怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
マタンゴの巣窟からからくも逃れた一行。
しかしタチバナ=リリセがマタンゴ中毒になってしまった。
「リリセ、リリセ!!」
エミィが必死に呼び続けているが、リリセは、泡を吹きながら身悶えしているだけで一向に意識を取り戻す気配がない。
そんなエミィとリリセを眺めながら、レックスことメカゴジラⅡ=レックスは、電子頭脳のデータベースを引いてみた。
――――人体、キノコ、感染。
たしかに、人間の体内に菌類が入り込んで肺炎を起こした症例は存在した。芋虫を苗床にして育つ『冬虫夏草』というキノコもある。
しかし人体には高度に発達した免疫がある。死体ならともかく生体から、それもこんなスピードでキノコが生えてくるなんて有り得ない。
だが、このマタンゴはその常識を覆していた。
入り込んだその場で体内に菌糸を張って、人体からキノコを生やしてしまう。常識外れとしか言い様がない、凄まじい生命力だった。
しかもこのマタンゴ、恐ろしいほど生育速度が早い。簡単にシミュレートしただけでも、あと24時間程度で全身からキノコが生えてくる計算になる。
人体の免疫システムを征服し、同じキノコへと変えてしまう、正体不明の寄生キノコ。
そんな存在など、もはや新種の怪獣と呼ぶべき存在だった。
ゲマトリア解析によるシミュレートが完了し、リリセをマタンゴ菌が制圧したイメージをレックスは想像した。
おそらくそれは、全身を極彩色のキノコで着飾った、カラフルなキノコ人間の姿になるだろう。
「……じゃない、……だけ……」
レックスがシミュレートしている間、エミィは真剣そうな表情でぶつぶつ呟きながらリリセを凝視していた。
「マタンゴが生えても死ぬわけじゃない、キノコ人間になるだけ……」
そう自分に言い聞かせながら、エミィは、リリセの胸元のキノコを毟り取った。
そして、手に掴んだキノコを自分自身の口へ運ぼうとした。
「なにやってるんだ!?」
エミィの突然の凶行にいち早く気付いたレックスは、エミィが掴んでいたキノコを手刀で叩き落とした。
「わたしも食べる、キノコ人間になる……」
エミィがそう答えながら地面に転がったキノコを拾い上げようとしたので、レックスは地面に転がったキノコをぐちゃぐちゃに踏み躙り、指先のデストファイヤーで焼却した。
そしてレックスはエミィを叱り飛ばした。
「馬鹿言うな! そんなことしてリリセが喜ぶと思ってるのか!」
「……うるさいだまれ」
エミィは、唸るような低い声で言った。
「おまえなんかに、なにがわかる。わかるもんか。どうせおまえは
「エミィ……?」
レックスを睨みつけるエミィの目つきはぎらぎらと殺気立っていて、力の籠った声には強い怒りが滲み出ていた。
そして溢れんばかりの涙を目元に
「だいたい元はといえば、おまえがいい加減なことを言ったからだぞ!!
どこが『安全』なんだ、このガラクタ野郎!!
おまえなんか、おまえなんかっ、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!!
この、このっ……人殺しめ!!」
エミィの罵声に、レックスは言葉を失った。
……言い逃れならいくらでも出来る。レックスのデータベースにマタンゴのことは載っていなかった。それに休眠状態のマタンゴたちが動体検知器に引っ掛からなかった以上、レックスに気付けるはずがない。たしかにレックスは『安全だ』とは言ったが、そんなレックスの言葉を信用したのはリリセだし、エミィだってその気になれば止められたはずだ。それでガラクタ、人殺し呼ばわりされるのはいくらなんでも理不尽だ。
だけど、レックスはそんな無責任な言い訳を並べる気にはなれなかった。
……エミィの言うとおりだ。
散々調子に乗り『安全だよ』だなんて適当なことを主張して、エミィの反対意見を無視した結果リリセが死にかけている。
全部、ボクのせいだ。
レックスはそう思った。
そして、こうしているあいだにもリリセの身体はマタンゴに蝕まれ続けていた。
ついさっきまでは
リリセ本人はというと、先程までは白目を剥いて痙攣しながら喘いでいたのだが、その動作が少しずつ大人しく緩慢になっていた。
楽になっている、見様によってはそうだが、裏を返せば
脳髄を食らい尽くされたら終わりだ。
もはや手遅れと悟ったエミィは膝から崩れ落ち、ぼろぼろと大粒の涙を流していた。
「いやだ、いやだ、わたしを独りにしないで……!」
リリセに縋りつきながら泣きじゃくるエミィを見ていたメカゴジラⅡ=レックスは、今まで感じたことのない情報に苛まれていた。
レックスの電子頭脳にはこれまでの人類の知見を積み重ねた巨大なデータベースがあり、そしてレックスの身体はどんな武器でも作れるナノメタルで出来ている。
これまでレックスは『自分は凄い奴なのだ』と思っていた。
しかし、実際はそうではなかったのだ。
たかが毒キノコひとつ相手に、最強無敵の対ゴジラ用最終決戦兵器はまったく何もできない。
無力感。今のレックスを襲う情報、感情はそれだ。
……なにが人類最後の希望だ。
超攻撃型メカゴジラ、そんなのがどうした。
百科辞典並の膨大な知識があったって、強い怪獣をやっつけるスゴイ武器を沢山積んでいたって、目の前で苦しんでいるひとりを助けられないのなら、そんなものは無用の長物じゃないか。
レックスは悔しかった。
隣で泣き叫んでいるエミィのように涙を流せたら、感情が爆発出来たら、どんなにいいだろう。
先ほど怒鳴りつけられたエミィの罵倒が、脳内で擦り切れるほどの勢いで繰り返し再生される。
『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がないじゃないか!』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『おまえなんか、怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか能がない』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺すしか』『怪獣を殺す』
『怪獣を殺す』。そこで停まった。
怪獣を殺す、どうやって?
マタンゴ、怪獣、キノコ、すなわち菌類、メカゴジラ、自律思考金属体、ナノメタル。
『怪獣を殺す』。その言葉が架け橋となってすべての要素を結びつけ、論理を形成し、レックスの電子頭脳がひとつの解を導き出した。
たしかに理論上は可能だ。
検証だって
……しかし、ナノメタルをそのように用いた前例はレックスのデータベース上にはない。
ナノメタルを発明したエイリアンたちの歴史上にはあるのかもしれないが、そこまでのデータはレックスも持っていなかったし、そもそも地球以外の星にマタンゴは存在していない。
おそらく人類史上、いや宇宙史上初の戦いになるだろう。
ぐずぐず迷っている余裕はない。
一刻も早く始めなければ、それもマタンゴがリリセを完全に喰い尽くしてしまうその前に。
レックスは決断した。
……キノコのオバケめ。
おまえなんかの好きにさせてたまるものか。
このボク、メカゴジラの力を見せてやる。
レックスは指先を針状に変形させ、マタンゴが芽生えたリリセの胸へと突き立てた。
「!? おい、何してんだおまえッ!?」
リリセからレックスを引き剥がそうとするエミィを、レックスは片手で止めた。
「ナノメタルを注入すればマタンゴを殺せる可能性がある。リリセを助ける!」
……かつて、酒を造る職人である
一見すると奇妙なルールだが、理由は実に科学的だ。
納豆に含まれる納豆菌は非常に強いため、酒造に必要な
納豆菌は麹菌どころか病原菌さえも打ち負かしてしまうほど強力であり、さらにいえば人間の消化液や、熱湯消毒にさえ耐える強い生命力を持っている。
そもそも『人体に有害かどうか』なんてことは菌の強弱とは全く関係がない。人間を殺してしまうような病原菌も、より強い無毒な納豆菌には勝てないのだ。
ここに納豆菌はないし、マタンゴ菌より納豆菌が強いのかどうかはわからない。
しかしその代わりに〈ナノメタル〉がある。
鋼で出来た細菌にして、怪獣さえも殺す最強の白血球。
ナノメタルの侵蝕攻撃がマタンゴにも通用するのは、さきほど散々撃ちまくったフィンガーミサイルのおかげで実証済みだ。
それに、ナノメタルが支配する世界はその名の通り
あとはナノメタルを制御する電子頭脳の精度、つまりレックスの精神力の問題だった。
レックスは、ナノメタルをリリセの体内に流し込むことでマタンゴを駆逐しようとしていた。
それは、地球で最もスケールが小さくて、だけど最も苛酷な決戦。
メカゴジラ対マタンゴ。
世紀の大決闘が始まった。
エミィ=アシモフ・タチバナは、出会った当初からメカゴジラⅡ=レックスが気に喰わなかった。
……ひょっとするとリリセの言うとおり、とても善いヤツなのかもしれない。
アンギラスやマタンゴ軍団から助けてくれたことや、クルマの修理など色々手伝ってくれたことについては感謝するべきなのかもしれない。
だけど『信用に値するヤツかどうか』、そして『個人的な好き嫌い』とは話が別だ。
廃墟に落ちてたトランクから現れて、プラズマジェットで空を飛び、メーサーブレードで高層ビルをぶった切り、その他にも背鰭から偵察機だの指からミサイルだのアニメマンガみたいな武器を満載した自称メカゴジラ。
……そんな怪しいヤツ、手放しで信用する方がどうかしている。
それに、善意とはいえヒトの領分に土足で上がり込んでくる無神経さやマイペースさ、良い子ぶった痛々しいキャラ付け――一人称が『ボク』のロボ少女ってなんだよ、出来の悪いラノベじゃあるまいし――にもムカムカした。
だいたい、リリセが甘すぎるのだ。
あのバカ、子供ときたら無条件で天使みたいに純粋無垢だと思っていやがる。
我らがタチバナ サルベージの若社長殿は、頭の回転が速いわりに時々大雑把で、抜けていて、そしてどうしようもないくらいに
大怪獣アンギラスさえも追っ払ってしまうメカゴジラⅡ=レックス。
そんな凄まじい力を持っているヤツが暴力を振るったりしてきたら、弱っちい普通の人間でしかない自分たちなんてひとたまりもないだろう。
そして能天気なリリセのことだから、そんな可能性なんて微塵も考えていないんだろうな。
……リリセは、わたしがいないとダメだ。
変なやつに
そんな風に考えたエミィは、リリセがレックスに接近しすぎないように警戒していた。
だけど、それは間違いだった。
レックスが何をしているのかは理解できなかったエミィだったが、その真剣な表情からレックスが誰のために何をしようとしているのかは理解できた。
……思い返してみればずっとそうだった。
レックスは最初から最後まで、リリセやエミィのためになることしかしていない。
それをひねくれた見方で勝手に悪者扱いしていたのはわたしの方じゃないか。
今だってそうだ。
レックスは今もなお、リリセのためにマタンゴと戦おうとしてくれている。
むしろ今はわたしの方こそ足手まといだ。
そのことを理解したエミィは静観へ徹し、レックスの勝利を祈ることにした。