怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
……いける、とレックスは思った。
体格差は大きいがパワーは互角、むしろ小回りではメカゴジラⅡ=レックスの方が上だ。
ラドンが繰り出す翼のジェット噴射とカギ爪の斬撃を掻い潜りながら、レックスは腕のスタンブレードで突き回した。
スタンブレードで突かれる度に青白い火花が迸り、悶絶するように呻き声を挙げるラドン。
見た目は派手でも出力はかなり低めに抑えた。
多少は痛いかもしれないが致命的な怪我はしない。せいぜい痺れるくらいだろう。
そうやってラドンを巧みに挑発しながら、出来るかぎりリリセたちの方から引き離そうと試みるレックス。
ラドンも、自らに挑んできた銀色のムシケラが存外手強いことを理解したようだった。
しつこくまとわりついてくるレックスに対し、大きく広げた翼を振り回して多少の間合いを稼ぐと同時に口を開く。
そしてラドンは煙を吐いた。
強烈なラドンの
危うく吹き飛ばされそうになり、レックスはブースターを逆噴射してその場で踏ん張った。
そうやって耐え抜いた自分の姿を見た時、レックスは驚愕した。
レックスの体表がボロボロになってしまった。
ナノメタルで出来た体から金属光沢が失われ、そして表面部分の組成が灰で覆われたような脆い組成に変化してしまっている。
……一体何をされたんだ。
レックスは、ラドンが浴びせてきた煙の成分を瞬時に分析し、そして瞬時に理解した。
これは、火山性のガスだ。
主成分は水蒸気、二酸化炭素、そして亜硫酸。
ラドンは本来、火山を棲み処とする怪獣だ。
火山でしこたま溜め込んだ大量の火山性ガスを、眼前の敵であるレックスに吐きかけたのだ。
超高濃度の硫化イオンを含んだ、超高温にして超高圧の猛毒ガス。
もしもレックスが人間だったら浴びせられた時点で即死していただろう。
勿論、メカゴジラⅡ=レックスが毒ガスくらいで死ぬことはない。
体表のナノメタルが硫化してしまったがそんなものは上辺だけ、すぐに修復可能だ。
レックスは全身のナノメタルに自己修復コマンドを飛ばし、全身を覆ってしまっている煤と硫化金属を振るい落とした。
だが、その為に回避運動がコンマ一秒遅れた。
自己修復に一瞬注意を取られたレックスに、ラドンの爪が迫る。
……しまった!
慌てて離脱を試みるレックスだったが一歩出遅れ、重機よりも巨大なラドンのカギ爪で鷲掴みにされてしまった。
捕まりながらレックスはもがいたが、ラドンの怪力に握り込まれとても逃げられそうにない。
レックスを捕まえたラドンは、ゲ、ゲ、ゲ、と笑うような鳴き声を挙げると空高く飛び上がり、身を翻して急降下。
そしてレックスを握り締めた自分の足を多摩川の土手へ思いきり叩きつけた。
格闘技で言えば
一万トン以上の巨体に猛スピードの落下による加重、とてつもない超重圧がレックスの小さな体へ一斉に襲い掛かる。
ラドンのストンピングキック。
その衝撃で護岸されたコンクリートの土手が粉砕され、数トン分の瓦礫が猛烈な噴水となって吹き上がる。
それと同時にレックスの電子頭脳をノイズが駆け抜け、金属製のボディから悲鳴が響いた。
ラドンは、そんな地獄のストンピング攻撃を幾度も幾度も繰り返した。
脚で捕えたレックスを自らの巨体で叩き潰そうとしているのだ。
ラドンのキックを受けるたびに握り締められたレックスの全身へ衝撃が走り、鋼の機体がひしゃげて軋んだ。
凄まじい力だ。流石のメカゴジラⅡ=レックスも、このままでは踏み付けられた生卵のように粉々になってしまうだろう。
……だが、負けるものか!
レックスは、プラズマジェットブースターをフルスロットルで吹かした。
マゼンタの爆炎、大出力のプラズマジェットがレックスの翼から噴き出し、ラドンが繰り出してきた数万トンの荷重を押し返した。
レックスに全体重を乗せていたラドンは不意に足元をすくわれ、もんどりうって引っくり返ってしまった。
そんなラドンの足をレックスはナノメタルでがっしりと拘束。翼を広げて飛び上がり、ラドンの巨体を逆さに釣り上げた。
今度はレックスがラドンを捕まえる番だった。
ラドンはもがいているが、逆さ吊りにされたまま起き上がれない。
逆さまのラドンを見下ろしながら、レックスは背中のジェットウィングを思いきり吹かした。
……よくもやってくれたな、こうしてやる!
「エーイッ!!」
レックスは掛け声と同時にラドンを逆さにしたままプラズマジェットで加速、河川敷のスレスレを高速でホバリング飛行する。
河川敷の砂利道を頭から引きずられ、頭をしこたま打ちつけて目を回すラドン。
レックスはそうやってラドンを散々引き回したあと、先ほどラドン自身が吹き飛ばした橋の瓦礫へラドンの体を思い切り叩きつけた。
メカゴジラⅡ=レックスVSラドン。
多摩川河川敷での大怪獣空中決戦。
空飛び交う二大怪獣の激闘を背に、わたし、タチバナ=リリセとその相棒エミィの乗るクルマは多摩川の土手を走ってゆく。
土手の上は、クルマが通れるくらいの幅で舗装されていた。
地面に描かれている標識からすると元々はサイクリングコースだったらしく、日焼けで褪せた看板にかすれた字で『クルマ乗り入れ禁止』と書いてある。
だけどそんなの知ったことか、とエミィはクルマを強引に乗り入れてくれた。
そんな土手を突っ走る車上から、わたしは遠くで繰り広げられているレックスとラドンの戦いを眺めた。
レックスは、わたしが頼んだとおりラドンを傷つけないように手加減しながら、街とは逆の方向へ懸命に引き離そうとしてくれていた。
身長150センチにも満たないメカゴジラⅡ=レックスと、50メートルの巨体を持つラドン。
まさに羽虫と猛禽くらいの体格差だったが、それでもレックスは互角以上に渡り合っていた。
見た目は子供でも、その力はやはり怪獣だ。
そんな大怪獣バトルを尻目に、わたしたちはクルマを立川へと走らせていた。
エミィがクルマを運転し、わたしは助手席から緊急通信を飛ばして街との交信を試みる。
「メーデー、メーデー、こちらはタチバナ!
メーデー、こちらはタチバナ! 位置は……」
……ああもう、このポンコツ、こないだは通信できたのに!
わたしは、内心で悪態を吐いた。
ザアザアガリガリという砂を掻き回すようなノイズだらけで、街とまったく通信できない。
さっき回収した39式αサイクル・ノイズキャンセラーでノイズ除去を試みたがやはり通じない。
そもそも故障しているから真っ当に動くわけはないと思っていたが、どうやら近くに強烈な電磁波の発生源があるらしい。
「おい、ヤバいぞ!」
わたしが四苦八苦していると、サイドミラーをチラ見していたエミィがクルマを急停止し素っ頓狂な声を挙げた。
「どうしたの!?」
「あそこだ!!」
エミィが指差した方向に双眼鏡を向ける。
遥か遠方で地盤が盛り上がり、建物が根こそぎ引っ繰り返される。
そして、見覚えのあるシルエットが現れた。
エミィが叫ぶ。
「アンギラスだ!」
エメラルドに似た緑色のクリスタルのトゲ。
深いシワの寄った獰猛な顔つき。
間違いない、新宿で遭遇したアンギラスと同一個体だ。
……なんてヤツだ。
あいつ、こんなところまでついてきたのか。
『悪いことは重なる』とは言うけれど、なにもこんなときに出てこなくたって。
わたしは歯噛みした。
新宿から真っ直ぐ向かってきたのだとしても直線距離で10キロメートル以上ある。
怪獣のスケールで言えば10キロなんて大した距離じゃないかもしれないが、それは獲物の行き先がわかった上での話だ。
アンギラスからすればわたしたち人間なんて足元を這う小さなムシケラ同然、どこに逃げ込んだかもわからないムシケラを見つけるために新宿の周囲を虱潰しに探し回っていたのだろう。
アンギラスの執念に恐れ入る一方で、頭の中の冷静な部分では安堵する気持ちもあった。
……今のうちに気がついて良かった。
このまま気づかず立川に入っていたら、ラドンだけじゃなくアンギラスも街へ誘き寄せていた可能性がある。
そうなれば凄まじい被害が出ていただろう。
次の手を練っていたわたしにエミィが言った。
「……アイツ、レックスの方を見てないか?」
双眼鏡で見ると、たしかに地表のアンギラスは、頭上の空を飛び回っているメカゴジラⅡ=レックスを睨んでいるように見える。
そしてレックスは、ラドンと戦うのに夢中で気づく様子がない。
……どうしてレックスは気づかないのだろう。
橋の下のコンテナを見つけて、中身を見抜くことができる、そんなに高性能なセンサーを積んでいるはずなのに。
嫌な予感がした。
「エミィ、クルマをレックスの方へ戻して! レックスがヤバいかも!」
「りょーかい、次の交差点でUターンする!」
わたしの指示に従い、エミィはクルマを交差点でUターンさせ、元来た道を逆走し始めた。
メカゴジラⅡ=レックスは、ラドンとの空中格闘戦を続けていた。
橋にぶつけられたラドンだったがすぐさま復帰、足を掴んでいたレックスを振り飛ばす。
危うく河原に叩きつけられそうになったレックスだが、プラズマジェットで巧みに制動しホバリング、ラドンと正面から対峙する。
他方、翼を広げ、威嚇の雄叫びを挙げるラドン。
その姿は引きずられた擦り傷だらけでまさに満身創痍、だがまだ戦意を喪っていない。
「さあ、来いっ!!」
そんなラドンを前に、レックスは次の手を繰り出した。
背鰭の一枚が分離し、折り紙を分解するように翼を広げて小型ドローンへと変形する。
「いけっ、ヤタガラスッ!」
小型偵察支援機:ヤタガラス。
レックスの背中から放たれたヤタガラスは敏捷に飛び、ラドンの死角へと潜り込むと機銃を構えて発射した。
ヤタガラスが搭載している超音波ビーム砲。殺傷力はあるが出力を極限まで抑えているので実際は水鉄砲のようなものだ。多少は痛いかもしれないが死ぬことはない。
鬱陶しいヤタガラスを追い払おうとするラドン、しかし標的があまりに小さすぎる上に機敏過ぎて撃墜できない。
その隙をレックスは突く。
一撃、二撃、三撃。レックスはラドンの巨体をスタンブレードで小突き回した。
赤褐色の体表で青白い火花が飛び散り、鋭い激痛にラドンが苦悶の悲鳴を挙げる。
レックスを叩き落そうと翼を振り回すラドンだったが、そこへすかさずヤタガラスの援護射撃が入るのでどうしてもレックスを振り切れない。
メカゴジラⅡ=レックスとヤタガラスの連携攻撃に、ラドンは追い詰められてゆく。
メカゴジラ対ラドン、互角以上の勝負だった。
「これでトドメだっ!」
そしてレックスはラドンに向けてパラライズミサイルをかま
その一撃を喰らうまで、メカゴジラⅡ=レックスはアンギラスを認識できなかった。
爆弾の直撃よりも強烈な衝撃。
レックスは、自分の身に何が起こったのかわからなかった。
視界の片隅にアンギラスの姿を捉え、そしてアンギラスの尻尾がバチバチと青白い火花を散らしているのが見えた。
『自分はアンギラスの尻尾で殴られたのだ』
その状況をレックスが理解するまで、刹那ほどの時間が必要だった。
……どうしてここまで接近させてしまったのだろう。
レックスは空中を吹っ飛ばされながらこの戦いが始まってから収集していたログすべてを読み返したが、アンギラスが接近していたことなど書かれていなかった。
それは電磁波による迷彩だった。
アンギラスは電磁波を巧妙にまとい、レックスに搭載されていたセンサー類すべてを
……馬鹿な、有り得ない!
エクシフからもたらされたゲマトロン演算による予測計算、その索敵能力を出し抜けるものがいるとしたらあの『キングオブモンスター』くらいだろう。
そしてアンギラスの原種にそんな高度な電磁波を操るような能力はないはずだ。このメカゴジラⅡ=レックスのセンサー類を騙すことなど不可能なはずだ。メカゴジラがアンギラスに出し抜かれるはずがない。
ボクはメカゴジラⅡ=レックスだ、ボディはナノメタルで出来ているしゲマトロン演算の優れたセンサーだって積んでいる、体重数万トンの巨大怪獣が近づいてきているのに気づかない、そんなバカげたことなどあるはずがない。
なのに、どうして、こんなの地球の怪獣じゃ有りえ……
混乱するレックスを、遅れてやって来た電磁パルスが襲った。
それは、電磁波による津波だった。
桁違いのショックがレックスの全身を襲い、ナノメタルが一斉にパニックを起こして電子頭脳の制御を離れた。
翼のプラズマジェットから光が消え、センサー類のすべてがほぼ同時に誤作動を起こし、あらゆるシステムが停止した。
吹っ飛ばされる最中も体勢を立て直そうとしていたレックスだったが、指一本満足に動かすことが出来なくなってしまった。
――――レックス!!
墜ちてゆく最中、タチバナ=リリセとエミィの叫び声が聞こえた気がした。
応えたかったが、どうすることも出来ない。
メカゴジラⅡ=レックスは大破した。
撃墜してやったメカゴジラⅡ=レックスを眺めながら、アンギラスは満足げに唸り声を挙げた。
――忘れもしない先日の新宿。
小賢しい銀蝿に散々翻弄されこの暴龍が撤退を強いられる羽目になった。
屈辱の極みだ。
その雪辱を果たせてアンギラスは満足だった。
そんなスッキリ気分のアンギラスであったが、唐突に空からの殺気を感じとった。
咄嗟に身を伏せたその刹那、真空斬りの一閃がアンギラスの甲羅をかすめてゆく。
頑丈な甲羅で身を守らなければ、首をカッ斬られていただろう。
振り返ったアンギラスは、自分を殺そうとした下手人の方へと振り返る。
アンギラスを襲ったのは空の大怪獣、ラドン。
全身から炎を焚き上げながら、ラドンは激怒していた。
当然だ、狙った獲物を横取りされたのだから。
ラドンはアンギラスを次なる標的として見定め、その頭上を滞空しながら鋭い眼光で睨みつけている。
血気盛んなラドンを見上げ、アンギラスは余裕ありげに鼻を鳴らした。
……いいだろう、若いの。
おれが相手になってやる。
翼を大きく広げ威嚇する
首を振るい吠える
若き赤の怪鳥と、老練な緑の古龍。
恐るべき二大怪獣が多摩川河川敷で対峙した。