怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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19、エミィ=アシモフ・タチバナかく語りき

「あいつ、嫌いだ」

 

 〈真七星奉身軍〉の拠点から離れてから、(しばら)くクルマを走らせていたエミィが、おもむろに呟いた一言。

 エミィはいつも不機嫌そうな顔をしているので他の人間にはわかりづらいのだが、付き合いがそれなりに長いわたしにはわかるものがある。

 今のエミィは本当に不機嫌だった。

 何か、思うところがあるのだ。

 

「……あいつ、ってウェルーシファさん?」

 

 わたしの問いに、エミィは顔を真正面に向けたままこくりと頷いた。

 

「エクシフは嫌いだ。何を考えてるのかわからない。どうせろくでもないこと企んでるに決まってる」

 

 ……エミィらしくないな。

 さっきの振る舞いも含めてだけど。

 

 性分は気難しいし、歯に衣着せないのはいつものとおり。

 だけど普段はもっと理知的だ。理由もなく初対面の相手を罵倒したりするほど乱暴な子じゃない。

 

 たしかにエクシフは宇宙人だから地球人とはちょっと違うし、信者の人たちも『献身と自己犠牲による超次元宇宙知性への合一』とかなんとかよくわからないところもある。

 だが、部外者として付き合う分には決して悪い人たちではない。

 むしろエクシフの信者たちは、他の人よりもよっぽど親切だ。

 現に〈真七星奉身軍〉の人たちは、エミィがあんな失礼を働いたのに嫌な顔一つせず薬品や食料などの物資を分けてくれたし、しかもクルマの除染までしてくれたのだ。

 

 わたしたちが〈真七星奉身軍〉の拠点を離れる際、ウェルーシファはこのように語った。

 

 

『もちろん御二方には我々と違う道を行く自由、『献身』の道を選ばない自由もあります。何を信じるかは皆自由ですから。

 ただその気になったなら、誰かのために力を尽くしたいと思ったならいつでもいらっしゃい。

 わたくし、このウェルーシファはあなたがたを歓迎しますよ』

 

 

 そう言ってウェルーシファは、わたしたちを笑顔で送り出してくれた。

 ……『ペテン師』呼ばわりされてもこの態度なので聖女っぷりが振り切れてむしろ変わり者だとさえ思うけど、かといってエミィのいうような極悪人だとも思えなかった。

 

「さっきもそうだけど、なんでそんなこと言うの? ウェルーシファさん、そんなに嫌い?」

「ああ、大嫌いだ。聞こえの良いことばかりペラペラ喋るエクシフは特にな」

 

 そう即答したエミィの表情には、エクシフへの嫌悪感が(みなぎ)っていた。

 きっと、心の底から嫌いなのだろう。

 

「顔を見せない奴なんか信用できない。それにあいつは巨乳だ」

「いや、巨乳は関係ないでしょ」

「いいや、あるね。どいつもこいつも、胸がデカけりゃ鼻の下伸ばしやがって。ふんっ」

 

 散々痛罵しながら、エミィは目を細めて鼻を鳴らした。

 エミィは一体、エクシフのなにがそんなに気に喰わないのだろう。

 

 ひとつ、わたしに思い当たることがあるとすれば、ウェルーシファの仮面のことだ。

 ……気持ちはわからないでもない。たしかに、微笑みを常に貼り付けたようなあの仮面は正直ちょっと不気味に思える。

 増してやエミィは極度の人見知りだから、理由がなんであれ顔がわからない相手のことを人一倍警戒するのだろう。

 

 だが、さっきみたいな暴言はダメだ。一歩間違えれば差別になってしまう。

 わたしはエミィに言った。

 

「たしかに顔を出さない人は信用できないかもしれないけど、ウェルーシファさんにはちゃんと理由があるでしょ。

 それにウェルーシファさんは、わたしたちの恩人だ。そんな風に悪く言っちゃダメじゃない」

 

 そう(たしな)められたエミィは、拗ねるでも落ち込むでもなく、真剣な面持ちのまま言った。

 

「……わたしのパパは、エクシフ信者に騙されて死んだ」

「……エミィのパパが?」

 

 エミィの父親。エミィ自身の口から家族の話を聞いたのは久しぶりだ。

 

 エミィの父親は技術者だった、らしい。

 『らしい』というのは、エミィが以前にちょっとだけ話してくれたのを覚えていただけだからだ。直接知り合いだったわけじゃない。

 わたしがエミィと出会った時点で、エミィの両親はすでにこの世の人ではなかった。

 

 エミィ本人によれば、彼女のメカニックとしての技術は父親譲りなのだという。

 そんなエミィの能力からして、エミィの父親は相当にレベルの高い技術者だったのは間違いないと思うのだが、どういう人物だったのか、どうして亡くなったのか、わたしは教えてもらったことがなかった。

 

「パパから昔聞いた。『俺の友達が、エクシフに唆されてゴジラに特攻(カミカゼ)した』って」

「え、どういうこと?」

 

 聞き捨てならない話だった。

 下世話な興味で聞くべきことではないのかもしれないが、思わず聞き返してしまう。

 

 エミィは逡巡したあと、父親とエクシフの因縁を語り始めた。

 

 

「……わたしのパパは昔、あのエイリアンどものテクノロジーを弄ってた。

 わたしが生まれる前、パパは『メカゴジラ建造計画』の端っこ、そのまた下っ端くらいの仕事をしてたらしい。

 

 造りかけのメカゴジラをゴジラが壊しに来たとき、パパは研究所にいなくて、メカゴジラを守るための空母に乗っていた。

 パパたちが造ってたメカゴジラは、ゴジラが襲ってくるその土壇場で動いてくれなかった。

 メカゴジラが動けるようになるまで、あとは戦闘機でゴジラの気を引くしかない。

 でも戦闘機なんかでゴジラを止められっこない。

 

 そのときパパは、パイロットたちに戦闘機で出撃するようにエクシフ神官が(そそのか)すところを見た。

 連中は、出撃しようか迷ってるパイロットたちに『今こそあなたたちの献身が試されるときです』って吹き込んで回ってたんだ。

 ……誰も帰ってこなかった。

 それだけじゃない。

 軍人じゃない普通の人たちも、エクシフの『献身と自己犠牲の精神』のために、勝てもしないゴジラに何人も突っ込んでいって次々と死んでいったんだ、ってパパは言ってた」

 

 エミィの父親は、あの地球の命運を分けた巨大プロジェクト:メカゴジラ建造計画に参加していたのか。

 初めて聞く話に、わたしは黙って耳を傾けた。

 

「そんなイカレた話を、()()()()()()()()()()()()()パパはわたしに話した。

 わたしが小さいときにママが病気になってから、パパはエクシフの宗教にハマった。

 エクシフの信者になったパパは、ママの看病も、わたしにメカのことを色々教えるのも、全部家族としてじゃなくてエクシフ信者の『献身』としてしか接してくれなくなった。

 ママが死んだら、今度は『あいつは果たすべき献身を成し遂げた』なんて言うようになった。

 ……ママはベッドの上でずっと『死にたくない』って泣いてたのに。

 

 頼まれれば、パパは『献身』だからとタダ同然でいろんなメカを直した。わたしは嫌だったけどパパが言うから一緒に『献身』した。

 でもみんな、わたしたちの『献身』にタカっていくばかりで、生活が苦しいわたしたちには何もしてくれなかった」

 

 信仰に救いを求めて大切なものを見失った父親と、そんな父親のすがるような信仰心に付け込んで搾取しようとする周囲の人々。

 他人をあまり信用しないエミィの性格は、そんな大人たちと関わるうちに形成されたのだろうか。

 

「……パパとわたしが一緒に出掛けたとき、道端でチンピラ同士の喧嘩があった。

 わたしは『逃げよう』って言ったけど、パパは『今こそおれの献身が試されるときだ』って止めに入ろうとして、ナイフで刺された。

 お腹を刺されて、血みどろになっても、それでもパパは、『献身に身を捧げてよかった、これであいつと同じところに逝ける』って言ってた。

 そして最期までエクシフ信者のまま、わたしのパパは死んだ」

 

 

 凄まじい話だった。

 そしてすべて真実なのだろう。

 誤謬や思い込みはあるかもしれないが、こんな表情のエミィが嘘をついたことは一度もない。

 

「だからわたしはエクシフが嫌いだ。

 エクシフの教えが嫌いだし、それを有り難がってるバカ信者どもはスパナでブン殴ってやりたくなる。

 わたしのパパもママも、ゴジラに殺された人たちも、あいつらが御題目に唱えてる『献身』なんかのために生きてたんじゃない」

 

 喋っているうちに語調が荒くなり始めたので、エミィはここでいったん息を整えた。

 エミィは深く息を吐き、そして話を続けた。

 

「……わたしはエクシフが憎かった。ひとり残らずブッ殺してやりたいくらいに憎んだ。

 けど、広めた張本人たちはとっくのとうに宇宙へ逃げてた。

 人の心が弱ったところに入り込んできて、甘いことを吹き込んで、あれこれ偉そうに指図する。

 そのくせ、自分たちは自分が言ったことの後始末もつけない。

 あいつらは本物の悪魔だ」

 

 そんな傷ましいトラウマ、長年に渡って溜まっていた心の(おり)を、エミィはクルマを運転しながら普段通り、いや、それ以上に淡々とした表情で語り続けた。

 ……その境地に至るまでエミィはどれだけ苦しんで、そしてどれだけ泣いたのだろう。

 ひょっとするとその小さな胸に負った傷口はまだ膿んでいて、癒えていないのかもしれない。

 だから本物のエクシフであるウェルーシファを前にしたとき、つい爆発してしまったのだ。

 

「あのスケキヨ女、ウェルーシファの言うとおりだ。何を信じるかは皆自由。

 騙される人たちはカワイソーだけど、結局それも自分で選んだ人生だ。どこのどいつがどれだけカモられようが、わたしの知ったことじゃない。

 ……だけど、リリセだけは、あんなペテン師の食い物にされて欲しくなかった」

 

 話し終えたエミィは、黙ってクルマの運転へと戻った。

 そんなエミィを見つめながら、わたしは思いを巡らせる。

 

 ……はっきり言って、エミィのエクシフ嫌いは差別スレスレの偏見だ。

 『エミィの父親が愚かだっただけだ』と言ってしまうことも出来るし、エミィが(いだ)いているエクシフへの嫌悪はむしろ逆恨みに近い。

 エクシフの信仰で救われた人は沢山いるし、エミィの家族を不幸にしたのは周囲の大人たちであってエクシフではない。

 人に言ったところで『見返りを求める時点で献身じゃない、そもそも自己責任でしょ』とかなんとか言われてオシマイだろう。

 

 エミィだって、口では『悪魔』だの『ペテン師』だの言うけれど、それがわからないほどバカじゃない。

 差別や偏見で決めつけて貶すのは悪いことだし、自分の家族を不幸にしたのはエクシフではない。それくらいのことはわかっているはずだ。

 しかし、頭でそれが理解できていても、心では割り切れないものもあるのだろう。

 当時まだ小さな子供でしかなかったエミィに、それを求めるのは酷だ。

 

 

 それに、そんな御立派な自己責任論で切り捨てていい話だとも、わたしには思えなかった。

 自己犠牲と献身。

 聞こえは良いが、要するに『自分の人生を差し出せ』と言っているのと同じだ。そして他人を騙してやろうと考えるような悪人にとって、こんな都合の良い信仰はまたとない。

 実際にエミィの父親は、エクシフの信仰に嵌まり込んだ挙句に家族のことを見失ってしまった。

 

 こんな危険スレスレな思想を宗教としてあちこちで広めていたというエクシフ神官たちは、いったい何を考えているのだろう。

 御人好(おひとよ)しの変な宇宙人としか思っていなかったエクシフの、見てはいけない裏の顔を見てしまったような気がした。

 

 それと同時に合点(がてん)がいった。

 つまるところ、さっきのエミィの態度はこういうことだったのだ。

 

 

 

 

 

「エミィはわたしを守ろうとしてくれたんだね。ありがとう」

 

 

 

 

 

 エクシフ嫌いのエミィからすれば、エクシフ信者の病院なんて敵地のド真ん中も同然だ。

 そんな中で一人になってしまったエミィは、意識不明のわたしのことを一生懸命に守ろうとしてくれていた。

 決して(うま)いやり方ではなかったけれど、エミィは彼女なりに精一杯、出来ることをやってくれようとしてくれたのだ。

 わたしに頭を撫でられたエミィは、ぷいとそっぽを向いた。

 

「……勘違いするな。

 おまえまでエクシフ信者になって、『献身』だの『自己犠牲』だの、あのバカ信者どもみたいなことを抜かし始めたらムカつくと思っただけだ」

 

 そうやって口を尖らせるエミィを見ているうちに、わたしの中で愛おしさが溢れてくる。

 

「あ゙ーもぉー、そんな素直じゃないとこも可愛いなあ!!」

「やめろ頭をなでなでするな抱き着くな頬に擦り寄るな運転中だぞ事故るぞくっつくなひっつくな離れろ離れろってばキスすんじゃねえコラ」

 

 わたしがエミィの頬にキスしようとしたそのとき、背後の荷台で物音がした。

 

 

 

 

 

 

 メカゴジラⅡ=レックスが目覚めたのだ。

 

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