怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
メカゴジラⅡ=レックス、まさかの敗北。
わたしは叫んだ。
「エミィ、レックスが!」
「やらいでか!」
エミィは、レックスが衝突した橋の傍でクルマを停めた。
クルマが停まると同時にわたしは外へと飛び出し、レックスが墜落した土手の下へ滑り降りる。
アンギラスに殴りつけられたメカゴジラⅡ=レックスは河川敷へ散々叩きつけられた上に橋へ激突、そして多摩川の浅瀬へと落下して半身が川に水没していた。
すぐ傍にはメカゴジラⅡ=レックスから分離する小型偵察機のヤタガラスが転がっている。きっと、主人であるレックスの下に帰ろうとして途中で動けなくなってしまったのだろう。
「レックス……
川に沈んでいたレックスを抱き上げようとしたわたしの手に、刺すような熱さが走った。
ナノメタルで出来ているレックスの機体が、とてつもない高熱を帯びている。まるで焼いたフライパンみたいだ。
改めて見ればレックスの周りの草が焦げついており、浸かった川からは湯気が沸き立っている。
「エミィ、耐熱グローブ!」
「わかった!」
両手に耐熱グローブを嵌め、エミィとの二人がかりで土手の上に停めたクルマのところまでレックスを引き揚げた。
わたしとエミィに抱え上げられたレックスの体表で、制御を失ったナノメタルが出鱈目に波打っている。
……一体何をされたんだろう。
ただ殴られただけではこんな風にならない。
アンギラスの攻撃が、レックスの機体を構成するナノメタルに桁違いのダメージを与えていた。
「リ、リセ、エミィ、にげ、て……」
クルマの荷台に載せられたレックスが、調子の狂ったノイズ混じりの声で呻いた。
「ボクが、たたか、う……」
すぐさま飛び立とうとするレックス。
だが、広げた翼はすぐに融け落ちてしまい、手足もグニャリと潰れてしまうために起き上がることすらままならない。
動こうとすればするほど機体が崩れてしまい、ついにはヒト型ですらない銀色の塊になってしまった。
これでは無理だ。
続いてわたしは、遠くにいるアンギラスの方を見た。
レックスを打ち飛ばしたアンギラスは空を舞っているラドンに標的を変え、威嚇するように雄叫びを挙げていた。
対するラドンも獲物を横取りされたことに怒り、アンギラスに向かって甲高い咆哮で怒鳴り返している。
まさに多摩川怪獣大決戦だ。
この現状を見たわたしは、自分の顔を両手で覆い、深く息を吸った。
……わたしはなんてバカだったんだろう。
全部わたしの見通しの甘さが原因だ。
怪獣を中途半端に挑発して怒らせた挙句、レックスに大怪我をさせてしまった。
『無闇に傷つけたくない』?
『殺しちゃったら可哀想』??
なんて思い上がった考えなのだろう。一体何様のつもりだったんだ、わたしは。
そしてレックスの言うとおりだった。
『怪獣なんて殺してしまえばいいじゃないか』
戦うと決めるなら、それくらいの覚悟を決めなきゃいけなかった。
なまじ手心を加えて事態を悪化させるくらいなら、いっそ殺してしまうべきだったのだ。
……ごめんね、レックス。
わたしのせいであなたを傷つけてしまった。
それに、ラドン、アンギラス。
本当にごめん。あなたたちは何も悪くない。
なにもかも人間が、いや、わたしが悪いんだ。
だけど、ラドンとアンギラスを街に連れ込むわけにはいかない。
わたしは覚悟を決めた。
そうと決まればまずはこの一本。
わたしは先ほど回収したパシンの一本を取り出し、よく振ってから栓を開けグイッと一気に飲み干した。
……うん、
もう一本とはいかない味だ。
しかし決戦への景気づけにはなった。
闘魂注入、ファイト一発、ゴジラをひとひねりとはいかないまでも、アンギラスとラドンくらいならどうにか出来そうな気がしてきたッ!!!
かくして自分にカツ入れしたわたしは、クルマの荷台から先ほど回収したホバーバイクを降ろした。
さっきレックスが試しに起動してみせてくれたけれど、本当にちゃんと動くかどうかは賭けだ。
そして幸運にも、エンジンがかかった。
ブースターからマゼンタ色のプラズマジェットを噴き出し、ホバーバイクの車体が宙へと浮かび上がる。
ヒロセ家にホバーバイクが保管されていたこともあり、わたしも乗り方は知っている。
そんなわたしの行動に気づいたエミィが、運転席から身を乗り出して言った。
「おい、なにやってんだ!?」
わたしは答えた。
「エミィはこのまま立川に向かって!
ラドンとアンギラスは、わたしが始末する!」
エミィは目を見開いて怒鳴った。
「ふざけんな、死ぬ気か!?」
「いいから行って!」
またがったホバーバイクをクルマの運転席の横につけ、わたしは続けた。
「この先の河川敷に〈ブラストボム〉が仕掛けてある。アレなら二匹とも倒せるかもしれない。
だけど万一倒せなかったら、街に大迷惑がかかることになる。
エミィには、このことを街に知らせて欲しい。これはエミィにしか頼めない」
「でも……」
わたしの説明に納得できない様子のエミィ。
そんなエミィの頬をわたしは両手で包み、目と目を合わせた。
そして真正面から笑いかける。
「……大丈夫、大丈夫だから。
帰ったら誕生日のお祝いしよう、ね?」
そんなわたしを見ていたエミィは、深く息を吐きながら、細い目をして応えた。
「……独りにしたら死ぬまで恨むからな」
そしてエミィはクルマのエンジンを始動し、街へと走り去っていった。
……さて、やりますかね。
街へ向かったエミィのクルマを見送りながら、わたしは
エミィに見せた笑顔は、精一杯の虚勢だった。
こんなの作戦でも何でもない、ただの特攻だ。無傷で済むわけがない。
手足の一本や二本失くすくらいなら良い方で、下手をしなくても死ぬ可能性の方が高い。
……本当は、怖くてたまらない。
今だって心臓が破裂しそうなくらいバクバク高鳴っているし、全身から汗がダラダラ流れているし、膝もガタガタ震えている。
気を抜いたら今にも倒れてしまいそうだ。
代わってもらえるなら誰かに代わって欲しいし、逃げ出せるものなら逃げ出してしまいたい。
だけど、ビビってる場合じゃない。
代わってくれる誰かさんなんてどこにもいやしないし、逃げ出すなんて許されない。
もしここでわたしが逃げたら、罪もない人たちが沢山傷つくことになる。
もちろん死ぬつもりもない。だいたいこんなところで、それも怪獣と刺し違えてたまるもんですかっつーの。
なによりわたしは依頼人から報酬を分捕って、そしてエミィの誕生日を祝ってあげきゃいけない。
だからわたしは、ここからなんとしても生きて帰らなければならないのだ。
わたしはホバーバイクのエンジンを吹かし、河川敷で戦っているアンギラスとラドンの方へと飛び込んだ。