怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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20、和解、そして楽園へ

 わたしは後部荷台に振り返り、起き上がったメカゴジラⅡ=レックスに呼びかけた。

 

「……レックス、大丈夫?」

 

 顔を上げたレックスは周囲を見回していたが、自分がいる場所がクルマの中であること、そして前の席にわたし、タチバナ=リリセと、その相棒であるエミィがいることに気付くと、途端に後部荷台から身を乗り出してきた。

 

「リリセっ、体の調子は!? 大丈夫!?」

 

 そう訊ねるレックスは、今にも潰されてしまいそうな表情だった。

 ……レックスにも心配をかけてしまったな。

 そんなレックスを勇気づけたくて、わたしは力を込めて頷いた。

 

「うん、おかげさまでチョー元気! むしろ前より健康かも!」

 

 わたしの笑顔で安堵したかのように、レックスは「よかった……」と息を吐く。

 わたしは言った。

 

「ありがとう、レックス。あなたはわたしの命の恩人だ。やっぱりあなたは凄いよ、流石メカゴジラだね」

 

 レックスはわたしの言葉に一瞬虚を突かれた様子だったが、すぐに気を取り直して胸を張った。

 

「……当然だ! メカゴジラだぞ、あんなキノコのオバケなんかに負けるものか!」

 

 得意げな笑顔で言うレックスに、わたしの方も安心した。

 ……レックスはわたしのことを心配してくれていたようだけれど、それはわたしも同じだ。

 なかなか再起動する気配がないレックスが心配だったのだ。

 だけど、この様子なら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 ……あ、そういえば。

 心配といえば、心配事がひとつ思い浮かんだ。

 そういえばこれってどうなんだろう。

 「気を悪くしないで欲しいんだけど」と前置きしつつ、わたしはレックスに尋ねた。

 

「ナノメタルって人の体に入れて大丈夫なの?

 入ってても困らないならそのままでいいけど、たとえば金属中毒とか起こさない?」

 

 人体にとってナノメタルは異物だ。

 金属アレルギーなど、場合によっては命に関わることもあるかもしれない。

 

 そんな懸念に対しレックスは「心配御無用!」と自信満々だった。

 

「完治するまではリモート制御が必要だけど、ボクが制御しているかぎりナノメタルは無害だ。

 ただ、ボクのナノメタルは医療用とは違うから、役目を終えたら組成分解して汗のミネラルと一緒に排出されるようにするよ」

「それってどれくらいかかるの?」

「リリセの体調にもよるけど、7日から10日ってところかな。長くても二週間あれば完全に抜けるよ」

 

 つまり、放っておいても勝手に体の外へ出てゆくので問題ない、ということのようだ。

 まったく至れり尽くせりだ。ナノメタルってすごいなあ。

 暢気(のんき)にわたしが感心し、レックスがえっへんと胸を張っていると、クルマが停止した。

 

 どうしたの、と運転席に声をかけると、運転していたエミィが後部荷台にいるレックスへと振り向いた。

 

「……なあ、レックス」

 

 エミィの表情から、わたしはピンとくるものがあった。

 ……エミィは、クルマを運転しながら重要な話をするような子じゃない。

 きっと、なにかレックスに言いたいことがあるのだ。

 それもかなり大切なことを。

 

「……どうしたの、エミィ?」

 

 名前を呼ばれたレックスは小首を(かし)げている。

 エミィは、少し迷っていたようだったが、意を決して口を開いた。

 

 

 

「……今まで悪かった。すまん、レックス」

 

 

 

 突然の謝罪に、レックスは驚いたように目を(しばた)かせている。

 そんなレックスに、エミィは言った。

 

「わたしは、いざってときに慌てるだけで何も出来なかった。

 もしレックスがいなかったら、リリセもわたしも死んでた。

 おまえだってやれることをやってくれようとしただけなのに、あのときのわたしは最低だった」

 

 胸の奥に溜まっていたものを吐き出すように、エミィは続けた。

 

「いや、あの時だけじゃない。

 いつもおまえはわたしたちのために頑張ってくれてたのに、わたしときたらつまんないことで意地張って、冷たくして。

 ホントわたしは最低だった」

 

 エミィの告解(こっかい)を隣で聞きながら、わたしもいくつか思い当たることがあった。

 ……いつもの人見知りだろうと思ってあまり気にしていなかったけど、言われてみればエミィは出会った当初からレックスにキツく当たっていたような気がする。

 先程のエミィの父親の話と、レックスへの態度。

 それらすべてが線で繋がった。

 

 エミィからすればレックスは、父親とも浅からぬ因縁のあるメカゴジラを名乗る得体の知れないロボット怪獣だ。

 しかもレックスが何でもかんでもやってしまうおかげで、エンジニアとしての御株(おかぶ)も取られっぱなしだった。

 嫉妬(ヤキモチ)だってあったろうし、エミィがレックスを警戒するのは仕方のないことだったかもしれない。

 

 だが、そんな今までの行き掛かりを乗り越えて、エミィは深々と頭を下げた。

 

 

 

「助けてくれてありがとう、レックス。

 ごめんな」

 

 

 

 

「そ、そんな、困るよ!」

 

 頭を下げられたレックスの方はというと、なにやら慌てふためいていた。

 どうやらレックスは、人間から謝られるのに慣れていないようだ。

 ……マシーンは人間のために働くのが当たり前だ。マシーンに謝ったりする人なんかいない。

 きっとそんな風に思っていたのだろう。

 そんな、ヒトとして当たり前のことであたふたするレックスの姿が、わたしはなんだかおかしかった。

 

「それにリリセを助けることができたのはエミィが言ってくれたおかげだ。

 ボクこそ、エミィがいなかったら何も出来なかった」

「へ?」

 

 レックスの言葉に意表を突かれ、エミィは片眉を釣り上げた。

 

「わたしが? なんか言ったか?」

「ほら、あのとき言ってくれたじゃないか、『おまえなんか怪獣を殺すしか能がない』って。だから思いついたんだ」

 

 それを言われた途端、エミィは渋い顔をした。

 先程からエミィが言っている『最低だった』というのは多分このことだろう。

 

「……そういうところだぞ、おまえ。

 そういうのをな、『イヤミ』って言うんだ」

「イヤミ? どの辺が?」

 

 指摘された意味をわかっていないレックスを見ながら、エミィは呆れた様子で深く溜息をついた。

 

「……まあ、悪気はないんだろうけどな」

 

 渋い表情を浮かべていたエミィだったが、先日よりもいくらか緩んでいるようにも見える。

 『イヤミ』がどうのと言っているけれど、実際はそれほど怒っているわけでもないのだろう。

 

 

 ……そうだ、良いことを思いついた!

 クルマの運転に戻ろうとするエミィに、わたしはひとつ提案した。

 

「ねえ、立川に帰る前に『あの場所』に寄り道していこうよ」

 

 『あの場所』

 それだけで、エミィは察してくれたようだった。

 わたしの方を向き、口元をにやりと歪めながら頷いた。

 

「……わかった」

 

 

 

 

 

 タチバナ=リリセとエミィ=アシモフ・タチバナ、そしてメカゴジラⅡ=レックス。

 三者を乗せたクルマはしばらく走り続けた。

 その移動する車中でレックスは考えた。

 

 ……『あの場所』というのは一体どこだろう。

 表情からすると『とても楽しいところ』のようだが先日のマタンゴの一件もあるし、あまり危険なことはさせたくない。

 泡を噴いて悶え苦しむリリセの姿と、泣きじゃくるエミィの表情。もう二度と見たくない。

 

 そうこうしている内に、クルマが停まった。

 ……到着か。

 メカゴジラⅡ=レックスは、リリセとエミィと一緒にクルマから降りようとした。

 

「あー、ちょっと待って」

 

 だが、リリセに引き留められた。

 

「目を閉じてもらえるかな?」

「どうして?」

「ま、いいから、いいから」

 

 ……なんだろう。

 訝しげに思いつつもレックスは素直に目を閉じ、視覚センサーをオフにした。

 レックスの手をリリセとエミィが引き、先の方へと導いてゆく。

 

 本当ならレックスは反響定位(エコーロケーション)のソナーを搭載しているので、視覚をオフにしていても独りで歩くことができる。

 だが、二人の温かい手で握られるうちにそんな野暮なことをする気は失せてしまった。

 ……きっとリリセとエミィは、『サプラーイズ!』というやつをやりたいのだろう。

 こういう善意を無下にしてはいけない、とレックスのデータベースにもある。

 

 そうやってリリセとエミィに先導されながらしばらく歩くうちに、レックスの嗅覚は植物性の化学成分を検知した。

 レックスの電子頭脳とセンサーはそれらすべてを嗅ぎ分けることも出来るし、データベースと照合すれば種類だって言い当てられる。

 

 だがレックスは何も言わなかった。

 検出できる化学成分は全てデータベース上に登録された既知のものだ。いずれも害はない。

 それにマタンゴの時とは状況が違う。リリセたちが『目を閉じて』ということからすると、今向かっているのは二人もよく見知った場所、つまり安全が確認されているのだろう。

 ……ここは二人に任せよう。

 そう判断したレックスは、黙ってリリセたちの誘導に従った。

 

 しばらく歩くうちに、やがて「目、開けていいよ」とリリセに言われた。

 指示どおりに視覚センサーを再起動し、レックスは目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは視界いっぱいの、色の洪水だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤、白、黄、青、紫、白、石竹(ピンク)、その他色とりどりの、数え切れないほどの花たち。

 

 微風(そよかぜ)に吹かれた花弁が穏やかな吹雪となって舞い、人間だったら嗅ぐだけで気分が良くなるだろう芳醇な(かお)りが嗅覚を刺激する。

 

 花々のあいだで、蜜蜂は(せわ)しく、蝶は穏やかに、いずれも翅をひらめかせながら、あちこちを穏やかに飛び回っている。

 

 遠くからは、この園をうるおす小川のせせらぎが聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで天国、まさに楽園(paradise)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ソナーをオンにしなくてよかった、とレックスは思った。

 何があるのかあらかじて知ってしまったら、きっと魅力が半減してしまっただろう。

 それにたとえエコーロケーション機能を起動していたとしても、この素晴らしい感覚は味わえなかったはずだ。

 ソナーでは、形はわかっても色彩まではわからない。

 

 

 

 視界に広がった極彩色の花園、それに圧倒されているレックスに、リリセは告げた。

 

「……ここはね、わたしたちの『とっておき』なんだ」

「とっておき?」

 

 リリセは頷いた。

 

「そう。ここを知ってるのはわたしとエミィ、そしてレックス、あなたが三人目だ」

 

 舞い落ちてきた花弁を手に取りながら、リリセはこの場所の由来を説明した。

 

「修行時代に見つけてから、ずっと毎年来てるんだ。

 他の人には教えてないし、多分誰も知らないんじゃないかな」

「……どうしてそれをボクに?」

 

 訊ねるレックスにリリセは答えた。

 

「レックスには何回も助けてもらったからね。他に何もしてあげられないけど、せめてもの御礼(おれい)

 それにちょうど今が見頃だし、見せてあげたいな、と思ってね」

 

 そしてリリセはにっこり笑った。

 

「お昼にしよっか」

 

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