怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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ゆけ!ゆけ!タチバナ=リリセ!!謎の原住民族は実在した!魔境:髑髏(ドクロ)島の奥地に幻の巨大なる魔神(ましん)を追え!! その2

 コングVSスカルクロウラー軍団。

 スカルクロウラーたちは毒牙、カギ爪、長い舌と尻尾を振りかざして一斉に飛び掛かる。

 

 他方コングは祭壇の石柱に手をかけると、剛腕から繰り出す桁違いの腕力で根元から引っこ抜いた。まるで棍棒だ。それを片手でブン回し、迫り来るスカルクロウラー軍団を束にして殴り飛ばす。コングの剛力で、スカルクロウラー5匹ほどがまとめてブッ飛ばされてゆく。

 他の5匹はその隙間を掻い潜り、なおも群がろうとする。長い尻尾と舌を触手のように絡ませ、鋭いカギ爪を喰い込ませ、数に任せてコングの巨体を取り押さえようとするスカルクロウラー。

 しかしコングは怯まない。コングは、足元にいるものは巨大な足で蹴り飛ばし、体にしがみついてきたものは爪を立てられるよりも先に引き剥がし、投げ捨ててゆく。

 スカルクロウラーの尻尾を掴むと、ジャイアントスイングでチェーンメイスの代わりに振り回し、他のスカルクロウラーたちへ叩きつける。

 まさに、ちぎっては投げちぎっては投げの大格闘だ。

 

 戦いの末、対決はコングの圧勝で終わった。

 コングの怪力でボコボコに叩きのめされたスカルクロウラーたちは命からがら、這う這うの体で散り散りに逃げてゆく。

 ……なんて強いんだろう。スカルクロウラー十匹、まとめてブチのめすなんて。

 そして逃げてゆくスカルクロウラーを、コングは追撃しようとはしなかった。モスラ同様、コングも元来は平和主義者なのかもしれない。

 

 スカルクロウラーたちが逃げ去ったあと、コングは、祭壇の上に転がされたままのわたしを見下ろした。

 星光に照らされた夜の闇の中、コングの二つの目玉が光を反射して爛々と光っている。

 しばらくわたしを見つめたのち、コングは重機のアームよりも逞しい剛腕を伸ばし、わたしを縛り上げている縄を指先で器用に摘まみ上げる。

 わたしの体が、コングの腕の高さまで宙吊りにされる。

 

 ギュウッ……

「あぐっ……」

 

 縄の部分を引き上げられたことでわたしの体の縛めが締まり、全身を締め上げられたわたしは思わず絶息する。反射的に身を捩ったがそんなことではどうにもならない、コングの指先で摘ままれたまま蓑虫みたいにプラプラ揺れるだけだ。

 そんなわたしを興味深げに観察していたコングは、わたしの体を掌へ降ろすと、今度は指先で弄り始めた。わたしの腕よりも太いコングの指が、わたしの体を器用にいじくりまわす。

 ……捻り潰される!

 わたしはぎゅっと目をつぶった。

 

 ブチッという感触。

 

 それと同時にわたしに解放感が訪れた。

 ぱらり、とわたしの全身を縛り上げていた縄が落ち、呼吸が一気に楽になる。体を動かしてみると、後ろ手にされていたはずの手が曲げ伸ばしでき、一本にまとめられていた両脚も動かせるようになっていた。

 わたしは、厳重に縛められていた自分の体が自由になっていることをようやく理解した。

 コングが縄を(ほど)いてくれたのだ。

 

「スゥゥー……ハァァーッ……」

 

 まずは深呼吸。息を吸える、息を吐ける、こんな良いことあるだろうか。肩を回し、手足を屈伸する。長いあいだ縄で締め上げられていたせいか痺れてはいたが、しばらくすれば元通り動かせるだろう。

 荒げた息を整え、身を起こしたわたしが顔を上げると、コングがわたしのことをじっと見つめていることに気づいた。

 わたしを見下ろすコングの巨大な瞳。目と目が合い、視線が重なり合う。

 思わずわたしは聞いてしまった。

 

「助けて、くれたの……?」

 

 ……いや、わかってますよ? コングは怪獣だ、人間の言葉など通じるはずがない。だから聞いたところで答えが返ってくるはずもないだろう、そんなことはわかっている。

 わかってはいるのだけれど。

 

 ただ、そのときだけは、なんだかコングと通じ合えたような気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 リリセがコングに助けられていた頃。

 エミィ=アシモフ・タチバナはというと、村で捕虜にされていた。

 

 何が何だかよくわからないうちに地下洞窟の集落まで連れ込まれ、服を着替えさせられた上に全身をベタベタ触られて、現在は村の奥の大きな屋敷、その一室にいる。

 入り口には見張りの女戦士が交替で立っており、部屋から出ようとすると制止されるため外の状況を窺うことは出来そうにない。

 部屋の真ん中、敷かれた茣蓙(ござ)の上で胡座をかきながら、エミィは思案した。

 

 ……何が何やら、さっぱりわからん。

 

 エミィは、自分の置かれた状況がいまいちよくわからなかった。不可解なことばっかりだ。

 まず着替えさせられたこの衣装、囚人服にしては随分と派手だ。大コンドルの羽根を染めたひらひらの飾りが沢山ついているし、色も南洋風(トロピカル)というかとても華やかに見える。

 部屋の中に鏡があったので覗いてみたら、エミィの顔中にこれまた豪勢なフェイスペイントを塗りたくられていた。捕虜を着飾らせるのか、この島は。

 そもそもこの部屋はなんだ? 囚人を容れておく牢屋にしては物があり過ぎるし不用心すぎる。たしかに外に見張りは立っているが手枷足枷を掛けられているわけでもなければ一挙手一投足を厳重に監視されているわけでもない。先ほど鏡を発見したとおり、部屋の中を物色するぶんには咎められることもない。

 

(……いったい、どうなってやがるんだ?)

 

 捕虜にしては違和感のある待遇、孫ノ手島で牢屋に入れられたときの経験と比べてみれば雲泥の差だ。軟禁状態ではあるがどちらかというと御客様扱い、という感じがしないでもない。

 

(っていうかリリセはどうなってんだ。あいつ無事なのか? 捧げ物にするとか言われてたが、怪獣のエサにでもされてんじゃないだろうな……?)

 

 考えを巡らせているエミィのもとに、来訪者があった。

 

「……おい、キンパツ」

 

 先ほどエミィたちを断罪した髑髏島の司祭だった。両手には御盆、さらにその上には皿いっぱいの果物が盛られている。

 なんか用かよ、とエミィが睨みつけると、司祭は手に持った皿をエミィへ差し出した。

 

「メシだ、喰え」

「……要らない」

 

 皿を突き返すエミィに「いいから喰え!」となおも勧めてくる司祭。

 そんな司祭に、エミィは言い放った。

 

「顔も見せない奴の出すもんは喰いたくねーな」

 

 喧嘩腰、挑発のつもりの言葉だった。だが、意外なことに司祭は「……そうか」と素直に応じた。纏っていた蓑を脱ぎ、頭頂部の羽根飾りを降ろして、顔のお面を外す。

 その正体に、エミィは驚いた。

 

 

(……こいつ、女の子だったのか)

 

 

 お面を外した素顔は、普通の少女だった。

 年齢はエミィと似たり寄ったり、15歳くらいだろうか。蓑を脱いだ体も筋肉質で引き締まっており、よく鍛えられているのが伺えた。顔には鮮やかなフェイスペイントが施されているが、目鼻立ちはくっきりしていて気が強そうに見える。

 ……『司祭』と言ったが、女の子ならどちらかというと『巫女(シャーマン)』じゃないのか。

 

「これで満足か?」

 

 司祭、もとい巫女の意外な正体に戸惑ったエミィだが、低い声をかけられて我に還る。

 巫女の方を見れば、巫女はぶすっと眉を顰めた不機嫌そうな表情でエミィを睨みつけている。

 ……なにイラついてやがるんだ、キレたいのはこっちの方だ。エミィは巫女へ訊ねた。

 

「おい、リリセはどうした。どこに連れていきやがった?」

 

 エミィの問いに巫女は「リリセ……ああ、チチデカか」と答えた。

 

「チチデカ、心配いらない。ちゃんと戻ってくる」

 

 その言葉で、エミィはキレた。

 身を乗り出し、巫女の胸倉を掴み上げて怒鳴りつける。

 

「ふざけんな、怪獣のエサにしやがって! もしリリセの身に何かあってみろ、ただじゃおかな……」

「おまえ、何言ってる!?」

 

 掴みかかったエミィに対し、巫女は困惑気味に声を張った。

 

「捧げ物、エサちがう! 今のコング、ヒト喰わない!」

 

 ……え? どういうこと?

 呆気にとられたエミィの手を、巫女は力を込めて振り払った。両眉を吊り上げて口を尖らせた顔つきはいかにも不服そうだ。

 巫女はプンプンと怒りながら言った。

 

「コング、髑髏島の王様(キング)! 人食い怪獣、ちがう! 王様への侮辱、許さないぞ!」

 

 エミィは、巫女とのあいだで何か致命的な行き違いが生じていることに気づいた。

 捧げ物って、コングとかいう怪獣のエサにするとかいう話じゃなかったのか?

 

「だって捧げ物って……」

「あんなの形だけ。息子ケガした、ああしないと(おさ)、おさまらない。コング優しい、客大切にする。きっと無事に帰してくれる」

 

 ……なんだ、そういうことだったのか。だったら説明してくれよ。エミィは脱力した。

 この島の王とされる怪獣コングは、つまるところ人間の味方のようだ。フツア族が女王モスラを敬愛するのと同じだ、コングもこうして巫女から敬愛されるくらいには立派な王様なのだろう。

 考えてみれば当然のことだった。なぜ気づかなかったのだろう。ここは島、閉鎖された小さな世界なのだから、もしもコングとかいうのが生贄を捧げないと満足しないような恐ろしい人食い怪獣だったら、そもそも村の生活自体が成り立つはずがない。

 巫女についても、エミィの中で初見時から印象が変わりつつあった。この髑髏島の巫女、思っていたより冷静だし頭もきれる。この村の連中もそうだ、皆ウホウホ言ってる野蛮人どもかと思ったが、どうやら認識を改めなければならないらしい。

 エミィは気になったことを訊ねてみた。

 

「そういえばおまえ、喋れるんだな」

 

 髑髏島で出会った他の住人について思い返すエミィ。

 彼らは基本無口だし、たまに何かを喋っても文字どおり異国の言葉で、何を喋っているのかエミィにはさっぱりわからなかった。一方、眼前にいる髑髏島の巫女はところどころたどたどしいものの、特に支障なくエミィと意思疎通ができている。

 エミィの疑問に、巫女はフフンと得意気に答えた。

 

「6つの国の言葉、わかる。昔、外から人来た。そいつから教わった。わたし島で一番得意、手紙も書ける。他の人、喋る、けど得意じゃない」

 

 そう答えた巫女が顎でしゃくった先、本棚にはボロボロになった本と辞書、そして古ぼけたカセットレコーダが置かれていた。外から人、おそらくエミィたち以外にもこの島に漂着した人物がいて、彼から言葉を学んだのだろう。

 ……6つの国の言葉、すげえな。Bilingual(バイリンガル)どころかHexalingual(ヘクサリンガル)じゃねーか。

 内心で感心していたエミィに、巫女は「ほら、喰え」と皿の上の果物を勧めた。

 

「おまえ、痩せてる。たっぷり喰え、もっと太れ。大きく、強くならないと立派な『嫁』、なれないぞ」

 

 ……嫁? 何のことだ?

 眉を顰めるエミィに、巫女は衝撃の事実を告げた。

 

「おまえ、(おさ)の息子の嫁になる」

「なんだとお!?」

 

 愕然とするエミィに、巫女は説明する。

 

「たまには外からの血、入れないと島の血、にごる。迷い人、受け入れ仲間に入れる。これ、島のしきたりだ」

 

 ……そうか、そういうことか。

 エミィの中でもろもろの疑念が整理され、ひとつの答えにすとんと収まる感覚があった。

 やけに丁重な扱いと軟禁状態、そして派手な服装。

 つまりエミィは結婚させられるのだ。相手はあの腕を怪我した長の息子。やけに派手な服とフェイスペイントは花嫁衣装、監視しつつも下に置かない丁重な扱いは跡取り息子の大事な嫁候補だからだろう。

 

 ふざけんじゃねえ。

 エミィは声を張り上げた。

 

「ジョーダンじゃない! わたしには決まった相手がいる、勝手に決めんな!」

「!? そう、なのか!?」

 

 事情を聞かされた巫女は、ひどく申し訳なさそうな顔をした。

 ……こいつ、思ってたより悪いヤツではないのかも。エミィの中の警戒心がほぐれてゆく。

 巫女はバツが悪そうに視線を逸らしながら、持参した木の実のジュースに口をつけて言った。

 

「……でも、もう遅い。おまえ、金の髪、青い瞳、珍しい。長も息子も、気に入ってる。おまえ、次の長の妻だ。こんな栄誉なことはない」

 

 栄誉なこと。そう言いつつも表情を取り繕ってるようにも見える物憂げな巫女に、エミィは勘づくものがあった。こいつ、もしかして……?

 木の実のジュースを啜っている巫女に、エミィは訊いてみた。

 

「……おまえ、その長の息子とかいうのが好きなんだろ?」

 

 ぶふーッ!?

 巫女は口に含んでいたジュースを吹き出した。

 けほけほと激しく噎せ返りながら、巫女は叫んだ。

 

「ちがう! あいつ、ただの幼馴染み! 好き、恋人、そうじゃない!」

 

 ……やっぱり。

 顔を真っ赤にしながら誤魔化そうとする巫女を見て、エミィは、自分の抱いた疑念が正しかったことを理解した。

 やはりあの村長の息子とかいうのに惚れているようだ。しかし何故誤魔化そうとするのだろう。

 疑問を浮かべるエミィに気付いているのかいないのか、巫女は続けた。

 

「わたし、島の司祭! 司祭は皆のために働くのが仕事、誰か一人のために働く、生きる、ダメ! それが先祖代々からの決まり! だから……」

「いや、それは違うな」

 

 捲し立てる巫女をエミィは遮った。

 

「先祖代々、って言ったな。おまえのママも巫女……じゃなかった、司祭だった、ってことか?」

「ああ、そうだとも。わたし、母さんも、婆ちゃんも、代々司祭。ずっと働いてきた、コングのため、みんなのため。違う、何が違う?」

 

 誇らしげに胸を張って答える巫女だったが、エミィは構うことなく言った。

 

「じゃあおまえのパパはどうした。まさかママ一人で子供が生まれる、なんて思ってるんじゃないだろうな?」

「そ、それは……」

 

 たしかに、巫女だったり司祭だったりシスターだったり神に仕える存在は純潔、つまり子供を持てないケースもある。

 しかし巫女の口ぶりからすれば、この髑髏島の『司祭』とやらは必ずしもそうではない様子だった。母親や祖母が巫女だったというなら、父親や祖父もいたはずだ。

 痛いところを突かれ口籠る巫女に、エミィは畳み掛けた。

 

「司祭でも好きな相手がいたって別にいいだろ。なんで誤魔化そうとするんだ?」

 

 エミィの言葉に、巫女は逡巡しつつもぽつりと言った。

 

「……あいつ、外からの女、好き。金の髪、青い瞳、肉付きの良い女、もっと好き。わたし、ちがう。きっと好きじゃない」

 

 そう呟きながら、自分の体を忌々しげに睨む巫女。彼女の髪は黒く、瞳は焦茶色。体つきも筋肉質で鍛えられているが、どちらかといえば小柄でスレンダーな方である。

 ……だからわたしたちを睨んでたんだな。エミィは内心で納得した。自分の意中の男、その好みド真ん中であろう女が二人も現れたのだから警戒するのも当然だろう。

 巫女は続けた。

 

「あいつ、わたしのこと、幼馴染としか思ってない。好き、いくら言っても伝わらない、悲しい。気持ち、気づいてもらえない、寂しい」

 

 そうやって心の奥に隠してきたものをぽつりぽつりと吐露してゆく巫女はなんとも健気で、目尻には光るものが浮かんでいた。

 ……本気で好きだったんだろう。だけど肝心の相手には、その想いに気づいてすらもらえなかったのだ。

 

「こんなつらいなら、好き、なりたくなかった」

 

 涙ぐむ巫女を見ているうちに、エミィは『何かしてあげたい』という気持ちに駆られた。

 ……自分は口下手だから上手いことなんて言えないし、小娘ひとりにできることなんてたかが知れている。島の事実上のリーダーみたいな巫女相手に、偉そうに説法できるような人生の先達でもない。

 だけど、何とかしてあげたい。そう思いながらエミィは言った。

 

「……人間見た目じゃない、なんてナメたこと言う気はないけどさ」

 

 『人間見た目じゃない、中身だ』と皆言う。たしかにそうかもしれない、突き詰めて考えてゆけば一理くらいはあるのだろう。

 だけど所詮は極論で綺麗事、現実のすべてではない。

 どんな人間だって第一印象はまず見た目、最初に会って真っ先に中身なんてわかりはしない。見かけに全く惑わされない人間なんてこの世にはいないし、中身が大事だと言いながら身形に気を遣えない人間は大抵ろくでなしだと相場は決まっている。

 それに、外見について真剣に悩んでいる人間に向かって『人間見た目じゃない』と言ったところで、何の気休めにもなりはしない。より傷つけてしまうだけだろう。

 

 だとしても、である。エミィは言った。

 

「だけど人間、見た目()()じゃない」

 

 短い時間ではあるが、話してみて分かったことがある。

 今エミィの目の前にいる髑髏島の巫女はとっても立派だ。才能があるし、責任感にも溢れ、皆のために何が最善かそんなことばっかり考えている。

 しかし、根は普通の人間だ。

 巫女? 頭がきれる? 6つの国の言葉が喋れる?? それがどうした。他人を気遣い、うっかりミスを犯し、気になる相手がいて恋に落ちちゃったりもする、この少女もそういう普通の人間だ、特別な超人でもなんでもない。そんな普通の人間が、自分の幸せを犠牲にしていいはずがない。

 そしてこんな子を傷つける男なんて、間違いなくクソ野郎だとエミィは思った。たとえどんなに気の良い二枚目で、どんなに偉い村長の長男坊だとしても、エミィには許せそうになかった。

 

 そんなことを考えている内に、かつて出会った『ナノメタルで出来たスゴいヤツ』のことがエミィの脳裏をよぎった。

 

 メカゴジラⅡ=レックス。

 硬く光る虹色の地肌に、強烈なロケットを着けた、ウルトラCのスゴくて強いヤツ。

 髑髏島の巫女とは方向性も出自も全然違うが、あのナノメタルの申し子も世のため人のために自分を犠牲にできる奴だった。

 そういう素晴らしいヤツを、周囲の大人が寄って(たか)って自分の都合の好い様に使い潰した結果が、孫ノ手島の一件だ。レックスの最期、何があったのか本当のところをエミィは知らないけれど、エミィはレックスの末路について自分にも責任があるような気がしていた。

 

 そしてまた、エミィの眼前で不幸な未来を選ぼうとしている少女がいる。

 エミィは巫女の手を取り、言った。

 

「おまえは立派だしスゴイ奴だ。なによりとても善い奴だ。おまえは幸せになるべきだ」

 

 巫女が顔を上げ、エミィに聞き返す。

 

「『イイヤツ』? どういう意味?」

「心が綺麗ってことだ。だから自信を持て」

「心、綺麗……」

 

 エミィの気持ちが伝わったのだろうか、巫女は涙の滲んだ目元を拭うと「……ありがとう、キンパツ」と呟いた。

 キンパツキンパツと呼ぶ巫女を見て、エミィはふと互いに自己紹介をしていなかったことに気づいた。エミィはエミィで、巫女のことを専ら『おまえ』呼ばわりしていて名前をちゃんと教えてもらっていない。

 エミィは訊ねた。

 

「おまえ、名前、なんていうんだ? わたしはエミィ、エミィ=アシモフ・タチバナだ」

 

 エミィの名乗りに対して巫女は「エミィ、エミィか……」と反芻するように呟いていたが、やがて巫女の方も名乗った。

 

「わたし、〈ダヨ〉だ。それが名前」

 

 『ダヨ』か。これまで出会ってきた人名のレパートリーにはなかった個性的な名前だが、巫女の可愛らしい外見と心に似つかわしい素敵な名前だとエミィは思った。

 ……話がだいぶ脱線しちまったな。とにかく、とエミィは話を切り替える。

 

「とにかく、わたしはこの島で嫁入りなんてゴメンだ。いずれ自分の国に帰らないといけないし、リリセのことも無事に返してもらわないと困る。どうにかならないか?」

「どうにもならない。ぜんぶ、決まったこと」

「そこをなんとか……」

「でも……」

 

 必死に頭を下げて頼み込むエミィを前に、ダヨは顎に手を当てて考え込んでいたが、やがて口を開いた。

 

「……できる、かもしれない」

「ホントか!?」

 

 ぱっと表情を明るくしつつ迫るエミィに、ダヨは迷うように目線を泳がせながら答えた。

 

「もしおまえら、〈深海の恐怖〉やっつけたら、みんな説得できるかもしれない」

 

 深海の恐怖、エビラ。

 事の発端はそもそもエミィたちが島にエビラを誘き寄せてしまったこと、村に怪我人を出してしまったことだ。その根本原因であるエビラをどうにか出来れば、解決の糸口になるかも知れない。それがダヨのアイデアだった。

 

「だけどそんなの無理。だからコング、頼んでやっつけてもらうしかない」

「エビラをやっつける方法か……」

 

 エビラの姿を思い返しながら、エミィは考えた。

 深海の恐怖にして大海老怪獣、エビラ。主な武器は両手の巨大なハサミ、クライシスシザース。

 沖縄から戻る船を襲撃してきたエビラは、かつて孫ノ手島で見た個体よりも幾分か小柄に見えた。全貌が見えたわけじゃないが大きさはざっと30メートルくらい、ひょっとすると若い個体なのかもしれない。

 

 とはいえ、それでも危険な怪獣であることには変わらない。性質は獰猛極まりないし、重爆撃にも耐える強固な殻と、並大抵の怪獣なら捻り潰してしまう怪力、ゴジラと比べたら流石に格落ちするものの怪獣としては強豪の部類に入る。メーサーライフルやらホバーバイクやら、軍隊並みの装備を揃えてみてどうにか抑えられるかどうかというところだ。

 他方、こっちにあるものといえば槍やら弓矢やら、心許ない原始的な武器ばっかり。巫女はコングとかいう怪獣に頼むつもりでいるらしいがそれもどこまで当てになるかわかったものではないし、そもそもコングの力でやっつけたのではエミィたちが事態を解決したことにならない。

 腕を組み、首を捻って悩んでみたけれど、現状ある手札でどうすればエビラを倒せるのか、エミィには皆目見当もつかなかった。

 そんなとき、音がした。

 

 くきゅう。

 

 音源はエミィ、お腹の音だった。そういえば村で取っ捕まって以来何も食べてない。

 

「……だから喰え、って言ったのに」

 

 ダヨから咎めるような口振りで言われ、エミィは赤面した。

 ……ま、まあ、腹が減ってはなんとやらだ。とりあえず飯を食ってから考えるか。

 おほんと咳払いで取り繕いながら、エミィが皿の上で一番手近な果物を手に取ったときである。

 

「…………ん?」

 

 エミィは気づいた。

 

 

 

 

 

 

 どしーん……どしーん……

 夜の森で、足音が響いている。

 

 わたし、タチバナ=リリセは、コングと共に森を進んでいた。

 コングはわたしのことを気に入ってくれたようで、なんと肩の上に載せてくれていた。木よりも高いコングの身長、その目線からは昼間わたしが散々彷徨い歩いた密林のジャングルが眼下に広がって見える。

 ……怪獣は普段こんな目線で視てるのか。

 怪獣たちとの付き合いはそこそこ長いつもりだし、身長や体長を目測で当てるのも得意なわたしだけれど、こうして肩に乗せてもらってみるとそのスケールを改めて実感する。

 単に目線が高いだけなのだが、それだけでもなんだか自分が大きく強くなったような気分がする。熱帯の暑さに火照った体を夜風が撫でてゆくのも、涼しくてなんとも心地よい。

 そのとき、コングが岩を大きく跨いだ拍子に一際大きく揺れた。

 

「! おっとっと」

 

 わたしは危うく肩から滑り落ちそうになって、咄嗟にコングのもじゃもじゃの体毛へとしがみつく。

 そのときコングが立ち止まって肩の方を一瞥、落ちそうになったわたしと目線が重なった。その表情がなんだか気づかわしげにも見えたので、わたしが「大丈夫、大丈夫だから」とジェスチャーで伝えると、コングは再び前を向いて歩き始めた。

 ……このコングという怪獣、随分と人に馴れている。わたしの縄を解いてくれた時の指使いもとても繊細で優しかったし、少なくともわたしが当初懸念していたような人食い怪獣とは程遠い気質の持ち主らしい。落ちないでいられるのだってコングが気を遣ってくれているおかげだ。そこそこ揺れるのでバランスを取るのが難しいが、コングがゆっくり歩いてくれているおかげで落下せずに済んでいる。

 『人食い怪獣のエサにされちゃうー!』なんて勝手に怯えていた自分が、わたしはちょっと恥ずかしかった。

 

 そうこうしているうちに海が見えてきて、海岸へと到達したコングは立ち止まった。

 肩の上にいるわたしを大きな掌で優しく掴むと、ゆっくりと地上、砂浜へと降ろしてくれた。

 その目線の先は海へと向けられている。

 

「どうしたの?」

 

 わたしは訊ねるが、コングは当然応えない。ただ海をじっと睨んでいるだけだ。

 コングの目線の先を辿ってみると、海の方に異変が起きていた。

 波が激しく沸き立ち、高く飛沫が上がっている。まるで海から何かが現れようとしているかのようだ。

 わたしがそう思ったとおり、海中から巨大な影が姿を現した。

 

 

 真っ赤な外殻。その頑強さは戦艦の砲弾を弾き、ミサイルや重爆撃も通さぬほどだと言う。

 極端に巨大化した両腕の鋏。特に右鋏:クライシスシザースの方はバカでっかい、目測でも10メートル以上はあり、下手な怪獣ならそのまま挟んで切り身に出来るだろう。

 そして頭部から飛び出した二つの目玉はツヤツヤと黒光りしており、ギョロギョロと蠢いては自分の眼鏡に適う獲物を貪欲に探し求めているかのように見えた。

 

 そいつの名前は深海の恐怖(Horror of deep)

 すなわち大海老怪獣、エビラだ。

 

 そんなエビラを睨みつけながら、地鳴りよりも低い声で唸るコング。

 そのときわたしは、コングがなぜ海岸までやってきたのかようやく理解した。

 ……コングは戦うつもりだ。外敵であるエビラを迎撃しにやってきたのだ。この島の平和を守るために。

 これから戦いに挑む己を鼓舞するかのように、コングはエビラに向けて勇ましく吼えながら胸を叩いてドラミングする。

 エビラも応えた。ギロチンのような両腕の鋏を打ち鳴らしながら海岸へと上陸、コングへ突撃を仕掛ける。

 

 島の(キング)コングと、深海の恐怖(Horror of deep)エビラ。

 二大怪獣が真正面から衝突し、その衝撃で浜辺全体が揺れた。

 




ダヨは『南海の大決闘』で水野久美さんが演じたキャラクターが由来。エビラとの対戦カードは、中の人が好きなゴジラ映画『南海の大決闘』が元々キングコング主役になる予定だったことに因んだネタ。

好きなキャラクターを教えて

  • タチバナ=リリセ
  • エミィ=アシモフ・タチバナ
  • メカゴジラⅡ=レックス
  • ウェルーシファ
  • ジニア
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