怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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14、史上最小の怪獣プロレス

 エミィが見守る最中、レックスの指先からリリセの体内へナノメタルが注入され始めた。

 

 先遣隊として送り込まれたメカゴジラⅡ=レックスのナノメタルたちは、まずデータ収集から始めた。

 『排除すべきマタンゴの細胞』なのか、『守るべきタチバナ=リリセの細胞』なのか、区別できるようにするためだ。手当たり次第に侵食攻撃を仕掛けていては癌細胞と同じになってしまう。

 データベース上にある人体のDNAパターンと照合し、タチバナ=リリセのDNAパターンと、マタンゴのDNAパターンを特定。

 レックスの電子頭脳は、攻撃対象と守る対象を区別するためのマッチングリストを創り上げた。

 その行数は数億行。天文学的な数に及んだ。

 

 とはいえ、リストだけでは完璧とは言えない。

 リリセの体内に入り込んだマタンゴの細胞は、いわば新種のウィルスと一緒だ。

 人体の免疫をすり抜けるために刻々と変異し続け、そして新しいパターンのマタンゴ細胞を産み出してゆく。

 そのパターンすべてを網羅することなど、流石のメカゴジラでも不可能だった。

 

 そこでレックスはマタンゴの細胞パターンではなく侵食作用のパターン、つまり『マタンゴらしい動き』を特定する作業に取り掛かった。

 いわゆる『ヒューリスティック法』と呼ばれる手法だ。

 たとえどれだけ人体そっくりに擬態しようと、そいつがマタンゴである以上は人間の細胞とは異なる動きをするはずだ。

 

 マッチングリスト上に記録したマタンゴの細胞パターン、それらすべてを電子頭脳内の仮想空間上に展開。

 仮想化したマタンゴ細胞をサンドボックスで遊ばせることでその動きを徹底的に検証、そしてマタンゴの侵食作用パターンを特定することに成功した。

 これでもう絶対に見逃すことはない。

 

 これらの作業すべてをコンマ秒内に終わらせたレックスは、本格的な攻撃を開始した。

 ……人体を食い荒らすおぞましいキノコめ。

 おまえなんか殲滅あるのみ、一片さえも残すものか。

 

 

 

 

 メカゴジラとマタンゴの闘いは白熱した。

 

 ……それはどんな手術よりも繊細な、極小マイクロメートルの死闘だった。

 針の穴に槍を通す、生きたまま大動脈や脳のシナプスを縫い合わせる、そんなものとは比べ物にもならない。

 フィンガーミサイルで撃ち殺すのとは必要となる精度が別次元だ。

 

 リリセ本人の無傷な細胞は生かしたまま、現在進行形で侵略を続けるマタンゴの細胞と毒有機化合物だけを選び取り、マタンゴが侵蝕するよりも速くナノメタルで殺して無害化する。

 幻覚症状があったことも考えるとマタンゴの毒は脳にも達しているだろう。

 人体の細胞の大きさは一粒10から30マイクロメートル。ナノメタルが攻撃する細胞を一個間違えればそれこそ脳死状態、タチバナ=リリセは二度と目を覚まさない。

 失敗は絶対に許されない。

 メカゴジラⅡ=レックスにとってそれはナノメタルで制御可能な分解能、その限界に挑む戦いでもあった。

 

 指先から送り込んだナノメタルへ割くリソースが加速度的に増大し、膨大な負荷でレックスの全身が発熱し始めた。

 熱暴走を避ける為にレックスは背中から背鰭を思い切り伸ばし、ヒートシンク代わりに放熱を開始した。

 

 

 

 

 そんな戦いの様子を傍から見ていたエミィは、やがてある事に気が付いた。

 

「マタンゴが、溶けてる……!?」

 

 リリセの胸から生えていたマタンゴがびくびくと身悶えしたかと思うと、内側から腐ってゆくかのようにぐずぐずと崩れ始めていた。

 ナノメタルがマタンゴの肉を侵し、ダメージを与えているのだ。

 レックスの判断は正しかった。マタンゴにナノメタル攻撃は有効だった。

 

 リリセの胸元のキノコから視線を移したエミィは、レックスの指先へマタンゴの菌糸が登ってきていることに気が付いた。

 追い詰められたマタンゴによる反撃。ナノメタルという侵略者、それを自らの領域(コロニー)へ送り込んできたレックスを逆に侵略しようとしている。

 菌糸がレックスの手元を登って顔面にまで到達したところで慌てて声をかけようとするエミィだったが、微動だにしないレックスの様子を見て絶句した。

 

 

 身体をマタンゴが侵していてもレックスは一切動じなかった。

 いや、()()()()()()()()()()()()

 

 

 ナノメタル制御に集中するあまり、咄嗟の感情表出に割くリソースが全くない。

 マイクロメートルの世界で繰り広げられた地球最小の決戦は、大怪獣アンギラスとの戦いよりもなお苛烈だった。

 

「お、おい……!」

 

 思わずレックスの肩に手を伸ばしたとき、触れた指先を強烈な痛みに刺されてエミィは飛び上がった。

 

 

(あっつ)っ!?」

 

 

 熱い!

 レックスの機体がストーブのように発熱していた。

 3月の深夜、それも雨上がりで気温が冷えているはずなのに、レックスの背鰭からの強烈な放熱で大気が揺らいで陽炎(かげろう)になっている。

 そしてそんな熱が発生しているということは、それだけの過負荷がレックスに掛かっているということだった。

 レックスはいったい、どれだけ頑張ってくれているのだろう。それもリリセのために。

 

 ……がんばれ、負けるな。

 

 エミィは知らず知らずのうちに拳を固く握っていた。

 

 

 

 

 メカゴジラ対マタンゴ。

 人体を戦場とする地球最小の怪獣プロレス。

 ミクロの決死圏における激烈な死闘を制したのはメカゴジラⅡ=レックスであった。

 

 ナノメタルに対するマタンゴ最後の逆襲は、メカゴジラには通用しなかった。

 無機の鋼で作られたメカゴジラの機体に、有機を苗床にするマタンゴが蔓延(はびこ)ることができる領域など1ナノ単位も存在しない。

 そして菌糸の一本一本、細胞の隙間さえも(ついば)むナノメートル単位のナノメタル攻撃を、マイクロメートルの世界に生きるマタンゴでは到底止められなかった。

 

 せっかく征服した領土を追われ、マタンゴは絶望の断末魔を挙げた。

 そんなマタンゴに向けて、レックスは思いっきり、たっぷりと勝ち誇ってやることにした。

 

 

 ……地獄に堕ちろ、キノコのオバケめ。

 大切なヒトを喰われてたまるか。

 

 

 そしてついに、リリセの体からすべてのマタンゴ菌が摘み取られた。

 レックスの顔面にまで延びていたマタンゴの根がぼろぼろと腐り落ち、リリセの胸元から生えていたマタンゴの子実体(キノコ)が完全に崩壊した。

 

 

 

 

 ……やった、勝った!

 

 

 

 

 自身の完全勝利を認識したとほぼ同時、限界を迎えたメカゴジラⅡ=レックスはその場で昏倒した。

 




登場怪獣紹介その1

・マタンゴ
身長:2~2.5メートル
体重:100キロ前後
二つ名:インクブス、第三の生物、キノコ怪人
必殺技:ファンガスドリーム

 初出は『マタンゴ』。東宝特撮の名作です。

 「人間に寄生し仲間へ変えてしまうキノコの怪獣」という、ゾンビ映画やエイリアン映画に通じる要素を持った怪獣。
 東宝特撮への登場は『マタンゴ』一本きりですが、「ヒトの形をしたキノコ」という姿があまりに強烈なインパクトを放っているためか、マタンゴの名を冠したキノコの怪物が登場する作品は非常に多いです。
 なお文中でも触れているとおり、キノコの菌が呼吸器に入り込んで肺炎を起こした例はあるようですが、マタンゴのような怪物に変えてしまうキノコというのは見つかっていません。

 映像作品ではないものの『マタンゴ』の続編として、吉村達也先生による『マタンゴ 最後の逆襲』という小説もあります。
 生理的嫌悪をかきたてるマタンゴらしさを活かしたSFホラー小説となっていて、こちらも大変オススメです。

 「インクブス」の名前はラテン語で「夢魔」、つまりインキュバスのこと。


・ガス人間
身長:170センチメートル(生前)
体重:不定
二つ名:ウィルオウィスプ

 初出は『ガス人間第一号』。
 怪獣のカテゴリに入れていいのか謎ですが、本作では怪獣扱いです。

 『ガス人間第一号』とは、東宝が着ぐるみ怪獣特撮と並行して公開していた『変身人間シリーズ』の一作です。
 今は『マタンゴ』の方がだいぶ有名ですが、『マタンゴ』は元はといえば変身人間シリーズの番外編に当たる作品で、どちらかというと『ガス人間第一号』の方こそが本家本元だったりするのです。
 「自分の意志で気体へと変身する能力を手に入れた男:ガス人間が、彼が愛した女性のために犯罪に手を染めてゆく」という内容で、今の異能ヒーロー物に近いものがありますね。
 また『ガス人間第一号』は舞台劇としてリメイクされたこともあったそうな。観たことないんですけどね。

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