怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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28、機龍出撃! ~『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』より~

 メカゴジラⅡ=レックスは、クルマの中でのたうち回っていた。

 

 

 メカゴジラはマシーンであり、ゆえに痛みの感覚質(クオリア)を持たない。

 攻撃されれば『痛み』を覚えるが、それが苦だとは感じない。

 だからどれだけ叩きつけられようが高熱で焼かれようが、本来は平気なはずである。

 

 そのメカゴジラⅡ=レックスが今、地獄に苛まれていた。

 アンギラスから叩き込まれた電磁パルスがシステム障害を引き起こし、全身のナノメタルが暴走している。

 

 焦げつくほど熱く、凍てつくほど冷たく、抉り出されるように痛い。

 全身の全細胞が、レックス自身を総攻撃しているかのようだ。

 

 ――苦しい、苦しい、苦しい!!

 

 今のレックスの電子頭脳に溢れかえっているのは、暴走状態のセンサーが誤検知したエラーだ。

 人間の脳であれば『苦痛』と認識する知覚情報が、毎秒毎秒天文学的な桁数で押し寄せてくる。

 レックスの電子頭脳ですら処理しきれない膨大な量だ。もしもレックスが人間だったなら、とっくのとうにショック死していただろう。

 

 

 そしてメカゴジラⅡ=レックスといえども、絶対に不死身というわけではない。

 

 

 たしかに、人間より遥かに堅固ではある。

 しかし今のような負荷のオーバーフロー状態が延々と蓄積されてゆけば、どんなにタフな機械だろうと壊れてしまう。

 エラーによるダメージが、メカゴジラⅡ=レックスの電子頭脳とその中で動作する人工自我を焼いてゆく。

 

 メカゴジラⅡ=レックスが再起不能になるのも時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 その地獄で、レックスは誰かの声を捉えた。

 

 

 

 

 

「――――! ――――!!」

 

 その誰かは、声が涸れるほど泣き叫び、一生懸命に助けを呼んでいた。

 

 

 

 その声を聞いた時、レックスは思った。

 

 ……ボクは何者だ。

 ボクは人類最後の希望、メカゴジラだ。

 メカゴジラといえば、硬く光る虹色の地肌に、強烈なロケットを着けた、ウルトラCのスゴくて強いヤツだろ。

 電磁パルスくらい、なんだ。

 目の前で泣いてる人がいる。

 救いを求めてる人がいる。

 その涙を拭ってあげなくちゃ。

 

 

 全身のナノメタルが訴えてくる論理の不整合を蹴っ飛ばし、レックスは行動を開始した。

 

 

 まず起き上がろうとしたレックスだったが、機体が思うとおりに動かなかった。

 ショックを受けたナノメタルたちは蜂の巣を突いたようなパニック状態に陥っており、好き放題に大騒ぎするばかりでレックス自身の制御に従ってくれない。

 コンマ数秒間に数万通りのコマンドを飛ばしたが、どのやり方でも駄目だ。

 あるいは、全身のナノメタルはコマンドが飛んでいることすら感知していないのかもしれない。

 頼むから、言うことを聞いてよ!

 

 焦れたレックスは〈緊急停止コマンド〉を使うことにした。

 

 緊急停止コマンドとは、ナノメタルが暴走した時のために備えて組み込まれた一種の安全装置である。

 仕組みは単純で、ナノメタルの電力を強引に断つだけ。

 挙動がおかしくなったパソコンの電源ケーブルを引っこ抜いて電源を落とすのと同じだ、どんなハイテクでも電源を断ってしまえば動かない。

 上手くいけば、システムを再起動(リブート)して正常化できる可能性がある。

 

 

 ……だがそれは『一瞬だけ心臓を止める』にも等しい危険行為だった。

 

 

 メカゴジラⅡ=レックスの電子頭脳は人間の脳に匹敵、もしくはより複雑な論理構造を持つ精密機械だ。気軽に電源のオンオフが出来る安物の電卓とはワケが違う。

 マタンゴと戦った際に生じたオーバーロードの緊急停止も電子頭脳を守るために組み込まれた仕様上の動作であり、システムの一部に過ぎない。

 メンテナンスのためのシャットダウンひとつにしたって、本来ならばそれなりの手順が要るのだ。

 

 それだけのことをするのだから、当然リスクも極めて高い。

 

 まず電子頭脳は必ずダメージを受けるだろうし、運が悪ければそのままシステムが故障(クラッシュ)して二度と動けないかもしれない。

 緊急停止を繰り返したコンピュータシステムが脆くなるのと同じように、たとえ復旧できたとしても致命的な後遺症が残る可能性だってある。

 

 

 しかし、このままよりはマシだ。

 レックスは躊躇なく自身の電源をブチ切った。

 

 

 

 1アット秒間レックスの意識が飛び、全身で波打っていたナノメタルが一瞬にして鎮まり返る。

 

 

 

 コンマ秒の沈黙を経て、レックスのナノメタルが再び動き始めた。

 

 ……やった、成功だ!

 レックスが機体を動かそうとしてみると、またしても正常に動かなかった。

 ナノメタルたちは大人しくなっていたが、今度は動かし方を全く忘れてしまったみたいだ。

 システムを調べてみると、瞬電のショックでシステムが破損していた。

 いくつかはバックアップで復元したが、それでも欠損は埋めきれない。

 

 しかたない、作ろう。

 

 電子頭脳内でソースコードを展開、解析し、前後の文脈から欠損部分を推測して補填してゆく。

 自分自身を壊してしまったレックスは、猛スピードで自分の動かし方を作り直していった。

 

 組み上がったコードをコンパイルし、全身のナノメタルを改めて再起動(リブート)した。

 

 緊急停止から再構築、再起動。

 ここまでの過程をレックスはコンマ数秒で終わらせた。

 完全に動けるようになるまでは数秒かかる。

 

 だけどそれまで待ってなんかいられない。

 なんとか片腕だけでも再形成し、レックスは上手く動かない体を引きずって、クルマの荷台から這い出た。

 

 のたうち回るナノメタルの塊から這いずるナノメタルの塊まで回復したレックスは、重力に身を任せ、土手を転がり落ちていった。

 

 

 

 

 その土手を下った先で、エミィ=アシモフ・タチバナは大怪我を負ったリリセを抱えながら叫んでいた。

 

 エミィにも、ちょっとした切り傷を縫うくらいの心得ならある。

 だが、お腹を串刺しにしてしまうほどの重傷では手の施しようがない。街の病院へ運び込もうにも下手に動かせば死期を早めるだけだ。

 今のエミィに出来ることといえば助けを呼ぶことくらいだ。

 喉から血が出るんじゃないかというくらいに声を張り上げ、エミィは助けを求めた。

 

 

 ――誰か、だれか助けて!! だれか!!!

 

 

 声の出し過ぎで喉に痛みが走り、噎せ返りながら、それでもエミィは叫び続ける。

 ……なんでもいい。医者でも藪医者でも、なんだったら大嫌いなエクシフでもいい。

 なんでもいい、誰でもいい、なんでもする。

 大切な人を助けて、お願いだ。

 

 しかし、こんな人気(ひとけ)のない河川敷にそんな都合の良い助けなど来るはずもない。

 エミィの腕の中で、リリセの体温がどんどん冷たくなってゆく。

 

 ……だめだ、だめだ。

 ダメだダメだダメだダメだ!!

 死んじゃダメだ!!!

 

 そんな残酷な現実を精一杯拒絶するエミィ。

 けれどその願いはむなしく、手ですくった砂のようにリリセの命が零れ落ちてゆく。

 

 

 どさっ。

 

 

 エミィが絶望に打ちひしがれた時、土手の上の方から音がした。

 なにか重たいものが落ちる音だ。

 

 エミィは最初その音に気づきもしなかった。

 それどころじゃなかったからだ。

 

 どさっ、ずる、ずる、ずるる……

 

 しかしその物音が大きくなってくるにつれて気を引かれ、エミィは音のする方へ視線を向けた。

 

 

 多摩川の土手を、高いところから銀色の塊が転がり落ちてきていた。

 まるで腕の生えた銀色のスライムだ。

 

 

 銀色のスライムの転がる動作は、明らかに意思の存在が見て取れた。

 蠢きながら転げ落ちてきて、狙い澄ましたようにエミィの眼前で止まった。

 

 ……なんだこいつ?

 

 エミィが訝しんだとき、銀色のスライムはぐにゃぐにゃと変形し始めた。

 腕と脚が生え、尻尾と背鰭が生えてきて、頭のようなものを形作ったところで、やがてエミィも見覚えのある姿になった。

 

 立ち上がった銀色の塊は、エミィに告げた。

 

「……おまたせ、エミィ!」

 

 エミィはその名を呼んだ。

 

 

 

 

「レックス!!」

 

 

 

 

 銀色の塊はメカゴジラⅡ=レックスだ。

 アンギラスに手痛くやられたところからやっと復活できたのだ。

 

 

 

 

 しかし、レックス復活を祝ってやる余裕は今のエミィにはない。

 もはやなりふり構っていられない。

 エミィはレックスにすがりつき、ガラガラに涸れた声で懇願した。

 

「リリセが死んじまう!! 治せるか!?」

 

 必死なエミィに、レックスはどんと胸を張って答える。

 

「まかせて!

 怪我なんて簡単だ、すぐ治せるよ!」

 

 そしてレックスはリリセのお腹に刺さった鉄棒を引き抜くと、すかさずその傷口へ針状に変形させた指を突っ込んだ。

 

 

 

 

 タチバナ=リリセの重傷の治療については、体内にナノメタルを流し込んでおこなわれた。

 マタンゴ中毒を治したときと同じ要領だ。

 

 まずはナノメタルで人工皮膚を形成し、瘡蓋のように傷を塞いでこれ以上の出血を抑えた。

 次に窒息の可能性も考慮して気道もしっかりと確保し、呼吸器へ溢れた血液はすべて取り除く。

 それから、内出血で体の中に溜まった血液を回収して血管に戻し、喪われた分の体液はナノメタルで生成した人工血球と空気中の水分から補う。

 敗血症や破傷風を防ぐため、傷口から入り込んだ雑菌類は徹底的に駆逐。

 循環器系を復元したら、今度はナノメタルをホルモン剤の代わりに働かせ新陳代謝を活性化させて傷を再生させていった。

 

 『今回はラクショーだ』とレックスは思った。

 

 人体でのナノメタル操作については、先日マタンゴ中毒を治したときにコツは掴んでいる。

 それに、ナノマシンを使った傷の治療であればレックスのデータベースにはいくらでも知見があるのだ。

 

 

 

 

 呆気にとられた表情で、エミィが呟いた。

 

「すごい……」

 

 まるで魔法だ。

 どうみても致命傷だったのにレックスがナノメタルを注入し始めた途端に出血が止まり、見る見るうちに傷口が塞がってゆく。

 同時にエミィはリリセの表情の変化に気づいた。

 浅く乱れていた呼吸が少しずつ大人しくなり、苦悶に喘いでいた顔つきがだんだんと穏やかになっていった。

 

「……終わったよ!」

 

 そう言ってレックスが指を引き抜いても、リリセは目を醒まさなかった。

 

「リリセ、リリセ!」

 

 慌てて揺り起こそうとするエミィをレックスが制止した。

 

「大丈夫、眠ってるだけだ。

 もう少ししたら、ちゃんと目を醒ますよ」

 

 タチバナ=リリセは、静かな寝息を立てながらぐっすりと眠っていた。

 

「よかった……!」

 

 エミィは脱力し、深々と息を()きながらその場にへたり込んだ。

 状況の乱高下(らんこうげ)が続いた末に緊張の糸が切れた結果、ついに腰が抜けてしまったのだ。

 

 つまり、エミィは心の底から安堵していた。

 

 そんなエミィの様子を見届けながら、メカゴジラⅡ=レックスは穏やかに笑った。

 

「……よかった」

 

 実感の籠った呟きと共に、メカゴジラⅡ=レックスもまた脱力した。

 

「ごめんね、ちょっと、休ませて……」

 

 途切れ途切れに告げたレックスは、ナノメタル製の重たい体をエミィのすぐ隣へと横たえる。

 

「お、おい!?」

 

 不安に駆られたエミィがレックスに(すが)りつくが、レックスは力なく笑いながら首を横に振った。

 

「大丈夫、ちょっと、休むだけ……」

 

 そんなレックスの姿が、エミィにはなんだか満身創痍のように思えた。

 外観ではわからない。白銀の金属光沢は相変わらずピカピカだ。

 

 しかし、ひどくやつれているように思える。

 

 ……考えてみれば当然だ。

 ラドンと戦い、アンギラスの攻撃でとてつもない大ダメージを負いながらなおも復活、さらにはリリセの怪我の治療まで。

 いくらスーパーロボットのメカゴジラといえども、これほどまでナノメタルを酷使したことはなかっただろう。

 今度ばかりは消耗しているはずだ。

 

 エミィがそんなことを考えていると、レックスが口を開いた。

 

「……ごめんね、エミィ」

 

 ……なにを謝っているのだろう。

 エミィが首をかしげると、レックスは答えた。

 

「せっかく貰ったコローラとお洋服、ダメになっちゃった」

 

 そう言いながらレックスが体内から引っ張り出したのは、先の花畑でエミィが作ってやった花の冠(コローラ)と、リリセが着せてやった洋服だった。

 しかし怪獣たちとの戦いで高熱に晒された結果、今や完全な灰の塊になってしまっている。

 不意に風が通り抜ける。

 

「あっ……」

 

 レックスの手中の灰は、跡形もなく吹き飛ばされてしまった。

 眉をしかめ、唇を噛む。そんな泣きそうな顔でレックスは詫びた。

 

「ごめんね、せっかく貰ったのに……」

 

 野草で編んだコローラと、ぶかぶかの洋服。

 どちらも決して上等なものではない。

 ……しかしレックスはかなり気に入っていた。

 それらが無くなってしまって誰よりも落ち込んでいるのは、レックス自身のはずだ。

 

 そんなレックスの肩を、エミィは軽く叩いた。

 

「……気にすんな。

 コローラなら今度もっと良いもん作ってやるし、服だってもっと合う服を用意してもらおう。

 

 だから、期待して待ってろ」

 

 そしてメカゴジラⅡ=レックスの頬を、エミィは優しく撫でてやった。

 

 

 

 ……ありがとな、レックス。

 今はこんなことしかしてやれない。

 レックスがしてくれたことに比べたら全然釣り合いなんかとれないだろう。

 

 

 

 

 

 けれど今はとにかく、労をねぎらってあげたかったのだ。

 

 

 

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