怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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プロレスです。


23、Rodan ~『ゴジラ キングオブモンスターズ』より~

 ――――ラドン。

 

 『火の悪魔』の異名も持つ、燃える大怪鳥。

 『もしもゴジラが空を飛んだら?』という思いつきを具現化したような、空の大怪獣だ。

 実力はアンギラスにも負けず劣らず、空が飛べることも加味すればアンギラス以上に厄介な相手である。

 

 ……不謹慎を承知で白状するが、子供の頃のわたしはラドンという怪獣が好きだった。

 旧地球連合のプロパガンダ番組でもやられ役だったラドン。だけどそんなラドンの姿をテレビ番組で見ながら『ラドンは そらが とべてすごいなあ!』なんて思っていたのである。

 

 だけどそんな子供染みた憧憬は、ラドンの実態を知るまでのことだ。

 ラドンの原種は翼竜に近いらしいのだが、火山地帯を棲処(すみか)としているからかマグマに順応した身体を持ち、その体温は銑鉄並になっている。

 その灼熱の体温が巻き起こす気流を利用してジェット噴射を起こし、ジェット戦闘機並の猛スピードで空を飛び回る。

 

 

 数年前、この多摩川沿いをラドンのつがいが襲撃したことがある。

 襲来した二頭のラドンは真っ赤に燃える翼をはためかせ、大空を我が物顔で飛び回った。

 

 

 新生地球連合軍や自警団が協力し合ったおかげでなんとか殲滅されたけれど、そのときの被害は凄まじいものがあった。

 ラドンが起こした超音速衝撃粉砕波(ソニックブーム)の余波により住宅街は土台から引っ繰り返され、その巻き添えで行方不明になってしまった人が何人も出た。

 さらにラドンが撒き散らした(すす)火粉(ひのこ)のおかげで周辺一帯は火の海になってしまい、一年間は焦げた臭いが抜けなかった。

 そして生き残った人たちで鳥恐怖症の人が多いのは、絶対に偶然ではないはずだ。

 

 そのとき救助作業に駆り出されたわたしは、当時焼け野原となった街並みを眺めながら、『まるで火砕流と竜巻が同時に襲ってきたみたいだ』と思ったのをよく覚えている。

 空飛ぶ火山噴火にして生きた暴風、それがラドンという怪獣だ。

 そんなラドンが、このまま立川の自治区を襲ったら大変なことになる。

 ……完全に油断していた。

 前回ラドンのつがいが襲ってから数年。それ以来、この辺りに怪獣が現れたことはなかった。

 だからちょうどこの日にラドンが現れるなんて思ってもみなかった。

 

 今回現れたラドンは一頭。

 幸いにもまだこちらに気づいていない。

 このままこっそり街に入って状況を報せ、そして防備を整える。それが最善だろう。

 

 しかし、そんなわたしの甘い考えは早くも打ち砕かれることとなった。

 

「リリセ!」

 

 名前を呼ばれたわたしが振り返ると、レックスがラドンを見据えながら言った。

 

「あいつ、こっちに気づいてる!

 近づいてくるよ!」

 

 双眼鏡で覗いてみると、翼を広げたラドンがこちらに向かってくる姿が見えた。

 ラドンが通った下の建物、橋、街並みすべてが、翼のジェット噴射に煽られて爆発と共に吹き飛ばされてゆく。

 ……ああ、もう、怪獣ってやつはどうしてこうも思い通りにならないのかな!?

 悪態を吐かずにいられないけど、そんな文句垂れてもどうしようもない。

 すぐさまクルマに乗り込むわたしたち。

 

 今回はアンギラスのときみたいなトラップ戦法は使えない。ただ逃げるだけだ。

 ()()()は一応あるがラドンに通用するかはわからないし、『三十六計逃げるに如かず』という格言もある。

 ごちゃごちゃ作戦練るのは逃げながらだって出来る。ここはまず逃げた方が良い。

 

「エミィ、発進()して!」

「りょーかい」

「待って、二人とも!」

 

 エミィがクルマのエンジンをかけたとき、レックスが後部荷台から飛び降りて言った。

 

「ボクが戦う! リリセたちは先に街に逃げて!」

 

 カギ爪状の腕、鋭利に尖った背鰭、鞭のような長い尻尾、そしてプラズマジェットの翼。

 頭に被っていた花の冠と、羽織っていた衣服は既に体内へ格納している。

 赤い瞳からみなぎる闘志、メカゴジラⅡ=レックスはもう臨戦態勢だ。

 

「あんな鳥、メーサーで焼き鳥にしてやる!」

 

 そんな風に勇ましく息巻きながら、腕から変形させたメーサーライフルをかまえ、翼を広げて飛び立とうとするレックス。

 

 

「待って、レックス!」

 

 

 そんなレックスを、わたしは制止した。

 振り返ったレックスに、わたしは言った。

 

「これは『出来れば』でいいんだけど、ラドンを追い払うだけで済ませられないかな? それも出来れば傷つけずに」

 

 わたしの頼みに、レックスは「どうして?」と首を傾げた。

 

「怪獣なんて殺してしまえばいいじゃないか」

「殺しちゃえ、って……」

 

 物騒なことをさも当然のことのように言ってのけるレックスに、わたしは一瞬たじろいだ。

 ……レックスがその気になれば、ラドンなんてきっと容易く殺せてしまうだろう。たしかにその方がコトは簡単かもしれない。

 

 けれど、わたしは言った。

 

「無闇に傷つけたくないの。

 マタンゴみたいに進んで人間に襲いかかってくるような奴ならともかく、怪獣だってわたしたちと同じ、心と命を持ったいきものだ。

 無闇に殺しちゃったら可哀想だよ」

 

 ……それはエゴなのかもしれない。

 体内に入り込んだマタンゴを駆除してもらっておいて今さら何を、と言われるかもしれない。

 害獣を殺しておきながら野良犬や野良猫を可哀想がる、そういう無責任で虫のいい奴だと批難する人もいるだろう。

 

 だけど、そこまで杓子定規になりきれないのも人間だ。

 野生のクマが人里に近づいてきたときだって、殺すよりはまず追い払うことを考えるはずだ。

 目の前で人間を襲っているわけでもない怪獣を『殺してしまえ』と言えるほど、わたしは冷酷になれない。

 

 そしてなによりわたしは、レックスにそんな残酷なことをして欲しくないのだ。

 

「心と命……かわいそう……」

 

 そんなわたしの言葉に、レックスはしばらく考え込むような仕草をしていたが、やがて力強くうなずいた。

 

「……わかった。出来るだけやってみるね」

「ありがとう、レックス。だけど無理はしないでね」

 

 そしてメカゴジラⅡ=レックスは翼を広げ、プラズマジェットで空へと飛び上がる。

 そんなレックスをわたしたちは固唾を呑んで見送った。

 

 

 

 

 

 

 メカゴジラⅡ=レックスは空を飛びながら思案していた。

 

 

 ……なぜ、タチバナ=リリセは『無闇に殺しちゃったら可哀想』などと言うのだろう。

 

 

 怪獣なんか人間に迷惑をかけてばかりだ。

 だから人間は自分、メカゴジラⅡ=レックスを発明したのではなかったのか。

 その一方で、いざ怪獣を殺そうとしたら『無闇に傷つけたくない』と言い出す。

 この背反は一体どういう論理があれば両立するのだろう。

 優秀な電子頭脳で考えるレックスだったが、答えは出てこない。

 人間の心はよくわからない。矛盾だらけだ。

 あるいはレックスが人間だったらわかることなのだろうか。

 

 とはいえ、それに惑わされる気はなかった。

 それはそれ、これはこれだ。

 メカゴジラの使命は人間のために働くこと、言い換えるなら人間の望みを叶えてあげることだ。

 何はともあれ『傷つけないように追い払う』というのが望みなら、それを叶えてあげなきゃいけないのだ。

 

 

 『傷つけないように追い払う』

 

 

 口で言うのは容易いが、実際はとても難しい注文だった。

 フィンガーミサイルやデストファイヤーはダメだ、殺してしまう。メーサーブレードやレールカノンすら殺傷力が高すぎて使えない。

 それにラドンは威嚇発砲だけで逃げ出すような弱い怪獣ではない。見せかけだけではない、ちゃんと戦える武器が必要だ。

 この条件だけで、使える武器がかなり限られてしまう。

 

 加えて、状況も良くない。

 アンギラスのときは制空権というアドバンテージもあり、利用可能な廃墟の地の利もあった。

 だが今回は事情が違う。ラドンだって空を飛べるし、ひらけた平原も同然の河川敷では瓦礫をぶつけてダメージを与える手も使いにくい。

 条件においてはほぼ対等だ。

 手加減抜きで戦ってようやく互角。かなり厳しい戦いになるだろう。

 

 ……とはいえ、手がないわけでもない。

 

 レックスはデータベースを隅々まで検索し、『これだ』という武器を二つ選んだ。

 〈パラライズミサイル〉

 〈スタンブレード〉

 着弾時に高圧電流で麻痺(paralyze)させるミサイルと、刀身に電荷を帯びさせたブレード。

 どちらも強力だが、出力を調整すれば致命傷には至らない。

 それにラドンはとても頭の良い怪獣だ。

 動けなくしてちょっと痛めつけてやればきちんと学習して、人里に近づこうとは思わなくなるはずだ。

 

 戦備を整えたレックスは、空を飛ぶラドンに向かってプラズマジェットで加速、急接近を仕掛けた。

 ラドンの方もそんなメカゴジラⅡ=レックスを視認し、両脚のカギ爪で空を切り裂きながら猛襲を仕掛ける。

 

 マゼンタのジェットを噴く銀色の翼と、真っ赤なジェットで燃え盛る溶岩のような翼。

 白銀のメカゴジラと赤熱のラドン、鋼と火山の二大怪獣は正面から激突。

 

 

 

 鋼と岩のぶつかりあう轟音が、多摩川河川敷に響き渡った。

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