怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
怪獣復楽園:
スポンサーを騙せ!
デ・ニーロを呼んで来い!
脚本は、監督は、オレだ!
タランティーノより上手く撮る!
キミの人生を撮り直すんだ!!
――筋肉少女帯『リテイク』より
「おはよ、エミィ」
なんで、なんで“おまえ”が生きてるんだ。
目の前に現れた“そいつ”へそう問い詰めたかったが、あまりのことでわたしは上手く言葉に出来ない。
「なになに、どうしたのさ。変な夢でも見たの?」
そんなわたしを前にして、“そいつ”は最初はいつものとおり茶化そうとしていた。けれど、わたしの表情から『それどころではない』ことを悟ったのだろう、そんなふざけた態度は一瞬にして消え失せていた。
「……怖い夢を見たんだね」
茶化す代わりに“そいつ”はそうやって、膝を屈めて両腕を伸ばし、震えるだけのわたしの身体を全身全霊でもって包み込んだ。
……いつだって思い返せる懐かしい声、どうしても忘れられなかった快い温もり。これを取り戻せるのならどんなものと取り換えたってかまわない、そう願ったことは数知れなかった。
「よしよし、ここはひとつ、超絶銀河スーパーウルトラセクシーキュートなオネーサンが、麗しの我が妹分の気持ちが落ち着くまでハグしてあげようじゃあないか」
そんな破裂しそうなわたしの想いなんて露ほども知らぬまま、“そいつ”は抱き締めているわたしの頭をそっと撫でてくれた。かつてわたしにいつもそうしてくれようとしてきたように。
……これはきっと夢だ。夢に違いない。
夢ならきっと悪夢の類いだ。本当なら“こいつ”は何年も前に死んで、わたしはその現実をようやく受け止められるようになったばかりなんだ。夢か現か幻か、有り得ないことなんだ。きっとわたしは頭が狂ってしまって、有り得ない妄想に囚われているに違いない。
……けれど、そこまでわかっていても、それでもどうしても、わたしの目元から熱いものが溢れ出るのを止められない。わたしの口から、名前が零れ出た。
「リリセ……!」
突如号泣し始めたわたしに、“こいつ”はかつてのように微笑みかける。
「大丈夫、大丈夫だよ、エミィ」
……たとえ夢だとしても、もうちょっとだけこのままで。
そいつ:タチバナ=リリセの優しい胸の中から、わたしはしばらく動くことが出来なかった。
「じゃ、わたしは下で待ってるからね。着替えたらおいで」
そう言ってリリセが降りていった後、自室に一人で残されたわたしはパジャマを脱いだ。
そして、いつだったか「エミィも女の子なんだから身嗜みくらい気を遣わないとね」とリリセから言われて部屋へ据え付けてもらった姿見に、下着姿の自分を写してみる。
背丈ほどもある大きな鏡、そこにはぼさぼさの金髪を伸ばした碧眼の、如何にも性根のネジ曲がってそうな目つきをしたクソガキが映っていた。歳の割に随分と低い背丈、ぺったんこで起伏の無いひょろりとした胴体、浮いたあばら、折れそうなほどに細い手足。
……間違いない、子供の頃のわたしだ。
しかし酷いモヤシ体型、マジでホネカワスジエモンだな。ぶくぶく太ってるよりは良いと思うしリリセみたいな爆乳ムチムチボンキュッボンになりたいわけでもないが、改めて見るとどこもかしこも貧相で、なんだか弱そうに思える。
リリセからは昔から「筋トレくらいしようよ」と口を酸っぱくして言われていたわたし。だけど、こうして客観的に見てみるとリリセが心配する気持ちがよくわかる。当時の自分は何て言ってたっけ、そうだ、子供の頃のわたしは「自分は頭脳労働者」なんて嘯いていたのだ。
……ふっ、頭脳労働者、ねぇ。
当時の自分のクソガキっぷりに、思わず失笑が零れた。当時はそれがクールで合理的なのだと本気で思っていたのだけど、今にして思えばアチャーアイタタターな黒歴史って感じである。中二病も大概にしろよ、バカタレ。
さて、自分自身のことが確認できた上で、次にわたしが気になったのは周囲の状況だった。
……死んだはずのタチバナ=リリセが生きている。それにここはかつて住んでいた立川の実家、ヒロセ家の屋敷にあった自分の部屋だ。ということは、ヒロセ家の人間もいるのだろうか。
子供の頃に読んでいた小説やSF映画で時間が巻き戻って過去へ飛ばされる現象、いわゆる『
どうしてそんなことが起きたのかはわからないが、もしこれがタイムリープだとすれば重要なのは『今がいつなのか、何年何月何日なのか』である。自分がまだ子供であること、ヒロセ家にいること、そして何よりタチバナ=リリセが生きていることなどこれらの状況からでもある程度絞り込めるが、問題を起こさずに行動するためには正確な日付を知る必要がある。
自室に掛かっていたカレンダーを見てみると月捲りで、年月は西暦2063年3月というところまではわかった。しかし、正確な日付がわからない。
……くきゅう。
考えているうちにお腹が鳴った。
時計を見てみれば朝の7時、ヒロセ家では朝食の時刻だ。リリセが部屋に来ていたのも、朝食なのに起きてこないわたしを気遣ってのことだったのだろう。
きゅるるる……。
ま、まぁ、とりあえず着替えて降りるか。年月日のことなら、朝食時の会話でさりげなく聞き出すことも出来るだろうし。
下着姿だったわたしは私服に着替え、下の階へと降りることにした。
降りて早々、リリセからこんな質問をされた。
「今日は何の日か覚えてる、エミィ?」
……うーん、しまった。こちらから教えてもらうつもりだったのに、逆に訊かれてしまった。この口振りだとリリセは知っているらしいが。
とりあえずわたしは答えた。
「さてな、何の日だったかな」
そうすっとぼけてみると、リリセは「むっふっふ」と薄気味の悪い含み笑いを浮かべながら、台所の方へと引っ込んでいった。
……なんだったんだ。内心で首をかしげつつも食卓で朝食の準備をしていると、隣の席にかけていた男が声をかけてきた。
「おはよう、エミィ」
ヒロセ=ゲンゴ。わたしとリリセの養親であるヒロセ家の跡取り息子にして、リリセの義兄。タッパがある上に強面なのでなんだか猛犬みたいな風格があるが、こう見えて趣味で漫画を描いていたりするインドアなオタクでもある。
「ん、おはよう、ゲンゴ」と、わたしが挨拶を返すと、ゲンゴがこっそり耳打ちした。
「……ありがとな、エミィ。合わせてくれて」
合わせる、何の話だろう。そう訝しんでいると、台所の方からリリセが戻ってきた。手には大皿を抱えながら浮かれた調子で、わたしに告げた。
「どじゃアーん! ハッピーバースデー!!」
……は?
わけもわからず呆気に取られているわたしに、リリセは「あ、あれ?」と肩透かしを食らったようだった。
「エミィ、ひょっとしてホントにマジで今日が何の日か、わかってなかったの?」
ああ、そうだが。ハッピーバースデー、誰の誕生日なんだ一体。
状況がわからないわたしに、リリセは先ほどとは打って変わって真剣な表情で言った。
「……ホントに今日はどうしたの、エミィ。朝起きたときから様子変だったけど」
なんでもいいから今日は何の日なんだ。あとその『マジで可哀想なヤツ』を見るような目つきをするのは辞めろ。
焦れながらわたしがそう言い返すと、リリセは困惑そのままの口ぶりでわたしに答えた。
「まったくもう、今日は『エミィの誕生日』でしょ? それとも自分の誕生日を忘れちゃった?」
そう言いながら、リリセは手に持っていた大皿をテーブルの上に置いた。
「予算不足でクリームもイチゴもないけど、代わりに生地は凄く美味しく焼けてるからさ。あとプレゼントはもうちょっと待っててね」
そう言ってわたしの前に差し出された、リリセ手製の素朴なパウンドケーキ。蝋燭は節約のためか1本しか立っていなかったが、ケーキの生地にチョコペンで『14歳の誕生日 おめでとう!』と書いてある。
……そうか、ようやくわたしは気が付いた。この日は西暦2063年3月、わたしが14歳の誕生日だ。
この年の誕生日については、特にわたしの記憶に焼き付いていた。忘れられない、絶対に忘れるはずがない。わたしたちの、そしてこの星の運命までもが決定づけられることになったあの年。
あの忌まわしい『孫ノ手島怪獣大戦争』にわたしたちが巻き込まれ、タチバナ=リリセの死の運命が決まった年である。
それから数日経過した。
如何なる理屈によるものかタイムリープしてしまったわたしだが、周囲の人たちはわたしの変化には気づいていないようだった。
ヒロセ=ゲンゴやその父ゴウケン、ゴウケンの舎弟であるサヘイジらヒロセ工業の工員たち、そしてタチバナ=リリセ。誰も彼も、わたしのことは『捻くれたコミュ障のヒロセ家末娘:エミィ=アシモフ・タチバナ』として接してくれている。
しかしどうして誰も気づかないのだろう。たしかにわたしは口数が少ない方だったと思うし、タイムリープした今現在も出来るだけ不自然にならないように取り繕ってはいるのだけれど、ここまで気づいてもらえないほどに周囲と没交渉だったろうか。ヒロセ家の人たちはともかく、四六時中一緒にいるリリセまで気づかないとかいくらなんでも。
……と考えたところでわたしは「いや、リリセだったら有り得るな」と思い直した。リリセは昔から能天気だったし、あまり深いこと考えないタチだしな。今にして思えばそれも美点だったけど、当時のわたしは子供ながらに気を回して「わたしがいないとこいつはダメだ」なんて思ったものだった。
他方、わたしも気持ちが落ち着いてきて、過去の『記憶』についても冷静に考えられるようになってきた。
……そもそもあの『記憶』は本当に実際に起こった出来事なのだろうか。
美少女型メカゴジラに孫ノ手島怪獣大戦争、ゴジラ復活で世界滅亡? まるで大スペクタクル映画みたいな話だ。考えれば考えるほど現実だとは到底思えなくて、むしろリリセが言っていたように「悪い夢でも見ていたんじゃなかろうか」という気分が強くなってきた。
頭の中にあるあの『記憶』は飽くまで夢に過ぎず、本当のわたしは相変わらず14歳の生意気なクソガキなのかもしれない。元々空想するのは好きな
そう、あるいは『デジャヴ』かも。
既視感、デジャヴの正体は『脳の誤作動』だと本で読んだことがある。目の前で起こった出来事に対して、脳味噌の中で『認識する処理』と『記憶する処理』が入れ違いになってしまい、その結果実際にそんな経験をしたことは無いのに脳がそう勘違いしてしまうのがデジャヴなのだという。アレの酷いのが、わたしの脳内で起こってしまっただけなのかもしれない。おかしな夢を見て、それがデジャヴと同時に起こったのかも。
……と、こんな塩梅で自分を納得させていると、玄関から声が掛かった。
「そろそろ行くよ、エミィ!」
そう呼び掛けるリリセに「ああ、今行く」とわたしは返事を返した。
今日はリリセと共に『タチバナ=サルベージの仕事』へ行く日だ。行き先は新宿、依頼内容は『物の回収』。怪獣が絡むのでちょっとした下拵えがあるものの、単なる回収なので大した内容ではない。上手く行けば数日の工数でカタがつくだろう。
で、それからどうなったかというと。
わたしたちは新宿で怪獣に追い駆けられていた。
怪獣の名前は暴龍:アンギラス。
サルベージ屋として依頼を承けたわたしたちはクルマで新宿に到達。『依頼品』は回収したものの、新宿の廃墟を縄張りにしている怪獣アンギラスに目を付けられてしまい死に物狂いで逃げ回っているのが現状である。そしてその内容は奇遇にも、わたしの『記憶』どおりに起こっていた。
……どこがデジャヴだよコンチクショー、夢だとしても正夢じゃねーか。『新宿へ物を回収しに行く』って説明を受けた時点で嫌な予感はしてたんだよな、なんで承けてしまったんだろう。
とはいえ後悔先に立たずである。アンギラスに追い駆け回される中、わたし:エミィ=アシモフ・タチバナは必死にハンドルを握っていた。
繰り出されるアンギラスの踏みつけ攻撃を右に左に回避しながら、猛スピードで走り続けるクルマ。元々ガタが来ているクルマだしこんな無茶な運転したらブッ壊れそうな気もするが、怪獣と追いかけっこしてる最中にそんなことは言っていられない。
わたしが懸命にハンドルを捌いている一方、助手席に同乗しているリリセが右に左に振り回されながら言った。
「もうちょっとっ、スピードがっ、出るとっ、有難いっ、んだけど……っ」
それに対して運転席のわたしは、一言で切って捨てた。
「性能の限界だ」
たしかにリリセの言うとおりスピード差が足りず、そこそこ引き離していた距離も段々詰められつつある。
だけどそれはしょうがないことだった。このクルマは馬力と走破力重視のオフロードであって、スピード重視のレーシングカーなどではない。ましてや廃墟の街を怪獣とカーチェイスだなんてシチュエーション、設計した奴だって想定しちゃいないはずだ。
しぶとく追い縋るアンギラスにリリセが悪態を吐く。
「しつこいなあ、もう!」
わたしもサイドミラーをチラ見すると、暴龍アンギラスはわたしたちのクルマのすぐ背後、数メートル先にまで迫っていた。アンギラスは、自分の縄張りに入り込んできた愚かな人間たちに対して『絶対踏み潰す』と決めたらしい。鼻息を荒げて吼えながら迫りくる暴龍アンギラス。一瞬でも気を抜いたら終わりだ、その巨大な前肢で捻り潰されてしまうだろう。
……しかし、わたしは然程慌てていなかった。
『記憶』を思い出すまでもない、クルマで突っ走った先には新宿到着時にわたしとリリセで仕掛けた『仕込み』がある。その『仕込み』にまで逃げられればわたしたちの勝ちだ。
そしてリリセの誘導どおり新宿の街を遠回りに遠回りして逃げ回った末、わたしたちはついに『仕込み』の地点へと辿り着く。
「今だっ!」
「りょーかいっ」
リリセの合図でわたしはクルマを急旋回させた。
どうやった、って? ここら辺は勘でやってるから上手く説明するのは難しいのだが、とにかくシフトレバーとハンドルとブレーキを気合と根性と上手い感じで捌いただけである。コマのようにくるくる回りながら路面をスリップするクルマ。わたし以外の奴がやったら間違いなく事故るだろうし、もし警察に見つかったらきっと免停喰らうだろうなと思えるほどの曲芸運転だった。
とにかく、雑草に覆われた道路を滑りに滑ったあとわたしたちのクルマは方向転換、アンギラスの巨大な足元をくぐり抜けて来た道を逆走する。
アンギラスもわたしたちを追って方向転換しようとするが、加速がついているのでその場ですぐに止まれない。
次の瞬間、アンギラスの足元で大爆発が起こった。
わたしたちの『仕込み』、タチバナ=リリセ考案の地下空洞爆破による落とし穴トラップ。充分な兵装も無ければ訓練も受けてないわたしたちに出来る、対怪獣作戦である。
さらに土台が破壊されたことで廃墟の街の高層ビルまでもが崩壊、膨大な量の瓦礫がアンギラスの頭上へ降り注ぎ、アンギラスの巨体を生き埋めにしてしまう。
巻き上げられた濃厚な土煙が晴れてきて、ものの見事に生き埋めにされたアンギラスを確認する。
目の前に広がるのはコンクリート瓦礫の山。並んでいたはずの高層ビル群、かつては天高く聳え立っていた威容だったが今や見る影もない。そして膨大な量のコンクリート塊が、全長100メートルに及ぶというアンギラスの巨体を完全に埋め立ててしまっていた。
……ふー、上手くいった。
わたしは額の汗を拭った。予定どおりに事が運んだとは言え、アンギラスの敏捷さが予想以上だったので少々冷や汗をかいてしまった。しかし成功だ、流石の怪獣アンギラスもこれでしばらくは動けまい。
タチバナ=サルベージ謹製の落とし穴作戦を見届けたわたしは、隣の席でリリセが掌をかざしているのに気づいた。
……ああ、そういうことか。
わたしも掌をかざし、リリセの掌へ合わせて叩いて返す。いわゆるハイタッチって奴である。
“大成功だ、いえーい!”
そうやってわたしたちは、ひとときの勝利の美酒に酔いしれたのだった。
……いや、待てよ。
「どうしたの、エミィ?」
いや、ちょっとな。
良い気分になろうとしたはいいが、途端に先日の『記憶』がわたしの頭に引っ掛かった。『仕込み』が成功したのは良い、だけどこのあとどうなったっけ?
わたしが『記憶』を思い起こそうとする中、それは起こった。
「揺れてる……?」
クルマのカップホルダーでやけに激しく波立っているコップの御茶。同じくダッシュボードの上でカタカタ震える首振り人形。
はて地震だろうか、そう思うや否やに強烈な縦揺れの一撃を喰らって座席にいるわたしたちの身体が浮き上がった。ぶちまけられる御茶、引っ繰り返る首振り人形、揺れはどんどん強くなってゆく。
……いや、地震じゃない!
わたしはそこでようやく『記憶』の場面を思い出した。クルマの窓の外へと視線を向けた途端、瓦礫の山が爆裂した。
そして現れたのは御馴染み、アンギラスの顔だ。
瓦礫の山に埋もれてノックアウトされたはずの暴龍:アンギラスが、生き埋めから這い出ようとしていた。
浮かべているのは燃え滾った鬼の形相、あれはどう見たって怒ってる。
「……やばい、逃げよう」
リリセの呟きに同感だ、怪獣をノックアウトするどころか本気で怒らせてしまった。とっとと逃げないと今度こそ捻り潰されてしまう。
そしてクルマを再発進させようとしたとき、わたしの頭の中を『記憶』がよぎる。
……おいおい待てよ、もしも『記憶』のとおりなら。わたしは祈るような気持ちでエンジンを掛けようとする。
……ガガッ、ぷすん。
わたしの嫌な予感は見事に的中、エンジンから変な音がするだけでクルマは全く動かなかった。
ちくしょう、エンストだ。ただでさえ日頃からオンボロポンコツで騙し騙し乗っていたのだ、フルスピードのカーチェイスにさっきの無茶な曲芸運転でダメージを受けてしまったのだろう。
わたしはリリセに怒鳴った。
「オーバーヒートだっ! エンジン
「あーもーこんなときにっ!」
リリセが助手席を降りクルマのボンネットへと回っているあいだ、わたしは『記憶』を基にこのあとの展開を思い返していた。
あのときたしかクルマの応急処置が間に合わず、わたしたちはクルマを捨てて逃げようとしたのだ。
「エミィ、クルマから降りて! 地下に逃げよう!」
「わかった!」
ほら来たっ。『記憶』のとおり、リリセの提案でクルマを捨てることになった。
わたしも最低限身の回りの必需品を引っ掴んでクルマから飛び出し、かねてから下見しておいた逃走ルートである地下道へと向かう。
そして地下の入口へ駆け込もうとして、わたしはリリセが着いてきていないことに気づいた。振り返ってみるとリリセの奴、クルマの後部荷台でいつまでも愚図愚図している。
……あのバカ、何やってんだ。地下道の入口からわたしは声を張り上げた。
「いそげリリセ! アンギラスが出てくるぞ!」
わたしに呼ばれてリリセは「あ、ゴメンゴメン!」とアタックザックを背負い直してこちらへと向かってくる。
……と思いきや、リリセはまたしても足を止めている。ホントマジでなにやってんだ、死ぬ気かよ!? わたしは再度、リリセに向かって怒鳴り声を挙げる。
「なにやってる、とっとと逃げるぞ!」
「ちょっと待って!」
そう言って逃げるどころか、クルマの方へと戻ってしまうリリセ。
……バカタレが、何が『ちょっと待って』だ。こうなったら腕ずくで引き摺ってでも連れ出してやる。そうやってわたしがリリセの方へ向かおうとした時である。
クルマの後部荷台が、破裂した。
閃いたのはマゼンタ色の光。クルマの荷台部分のキャンバスルーフが弾け飛び、衝撃ですぐ傍にいたリリセが引っ繰り返って尻餅を突いた。
「リリセッ」
わたしがリリセの方へと駆け寄ると同時、クルマの荷台から『銀色の影』が飛び出した。巨大な翼を広げた銀色の影はマゼンタ色のジェットを吹かしながら飛び上がり、あっという間に手の届かない距離まで飛んで行ってしまった。向かって行った先は怪獣アンギラスのいる方角だ。
あまりのことに呆然としているリリセがぽつりと呟いた。
「あれ、なに……?」
それに対してわたしは正直に答えた。
「さあ、わからん……」
その後、『銀色の影』は暴龍アンギラスと対決。
レールガンで牽制射撃を繰り出しながら、ブレードでビルを切り倒してでの瓦礫落とし、そして自由自在縦横無尽に飛び回れる航空機動力。ビルの廃墟、瓦礫の山、利用できるものを最大限に利用しながら銀色の影は暴龍アンギラスと激戦を繰り広げた銀色の影。
結果は銀色の影の圧勝、暴龍アンギラスを容易く追い払ってしまった。
銀色の影、その姿をわたしは改めて見た。
まるで怪獣のような鋭い爪に猛禽のような巨大な翼、尻から伸びる長い尻尾、そして強大な力。両腕の蛇腹剣を縮めたブレード。その刀身は摩擦で真っ赤に焼けて、溢れた熱が大気を歪めて蜃気楼をくゆらせている。
その背に負うのは脊椎に沿って三列で並ぶクリスタルの背鰭と、先ほどまでマゼンタのプラズマジェットを噴き出していた白銀の翼。人肌の質感を帯びた皮膚と、そのところどころを護る金属結晶の鎧。
そして、赤い光が零れる瞳。その姿は無機と有機の融合体、まさに
「……ふう」
安全を確保したことを確信した銀色の影が一息ついたあと、こちらへと振り向いた。
ファイバー状の銀髪が風に煽られて揺れ、それと同時に構造色――ビスマスとかシャボン玉の表面とかに浮かぶアレだ――の虹の輝きがきらめく。
そしてその顔はごく普通、むしろ美少女の顔だった。まるで
……そうか、こいつは。
その様子を見ながら、ようやくわたしは『記憶』を思い出す。どうして忘れていたんだろう、このときこの場所で出会った『アイツ』、その運命的な出会いのことを。
銀色の影、白銀の天使がわたしたちにニコリと笑いかけた。
「……よかった。怪我はしてなかったんだね」
人類最後の希望、その名は〈メカゴジラⅡ=レックス〉。
これが、わたしと彼女との出会い。
そしてわたしの持っている『記憶』が夢や空想などではなく、正真正銘これから起こる現実であることを認識した瞬間だった。
まずは第一章からのやり直し。見切り発車なので気長にお付き合いください。
好きなキャラクターを教えて
-
タチバナ=リリセ
-
エミィ=アシモフ・タチバナ
-
メカゴジラⅡ=レックス
-
ウェルーシファ
-
ジニア