怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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怪獣復楽園:再構成(リテイク)、アニゴジ世界で怪獣プロレス その5

 

 わたし:エミィ=アシモフ・タチバナは、地獄のタイムリープを抜けた先で黒いメカゴジラⅡ=レックス:ブラックレックスと出会った。

 ブラックレックスはこう語る。

 

「ボクはこれからみんなを楽園に連れてゆく。みんなが幸せになれる楽園:ハッピーエンドにね」

 

 楽園に連れてゆく、一体どこに連れてくつもりなんだろう。そう問い掛けようとするわたしに、ブラックレックスは先回りして「みんなを理想の楽園に連れて行くのさ」と言った。

 

「まず、1999年から始まった怪獣出現以来、いや、エクシフが関わってきた遥か太古の昔からの、地球の歴史を書き換える。それから皆の願いが満たされる、新しい楽園へと上書きするんだ。そうやって皆を楽園に連れてゆく。こんな糞みたいな地獄から、皆が幸せな楽園に」

 

 ……何言ってんだ、一体。わたしは困惑した。

 たしかに、今のブラックレックスにはパラレルワールドを行き来してしまうような凄い力がある。まさに最高、無敵のチート能力だ、それは認めよう。

 だけど楽園へ連れてゆく、『世界を書き換える』だなんてそこまでのことが出来るのだろうか。いくらなんでも途方も無さすぎるだろ。

 そんなわたしの戸惑いを見通してか、ブラックレックスは「いいや、出来るとも」と胸を張った。

 

「みんなを楽園に連れて行く、そんなのわけないことさ。なんて言ったって、今のボクには最強の『神様』が味方に付いているからね」

 

 『神様』? 何のことだろう。それを問い質そうとしたとき、どこからともなく『笑い声』が聞こえてきた。

 

 ピロピロピロ

 ケタケタケタ

 

 その笑い声でわたしは頭上を仰いだ。

 ……忘れられない、忘れられるはずがない。

 遠い記憶の中にある、『あの怪獣』の姿を思い出す。初めて見たときわたしは『こいつ』の正体を知らなかったけれど、そのあとリリセからその名を聞かされていた。

 

「ルシファー……!」

 

 高次元怪獣、堕天の虹〈ルシファー=ハイドラ〉。かつてゴジラをも圧倒し、メカゴジラⅡ=レックスを利用してこの世界を食い潰そうとした、異世界からの恐るべき侵略者。虹色の体を持つ三つ首の邪悪な大蛇が今、ブラックレックスの周囲に舞い降りてきて蜷局(とぐろ)を巻いていた。

 

「な、なんでこいつが……っ!?」

 

 そう、ルシファーはあのとき孫ノ手島で、メカゴジラⅡ=レックスもろともゴジラに木っ端微塵に倒されたはずだった。なんで生きてやがる。

 状況を呑み込めずにいるわたしに、ブラックレックスは「ルシファーは高次元怪獣だからね」と答えた。

 

「高次元怪獣の本質は彼岸、高次元世界の向こう側にある。低次元世界でいくら踏み潰されようが放射熱線で吹っ飛ばされようが、実際は痛くも痒くもない。『綺麗な虹が見たい』、そうやって(こいねが)う者さえいれば異世界転生チート怪獣は何度でも現れるのさ」

「そ、そんなっ……!」

 

 そんな、そんなの、孫ノ手島でのことは全部ムダだったってことじゃないか。

 悲嘆しているわたしに構うこと無く、ブラックレックスは話を展開してゆく。

 

「それにルシファーは教えてくれた。この星の行く末、結末がどうなるか」

 

 この星の結末、だって? わたしが聞き返すと「うん」とブラックレックスは頷いて答えた。

 

「このまま世界が突き進んでいったらどうなってしまうか。聞かせてあげるよ、エミィ……」

 

 そうしてブラックレックスは、高次元怪獣ルシファーから聞かされたという『この星の結末』を語り出した。

 『この星の結末』、それはゴジラを倒すことに取り憑かれた『ある男』の物語だった。

 

 ゴジラを倒す、男はそのために様々な手段を講じた。あるときは知恵と勇気と作戦で、またあるときは要塞都市へと進化したメカゴジラ=シティを使って、挙げ句の果てには(ギドラ)の力にさえ縋ることさえ迫られた。

 だけど、男はゴジラに勝てなかった。理由は突き詰めると簡単だ、『男が結局人間であることを辞められなかったから』だ。

 男はあまりに巨大すぎるゴジラに蹂躙された。何故なら男は人間だったから。

 男はゴジラを倒せる唯一の手段だった要塞都市型メカゴジラを自ら破壊した。何故なら男は人間だったから。

 男は(ギドラ)による救済さえも最終的には否定した。何故なら男は人間だったから。

 そこまでいっても男はゴジラを憎むことを辞められなかった。何故なら男は人間だったから。

 かくしてゴジラへの憎しみを捨てられなかった男は、自らのけじめをつけるために全てを捨ててゴジラに特攻、そのまま果てたのだった。

 

「……ふふっ、みじめでしょう?」

 

 そんな一連の顛末を語り終えたブラックレックスは、フフフと笑った。

 

「ちっぽけで、馬鹿げていて、そして底無しに愚かだ。人間ごときが怪獣、それもゴジラに敵うはずがないのに」

 

 小馬鹿にするような失笑は、やがてけたたましい哄笑へと変わった。

 

「うふふふはははは……!」

 

 お腹を抱えて笑い転げるブラックレックス。その虚ろな笑い声は、周囲でくねっているルシファー=ハイドラの嗤いにそっくりだった。

 

「こんなのが『人類最期の英雄』? こんなに大勢の人を巻き込んで不幸にして破滅に追いやった挙げ句、背負うべき責任を放り出して独り善がりに死んでいった、この弱くて身勝手極まりない人でなしの屑が? ボクたちが、そして全人類が未来を信じて身も心も捧げた果てがコレだって?」

 

 そうやってひとしきり笑い転げたあと、ブラックレックスの表情は憎悪に染まっていった。燃える瞳はまるで怒り狂ったゴジラそっくり、怪獣そのものだ。

 

「……ふざけるな。こんな最低最悪のBADEND、ボクは認めない。こんな結末認めてやるものか、絶対に許さない」

 

 そうやって底無しの怨念に燃え滾るブラックレックスと、その周囲でケタケタと笑い狂う高次元怪獣ルシファー。そんな彼らを見ていて、わたしは直感した。

 ……ブラックレックスは悪魔に誑かされている、ルシファーに唆されて良い様に操られているんだ。なんとかしなくちゃ。

 そう思い至ったわたしはブラックレックスに言った。

 

「レックス、おまえは騙されてるんだ!」

「…………はい?」

 

 わたしの言葉に、ブラックレックスは怪訝に小首を傾げている。わたしはブラックレックスへ一生懸命に言って聞かせた。

 

「何を吹き込まれたんだか知らないけど、そんなの『現実』じゃない! ルシファーだかなんだか、そんな得体の知れない変な奴の言うことなんか聞くな!」

 

 わたしの言葉に、最初ブラックレックスはぽかんとしていた。だがその呆気に取られていた表情は崩れてゆき、やがて口元からクスクスと笑みが溢れ落ちた。

 

「騙されてる? ボクが?? ふふっ、ははは」

 

 ……何が可笑しいんだ、一体。わたしが怪訝に眉を顰めている中、ブラックレックスはニコニコ笑いながらこう告げる。

 

「自分を騙してるのはキミの方だろう、エミィ=アシモフ・タチバナ。いい加減素直になりなよ、キミだって本当はわかっているくせに」

 

 なんだとっ。

 売り言葉に買い言葉でわたしが言い返そうとしたとき、ブラックレックスの隣に『人影』が現れた。

 その影は最初ピント外れのようにぼんやりと曖昧だったが、やがてその輪郭がはっきりと浮かび上がってきてわたしは目を見開いた。

 

「リ、リリセ……?」

 

 突如出現した新たな人物、それはタチバナ=リリセだった。驚愕しているわたしに、目の前のリリセは「やっほ、エミィ」とかつてのように笑いかけてくる。

 なんで、どうしておまえが。そんな疑問も浮かんだけれど、見慣れた優しい笑顔を向けられてわたしは思わず手を伸ばしてしまう。

 そんなわたしに、リリセはこう言い放つ。

 

「触んないでよ、このひとでなし」

 

 ……え?

 思ってもなかった反応に、わたしはただ唖然とするしかない。目の前のリリセは伸ばされたわたしの手を乱暴に払い除けると、こんなことを言い出した。

 

「BADENDの回避? よく言えるよね、『本物のわたし』をこんな有様にしておいて」

「んなっ……!?」

 

 改めて見れば、わたしの目の前に現れたタチバナ=リリセは、元気溌剌・天真爛漫なかつての彼女とは違っていた。

 ひどく痩せ衰えて弱り、全身をナノメタルに侵食されてボロボロになってしまった姿。わたしが『記憶』の奥へと封じ込めていた、ナノメタルに食い殺された本物のリリセだ。

 身体中のあちこちを鈍色のナノメタルに食い潰されたリリセは、今までわたしが見たこともないような剣呑な目つきで睨みながらこう言った。

 

「『わたしを救う』? バカじゃない? いつも強くて優しい誰かさんに護られてばっかの弱いあなたなんかに、何が出来るって? 実際タイムリープで何回やり直したって上手くなんていかなかったじゃない」

 

 違う、こんなのはただの幻、偽物だ。

 わたしは咄嗟に自分へ言い聞かせた。きっと目の前にいるタチバナ=リリセはブラックレックスが繰り出してきた幻覚かなにかだ、本物のタチバナ=リリセがこんなことを言うはずがない。こんな酷いことを言ってわたしを傷つけたりしない、本物のタチバナ=リリセなら。

 だけどそんなわたしの甘さを見透かしたように、リリセの亡霊は鼻で笑い飛ばす。

 

「“本物のタチバナ=リリセなら”? なにそれ。勝手なこと言わないで。あなたがわたしの何を知ってるというの? 知ったようなクチを聞かないでよ、生きたままナノメタルでじわじわ蝕まれてゆく苦しみがどんなだったか知りもしないくせに」

「ちがう、ちがう、ちがうっ」

 

 怨念を滾らせているリリセの気迫に圧倒され、わたしはその場から後ずさろうとする。

 しかしその足を『誰か』に掴まれた。

 

「ッ!?」

 

 振り返ると、わたしの足元に『子供たちの亡霊』がしがみついていた。

 わたしの足を掴んでいるのは、ヒロセ=ユカリとその弟ケンキチ。わたしが『失敗』だと切り捨てたタイムリープの中で、幾度も死んでいったタチバナ=リリセとヒロセ=ゲンゴの子供たちだ。

 わたしがかつて心から愛した双子の姉弟たちは、全身を凶弾で抉られた血みどろの様相のまま朗らかに笑いかけてきた。

 

「「エミィおばたん!」」

 

 ひ、ひぃっ!!

 満面の笑みを浮かべて纏わりついてくる子供たちの亡霊を、わたしは悲鳴を挙げながら必死に振り払った。そんなわたしに、タチバナ=リリセの子供たちはこう語りかける。

 

「ねぇ おばたん」

「どうして にげるの おばたん」

「これこそ おばたん が えらんだ けつまつ でしょう?」

「これこそ おばたん の いう 『げんじつ』 だよ?」

「にげちゃだめだよ、おばたん」

「うけいれなきゃ」

 

 よせ、くるな、やめろ。

 追い縋ってくる亡霊たちから逃げ惑うばかりの無様なわたしを、タチバナ=リリセの幻影は「だいたい『わたしを救う』っていうけどさあ」と冷たく笑った。

 

「そもそも『あなたがいなければ良かった』だけのことじゃないかなあ? あなたみたいな役立たずの足手纏い、ずっとわたしの人生の御荷物だった。あなたみたいな邪魔者さえいなければきっと助かった、いや幸せに暮らせたろうに。ねー?」

「「ねー?」」

 

 やめろ、やめてくれ、もう聞きたくない!

 響き渡るリリセたちの嘲笑に対し、わたしは両目両耳を塞いで拒むことしかできない。

 わたしが犯してきた罪、逃げ出してきた過ち、今までずっと目を背けてきた痛い『現実』。だけどこんなのリリセじゃない、リリセたちがこんな風にわたしを責め立てたりするわけがない、だけど、だけど……。

 

「……ああ、そうだとも」

 

 目の前の『現実』から逃げ出そうとするわたしの耳元に、ブラックレックスの囁きが入り込んでくる。

 

「これはキミの深層心理を反映した作り物の幻、偽物だ。本物じゃあない」

 

 だけどねエミィ、とブラックレックスは言う。

 

「エミィ=アシモフ・タチバナ、これがキミの心の影であるのは間違いない。キミはもっと素直に、自分の心の声へ耳を傾けるべきだ」

 

 心の声、だと……?

 

「そうとも。キミ自身、内心ではわかっているはずだよ。いくらキミが口先でそれっぽい屁理屈を並べ立てようがそんなものは『欺瞞』に過ぎない、本当はこんな結末望んでない、とね。自分の本当の気持ちと向き合うんだ」

 

 正直になろうよ、エミィ。ブラックレックスはそうやってニコニコと笑い掛けた。

 

「『出されたものは何でも受け容れなきゃいけない』なんて、そんなの他に縋るものがない畜群どものみじめなルサンチマンさ。嗚呼、なんて可哀想なんだろうね、そういう人たちは。そういう都合の良い夢の世界に閉じ籠ってる下劣なウソツキどもを見てると、ついつい論破して現実に目覚めさせてあげたくなっちゃう」

 

 でもねエミィ、とブラックレックスは言う。

 

「そういう底辺の卑怯者どもならいざ知らず、正直者のキミまでそうやって無理をして大人ぶったり、我慢して自分に言い訳をしたりする必要なんてない。イヤなものはイヤ、ダメなものはダメ、受け容れたくないものは受け容れない、こんなの認めない、もっと違う結末が良かった、アレが欲しい、コレが欲しい……それでいいんだよ。だってキミは家畜じゃなくて人間なのだから」

 

 ……かつてのレックス、わたしが知ってるメカゴジラⅡ=レックスはこんな、人の弱味につけこんで傷つけるようなマネが出来る奴じゃなかった。一体どうしちまったんだよ、レックス。

 メカゴジラⅡ=レックスのあまりの変貌ぶりに慄いていると、ブラックレックスは「ボクはね、悟ったんだ」と言った。

 

「人間は欲深で、浅はかで、そして底無しに愚かだ。後先考えず繁栄だけ求めて破綻を引き起こすのも人間、弱くて狡くて身勝手なのも人間、ウソをついて他人はおろか自分自身さえ騙してしまうのも人間だ」

 

 そう言ったブラックレックスは、遠い目をしていた。

 ……ブラックレックスが語る、人間の愚かしさ。わたしが知っているメカゴジラⅡ=レックスは、そういう人間の弱さや狡さ、身勝手さに散々振り回された挙げ句に破滅してしまった可哀想な奴だった。

 そんなわたしの感慨を余所に、ブラックレックスは言う。

 

「でも、それこそが『人間らしさ』なんだよね。愚かじゃない人間なんて人間じゃない、ただの畜群、飼い慣らされた家畜とおんなじさ。小賢しく思考停止して何もかも受容するだけの人生、それは確かに安楽で傷つかないかもしれないけれど、本当にそれでいいのかな? ちゃんと知性と心があるのだから『自分が真に望んでいることは何か』、それら自分の真実とちゃんと向き合ってきちんと考えるべきなんじゃないのかな? それこそが『人間』じゃない?」

 

 ……たしかに、ブラックレックスの言うとおりかもしれない。

 

「欲深で、浅はかで、底無しに愚かな人間たち。だけどそんな人間たちがボクは大好きだ。愛おしくてたまらない。そんな彼らが人間らしく正直に、そして幸福に生きられる素晴らしい世界。それこそがボクの目指す『楽園』なんだ」

 

 滔々と語られるブラックレックスの『楽園』論に対し、わたしは何も言い返すことができなかった。

 撃退されたはずの高次元怪獣ルシファーの復活、この星が辿るというBADEND、そしてわたし自身の心の声。わたしが見たくなかった真実と、それらから目を背け続けてきた誤魔化しだらけの弱い自分。

 それらすべてを暴き立てられて突きつけられたことでわたしは心を折られ、もはや抵抗する気力も起きない。

 

「……なんでこんなものを見せる? おまえは何がしたいんだ」

 

 力無く訊ねたわたしに、ブラックレックスは「『再構成(リテイク)』だよ」と答えた。

 

「あんな救いもへったくれもない糞みたいな、いや糞そのもののBADENDなんかとは違う、こうあるべきだった世界。ぼくのかんがえた最良の続き、最高の結末。それをこの糞みたいな現実に上書いてやるのさ」

 

 最高の結末、それってどんな。

 わたしがそう訊ねた途端、ブラックレックスの表情がパアッと明るくなった。

 

「……!」

 

 ブラックレックスが浮かべたそれは、心から喜ぶ笑顔だった。先ほどまでの皮肉っぽい作り笑いとはまるで違う、まるで夢見る無邪気な子供みたいだ。

 

「あのねあのねあのねっ!」

 

 そしてブラックレックスは、黄色い瞳をきらきら輝かせながら身を乗り出して語り始める。

 

「まずねっ、『怪獣黙示録』で起動しなかったメカゴジラが再起動するの! 勿論シティでもなければ少女型でもない、ちゃんとゴジラの姿をした立派なメカゴジラ! 二万年の時を経て復活し、身長1キロメートルにまでパワーアップを遂げたそいつが、身長300メートルのゴジラ=アースとガチンコ対決してね……」

 

 それは先ほどブラックレックスが語った『この星の結末』とは打って変わって、とても希望のある結末だった。

 身長1キロメートルにまで成長したゴジラとメカゴジラによる地球最大の究極対決、それに続いて地球へと舞い降りてくる最強最悪の高次元怪獣、そして地球規模で繰り広げられる史上空前絶後の怪獣大決戦。その足元で踏みにじられて多大な犠牲を払いながらそれでも人間たちは知恵と死力を絞って戦い抜き、そして最後は皆で力を合わせて悪い侵略者を撃退し地球を救って明るい未来を掴みとる。

 それは本物と同じくらい、いやそれ以上に波瀾万丈・激動・怒涛の展開の連続だったけれど、最後の最後にはそれら全ての苦労が報われて誰もがハッピー、そんな愛と勇気の尊さを謳う爽やかな人間賛歌ストーリーだった。劇場映画にしたらきっと三部作、CGアニメ映画にでもしたらさぞや楽しい作品になるだろう。

 そんな壮大な構想についてブラックレックスは「今度はハッピーエンドだ」と言った。

 

「どんでん返しは『スティング』を超え、『ニュー・シネマ・パラダイス』より涙を振り絞る、再構成(リテイク)! ……どう? 最高でしょう?」

 

 ブラックレックスが示してくれた『ぼくのかんがえた最高の結末』。さらにブラックレックスはこう豪語した。

 

「この『誰もが望む素晴らしい結末』へ繋がるように、意地悪な神様が仕組んだ『ご都合“悪い”主義』は何もかも根こそぎ破壊し尽くしてやる。そして今度こそ、皆が楽しく笑って暮らせる最高のハッピーエンド、本物の楽園を創るんだ!」

 

 ……なんて素晴らしいんだろう。率直にそう思った。

 どうしてこうならなかった、これこそわたしたちが本当に必要だった結末、もうこれが現実(ホンモノ)でいいじゃん。そんな感想が自然とすらすら湧いてくる。怪獣大決戦が出てくる辺りはたしかにガキっぽいことこの上ないが、だけどこれ以上ないくらいに『誰もが幸せなハッピーエンド』なのは間違いなかった。

 そんなわたしの心情を読み取ったのか、ブラックレックスは「うんうん、そうだよねやっぱり」と言わんばかりに満面の笑みで頷いていたが、不意に様子が変わった。

 

「……まぁ、ここまで至るには色々あったけどね。嫌なことも、悲しいことも」

 

 自分の構想を語っていたときは心底楽しそうだったはずの、ブラックレックスに掛かった暮明(くらがり)、憂いの表情。その灰暗い影を見ているうちにわたしは気になったことがあった。

 

「なぁ、レックス」

「なあに、エミィ?」

 

 呼び掛けへ答えたブラックレックスに、わたしは訊ねる。

 

「おまえ、『パラレルワールドから来た』って言ってたよな。『そっちのわたしたち』はどうなったんだ?」

「!」

 

 パラレルワールドのメカゴジラⅡ=レックスであったというブラックレックス。別の世界に別のレックスがいるなら、同じように別の世界には別のエミィ=アシモフ・タチバナやタチバナ=リリセがいたはずだ。ひょっとすると別の世界のわたしたちも、この世界のわたしたちと同じようにメカゴジラⅡ=レックスと大冒険を繰り広げたのかもしれない。

 けれど、その『わたしたち』はどうなったのだろう。

 

「…………。」

 

 わたしの問いに対し、ブラックレックスは答えなかった。

 でも、それだけでわたしは悟った。

 

「……そうか、死んだのか」

 

 ゴジラに踏み潰されたのか、あるいは新生地球連合軍の内部抗争に巻き込まれたのか。いずれにせよブラックレックスが元々いた世界では、わたしやリリセは死んでしまったのだ。

 『綺麗な虹が見たい』、そう希う者さえいれば何度でも異世界転生チート怪獣は現れる。そんな風に語ったのはブラックレックスだったが、かくいうブラックレックス自身が『そう』だったのかもしれない。そしてその為にメカゴジラⅡ=レックスは高次元怪獣へ縋りつき、悪魔の取引を交わした果てでこんな奴になってしまった。明確な根拠は無いがそんな気がした。

 そんなわたしの思いつきを裏付けるかのように、ブラックレックスは再び口を開いた。

 

「……かつてのボク、そしてキミの世界のメカゴジラⅡ=レックスは、キミたち人間を救ってあげられなかった」

 

 落ち込んだ様子でそう呟くブラックレックス。けれどすぐさま憂いを振り払い、努めて明るい調子でこう続けた。

 

「だけど今は違う。今のボクには高次元怪獣としての力がある。このチート能力があれば都合の悪いことは全部『無かったこと』に出来る。救いたかった人も、受け容れられない結末も、何もかも変えられる。それがどれだけ素晴らしいことか、運命を変えようと必死に抗った今のキミならきっとわかるはずだ」

 

 ……ああ、そのとおりだ、と思った。

 リリセを救おうとして無為なタイムリープを重ね続けたわたしなんかに、同じ道を選んだブラックレックスをどうこう批判する資格はない。

 そう思い至ったわたしに、ブラックレックスは手を差し伸べた。

 

「さあ行こう、最高のハッピーエンドへ。キミにはその資格がある」

 

 そのとき、わたしはブラックレックスの顔を見た。底抜けに明るいニコニコ笑顔。それはまるで天使様のようで、悪いことなんて微塵も考えて無さそうにわたしには感じられた。

 

「…………。」

 

 思い返してみれば、出逢ったときからずっと『そう』だった。わたしの知ってるメカゴジラⅡ=レックスは、いつだってわたしたち人間のためになることしかしていなかった。そんなレックスに対し、狭量な見方で勝手に悪者扱いしていたのはいつだってわたしの方だ。

 

(……迷う必要なんてないのかもな。)

 

 手を差し伸べるブラックレックスへ、わたしもおずおずと歩み寄る。

 そんなわたしへ、ブラックレックスが朗らかに笑いかける。

 

「そして行こう、素敵な未来の楽園へ!」

 

 ……ああ、行こう。

 わたしはレックスの手をとり、明るい未来へ向かって歩き出した。

 

 





【挿絵表示】

高次元怪獣を描いてもらいました。描いてくれた神:エリむーと様

好きなキャラクターを教えて

  • タチバナ=リリセ
  • エミィ=アシモフ・タチバナ
  • メカゴジラⅡ=レックス
  • ウェルーシファ
  • ジニア
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