怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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17、理性の眠りは怪物を生む

 わたし、タチバナ=リリセは目を醒ました。

 

 

 最初わたしは自分が起きているのか眠っているのか、いまいち区別がつかなかった。

 けだるい倦怠感と、希薄な現実感、そして心地良い微睡み。

 このまま二度寝してしまいそうな気がする。

 

 意識が覚醒したわたしの脳味噌に、五感が周囲の情報を流し込み始めた。

 肌触りの良いシーツの感触と、誰かの小さな寝息。

 陽の光を何か布で遮られたような仄暗(ほのぐら)さ。

 しばらくぼんやりしてから、わたしは自分がベッドに寝かされていることを理解した。

 頭を乗せた枕からはとても良い匂いがする。きちんと洗濯されている証拠だろう。

 

 身体に、重さを感じた。

 視線を向けてみると、椅子に座ったエミィがベッドにもたれかかった変な姿勢で寝ていた。

 ベッドの上で寝ているわたしへ覆いかぶさるように、両腕を組んで顔を突っ伏している。

 ……可愛い寝顔してるなあ。

 いつも眉間にシワ寄せてないで、こんな顔してたらいいのに。

 

 眺めているうちに悪戯心(いたずらごころ)が湧いてきて、寝ているエミィの頬をぷにぷにとつついてみたが、「んー……」と唸るだけでエミィはなかなか起きなかった。

 ……きっと疲れてるんだろうな。寝かせてあげよう。

 エミィは今、どんな夢を見ているのだろう。

 

 

 

 夢。

 そういえば自分も夢を見ていたな。なんだかすごく大切な夢を見ていた気がする。

 だけどぼんやりしていてよく思い出せない。

 ……まぁ、夢なんてそんなもんだよね。

 

 

 

 意識がはっきりしてゆくうちに、霞のように掴みがたかった夢の世界がしっかりとした現実へと固まってゆく。

 脳が本格稼働し始めると同時に『どうしてこんなところにいるんだろう』という疑問がもたげてきた。

 ……というか、ここはどこ?

 わたしは首を動かし、辺りをうかがう。

 

 

 薄暗く思えたのはカーテンで仕切られているからだ。

 ベッドから手を伸ばしてカーテンを開き、上半身を起こして外をそっと覗いてみる。

 

 

 今の御時世には珍しい、掃除の行き届いた清潔な部屋だった。

 同じようにカーテンで仕切られたスペースがいくつか並んでいる。

 確かめてみる気はしないけど、カーテンをまくったら自分と同じようにベッドに寝かされた人がいるんじゃないだろうか、という気がした。

 

 ……真っ先に思いついたのは病室だろうか。

 それもそれなりの設備を備えた、かなり大きな病院に違いない。

 カーテンの隙間から辺りを見回しているうちに、壁の高いところに掲げられた、奇妙なマークの描かれた布が目についた。

 

 

 七角形をベースとして、密な線が引かれている、鋭角なデザイン。

 六芒星ならぬ、()芒星。

 どこかで見覚えがあるのだが、何のマークなのか、寝惚けた頭ではいまいち思い出せない。

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、白衣の男女二人組が部屋に入ってきた。

 丈の長い白衣を羽織った年配の男性と、薄桃色のユニフォームに身を包んだ若い女性。

 白衣、ナース服。やっぱりそうだ、ここは病院に間違いない。

 きっと男性は医者で、女性は看護師だろう。

 

 揺れるカーテンの動きから、男女二人組はベッドのわたしが起きていることに気が付いた。

 男の声が聞こえた。

 

「ツジモリさん、すぐにあの御方を!」

「はい、先生!」

 

 男性医師――「MIYAGAWA(ミヤガワ)」と名札に書いてあるのにわたしは気づいた――はカーテンをバサッと開き、さらに椅子を持ってきて、わたしのベッドの脇へ腰かけた。

 同時に、ベッドで突っ伏して寝ていたエミィも目を醒ます。

 わたしが目覚めていることに気付いたエミィは、ガバッと飛び起きた。

 

「リリセっ! 無事か!?」

 

 大丈夫だよ、エミィ。

 そう言おうとしたのだが、喉の奥がぴったり貼り付いてしまって声が出ない。

 喉がからからに渇いている。

 いったいどれだけ水を飲んでいないのだろう。

 

「み、みず……」

 

 スカスカにかすれた声でようやくそれだけ言えたけど、干上がった喉では上手く喋れず、途端に咳き込んでしまった。

 息が、苦しい。

 ()せ返るわたしの背中を、エミィが懸命にさすってくれている。

 

 そんなわたしに、ミヤガワ医師はニコニコと微笑みながら、説明してくれた。

 

「無理して起きない方がいい。あなたは三日も眠っていたのだから」

「み、っか!?」

 

 驚きのあまり、またしても声が出た。

 わたしはそんなに寝ていたのだろうか。でもなぜ?

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう、ミヤガワ医師は続けて答えた。

 

「ええ、あなたは危ういところだったのですよ」

 

 危ういところ、つまり死に掛けたってことだろうか。なんかしたっけ?

 本調子に戻りつつある脳味噌を回転させて、過去のことを思いだそうとする。

 そうやって思い起こすうちに、意識を失う直前の記憶がよみがえってきた。

 

 

 

 ……ああ、そうだ、マタンゴ!

 そうだ、わたし、タチバナ=リリセは、マタンゴ中毒で意識を失ったのだ。

 

 

 

 だけど、自分が倒れた理由はわかっても、なぜここにいるのかまではわからなかった。

 この病院まで、一体誰が運んでくれたんだろう。というか、ここはどこなんだ。

 エミィから渡されたコップの水を飲み干し、ようやく喉を潤して喋れるようになったところでわたしは訊ねた。

 

「あの、ここは一体……?」

 

 「ああ、ここはですね……」とミヤガワ医師が説明しようとしたときだった。

 

 「聖女様!」と、病室の入り口の方で、大きな声が聞こえた。

 声がした方へリリセとエミィは振り返る。

 

 

 看護師や医者を五、六名ほど引き連れて、その人物は現れた。




タイトルはゴヤの絵から。
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