怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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第二章スタート。


第二章:つよいヤツがやってきた
22、タチバナ=リリセかく語りき


 花畑でのピクニックを終え、一行を乗せたクルマは多摩川沿いの国道を走っていた。

 まもなく立川だ。直行すれば数時間もかからない距離だけれど、新宿で数泊する可能性も見込んでいたから期日まではまだ余裕がある。

 

 

 エミィに代わってクルマを運転していたわたし、タチバナ=リリセは、ミラーで後部荷台をチラリと見た。

 後部荷台に座ったメカゴジラⅡ=レックスは、しきりに頭の花飾りを弄っていた。

 レックスは、花園でエミィに作ってもらった頭の花冠をまだかぶっている。

 

「……気に入ったの?」

 

 わたしが訊ねるとレックスは機嫌よく答えた。

 

「うん! 凄く綺麗だ。花畑に連れて行ってくれてありがとう!」

 

 ……そっか、気に入ってもらえて何より。

 花冠をかぶって上機嫌に笑うレックスは、とても可愛らしかった。

 

 

 『リリセ、おまえは子供に甘い』

 そんな風にエミィから怒られることがある。

 自分でもそう思う。子供なら何でも可愛いと思ってしまうし、そうやって文句を言うエミィのことを撫で回してしまうくらいわたしは子供に甘い。

 

 そんなわたしだけれど、それを差し引いてもレックスは美形だと思う。

 中性的、とでもいうのだろうか。男の子の闊達さと女の子の可憐さを組み合わせて絶妙にブレンドしたような印象がある。

 加えていつもニコニコしているからなのか、レックスを見ているとなんだかこちらの心持(こころもち)まで明るくなってくる。

 

 レックスはロボットだ。本物の人間とは違う。

 しかし自然に生まれたものではない以上、きっとモデルになった人がいたはずだ。

 そしてレックスがこれだけ可愛らしいのだから、その人だってきっと美人だったろう。

 

 そんなことを頭の片隅に留めつつ、わたしは別の話を切り出した。

 

「レックス、ちょっと寄り道するね」

「どこか寄るところがあるの?」

 

 わたしは答えた。

 

「うん、ちょっとね。すぐ終わるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしたちを乗せたクルマは国道を逸れ、しばらく走ってから、石段の前で停まった。

 クルマを降りたわたしに、クルマの後部荷台から顔を出したレックスが声をかけた。

 

「エミィは起こさなくていいの?」

 

 レックスが指差した助手席で、エミィは昼寝をしていた。

 昼寝、というか爆睡だ。

 口をポカンと半開きにしたままぐっすり眠り込んでいて、ちょっとやそっとでは起きそうにない。

 

「寝かしといてあげて。マタンゴの一件以来、きっとろくに眠れなかったろうし」

 

 わたしの言葉にレックスは「うん」と頷き、起こさないように静かに荷台から降りた。

 

 わたしは、これから使う道具一式を用意した。

 軍手、ゴム手袋、箒、塵取り、雑巾、タワシ。

 これらをまとめてバケツに放り込み、もう片方の手には作業用の水を溜めたポリタンクを担ぐ。

 揃えた掃除用具一式を両手にぶらさげたわたしは、石段を登った。

 わたしの後ろを、レックスがトコトコとついてゆく。

 

 

 石段を登り切った先は広場になっていて、ここからは一帯を見渡せるようになっている。

 

 ……しかし汚いな。

 雑草は伸びっぱなし、(おびただ)しい(こけ)に包まれてて、枯れ葉も積もっているし、蜘蛛の巣まで張っている。

 一年以上来てないから仕方ないとはいえ、この荒れ具合を見ていると、やはり流石に申し訳なさを覚える。

 今度からはもうちょっと、ここに来る頻度を上げよう。うん、そうしよう。

 

 そんな後ろめたさを尻目に、わたしは、さっそく掃除を始めた。

 バケツに水を張り、雑巾を濡らして固く絞って、苔に覆われた()()を丁寧に磨いてゆく。

 

 そんなわたしを見ていたレックスが言った。

 

「磨くの、やってあげようか?

 ボクがやればすぐ終わるよ」

 

 そう提案するレックスの両手は、電動ブラシに変形していた。

 レックスの言うとおりだろう。

 わざわざ人力の手作業でやらなくても、レックスに任せた方がずっと効率が良いはずだ。

 

 だけどわたしは首を横に振った。

 

「ありがと、レックス。

 だけど、これは自分でやりたいんだ」

 

 かといって手持無沙汰も嫌だろうから、代わりにレックスにお願いした。

 

「もし手伝ってくれるなら、雑草を刈ってくれると助かるかな」

 

 その言葉にレックスはパッと表情を輝かせ、両手を芝刈り機に変形させながら頷いた。

 

「わかった、まかせて!」

 

 そしてわたしとレックスは手分けして、広場を丁寧に掃除した。

 蔓延(はびこ)った雑草を刈り取り、蜘蛛の巣を払い、こびりついた錆びや苔を擦り落とし、溜まったゴミや塵を掃く。

 

 そして磨き終えた下から大きな石塊(せっかい)が現れた。

 

 全体の形状は四角く、彫られた細工は経年劣化でところどころが欠けていたり、崩れていたりしている。

 そして掃除の仕上げに、バケツに残った水をすべて石塊にぶっかけると、ようやく文字だけ読み取ることができるようになった。

 

 石の碑銘には無数の名前が彫られている。

 百や二百なんてものじゃない、数えきれないほどの人名だ。

 わたしはその石碑の前、『Tachibana(タチバナ)』と彫られている辺りでしゃがみ込み、花園から摘んできた花を供えると、目を伏せて両掌を合わせた。

 そんなわたしにレックスが訊ねた。

 

「この『Tachibana』って……?」

「わたしの両親だよ。そういえば話したことがなかったっけね」

 

 御参りを済ませ、立ち上がったわたしは、石碑を撫でながら話を始めた。

 

「わたしのお父さん、タチバナっていうんだけどね、わたしのお父さんは地球連合軍の軍人だったの。

 お母さんと一緒に世界中飛び回って、ずっとゴジラと戦ってたんだって」

 

 両親が実際にゴジラと戦っているところを見たことはなかったけれど、代わりに、わたしの養父であるヒロセ=ゴウケンおじさんが存分に話してくれた。

 

 

 わたしの両親が主に活躍したのは、西暦2042年から始まった地球連合軍の作戦:オペレーション・ロングマーチだ。

 長征(ロングマーチ)の名のとおり、人類最後の希望:メカゴジラを完成させるまでのあいだゴジラを挑発し、ユーラシアの奥地へと誘導してゆく、地球史上最大の陽動作戦。

 先年のオペレーション・ルネッサンスの失敗や人材不足、その他色々な事情が重なって、オペレーション・ロングマーチは人命をひたすら無尽蔵に使い潰してゆく壮絶な消耗戦になったらしい。

 三年に及ぶ激闘の末、ヒマラヤ山脈へと誘い込まれたゴジラは、そこに仕掛けられた二千発の核爆弾による落とし穴にかかってチョモランマの下敷きとなり、生き埋めにされた。

 

 そこまでやって稼いだ時間は、一年間とちょっとでしかなかった。

 地下深くに沈められたゴジラだったけれど、いかなる手品を使ったのか、岩盤を融かしてあっさり脱出。

 その後ゴジラは日本に向かい、メカゴジラ開発工場を吹っ飛ばし、東京を焼き払い、かくして人類は敗北したのだった。

 

 一方、その作戦のために人類が払った犠牲は、とてつもないものだった。

 失った人命は数億人。女子供分け隔てなく、膨大な数の人命がゴミのように使い捨てられた。

 世界一大きくて立派だったヒマラヤ山脈は永遠に失われ、ユーラシア大陸の大地に、凄まじい深手を残してしまった。

 ヒマラヤは、ゴジラのおかげで世界一巨大な火山地帯に造り替えられてしまい、その噴煙はユーラシアどころか地球全体を覆ったという。

 

 要するにただの時間稼ぎで、とんでもない無駄死の負け戦。

 バカみたいだと言う人もいるだろう。

 

 ……だけどそれでも人類の未来のため、わたしの両親は命懸けでゴジラと戦い続けたのだ。

 どんなアニメマンガや映画のヒーローにだって負けない、カッコいいわたしのヒーロー。

 オペレーション・ロングマーチをはじめ、あの『怪獣黙示録』の時代にはそんな無数の人たちによる無数の戦いがあって、その人たちのおかげで今の世界がある。

 そんな尊い犠牲をマヌケなバカ呼ばわりする人がいたら、わたしはきっと許せないだろう。

 

 

「……御両親のこと、尊敬してるんだね」

 

 自分の『御父様』を敬愛しているレックスからそんな風に言われるのは、ちょっと面映(おもは)ゆい。

 わたしだって別にいつも両親のことを想っているわけではないし、前回ここに来たのも一年以上前のことだ。

 今日は命日でも記念日でもなんでもない。事前に近くを通ることがわかっていて、余裕があったからついでに寄っただけだ。

 

「まあ、たまにしか来ない親不孝者だけどねー」

 

 勝手に一人で照れながら頬を掻くわたしを見ていたレックスは、やがてあることに思い至ったようだった。

 

「アレ、でもそれじゃあ、この石碑って……」

 

 ……まあ、レックスの思っているとおりだ。

 わたしは両親とゴジラの戦いの結末を語った。

 

「……ゴジラが南米を襲った時に行方不明になって、それっきり二人とも帰ってこなかった」

 

 わたしの表情に一瞬差した影を見たレックスは、途端に悲しそうな顔をした。

 

「……デリケートなことを聞いてしまって、ごめんね」

 

 そう言ってレックスは、わたしに詫びた。

 ……やっぱり優しい子だ。そもそもわたしが勝手に話しただけなのに、気を遣わせてしまった。

 レックスに申し訳なさを覚えながら、わたしは首を横に振って答えた。

 

「いいよ、気にしないで。わたしも小っちゃかったから、あんまり覚えてないし」

 

 わたしも、湿っぽい空気感は好きじゃない。

 雰囲気を変えようと、明るい口調で言った。

 

「で、ずっと日本にいたわたしは、お父さんの友達だったヒロセ家に養子に入って、今に至る、ってわけ。

 だからわたしにとっては、ヒロセが家族みたいなもんだよ。語感も悪いから苗字はタチバナのままだけどね」

 

 そして片付けた掃除用具を空のバケツに放り込み、レックスに告げる。

 

「さ、行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

 わたしたちはクルマを走らせ続け、建物が建ち並ぶ国道に沿って立川へと向かう。

 窓の外を見下ろせば水が流れる多摩川の河川敷が見える。

 遠目に眺めると綺麗にも見えるが、寄って見ると実態がよくわかる。

 

 この一帯は建物が並んではいるけれど実際は大半がもぬけの殻、スッカラカンだ。

 住人なんていない空き家ばっかりだし、台風で掻き混ぜられてからロクに掃除してないような、そんな荒れ果てた有様になっている廃屋も多い。

 

 この辺りは17年前のゴジラ東京襲撃においてはさほど被害を受けなかったけれど、数年前に別の怪獣が襲ったことがある。

 

 その怪獣はなんとかやっつけた――今ちょうど河川敷の真ん中に転がっている、鋭い嘴を備えた二体の骸骨がそれだ――が、それ以来人々は堀と防壁に守られた立川の市街地に(こも)って暮らすようになった。

 今や外界へ出入りするのは他の街からやってきた交易商や、わたしのようなサルベージ屋くらいだろう。

 

 街の防壁や外周にはちゃんと対怪獣の装備が備えてあり、アンギラスくらいなら易々と追い払えるようになっている。

 流石にあの『キングオブモンスター』が来たらオシマイだけどね。こんな内陸までは来ないだろうけど。

 

 

 その立川へ向かう帰り道の途上のことだった。

 出し抜けにレックスが言った。

 

「! リリセ、クルマ停めて!」

「どうしたの?」

 

 クルマを停めると、レックスが教えてくれた。

 

「あの橋の下に、旧地球連合製のコンテナが落ちてるんだ。もしかしたらリリセたちの仕事の役に立つものかも」

「ホント? どれどれ……?」

 

 レックスが指差している橋の下を双眼鏡で覗き込んでみると、たしかに橋脚の影にコンテナらしいものが見える。

 双眼鏡の倍率を上げて見ると、塗装がかなり剥げていたがコンテナには確かに旧地球連合軍のロゴが見えた。

 きっと怪獣に襲われているときに輸送機から落下して、そのまま回収されなかったのだろう。

 

「よく見つけたねぇ」

「えへへ……」

 

 わたしが褒めると、レックスは照れながら胸を張って答えた。

 

「リリセたちのお仕事って、『あちこちの廃品を回収して売るお仕事』なんでしょう?

 だからセンサーで索敵してたんだ。

 役に立つジャンクが拾えたらきっと喜んでくれるだろうな、って」

 

 ……レックスは本当に善い子だなあ。

 いつも誰かを喜ばそうと一生懸命だもの。

 ありがとう、レックス。

 礼を告げながら、わたしはレックスに言った。

 

「じゃ、ちょっと見てみよっか」

 

 クルマを橋の近くまで移動させてからわたしはクルマを降りる。

 そして河川敷に降りたわたしとレックスは、(くだん)のコンテナを検分した。

 

「これ、どうかな?」

 

 ……レックスには申し訳ないが、ちょっとこれはダメな気がするなあ。

 わたしは渋い顔をせざるを得なかった。

 

「これはちょっと運べないかな。大きすぎるし」

 

 大きさの問題もあるが、中身も問題だ。

 ロックは掛かっているように見えるが、表面の塗装が相当剥げている。

 わたしが見たところ、落下してから十年では足りない。ひょっとすると十五年以上野晒しにされていたのかもしれない。

 そして、落下してからそんな長いあいだ野晒しにされているようなコンテナだ。大したものなんか入っていない気がする。

 

「そっか……」

 

 せっかく役に立てると思ったのに、とレックスは肩をがっくり落としていた。

 そんなレックスをわたしはぽんぽんと撫でた。

 

「気持ちだけでも嬉しいよ、レックス。折角見つけてもらったのにごめんね」

 

 謝るわたしに、しょんぼりしながらレックスが答えた。

 

「そうだよね、43式艇なんて要らないよね……」

 

 

 ……ん? ちょっとまって。

 

 

「……今、なんて?」

「えっ」

「何が入ってる、って?」

 

 念を押すわたしに、レックスは戸惑いながら答えた。

 

4()3()()()だよ。でもあんなオモチャ要らないでしょう?」

 

 よんじゅうさんしきてい?

 よんじゅうさんしきてい、ってまさか。

 当惑するレックスとは裏腹に、わたしの中で興奮のボルテージが高まってゆくのを感じた。

 

「43式艇ってまさか『43式航空偵察艇』!?」

 

 レックスから見て、今のわたしの目つきは随分とギラギラ光って見えただろう。

 そんなわたしの勢いに圧され、レックスは引き気味に答えた。

 

「そうだよ。コンテナの中に入ってるけど……」

「開けて、レックス! 他の人たちが見つける前に!!」

「う、うん……」

 

 『タチバナ=リリセは一体何を興奮しているのだろう?』

 レックスはきっとそんな風に思っているに違いない。

 首を傾げながらレックスは指を溶断トーチへ変形させ、そこから噴き出す高圧のプラズマジェットでコンテナのロックを焼き切り、開封した。

 コンテナが開いた途端わたしはコンテナの中に飛び込み、そして中から歓声を挙げた。

 

 

「やった! 〈ホバーバイク〉だ!!」

 

 

 43式航空偵察艇、別名『ホバーバイク』。

 『怪獣黙示録』の時代に考案されたもので乗り方はバイクに似ているが、『43式()()偵察()』の名のとおり実態は飛行機だ。

 タイヤの代わりにプラズマジェットでホバリング走行し、その気になれば数百メートル以上の高空を飛ぶこともできる。

 早い話が空飛ぶバイクである。

 

 コンテナから這い出てきたわたしの顔は、きっと満面の笑顔だったろう。

 

「本物のホバーバイクだ! レックス、運び出すから手伝って!」

「うん、わかった!」

 

 

 

 

 わたしたちは二人がかりで、ホバーバイクをクルマのところへと運び出した。

 引き揚げられたホバーバイクは、見た目はバイクに似ていたがタイヤがなく、まるで馬の(くら)だけ大きくしたような形状をしていた。

 

 ……すごいなあ。

 状態を確認したとき、わたしは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

 

「これ相当の掘り出し物だよ。地球連合軍のライセンス表記も本物だし、保存状態も最高だ。

 『灯台下暗(とうだい もとくら)し』なんていうけど、立川のこんな近くにこんなお宝が転がってたなんて」

 

 ホバーバイクをしげしげと眺めていると、ホバーバイクに赤い透視光を浴びせていたレックスがとんでもないことを言い出した。

 

「保存状態ついでに言うなら、これ動くよ」

 

 ……なんだって!?

 思わず聞き返したわたしに、レックスは説明してくれた。

 

「スキャンして()たけど動力系統はまだ生きてる。動くはずだ」

 

 そう言いながら、レックスが尻尾の先端を端子に変形させてホバーバイクのレセプタへと挿し込んだ。

 するとホバーバイクのコンソールに光が灯り、さらに車体下部のジェット噴射口からマゼンタのプラズマジェットを吹かして船体が宙へと浮き上がる。

 そんなホバーバイクを指差しながら、レックスは得意気に「ほらね」と言った。

 

「飛ぶんだったらオーバーホールしてレストアした方がいいけど、地面スレスレのホバリング走行なら今も出来るんじゃないかな」

 

 わたしは自分の顔をつねってみた。

 だけど、ただ頬が痛いだけだった。

 夢じゃない、現実だ。

 

 

 わたしたちの世代にとって、ホバーバイクは夢のある乗り物だ。

 

 『ゴジラと戦う特攻兵器として造られた』という暗い出自を持つホバーバイク。

 そういう経緯を知っている世代の人たちは苦い顔をするけれど、そんな戦時中のことなんて知らないわたしたちからすればホバーバイクは憧れのマシンだ。

 そりゃそうだ、バイクに乗るのと同じ感覚で空を飛ぶことができる乗り物なんてカッコイイに決まっている。

 造るのも乗るのも簡単だというので2040年代当時はそれなりの数が造られたらしいが、それから十年以上経った今はほとんど見かけない。

 

 そんなわけで、ホバーバイクはサルベージ屋が拾えるジャンク品としては最高の商材のひとつだった。

 エンジンやスペアパーツだけでもそれなりの値段で取引されているし、ましてやちゃんと動かせる完品ともなればそれこそ飛び上がるような価値があるだろう。

 

 

「よっっっ……しゃアアアアアアアア!!!!」

 

 

 わたしはガッツポーズを決め、そしてホバーバイクを拾ってくれた殊勲者のレックスをぎゅっと抱き締めた。

 

「大儲けだ! ありがとレックス!」

 

 まさかこんなに大喜びされるとは思っていなかったのだろう。

 最初レックスは目を白黒させていたが、やがてニッコリ笑ってこう答えた。

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 それからわたしたちはコンテナを(しばら)く漁った。

 

「……こんなのもあるけど、どうする?」

 

 そう言いながらレックスが抱えてきたのは小型超電磁小銃、いわゆる〈メーサーライフル〉と呼ばれる銃器だった。

 旧地球連合軍で使われていた光線銃だ。巷でもジャンク品としてそれなりに出回っており、わたしもたまに取り扱うことがある。

 渡されたメーサーライフルをちょっと検分してみた上で、わたしは答えた。

 

「……これはいいかな。手入れ面倒だし、あんまり売れないんだよねソレ」

 

 戦時中に開発されたものでとても威力があるらしいのだけれど、繊細な構造なのであまり評判が良くない。

 『メーサーライフル(こんなオモチャ)より信頼性の高いAK-47の方が良い』というのは実地でメーサーライフルを使ったことがあるヒロセのおじさんの口癖だ。

 実際このメーサーライフルも、落下の衝撃が原因なのか壊れてしまっているようだ。

 

 それに個人的にも趣味じゃないしね。

 護身用のピストルくらいは必要だと思うけど、メーサーライフルはいくらなんでも強力すぎる。

 

 そんなわたしの返答を聞いたレックスは、もじもじしながら訊ねた。

 

「……じゃあ食べていい?」

 

 上機嫌にわたしは答えた。

 

「食べていいよ。でも、バッテリだけ残しといて欲しいかな。バッテリは使い回せるから」

「ありがとう、リリセ!」

 

 わたしの返事に、レックスは喜びながらメーサーライフルを骨付き肉のようにむしゃむしゃと食べ始めた。

 ホバーバイクを拾ってくれたのだ。メーサーライフルの一丁ぐらい御褒美にあげてしまっても構わないだろう。

 おやつを食べているレックスを横目に、わたしは他の積み荷のチェックを続けた。

 

 

「他は、えーっと『39式α(アルファ)サイクル・ノイズキャンセラー』『信号拳銃』『パシフィック製薬のパシン』……なんだかガラクタばっかだねえ」

 

 他の積み荷を見てから『……やっぱりメーサーライフルあげない方が良かったかな』なんてことを思ってしまった。

 信号拳銃はまだ使えるにしても、39式αサイクル・ノイズキャンセラーは故障しているようだし、栄養ドリンクのパシンは中身が沈殿してしまっている。

 『ゴジラなんてひとひねり、パシンを飲んでいるからサ!(からネ!だったっけ?)』が売り文句だったパシンだが、こんな何年前に期限が切れたかもわからないようなものを飲んだりしたら、むしろ自分の体がひとひねりだろう。

 

 とはいえ、他にはホバーバイクのスペアパーツが積まれていた。全部持ち帰って売り捌けばしばらくはお金に困るまい。

 レックスのおかげで大儲けだ。むふふ、笑いが止まりませんなあ。

 ホバーバイクとそのスペアパーツを積めるだけ荷台に積み込み、立川へ帰ろうとした時だった。

 

 

 

 

 

 空をも引き裂く、甲高い雄叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 ……その特徴的な鳴き声に、わたしは聞き覚えがあった。

 あの声は、まさか。

 途端、クルマで寝ていたエミィが飛び起きた。

 

「……おい、今の聞いたか?」

「うん、聞いた」

 

 わたしは双眼鏡で遠くの空を覗き、そして左目を見開いた。

 

 

 

 遠くの空を『火の鳥』が飛んでいた。

 

 

 

 空を覆ってしまうほど大きな翼、その翼長は100メートルを優に超えている。

 研ぎ澄まされた(やじり)のよりも鋭く、ドリルよりも頑丈そうなクチバシ。

 熱々の溶岩のように煮えたぎり、赤熱がぎらついている焦げ茶の体表。

 燃えながら大空を舞うその姿はさながら火の悪魔(イフリート)だ。

 

 わたしは、そいつの名を呟いた。

 

 

 

 

「『ラドン』だ……!」

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