怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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30、立川到着

 ジャバー、カポーン……

 

 

 水の流れる音と、シャワーの音、そして湯桶のぶつかる音が響く。

 広い屋内に立ち込めているのは、汗ばむほどの熱気と、しっとりと潤った濃厚な湯気。

 

「ふぅー……」

 

 とても気分が良い。

 わたしは湯中で寛ぎながら、頭に浮かんだ歌詞を口遊(くちずさ)んだ。

 

ババンバ、バンバンバン♪

 ババンバ、バンバンバン♪……

 

「唄うな。うっさいぞ」

 

 その声で振り返ると、髪を洗っていたエミィが不機嫌そうな視線を向けている。

 わたしは反論した。

 

「いいじゃん、これくらい。

 こういうときぐらい気楽にしようよ、他に人がいるわけじゃないしさ。

 ほらわたしをご覧なさい、全身全霊で気を抜いて楽しんでるでしょ?」

 

「おまえは気を抜きすぎだ」

 

 眉を顰めるエミィに、わたしは笑いかけた。

 

「楽しむときは楽しむ! 休むときは休む!

 メリハリつけないと。

 そんな風に眉ばっかり顰めてちゃあ人生損しちゃうぞっ」

 

「余計な御世話だ」

 

「気分が乗ってきたから二曲目行きまーす!

 はーるばるぅー来たぜ、函館ー♪……」

 

「何なんだ、そのテンション。

 ……ホントにマタンゴ中毒完治したんだよな?」

 

「大丈夫大丈夫、至って正常だよ、わたしは」

 

「……ブラストボム喰らったときに頭打ったか?」

 

「その本当に心配してるような目つきで見るのはやめてわりと傷つく」

 

 湯船でくつろぐわたしタチバナ=リリセと、洗い場で体を洗うエミィ=アシモフ・タチバナ。

 何を隠そう、わたしたち二人はお風呂に入っているのである。

 

 

 

 

 ここに至るまでのいきさつは、数十分前、立川に着いたところまでさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多摩川河川敷の戦いから数時間後。

 わたしたちが立川に辿り着くと、街はお祭り騒ぎだった。

 

 その混雑の片隅を、わたしたちの乗ったクルマはのろのろと移動している。

 パレードの通行規制で渋滞が出来てしまっており、それに巻き込まれたのが運の尽きだった。

 普段なら数分で着く距離なのに、三十分経ってもまだ道端で立ち往生している。

 

「すごい人だね!」

 

 そんな中でもメカゴジラⅡ=レックスだけは、声を弾ませてはしゃいでいた。

 クルマの後部荷台の隙間から見える街並みを、とても楽しげに眺めている。

 ……考えてみれば、こんなに大勢の人間を見るのは初めてのはずだ。

 渋滞も人混みも人間のわたしから見ると鬱陶しいものでしかないけれど、メカゴジラのレックスには違って見えるのかもしれない。

 

「まあ、今日は少ない方だよ。

 昔の二十三区なんて本当に凄かったしね」

「そうなの!?」

 

 目をキラキラ輝かせるレックスに、わたしは教えてあげた。

 

「ゴジラが来る前の東京二十三区に住んでたからなんとなく知ってるけど、東京駅とか池袋駅とか迷子になったら二度と帰ってこれないんじゃないかって思ったくらいだよ。

 それに、世界で一番電車が混雑してたのも東京の駅だったんだってさ」

「へぇ、すごいなあ……!」

 

 レックスが上機嫌な一方、クルマを運転しているエミィは終始不機嫌だった。

 

「ジャマだ……どけッ……×××がッッ……×××ッッッ……!!」

 

 握っているハンドルを指先でトントントントン叩きながら、年頃の娘が口にしちゃいけないような罵倒語を小声で呟き続けている。

 よほど頭にきているのだろう。

 ただでさえ人嫌いだし、ましてや通行の邪魔になっているのがストレスフルで仕方ないらしい。

 ……しょうがない、アレを出すか。

 エミィのために、わたしは『とっておきのアレ』を出してあげることにした。

 

「まあまあ、そうイラつかないで」

 

 わたしがポケットから出したのはキャラメル。

 お洒落なデザインの黄色い箱に入った、甘くて美味しい素敵なおやつだ。

 わたしの好物であり、エミィの好物でもある。

 

「舐める?」

「……食べる」

 

 アーンと開いたエミィの口へ、わたしは茶色のキャラメルを放り込んだ。

 エミィはクルマを運転したまま、口の中のキャラメルをもっきゅもっきゅと噛み始める。

 ……おかげでエミィの表情が緩んだ気がする。

 甘いものはストレスに効く、っていうもんね。

 

 エミィの御機嫌をとりながら、わたしは車窓から広がる外の風景を眺めた。

 

 

 

 

 大通りを人がひしめき合い、その中心で軍楽隊が勇ましい行進曲――巷では『Gフォースのマーチ』と呼ばれている曲だ――を鳴らしながら、パレードを繰り広げている。

 クラッカーの紙吹雪が降り注ぎ、派手なラッパとドラムの音が鳴り響く。

 

 パレードの中心は『メーサー殺獣光線車』。

 

 わたしは意識を失っていたから直接は見ていないのだが、エミィの話によると、最終的に多摩川の河川敷でアンギラスをやっつけてくれたのはあのメーサー殺獣光線車らしい。

 

 〈新生地球連合軍〉。

 またの名前を『NEO(ネオ)Force(フォース)』。

 彼らは、西暦2048年にゴジラが行方をくらましてから現れた人たちだ。

 

 どういう出自の人たちなのか、わたしはよく知らない。街の人も多分殆ど知らないだろう。

 おおかた地球連合軍の残党が再度集まったというのが妥当なところだと思うけれど、確かなことはわからない。

 

 ただはっきりしているのは、新生地球連合軍が今の落ちぶれた地球文明を大きく上回る技術力(テクノロジー)を持っていることである。

 

 メーサー戦車、メーサーヘリ、二十四連装砲など、数え切れないほど沢山の超兵器。

 ゲマトロン演算や量子デバイス、抗核エネルギーバクテリアのようなオーバーテクノロジー。

 ラドンやアンギラスくらいなら楽々追い払えるくらいの力を持っている。

 

 立川も、そんな新生地球連合軍の勢力下にある街の一つだ。

 疫病や放射能、ツル植物の問題も、街で暮らすために必要なことはすべて新生地球連合軍が片付けてくれた。

 自治区側は、立川の街を新生地球連合軍の庇護下に置いてもらうのと引き換えに、かつて自衛隊という組織が使っていた空地の一部を新生地球連合軍の拠点として提供し、また自治区運営の会議に軍の将校を顧問として招いて意見をもらったりしている。

 この街では、そんな協力関係がここ数年ほど続いている。

 

 そんな新生地球連合軍の凱旋パレード。

 人々は「メーサー隊だ!」「新生地球連合軍が来てくれた!」と口々に歓声を挙げながら、万雷の拍手と満面の笑顔で出迎えている。

 ……一見するとみんな歓迎ムード一色だが、中にはそうじゃない人もいる。

 『戦いが終わってからノコノコ出てくるなんて酷い奴らだ、今まで何をしていたんだ』とか。

 『そうやって恩を売って油断させて、あとで暴力で支配するつもりなんだ』とか。

 『地球連合軍の名前を騙った偽物だ』とか。

 そういうことを言う人もいる。

 

 

 だけど新生地球連合軍との協力関係は、わたしたちの生活には今や欠かせないものだ。

 数年前に街を襲ったラドンを撃滅できたのも、新生地球連合軍との協力関係があってのこと。

 もしも新生地球連合軍がいなかったら沢山の人たちがラドンのディナーにされていたはずだし、その件以来ずっと街を守ってくれている。

 

 ……まあ、得体の知れないところがあるのも事実だけど、助けてもらったことや守ってもらっていることへの感謝は忘れちゃいけないと思う。

 それに偉い人たちはどうだか知らないけど、現場の人たちはみんな良い人たちばっかりだしね。

 

 

 そういえば、先日マタンゴとの一件で助けてくれた真七星奉身軍も新生地球連合軍を名乗っていたのを思い出した。

 そして、その真七星奉身軍を率いるウェルーシファはエクシフだ。

 

 ということは、()()()については案外本当なのかも知れない。

 

 

 

 

 

『新生地球連合軍の〈統制官〉はエイリアンだ』

 

 

 

 

 

 差別感情を煽るために流された不謹慎なデマだと思っていたけれど、ウェルーシファの真七星奉身軍のことを知った今となってはこれはこれで筋が通っているように思える。

 ウェルーシファみたいなエイリアンたちが後ろ盾になっているからこそ、新生地球連合軍はメーサーをはじめとする超兵器を用意できたのかもしれないし、あの壊滅状態から組織を建て直すことだってできたのかもしれない。

 

 ……まあ、どうでもいいけどね、そんなの。

 

 新生地球連合軍の偉い人が異星人だとして、『だから何なんだ、でっていう』って話だし。

 第一、わたしの知ったことじゃない。

 

「……おい、着いたぞ」

 

 物思いに耽っていたわたしは、エミィの声で我に返った。

 クルマが目的地に到着したようだ。

 「おつかれさま」とエミィを(ねぎら)いながら、わたしはクルマを降りた。

 この角を曲がればヒロセ家の屋敷だ。

 ……だけど、その前にやることがある。

 わたしはクルマの後部荷台へと回り、中で待機しているメカゴジラⅡ=レックスに声をかけた。

 

「おまたせ、レックス」

「ねえねえ、次はどうするの!? おじさんってどんな人?

 会いたいなあ!」

 

 レックスは赤い目を輝かせ、銀色の髪を揺らしながらはしゃいでいた。

 まるで誕生日とクリスマスのプレゼントを同時に渡されたかのような、ウキウキワクワクの顔をしている。

 今にも飛び出してしまいそうだ。

 

「……あのねレックス」

 

 わたしは告げた。

 

「悪いけどあなたはクルマに残ってほしいんだ」

「えっ……」

 

 ……あーあ、肩落としちゃって。

 誕生日とクリスマスが同時に中止になったかのようなガッカリ顔。

 ヒロセ家の人たちと会うのをとても楽しみにしてくれていたのだろう。

 なんて善い子なんだろうと思うのと同時に、そんな彼女を落ち込ませてしまうことに申し訳なさを禁じ得ない。

 落胆するレックスに、わたしは詫びた。

 

「……ごめんね、レックス。

 出来ればトランクに変形しててほしい。

 できるかな?」

「出来るけど……どうして?」

 

 首をかしげるレックスに、わたしは説明した。

 

「あなたのことは、なるだけ秘密にしたいんだ。

 『メカゴジラがやってきた』なんて知られたら、みんなビックリしてしまうからね」

 

 ……別にメカゴジラを独り占めにしたいわけじゃない。

 むしろレックスの力があればどれだけの人に役立つだろうと思うし、それが実現出来たらどれだけ良いだろうと思う。

 

 

 だけど、メカゴジラの力が必ずしも幸福な結果を招くとは限らない。

 

 

 たとえば、新生地球連合軍に知られたら。

 喪われたはずの『人類最後の希望』が戻ってきたのだ、見逃すはずはない。

 きっと彼らはレックスのことを力尽くでも連れ去ってしまうだろう。

 そして彼女を兵器に作り変えてしまうだろう。

 『()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんなレックス本人の希望は聞かないまま。

 

 

 そんなわけで、わたしはメカゴジラⅡ=レックスについて他の人には伏せておこうと思った。

 ヒロセ家の人だけには話そうかと思ったけれど、やっぱり秘密にしておくことにした。

 たしかにわたしが頼めばヒロセ家の人たちは秘密にしてくれるかもしれないが、秘密なんてどこからどう漏れるかわかったものではない。

 説明しておいたところでどうにもならないし、余計なトラブルに巻き込みたくない。

 いざというときに『知らない』のであれば、どうにか言い逃れができる余地もある。

 

 ……まあ、バレたら怒られそうだけど。

 そのときはそのときだ。

 何事も起きなければ問題ないし、やはりヒロセ家に迷惑はかけられない。

 

 そんなわたしの頼みを、レックスは快諾してくれた。

 

「わかった」

 

 そしてレックスはうずくまるような仕草で変形を始めた。

 ナノメタルの金属部品がガシャガシャと蠢いて細かく変形し、そして四角四面の金属の塊へと姿を変える。

 新宿で見つけたときとそっくりそのまま、傍目からは大きめのトランクにしか見えない。

 ……何も知らない人なら、これがメカゴジラだとはよもや思うまい。

 

 下準備を終えたわたしはエミィと共にヒロセ家の屋敷へと向かい、そして門戸を叩いた。

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