怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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11、マタンゴ軍団総攻撃Ⅱ

 わたしたちタチバナ=リリセとエミィ=アシモフ・タチバナ、そしてメカゴジラⅡ=レックスがクルマで病院を脱した直後である。

 クルマの背後で、廃病院の屋根が吹き飛んだ。

 

 そして病院の建屋から特大サイズのマタンゴが現れた。

 身長は目測で30メートル。

 入道雲みたいな頭の傘と、大樹みたいに逞しい手足と胴体。

 まるで巨人、ジャイアントマタンゴだ。

 エミィがハンドルを捌きながら、助手席のわたしに怒鳴った。

 

「なあ、マタンゴって合体するのか!?」

 

 ジャイアントマタンゴの体の各部から、ベニテングダケやツキヨタケを筆頭とする無数のマタンゴたちの身体的特徴が垣間見えた。

 マタンゴたちは互いに()(つぶ)()い、その挙句に癒合してしまったのかもしれない。

 とはいえマタンゴの生態なんてわたしは知らない。

 訊ねられたわたしは、ピストルに弾を込めながら怒鳴り返す。

 

「知らないよそんなの!」

「ちっきしょう、あんなんアリかよ!」

 

 ぬらり、とわたしたちのクルマを視認したジャイアントマタンゴは、楽しそうに笑い声を挙げながら軽やかな大股のスキップでクルマを追い駆け始めた。

 マタンゴの巨体が大股で地面を蹴るたびに、振動でわたしたちのクルマが揺れた。

 そしてジャイアントマタンゴが近づくにつれて、揺れは大きくなってゆく。

 

「もっとスピード出して!」

「性能の限界だ!」

 

 ……寄るな、キノコのオバケめ!!

 わたしは助手席から身を乗りだし、ピストルを構えて威嚇射撃を行なった。

 しかし、ジャイアントマタンゴには屁でもないようだ。

 同時に、くそったれ、とエミィが悪態を()いていた。

 路面の状態も良くない。先程からの豪雨で道がぬかるんでいる上に、ツル植物のせいでタイヤがスリップしている。

 ……これではいくらオフロード仕様に改造されたクルマでも、十全なスピードなど到底出せるはずがない。

 

 そしてジャイアントマタンゴは、大きさの割に身軽で意外と素早く、それでいて歩幅も大きい。

 このままではあっという間に追いつかれて捕まってしまうだろう。

 

 

 

 

 一方、クルマの後部荷台にいたメカゴジラⅡ=レックスは窓から身を乗り出し、すぐ後ろに迫るジャイアントマタンゴを見た。

 

 レックスが直視したジャイアントマタンゴの顔に表情はなかった。

 目も鼻もなく、キノコの菌糸に覆われている。

 そして木の(うろ)にも似たぽっかり開いた口の穴から、マタンゴ特有のくぐもった笑いが響いていた。

 ……まるで、必死に逃げるリリセたちを嘲笑っているかのようだ。

 

 

 そんなマタンゴをレックスは鋭く睨みつけた。

 ……おまえみたいな悪魔(インクブス)は絶対に負けない。

 これでも喰らえ!

 レックスの下顎が左右二つに別れ、卵を呑み込む蛇のように大きく開いた口腔から火花が散り始める。

 

 そして空気を切り裂く高音と共に、レックスの口からマゼンタの火柱が盛大に立ち上がった。

 

 高圧のプラズマジェットによる火炎放射。

 〈デストファイヤー〉だ。

 それは火炎放射というより、もはや一種のビームであった。

 レックスのデストファイヤーを、ジャイアントマタンゴは顔面に喰らった。

 いくら怪獣でも結局はキノコ、高圧プラズマジェットの直撃には到底耐えられない。

 デストファイヤーを浴びた箇所が一瞬で焼き尽くされ、ジャイアントマタンゴの頭の左半分が綺麗な消し炭になった。

 

 だが、頭が半分になったというのに、ジャイアントマタンゴの動きは止まらない。

 黒焦げに炭化した首をぷらぷらと揺らしながら、ジャイアントマタンゴはクルマの方へと手を伸ばす。

 

「このっ、このっ……ぎゃっ!?」

「リリセ!」

 

 途端に助手席の方から悲鳴が聞こえ、レックスは運転席の方へと振り向いた。

 威嚇射撃のために助手席から身を乗り出していたリリセの腕が、マタンゴの手に捕まえられてしまっていた。

 

 

 

 

 わたし、タチバナ=リリセは、ジャイアントマタンゴの手中で揉まれながら懸命にもがいていた。

 

「はなせ、離せったら!」

 

 辛うじて自由な片腕で力いっぱい殴りつけてみても、モフモフと柔らかい感触に拳がめり込むだけだ。

 捻り潰されてしまいそうな握力で掴まれながら、わたしはそのまま半身を車外へ引きずり出されてしまった。

 

「リリセッ!」

 

 エミィが運転席から手を伸ばして辛うじてベルトを掴んでくれているが、それもいつまで持つかわからない。

 そんな中、レックスが叫んだ。

 

「リリセに触るな、バケモノめ!」

 

 マタンゴの手中で懸命にもがいていたわたしは、自分の眼前に、レックスの尻尾がするすると伸びてきたのを見た。

 ……レックスは何をする気なんだろう。

 そう思いながら見ていると、レックスの尻尾の先端からマゼンタのプラズマジェットが噴射された。

 範囲を極限まで絞ったプラズマジェットの火炎放射が、空気を焼く音と共に鋭利なビームの刃へと変わってゆく。

 そしてレックスの声が聞こえた。

 

「動かないで! 今、助けてあげるから!」

 

 助ける? どうやって?

 怪訝に思ったわたしの鼻先に、レックスの尾から放たれるマゼンタの炎光が近づいてゆく。

 

「!? ちょ、ちょちょちょっと、待って、レックス!」

 

 高圧プラズマジェットの刃なんて、鋼材を切断加工するプラズマカッターそのものだ。

 ……まさか、そのプラズマカッターでマタンゴを斬るの?

 わたしの身体ごと?

 おまけに不安定なクルマの荷台から?

 

 

 

 死ぬわ。

 

 

 

 そのことに思い至ったわたしは、額から冷たい汗を滝のように流しながらマタンゴの手中でモゴモゴと叫んだ。

 

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て、ねえ待って!!

 それやったらわたしも斬れちゃう、斬れちゃうから!!!!」

 

 慌てふためくわたしだけれど、レックスは待ってくれなかった。

 

「大丈夫、ボクを信じて!」

「だからちょっと、待っ、あっ、ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙――――――――――――ッ゙!!!!

 

 わたしの制止もかまわず、レックスは風切り音とともに尻尾を振り回した。

 自分の身体が真っ二つにされるところを想像したわたしは、「ひっ」と喉を引きつらせて目を閉じる。

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

 目を恐る恐る開いたわたしは、自分の身体を確かめた。

 両手。胴体。首。

 ……全てちゃんと繋がっている。

 他方、マタンゴの指先だけは細切れになりボロボロと崩れ落ちていった。

 

 レックスは尻尾のプラズマカッターを巧みに振るい、わたしを掴んでいたマタンゴの指だけを切断することに成功していた。

 しかもがたがたと不安定に走り続けるクルマの荷台から目隠し同然の体勢で、わたし自身にはかすり傷ひとつつけず。

 到底人間に出来る技術ではない。

 ……流石のわたしも失禁しかけたのは、ここだけの秘密である。

 後部荷台から、怒り狂ったレックスの咆哮が聞こえてきた。

 

「キノコのオバケめ、おまえなんか八つ裂きにしてやる!!」

 

 指をすべて切り落とされた掌をまじまじと見つめているジャイアントマタンゴに、レックスは続けざまにデストファイヤーを繰り出した。

 首、両腕、胴体、鼠径部、両膝、指の節々に至るまで、マタンゴの身体の各関節部分を狙って切断してゆく。

 身体の動く部分すべてを切断されたジャイアントマタンゴは土台を失った積み木のように崩れ落ち、人の形をした巨大キノコの切り身が道路にごろごろと転がった。

 

 行動不能になったジャイアントマタンゴを尻目に、わたしたちを乗せたクルマは雨が降る森の中へと消えていった。

 

 




おまけ短編:ある罪深い男の話Ⅱ

 フランケンシュタイン。
 かの古典小説に由来する暗号名を冠してはいるが、人造人間であるという点を除けばその性質は原典と大きく異なる。


 フランケンシュタイン細胞はあのゴジラの細胞、いわゆるゴジラ細胞を人為的に再現する試みの産物である。
 着想は単純なものだ。ゴジラしか生きられない世界になるというのなら、ゴジラになってしまえばいい。
 無論そのままゴジラ細胞を組み込むことは出来ないから、人体へ組み込み可能な同等品を創ろうとしたわけである。
 道程は多難であった。
 そもそもゴジラ細胞のデータ自体を手に入れるのが困難だった。
 友人のマフネ博士の伝手でビルサルドの高官と面会できなければ、そして彼からゴジラ細胞のデータを得られなかったなら早いうちに行き詰まっていたはずだ。
 数多くの検体を無駄にしたし、時には生命の危険さえ伴った。

 だが、私はやり遂げた。

 完成したフランケンシュタイン。
 放射能汚染下でも生きられる強靭さ。
 どんな環境にも適応し、どんな肉体にも拒絶反応を起こさず適合し得る優れた順応性。
 適切な栄養補給さえ受けられれば、細胞片からでも復活が可能な不死性。
 ポスト=ゴジラに追い詰められた我々人類にとっては、まさに福音とも呼べる存在だ。

 そしてその心臓部、『フランケンシュタインの心臓』は人体への移植が可能だ。
 移植すれば全身の細胞に進化をもたらし、人間を新たなステージへと進化させる。
 たとえ原爆の直撃を受けようとも死なず、深海のような極地にも適応できる、そんな新人類へと造り替えてくれるのだ。
 フランケンシュタインの心臓、これを量産できたならもう心配は要らない。
 ポスト=ゴジラの次代にも、人類という種の命脈を繋ぐことが出来るだろう。
 そんな素敵な未来を夢見ながら、私は心を躍らせたものだった。



 それは、泡沫(うたかた)の素敵な夢でしかなかった。



 フランケンシュタインが完成した日。
 記念すべき日は、呪わしき日へと変わった。
 その日、西暦2046年3月某日。
 かの忌まわしき破壊神にしてキングオブモンスター、ゴジラが東京を襲撃したのだ。

 私は間一髪無事だったが、ゴジラは私の属していた組織の本拠地をも根こそぎ焼き払った。
 その放射熱線の一発が研究施設を吹っ飛ばした。
 そしてそこにはフランケンシュタインの心臓が保管されていた。

 いくら不死身の心臓を持とうと、ゴジラの熱線で焼き尽くされてしまえばどうにもならない。
 サンプルは全て喪われ、かろうじて持ち出した開発データもゴジラの放ったEMPで破壊されてしまった。
 わたしが作った理想の人間、フランケンシュタインは永遠に喪われてしまった。




 しかし私は諦めなかった。
 フランケンシュタインに次いで私が手を出したのは、〈マタンゴ〉であった。
 南洋で回収された第三の生物、マタンゴ。
 フランケンシュタインやゴジラ細胞よりは一段落ちるものの、ポスト=ゴジラを生き抜くことが出来ることは変わらない。
 あとは脳神経系を冒す毒性さえ解消し、自我を保ったままマタンゴ化できさえすればいいだけだ。

 これに関してはゴジラも一役買ってくれた。
 東京を襲撃したゴジラは、東京にあった組織の中枢を蹂躙して組織上層部を一掃してくれた。
 首領、幹部、その座は巡り巡って私の元へと回ってきた。
 つまり、組織は私のものになったのだ。
 かくして組織を完全に掌握した私は、組織の資財全てを己の研究へ注ぎ込んだ。
 ここまで来てもはや後戻りはできないのだ、自身にそう言い聞かせながら。
 ……今にして思えば、当時の私はなんと愚かだったのだろう。
 連合政府、その裏の暗躍で『組織』が蓄えた資産は相当の物だった。
 もしその資産を変身人間の研究などではなくゴジラに蹂躙された民衆のために使っていたなら、一体どれだけの人々を救えただろうか。
 慙愧の念に絶えないが、後の祭りである。


 そんなマタンゴ研究も、結局失敗した。
 先日、研究中のマタンゴ菌が漏洩する事故があった。
 品種改良により繁殖力と感染力を飛躍的に高められていたマタンゴ菌によるパンデミック。
 組織の構成員で残ったのは私ただ一人、僅かに残った組織の残党は完全に壊滅した。
 人倫に悖る所業を重ねてきた組織の末路としてはこの上ないものだったろう。


 残された猶予は少ない。
 部屋の外でマタンゴが騒いでいる。
 扉を叩く音が響いている。
 きっと鍵をこじ開けようとしているのだろう。
 踏み込まれたら終わりだ、私もマタンゴ菌に感染してマタンゴの仲間入りを果たすことになるだろう。

 だが、そうはならない。
 私はちゃんと手段を講じている。

 今、私の手元には『一服の薬』がある。
 これは変身人間を造る過程で生まれた失敗作であり、服用すれば速やかに死に至り、その死体は霧散して塵と消える。
 つまり、これを飲めば、マタンゴの苗床にならずに死を迎えることが出来る。




 あと必要なのは、これを飲み干す勇気だけである。
 だがそれもそう遠くはないことだろう。
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