくぐり、さらにまた森を通ってその深部へと到達、行き着いた先には祭壇が設けられていた。
随分と大掛かりな祭壇だ。おそらく岩を積んだか、あるいは巨石を削って作られているのだろう、数十メートル四方の台座に、高さ数メートルほどの柱が並び立っている。
きっとこれが島の王、コングに捧げ物を行なうための〈捧げ物の祭壇〉に違いない。
目的地に到着した原住民族たちは、縛られたわたしを仰向けに寝転がす形で祭壇へと載せ、どこにいるかもわからない自分たちの王:コングへ深々と拝礼すると、もと来た順路を辿って村の砦へと戻って行った。
原住民族たちが立ち去り、捧げ物の祭壇にひとり残されたわたしは、原住民族たちの気配が遠ざかり足音が聞こえなくなった頃合いを見計らって自分の状態を確認した。
……全身をグルグル巻きに縛り上げられている。腕は後ろ手、さらに胸へ掛かる縄で背中にくっつける形となっており、ちっとも動かせそうにない。下半身の方はというと、両脚を真っ直ぐぴったり閉じられた状態で縛られており、膝を少し曲げるくらいなら出来るものの立ち上がることは不可能だった。
(かなりきちんと縛ってある……こりゃ縄抜けは無理かな)
まあ、腕が使えなくとも、這って転がることぐらいなら出来るはず。わたしは身を捩った。
「くっ、ふッ! はあっ! ふんっ……!」
冷たく硬い触感、つやつやとした見た目の印象からもわかるとおり此処は石造りの祭壇だ。どこか尖ったところにでも擦りつけてやれば、縄を切れるかもしれない。
……エミィはどうなったろう。一刻も早く戻らなくては。
そう考えたわたしは、まずこの場から移動しようとシャクトリムシのように体をくねらせてみたのだが……
キュッ、ギュギュギュッ……
(な、縄がきつくなって……!?)
縄は弾力のある樹脂のような素材でできていた。しかもいったいどういう縛り方をしているのだろう。もがけばもがくほど、動こうとすれば動こうとするほど、縄が締まって体へ食い込みはじめた。
「ふんっ! オラッ! こんにゃろっ!」
慌ててわたしは渾身の力で抵抗してみたが、やっぱり駄目だ。縄のいましめはゆるむどころかますます固くなり、動ける範囲がどんどん狭まってゆくばかり。ちょっと力を込めてみただけなのに、祭壇のド真ん中で転がされた位置から一歩も動かないうちに、身体をピンと弓のように伸ばした姿勢から身を捩ることさえ困難になってしまった。
しかも、である。
ギュウウゥ……
「うぐっ……!」
いきが、できない……!
呼吸が出来なくなり、わたしは思わず呻いた。腕を動かそうとすると胴体にかかった縄まで締まり胸郭が締め付けられるので、ひどく息が詰まる。
酸欠だけじゃない。足を曲げようとすれば太ももや膝、脹脛に縄が食い込み、ひいては全身を締める縄が引き絞られてゆくのでとても苦しい。後ろ手の腕に体重がかかり、肩が外れそうになって辛い。おまけに乳と尻がパンパンに縊り出され、呼吸するだけで皮膚が張り裂けそうな激痛が走る。
ギチッ、ミチミチギチギチッ……!
痛みと締め付け、呼吸困難の併せ技。地獄の苦痛に苛まれ、全身から冷たい脂汗が滲み出る。その汗を吸ったのだろう、湿った縄が縮んでますます窮屈になってしまう。
縄の軋む感触が、わたしをよりいっそう追い詰めてゆく。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!」
走った犬のような浅い呼吸を繰り返す。
かくしてわたしは、糸で縛ったボンレスハムみたいに全身を絞り上げられ、ただその場で転がっていることしか出来なかった。
……というわけで、現在に至る。
祭壇に置き去りにされてから数時間も経ったろうか。赤い夕陽は完全に沈んで、星と月が昇る夜空に塗り替わっていたが、わたしは祭壇の上で縛られたまま一歩も動けていなかった。
雁字搦めに縛り上げられてにっちもさっちも行かないが、いつまでもこんなところに転がってはいられない。このまま祭壇で寝転がっていてはコングとかいう怪獣への捧げ物、つまりエサにされてしまう。
タチバナ=リリセ、史上空前の大ピンチだ。
(はやくっ、なんとかっ、しないと……ッ!)
気持ちは焦るがどうにもならない。満足に動けない体、酸欠気味の脳味噌でどうすればよいか、わたしが次の手を必死に考えていたそんな折である。
……がさっ、がさがさ。
木の枝を折り、草むらを掻き分ける音。何か大きなものが闇の中で蠢いている。
体を捩るのもままならない身で苦労しながら振り向くと、森の草陰から『蜥蜴』が這い出てきた。
……いや、ホントに蜥蜴か?
ひょろりと長い鼻面はたしかに蜥蜴に似ているが、サイズがバカでかい。鞭みたいにしなるしなやかな尻尾、目測だけれど全長は10メートル以上あるだろう。
なにより脚が二本しかない。黒い胴体からヒョロリと伸びた長い二本足とカギ爪、昔ゲンゴ君がハマっていたロボットアニメ(ああ、人造人間だっけ? ロボット呼ばわりするとマニアから怒られるんだよね)の敵怪獣を連想させる姿だ。
蜥蜴は祭壇の上のわたしに気づいたようで、長い両脚と尻尾を器用に使いこなして祭壇へと這い上がると、わたしへ跨るようにその巨体で覆いかぶさってきた。
他方、わたしは身動ぎすらできず、石畳で転がったまま真正面から見上げるしかない。
わたしと蜥蜴の怪獣、互いに向き合う両者。
……この蜥蜴怪獣が島をエビラから守ってくれるという守り神、コングとかいう奴だろうか。そんな考えもよぎったがすぐに違うことに気づいた。
大体、守り神って面構えでもない。真っ白な骨質の外殻に覆われた頭部はまるで
怪獣の死神、まさに〈
蜥蜴怪獣スカルクロウラーは、まったく身動きできないわたしの眼前へ顔を近づけると耳元まで裂けた口を開いた。鋸のような無数の歯が生え揃った大顎、その隙間からこれまた結滞に長い舌をしゅるしゅると伸ばしてわたしの視界を塞ぐ。
「ひっ……!」
喉が引きつり、反射的に瞼を閉じる。
閉じた瞼、そして顔全体に擦りつけられる、ねばついた粘液と無数の柔毛の感触。
「んぷっ……!?」
嗅覚へ突き刺さってくるかのような、腐ったゲロのような強烈に生臭い吐息。ぺちょぺちょと粘液が滴り、糸を引く音。
……こいつ、わたしの顔を舐めているのか。
やがて顔を舐め終えたスカルクロウラーは、続いて服の隙間に舌を滑り込ませた。
「ッ!? ひゃぁッ!?」
首筋と胸元に冷たく湿った感触が走り、思わず変な声が出た。頭を舐め終えたので、次は身体を舐め始めたのだ。
(こ、こいつ、どこ舐めて……ひぁうっ!?)
こ、この、変態怪獣めっ!
身を捩りたかったが、縛られているせいで微動だにできない。
嫌悪感で身を竦めるわたしに構うことなく、スカルクロウラーはわたしの全身をねぶり尽くしてゆく。
一舐め、また一舐め。舌の腹で胸の谷間と腹筋をなぞり、舌先でおへそをほじる。
長い長い舌の柔毛が肌を撫でてゆくたびに、ゾクゾクとした嫌悪感とくすぐったさがこみあげて皮膚が粟立ち、胃の奥が裏返るような
……このとき、縛られていてむしろ良かったのかもしれない。もし手足が自由だったら無闇に暴れて、スカルクロウラーを怒らせていただろうから。まあ、縛られてなかったらそもそもこんな状況になってなかったろうけどね。
正味数分程度だろうが、舐められる側としては何時間にも感じられたスカルクロウラーによる
全身を蹂躙していた柔毛と粘液の不快感が不意に消え去り、わたしが目を開けると、スカルクロウラーはわたしの身体を舐めるのをやめていた。
……どうしたのだろう。わたしが怪訝に思っていると、スカルクロウラーはわたしを見下ろしながら高笑いするような雄叫びを挙げ、今度は大口を開けて舌を伸ばし、わたしの脚へ巻きつけた。
触手を思わせるスカルクロウラーの舌が、今度はわたしの太腿へと絡みつき、そしてわたしの体をそのまま口内へと引きずり込もうとする。
そのときわたしは理解した。
こいつ、わたしを丸呑みする気だ。
そのことに気づいた瞬間、わたしの理性がとうとう限界の閾値を振り切れてしまった。
「ぎゃ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙―――――――――――――ッ゙ッ゙!!!!」
恥も外聞もかなぐり捨てたわたしの絶叫が、暗い森の中で響き渡る。
わたしは可能なかぎりの大声を張り上げながら渾身の力でのたうちまわった。
アンギラスに追いかけ回されたりメカニコングに捻り潰されかけたりゴジラとも戦ったり、これまでの人生死に掛ける局面ならいくらでもあったけど、こんな変態怪獣に散々舐め回された挙句に頭から丸呑みとかいくらなんでも嫌すぎる。
とにかくなんでもいい、この窮地から逃がれられさえすれば。
「イ゙ヤ゙ァ゙ァ゙ァ゙―――――――――ッ゙ッ゙!! イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ、イ゙ヤ゙―――――――――ッ゙ッ゙!! 触んなッ舐めるなッ巻き付くなッ離せッ離せッ、美味しくない、わたしなんて美味しくないってば、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙――――――――ッ゙ッ゙!!」
ミチミチギチギチィッ……!
だけどわたしの体は相変わらず縄できっちり拘束されていて、まったく解けるどころか動けば動くほどますます締め上げられて動きが封じ込められてゆく一方だった。
文字どおり手も足も出ないわたしを小馬鹿にするように、シューシューケケケと嘲笑いながら舌をゆっくり手繰り寄せてゆくスカルクロウラー。
……なんて意地の悪い奴だろう。その気になれば一瞬で終わるだろうに、あえてジワジワと引き込んでいるかのように見える。おおかた、わたしがパニックを起こしているのを見るのが面白くて仕方ないに違いない。
「いやっ、いやっ、やめてよして触らないでェ゙ェ゙ェ゙――――――――ッ゙ッ゙!!!!」
そんなスカルクロウラー相手に、わたしはただ悲鳴を挙げることしかできない。
生きたまま丸呑みにされるしかない、そう思ったときだった。
どーん。森全体が揺れた。
わたしは悲鳴を挙げるのをやめ、轟音が聞こえた方角へと視線を向けた。
わたしを嬲っていたスカルクロウラーも動きを停める。
両者が見守る視線の先、森の方からバキバキと雷鳴にも似た破裂音の連なりが続く。まるで重機が攻め込んできたみたいに、何か大きな力で樹木を切り倒す音だ。
とはいえ、この島に重機があるはずはないし、ましてや先程会った原住民族たちにそんな大きな力があるとも思えない。
何がやって来るのだろう。
星が見える夜空の森で、樹木を次々と踏み倒しながら、『そいつ』は現れた。
まるで巨人、いいや巨神だ。
初見時、わたしはそう思った。
シルエットは人間に似ていたが、サイズが桁違いだった。比較対象がない上に寝転がった姿勢だったので分かりづらかったけれど、身長は30メートル以上あるだろうか。
筋骨隆々、まさに筋肉の塊である巨体は、大木のような二本足による直立歩行で支えられ、盛り上がった山のような両肩からは、ゴジラだってジャイアントスイングで投げ飛ばしそうなバルク満載の逞しい腕がぶら下がっている。
顔は厳つい犬歯が突き出ており如何にもワイルドで雄々しい面立ちだったが、日輪のように奥深い瞳には確かな知性が見て取れる。
そして顔に浮かべているのは憤怒の表情。巨神は、祭壇の上のスカルクロウラーをじっと睨みつけながら、そのモリモリと盛り上がった大胸筋を平手で打ち鳴らした。
肉同士、骨同士がぶつかり合う重たい音が響き渡る。ドラミング、つまり威嚇行為だ。怪獣同士で通用する肉体言語で、スカルクロウラーを挑発する巨神。
巨神の挑発に、スカルクロウラーは喉を鳴らして応えた。
舌で搦め獲っていたわたしを祭壇に捨て置くと、二本足でスルスル滑るように素早く這い寄って、巨神の肉体に毒牙と爪を突き立てようと襲い掛かる。
その髑髏の鼻先に、巨神の鉄拳が炸裂した。
思い切り振りかぶった巨神の鉄拳制裁パンチ。ビルを叩き崩す解体重機のモンケンよりも強烈な一撃。衝撃は恐らく数十トンは下らないだろう。
そんなパンチをまともに喰らった体長10メートルのスカルクロウラーの巨体はブッ飛ばされ、祭壇脇の石畳へと叩きつけられて転がった。
ノックダウンされて咄嗟に反応できないスカルクロウラーに、巨神はすかさず追撃を仕掛ける。長い尻尾を握り締め、祭壇の石柱へと叩きつける。
スカルクロウラーは為す術もなくノックアウトされ、動けなくなってしまった。
圧倒的な力量差でスカルクロウラーを叩きのめした巨神は、島中へ宣言するかのように、勝利の雄叫びを挙げる。
雷鳴よりも猛々しい咆哮。ピンと背筋を伸ばして胸を張った姿は威風堂々、まさに王者の風格。
その雄姿に見惚れながらわたしは悟った。
こいつこそが〈コング〉だ。
髑髏島の原住民族が畏れ崇める、島の王。
この巨神こそ、コングなのだ。
こうしてスカルクロウラーを倒したコングだったが、森の奥から続々と次の挑戦者が現れた。
次に現れたのは、またしてもスカルクロウラーだった。コングの勝利宣言に誘われて、森の奥から這い出してきたのだろう。
しかし今度は数が多かった。その数、十頭。
にやけた髑髏のような顔で互いに見合い、何らかの合意を取り決めたスカルクロウラーたちは皆一様にコングへ向き直った。一匹ずつでは勝てないので集団で掛かろうという腹積もりなのだろう。
一匹ずつなら楽勝だろうが、流石のコングも勝てるだろうか。
だが、コングは恐れない。
ふん、小賢しい奴らめ、とばかりに鼻を鳴らして睨みつけるだけだ。
牙を剥き出しにしながら、より激しいドラミングで威嚇と挑発を仕掛けるコング。
コングの挑発に乗せられて、スカルクロウラーたちは一斉に襲い掛かった。
相手は十匹のスカルクロウラー。迫り来る敵に髑髏島の巨神:コングが吼えた。
ゴジラVSコング、楽しみですね。
好きなキャラクターを教えて
-
タチバナ=リリセ
-
エミィ=アシモフ・タチバナ
-
メカゴジラⅡ=レックス
-
ウェルーシファ
-
ジニア