怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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プロレスです。


26、ラドン対アンギラス

 ラドン対アンギラス。

 多摩川河川敷で睨み合う、二大怪獣。

 

 

 先手を打ったのは、ラドンである。

 高空を飛んでいたラドンは錐を揉みながら空から降下、アンギラスに突進を仕掛けた。

 ドリルのような嘴でアンギラスの首を掻っ切るつもりだ。

 アンギラスは地に伏せて身を守った。

 クリスタルで覆われたアンギラスの甲羅を火山岩から削り出したようなラドンの嘴とカギ爪が引っ掻き、硬いものが(こす)れ合う耳障りな高音を響かせる。

 

 アンギラスも反撃した。

 棍棒のように逞しい尾を構え、地に降り立ったラドン目掛けて思い切り振り回す。

 逞しい脚が河川敷にめり込み、振り回した風圧が草叢(くさむら)を薙ぎ、衝撃波が一帯を切り裂く。

 

 そんなアンギラスの一閃を、ラドンは軽やかな身のこなしでひらりと回避。

 アンギラスの攻撃が届かない間合いまで距離を稼ぐと、長さ100メートルを超える巨大な翼で、眼前のアンギラスを(あお)ぎ始めた。

 ラドンの羽ばたきによる風起こしだ。

 空気が猛烈に攪拌され、局所的な旋風が渦を巻いて砂塵を立ち上げ、地盤が捲れ上がってついには竜巻となる。

 

 ラドンが起こした暴風が、アンギラスを襲った。

 懸命に大地にしがみつくアンギラスだったが、間断なく吹き付ける暴風には耐えきれない。

 やがて右前足が離れ、左前足も宙に浮き、ついには仰向けに引っくり返ってしまった。

 

 アンギラスを転倒させたラドンは一際高く飛び上がると、ハーケンのような爪を構えて急降下を仕掛ける。

 ラドンは一撃で勝負をつけるつもりだった。

 鋭利な爪によるドロップキックで、無防備に曝け出されたアンギラスのはらわたを抉り取ろうというのだ。

 

 勿論、大人しくやられるアンギラスではない。

 猛スピードで迫り来るラドンを視認すると同時に素早く身を翻し、転がるように回避する。

 そのすれ違い様、紙一重のところでアンギラスが寝転がっていた地点へラドンのキックが炸裂した。

 

 

 衝撃は万トン。

 凝縮された破壊力はバンカーバスター級。

 爆音が轟き、土砂と水飛沫が舞い上がる。

 ラドンの急降下爆撃は河川敷の地表を大きく抉り、巨大なクレーターを築き上げた。

 

 

 必殺の飛び蹴りをかわされ、口惜しげに唸りながら再び舞い上がるラドン。

 ラドンが見下ろす先では、アンギラスが全身の棘を逆立てて尻尾を振りかぶっている。

 

 ……バカなヤツだ、とラドンはほくそ笑んだ。

 そんな尻尾の届く範囲に入ると思うのか。次は得意のソニックブームで吹き飛ばしてやろう。

 アンギラスの頭上を取ろうと、翼を広げて急接近するラドン。

 

 

 だが、それは大きな間違いだった。

 

 

 ラドンが間合いに入るよりも先に、アンギラスが尻尾を振るう。

 その遠心力により尻尾のクリスタルの棘が千切れ飛び、高速の運動エネルギーミサイルとなって発射された。

 

 クリスタルの棘によるミサイル。

 向かう目標は、ラドン。

 

 放たれたミサイルは目にも止まらぬ超音速で直進し、大きく広がっていたラドンの翼を鋭く射抜いた。

 不意の飛び道具。

 空を飛んでいたラドンはバランスを崩し墜落、風に煽られた凧のようにヒラヒラと墜ちてゆく。

 そして一万トン級の巨体が不時着し、その振動で河川敷一帯が大きく揺れた。

 

 棘のミサイルで撃墜されたラドンに、アンギラスが迫る。

 すぐさま飛び立とうとするラドンだったが、途端に翼に激痛が走った。

 痛みの震源地は、アンギラスが撃ち込んだクリスタルの棘だ。

 毒などはない、ただの結晶のはずだ。

 だが電気を流し込まれたかのように筋肉が痙攣し、上手く飛び立つことが出来ない。

 

 ラドンは自身の油断を後悔した。

 まさかアンギラスが飛び道具を使うなんて。

 そして空が飛べなければ、ラドンとアンギラスの優劣などいとも容易く逆転してしまうのだった。

 

 翼を傷めて飛ぶことが出来ず地を這って逃れようとするラドンを、アンギラスが踏み付けて取り押さえた。

 その重さにラドンはうめき声を挙げた。

 空を飛ぶために特化したラドンの華奢な体躯では、重量級のアンギラスを押し返すことなどできない。

 そんなアンギラスを見上げながら、若きラドンは今まで感じたことのない感情を覚えた。

 

 ……なんだ、こいつは。

 アンギラスといえば地面をのろのろ這うだけのマヌケな鎧竜じゃないのか。

 棘を投げつけて行動不能にする、そんな能力がアンギラスなんかにあるのだろうか。

 ……恐れ知らずのラドンが感じたそれは、いわゆる『恐怖』という奴だった。

 

 

 ばたばたと逃れようとするラドンを、凶暴なアンギラスは決して逃そうとはしない。

 血に飢えた目が見下ろしているのはラドンの喉笛。

 さきほどからラドンがしぶとくアンギラスの首筋を狙ったとおり、首と喉はあらゆる生き物にとっても急所である。

 

 捕らえたラドンの喉を食い千切ろうと、アンギラスが顎をゆっくりと開く。

 ラドンが死を覚悟した、まさにそのときであった。

 

 

 

「おい、三下怪獣コンビ! こっち見ろ!!」

 

 

 

 振り返ったアンギラスとラドン。

 その鼻先で、真っ白な閃光と耳を突く爆音が炸裂する。

 

 アンギラスは信号弾の炸裂に思わず怯んでしまい、ラドンを抑えつけている足の力が緩んだ。

 その隙にラドンはアンギラスを押しのけて脱出。耳鳴りに聴覚を揺さぶられながら、ラドンはその声の主の姿を見た。

 

 そこにいたのは、ホバーバイクにまたがっている人間の女だった。

 女は、筒のようなもの――人間が呼ぶところの信号拳銃だ――を構えた手を大きく振って、こちらを挑発している。

 

「ここまでおいで! ほら、さあ、こっち!!」

 

 その姿を見ながら、ラドンは戸惑った。

 ……まさかあのムシケラ、おれたちとやり合うつもりか。

 

 そんなラドンを尻目に、先に動いたのはアンギラスであった。

 視線の矛先を変え、アンギラスは驀進(ばくしん)する。

 獰猛極まりない暴龍が次に狙った標的は、小癪にも挑発してきた人間の小娘だ。

 

 そしてホバーバイクに乗った人間――すなわちタチバナ=リリセはホバーバイクを駆り、河川敷を全力で走り出した。

 

 

 

 

 

 

 タチバナ=リリセと別れたエミィ=アシモフ・タチバナは、そのまま土手に沿ってクルマを走らせていた。

 

 リリセによる挑発は効果テキメンだった。

 ラドンを仕留めに掛かっていたアンギラスはリリセの方に振り返り、すぐさま追い駆け始める。

 そしてラドンの方はというとしばらく地表でバタついていたが、やがて空に舞い上がり、どこかへ飛び去ってしまった。

 

 アンギラスとリリセの追走劇が始まったのを見てから、エミィは運転席の紐を引っ張った。

 紐に繋がっているのは、打ち上げ花火だ。

 クルマは車体脇に取り付けられていた花火を次々と発射、空に高々と救難(SOS)信号を打ち上げた。

 

 ……誰か気づいてくれ、誰か!

 

 そう祈りながらエミィはクルマを走らせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 多摩川河川敷で、わたし、タチバナ=リリセはホバーバイクを走らせていた。

 舗装されたグラウンドの跡地を通過し、雑木林を突っ切り、さらに丈の深い草原を駆け抜ける。

 

 レックスが説明したとおり、充分な整備がされていないホバーバイクでは地表スレスレをホバリングすることしか出来なかった。

 部品にガタつきがあるのか、揺れも激しい。

 暴れ馬と化したホバーバイクに振り落とされそうになりながら、それでもわたしは必死にしがみついていた。

 これでも修業時代は自転車とバイクであちこち出掛けていたから、体力と二輪車の操縦には多少なりとも自信があるのだ。

 

 背後からは地鳴りのような轟音が、スキップするようなリズムで徐々に迫ってきている。

 ちらっと振り返ると、多摩川を渡す橋を次々と突き崩しながら、河川敷を駆け抜けるアンギラスの獰猛な巨体が見えた。

 

 アンギラスは敏捷な動きが自慢の怪獣だ。

 クルマだったらあるいは逃げ切れるかも知れないが、ポンコツのホバーバイクで撒くのはいくらなんでも不可能だ。

 それくらいはわたしだってわかっている。

 

 

 ……だけど、わたしには()()()がある。

 

 

 わたしを乗せたホバーバイクは、やがてある場所に差し掛かった。

 一見すると何の変哲もない草っ原だが、草を掻き分けてみればわかるとおり、地中のあちこちから大きくて丸い金属の物体が顔を覗かせている。

 

 この金属の物体こそがわたしの『奥の手』。

 〈対怪獣特殊成形炸薬爆弾:ブラストボム〉だ。

 

 リモコン操縦で起爆、一定方向に向けて強烈な爆風を起こして怪獣を粉砕する。

 本来はリモコン式のブラストボムだけど、地雷として使うために感応式に改造されたものがこの河川敷に十発以上も埋めてあった。

 ……なんでわたしがこんなことを知ってるかって?

 ブラストボムを埋めたのがわたしだからだ。

 

 そもそも、旧地球連合軍基地の跡地から未使用のブラストボムを回収し、街の防衛用に立川の自治区へ斡旋したのはわたしの養父ヒロセ=ゴウケンだった。

 ゴウケンおじさんの会社:ヒロセ工業は工兵上がりの技術者と人足の紹介から、ブラストボム自体の改造、納入、埋設に至るまで、一連の工程すべてに噛んでいた。

 そしてわたし自身も、タチバナ・サルベージを立ち上げる前の修行時代に、アルバイトがてら参加したことがある。

 正確な配置や個数までは流石に覚えていないがブラストボムの特性はよく知っているし、どの辺りに埋まっているかも大体思い出せる。

 

 ブラストボムは本来、地雷として造られたものではない。

 正確には単一指向性爆弾、つまり一定方向にだけ爆風が起こる特殊な爆弾だ。

 爆風が狭い範囲に集中するので破壊力は高いものの、逆に言えば爆風の圏内はさほど広くない。

 つまり、上手くやれば数メートル圏内スレスレでも無事でいられるはずだ。

 

 それにブラストボムは人間ではなく怪獣を標的として設計されており、この河川敷のブラストボムの感応センサーもそのように設定してあった。

 だから、わたしを乗せたホバーバイクがブラストボムの上を通過したとしても爆発することはない。

 

 だが、アンギラスは違う。

 踏んだら最後、数秒もしないうちに数万トンの高層ビルも消し飛ばす大爆発がアンギラスを襲うだろう。

 本来ゴジラ討伐用の兵器として造られたブラストボムの殺傷力は非常に高い。並の怪獣なら2~3発喰らっただけで一巻の終わりだ。

 

 

 

 アンギラスを挑発して地雷源へと誘い込み、ブラストボムで爆殺。

 

 わたし自身はホバーバイクの機動性を活かして、紙一重で回避する。

 

 

 

 ……それがわたしの『奥の手』。

 特攻さながらの決死行だった。

 

 

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