怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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版権の都合でなかなか出て来ないあいつです。タイトルの元ネタは『大魔神』。


35、メカゴジラ怒る

 ネルソンがヒロセ=ゴウケンを“尋問”しているあいだ、別働隊がガレージを捜索していた。

 その指揮を執っているのは、坊主頭に蜘蛛の入れ墨を入れた、屈強な体格の女兵士。

 

 彼女の名は〈スヴェトラーナ=エブゲノブナ・モレクノヴァ〉。

 所属は新生地球連合軍〈 Legitimate Steel Order:LSO 〉、階級は少佐である。

 

「……おい、まだか」

 

 副官にそう訊ねる、モレクノヴァの声には苛立ちが滲み出ている。

 今日のモレクノヴァ少佐は不機嫌であった。

 ……佐官クラスであるはずの自分が、一体何が悲しくてこんなコソドロみたいなマネをせねばならんのだ。

 モレクノヴァ少佐はある失態が原因でネルソン特佐の副官につけられ、共に『目標』の回収を命じられた。

 たしかに自分は失態を犯した、その責は問われるべきだ。

 新生地球連合軍最高指導者の判断に異を唱える気はない。

 

 が、ネルソンの下というのが気に入らない。

 

 元々ネルソンは、新生地球連合軍においては下級士官だった。

 本来ならば、創設メンバーであるエブゲニー=ボリソヴィッチ・モレクノフを父親に持つモレクノヴァとは格が違う。

 それが今や立場が逆転し、ネルソンは特務少佐:略称特佐としてLSOの事実上の指揮官に収まっている。

 ……ネルソンのゴマすりクソ野郎め。

 〈統制官〉に気に入られたからって好き放題に仕切りやがって。

 

「まだ見つからんのか?」

 

 とにかく機嫌が悪いので、部下への当たりも若干悪い。

 足で床をコツコツ叩きながら副長に訊ねると、副長は緊張した様子で応えた。

 

「『目標』の反応が確認できません。あるいはステイシスモードで反応を消しているのではないかと……」

「ふん、こんな広くもない屋敷だろう。まさか煙になって消えるわけでもあるまい」

 

 憤懣やるかたないモレクノヴァは、部下の兵士たちに指示を飛ばした。

 

「なんとしても探し出せ! 反応はこの屋敷で途絶えた、この中にあるはずだ!」

 

 ちょうどそのとき、探知機を携えていた部下の一人が声を挙げた。

 

「少佐殿、反応ありました! クルマの中です!!」

 

 部下が指し示しているのは、オフロード仕様の大型車だった。

 車体側面には『Tachibana Salvage』とロゴが入っている。

 情報にあったサルベージ屋の車だ。きっと『目標』もスクラップとして回収したのだろう。

 

「荷台を開けろ」

 

 モレクノヴァの指示で、兵士たちはすぐさまクルマの後部に回り、ドアをこじ開けに掛かる。

 その作業中、最初に『目標』の反応を確認した部下が素っ頓狂な大声を挙げた。

 

「お、お待ちを!」

「なんだ、どうした」

 

 モレクノヴァが訊ねると、部下は探知機を凝視したまま青ざめた顔で言った。

 

 

 

 

「既に、起動しています……」

 

 

 

 

 同時に、クルマの後部荷台が吹き飛んだ。

 

 炸裂と共にキャンバストップのルーフが弾け、後部ドアに取りついていた兵士数名がまとめて弾き飛ばされる。

 咄嗟に自分の身を庇ったモレクノヴァは、荷台に仁王立ちしているそいつの姿を仰ぎ見た。

 

 鋭利な羽根を生え揃えた、猛禽の翼。

 恐竜の骨格標本を思わせる、長い尾とカギ爪。

 雪の結晶のように規則正しく揃った、背鰭。

 眩いばかりに白銀の光沢を放つボディ。

 そして赤く輝く両目。

 まさに機械仕掛けの悪魔。

 そしてこれこそが、モレクノヴァたちが探しに求めていた〈メカゴジラ〉だった。

 ……なんて恐ろしく、そして美しいのだろう。

 メカゴジラを前にしたモレクノヴァは一瞬茫然としていたが、すぐ指揮官としての本分に立ち戻り、兵士たちへ指示を下した。

 

「か、確保、確保!!」

 

 兵士たちが銃を構え、メカゴジラに発砲する。

 銃といっても実弾ではない、電極を撃ち込んで高圧電流を流すテーザーガンだ。

 まずはメカゴジラを傷つけずに確保する、それが最優先だった。

 

 兵士たちのテーザーガンから無数のワイヤーが放たれ、そのすべてがメカゴジラへ命中。

 無数のワイヤーが絡まったメカゴジラの体表で眩くほとばしる、青白い電光。

 人間だったら行動不能どころではない、感電死していただろう。

 

 だがメカゴジラは動じなかった。

 鞭のように長い尻尾を振るい、カミソリよりも鋭い背鰭のカッターで、自分を雁字搦めにしているワイヤーをまとめて斬り裂く。

 

 テーザーガンのワイヤーから解き放たれたメカゴジラは、今度は自分からワイヤーを射出した。

 〈ショックアンカー〉だ。

 四方八方に発射されたアンカーが周囲の兵士たちへと撃ち込まれ、すかさずメカゴジラはワイヤー越しに電気ショックを流し込む。

 

 瞬間の電圧は百万ボルト。

 流れた時間は刹那ほどの一瞬だったが、与えたダメージは大きい。

 兵士たちは呻き声を挙げながら、一斉に引っ繰り返ってしまった。

 そして敵を排除したことを確認したメカゴジラは背中の翼を広げ、マゼンタ色のプラズマジェットを吹かし始める。

 空を飛んで逃げる気だ。

 

「実弾に切り替えろ、なんとしても逃がすな!」

 

 モレクノヴァが叫んだが、兵士たちは動けない。

 この隙にメカゴジラは翼をはためかせ飛び上がり、目にも留まらぬスピードで兵士たちの間をすり抜けてガレージを脱出してしまった。

 

 ……『目標』に逃げられてしまった。

 モレクノヴァは無線機を取り、怒鳴るようにして報告を上げた。

 

「こちら『ギデオン』、『ピノキオ』と接触!

 『ピノキオ』、屋内へ逃走!……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せっ、離せったら!」

 

 銃声と同時に風呂場を飛び出したわたし:タチバナ=リリセだったが、外で待ち構えていた兵隊たちに速攻で取り押さえられてしまった。

 ……まぁ、風呂場で大声で歌ってたりしたら、そりゃあ見つかるよね。

 

 相手はどうやら訓練された兵士のようだった。

 エミィからメスゴリラ呼ばわりされるぐらいには脳筋体育会系のわたしだけど、流石に兵隊相手に勝てるほどじゃない。

 思いっきり暴れてやったものの護身用のピストルも取り上げられてしまい、ライフル銃を突きつけられて捕虜にされてしまった。

 

 離れから居間に移動すると、そこにはヒロセ家の人たちがいた。

 ゲンゴ君、サヘイジさん、ゴウケンおじさん、そしてエミィ。

 みんな、兵士たちによって捕虜にされていた。

 掴まれた腕を振り切り、わたしは皆の方へと駆け寄る。

 ……みんな、怪我している。なんて酷いことを。

 

「これは、これは、これは!!」

 

 背中からかけられた声に振り向くと、黒ずくめの男が薄笑いを浮かべて立っていた。

 どうやらこいつが兵士たちのリーダー格のようだ。

 睨みつけているわたしに、男は帽子を手に取って慇懃に頭を下げた。

 

「なんたる光栄! かの英雄、タチバナ准将の御息女にお会いできるとは!」

 

 ……ふざけてるのか、こいつは。

 眉を顰めているわたしに構うことなく、男は名乗り口上を続けた。

 

「新生地球連合軍Legitimate Steel Order(正当なる鋼の秩序)所属特務少佐、ベリア・ネルソンと申します。

 ファーストネームは……」

 

 と、いったん考えてから、ニヤリと笑った。

 

「そうですねえ、我が祖国アメリカで最も偉大な英雄にちなんでマティアス。

 〈マティアス=べリア・ネルソン〉とでも名乗っておきますかね。

 どうぞお見知りおきを」

 

 ……やっぱりふざけてる。

 アメリカの英雄マティアスといえば地球連合政府初代首相マティアス=ジャクソン、どうみても偽名だ。

 どこまで人を小馬鹿にすれば気がすむのだろう、この男は。

 

 わたしがいきり立っていると、ネルソンの胸ポケットに挿した無線機から音がした。

 無線機を取るネルソン。

 

「はいはい、こちら『正直ジョン』。

 ……なに、逃がしたァ?

 木偶人形一匹捕まえられねえのか、このボンクラがッ」

 

 一旦通信を打ち切ったネルソンは「これだから親の七光りは使えねえんだ」とぼやきながら、違う相手に通信を始めた。

 

「こちら正直ジョン。

 『ピノキオ』が逃走した。『ゴーレム』と『アバドン』の増援を頼む。

 繰り返す、こちら『正直ジョン』、『ピノキオ』が逃走し……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、建物の屋根を突き破って、銀色の塊が降りてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼の翼、長い尻尾、そして赤い瞳。

 スーパーヒーローみたいな着地で降り立ったのは、メカゴジラⅡ=レックスだ。

 

 レックスはちょうどわたしたちと、わたしたちを見張っている兵士たちへ割り込むように着陸した。

 わたしたちを捕虜にしていた兵士は、自分たちのド真ん中に出現したレックスに動転し、咄嗟の反応が遅れた。

 

「どけぇ!」

 

 そこですかさずレックスは両手で兵士たちを掴み上げ、ポイポイと投げ飛ばしてしまう。

 兵士たちを蹴散らしたレックスが、わたしの方へと振り返る。

 

「リリセ、エミィ、みんな大丈夫!?」

 

 そのとき、レックスの顔を見たゴウケンおじさんが驚くべきことを呟いた。

 

「あ、あんた、あのときの……!?」

 

 ゴウケンおじさんは、愕然としていた。

 初対面のはずなのに、まるでメカゴジラⅡ=レックスの姿に見覚えがあるかのようだ。

 『あのときの』

 ……かすかに、わたしの遠い昔の記憶を刺激されたような気がした。

 15歳くらいの女性。

 まさか、()()()()()()()()()()()()()()って。

 

「……ようやくおいでなすったな。

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ(ダブルエックス)

 

 他方ネルソンは不敵な笑みを浮かべていた。

 ネルソンの合図で部下の兵士たちが一斉に銃を構える。

 その銃口はわたしたちへと向けられている。

 

「もうこいつらに用はない、殺せ!」

 

 撃たれる!

 わたしはとっさにエミィとおじさんを庇い、そして目を瞑った。

 

 

 

 

 しかし、銃声と金属音が雨垂れのように響いただけで、銃弾は一発も飛んでこなかった。

 

 

 

 

「……大丈夫? リリセ、エミィ」

 

 声をかけられたわたしが目を開けると、眼前にレックスの翼があった。

 レックスが、広げた翼を盾にして守ってくれたのだ。

 

「……よかった」

 

 わたしたちの無事な姿を見たレックスは安堵し、穏やかに微笑む。

 そしてすぐさまネルソンたちの方へと振り返り、低い声で唸った。

 

「……おまえたちは、『弱い者いじめをしちゃいけない』って親から教わらなかったのか?

 ましてやお年寄りや女子供に銃を撃つなんて」

 

 レックスの背中越しに、ネルソンたちが身じろいだのが見えた。

 ……レックスとは数日間ずっと一緒だったけれど、こんなレックスは見たことがない。

 あの温厚なレックスが、こんなに恐ろしげに見えるなんて。

 

 

「もう許さないぞ!

 その腐った性根、叩きなおしてやる!!」

 

 

 そう咆哮するレックス。

 その剣幕に一瞬怯んだマティアス=ベリア・ネルソンだったが、次の行動は素早かった。

 

「かまわん、撃てっ! 撃ちまくれっ!!」

 

 配下の兵士たちが、一斉にレックスへ銃口を向けた。

 

 しかし兵士たちが発砲するよりも先に、レックスが動いた。

 お尻から伸びた長い尻尾が風を切り、その先端から放たれたマゼンタ色の光が一閃する。

 

 兵士たちのライフル銃がバラバラに分解された。

 

 怪獣さえ切り裂く高圧プラズマジェットの火炎放射、〈デストファイヤー〉だ。

 兵士たちが構えていたライフル銃は、まるで野菜の笹掻きのように切り刻まれてしまった。

 一瞬のうちにメインの銃(プライマリ)のライフル銃が使い物にならなくなったことに気付いた兵士たちは、慌てた様子で腰に着けた予備(セカンダリ)の拳銃へ手を伸ばそうとしたが、そちらもレックスのデストファイヤーで撃ち抜かれてしまった。

 ……相変わらず、人間離れした精密さだ。

 ライフル銃を一瞬でバラバラにしてしまうほどの高火力をスレスレで撃ち込んでいるのに、そのライフルを携えていたはずの兵士たちには切り傷ひとつついていない。

 わたしがマタンゴに掴まったときも、レックスはこうやってデストファイヤーで助けてくれたのである。

 あのときだってレックスが加減を数ミリ間違えていたら、マタンゴだけじゃなくてわたしも一緒に切り身になっていただろう。

 呆気に取られている兵士たちに尻尾の矛先を向けながら、レックスは言い放った。

 

「……次はどこを切ろうか?

 指? 脚? 目玉? 好きなところを切ってあげるよ。

 安心して。一瞬だから()()()()()()()()()

 

 レックスの声は、普段の温厚な様子とは似つかわしくないほどに冷たかった。

 そしてこんな破壊力と剥き身の殺意を眼鼻の先で突きつけられて、ビビらない人間なんていやしない。

 

「……う、うわあああああああああ!!!!」

 

 メカゴジラⅡ=レックスを前に、LSOの兵士たちはあっという間に戦意を喪失。

 悲鳴を挙げながら我先に逃げ出してしまった。

 ……気持ちはわかるよ、わたしもあのときは危うく漏らし……いや、チビってないからね?

 

「お、おい! 指揮官置いて逃げるんじゃねえ、おまえら!!」

 

 部下が逃げ出したのを見たネルソンは「しょーがねえなああ!」とヤケクソ気味にレックスへ向き直り、そして手袋とコートを脱ぎ捨てた。

 

 ネルソンの両手は、人間の手ではなかった。

 五本指を備えた形状こそ人間と同じだが、色は銀色で、磨き上げられた鏡のような金属光沢を放っている。

 ……まるで同じだ、戦闘モードのレックスと。

 腕だけじゃない、コートの下に垣間見える素肌のところどころから機械のパーツが垣間見えている。

 このネルソン、さてはサイボーグか。

 

「メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ、お手柔らかに頼むぜ」

「ふざけるなっ!」

 

 メカゴジラ対サイボーグ。

 睨み合う両者。

 先に動いたのはネルソンだった。

 腰のホルスターからリボルバー拳銃を抜き、目にも留まらぬスピードで撃つ。

 早撃ちだ。レックスの体表を弾丸が撃ち抜く。

 

 だがレックスは物ともしなかった。

 悠々と尻尾を振るい、デストファイヤーでネルソンのリボルバー拳銃を逆に撃ち抜く。

 ネルソンのリボルバー拳銃は爆裂、使い物にならなくなってしまった。

 

「ちぃっ!」

 

 リボルバーを破壊されたネルソンは舌打ちしながら、続いて自身の両腕を変形させた。

 そして発射台と化した両腕から、丸鋸のような円盤をフリスビーのように射出。

 〈ブラデッド スライサー〉、高速回転しながら飛ぶ丸鋸が、周囲の家具の残骸その他を滅茶滅茶に斬り裂きながらレックスへと襲い掛かる。

 

 レックスはそれらを余さずキャッチし、紙を丸めるように捻り潰した。

 

「これで終わりか、ネルソン」

「お、オーケーオーケー、わかった、参った、降参、降参する……」

 

 ブラデッド スライサーをあっさり捻り潰されたネルソンは両手を掲げようとする。

 

 

 

 

「……なあんてな! 喰らえ、〈ブラッディ トリガー〉!!」

 

 

 

 

 掲げようとした手を振り下ろし、両手からワイヤーが射出された。

 ネルソンの両手から発射されたワイヤーは、レックスの両腕を絡めとり動きを封じてしまった。

 ……ブラッディ トリガー、聞いたことがある。たしかサイボーグ怪獣ガイガンが搭載していた鎖鎌だ。

 動きを封じられたレックスにネルソンは勝ち誇った。

 

「どうだ、これで動けまい!?」

 

 レックスも抵抗した。

 身体を縮こませ、腰を落として足を踏ん張る。

 ワイヤーが張り詰め、足が床にめり込んで音を立てた。

 ……嘘でしょう?

 レックスが引きずられつつあるこの現状、わたしは信じられなかった。

 大怪獣ラドンとも互角に渡り合ったレックス。それがまさか男一人にパワー負けするなんて。

 

 だがレックスは冷静に言った。

 

「……それで、どうやって身を護る気だ?」

「へ?」

 

 レックスの言葉に虚を突かれたネルソン、その隙にレックスは腕を思い切り()()()()()

 引き寄せるつもりが、逆に思いきり引き寄せられてしまうネルソン。

 

 その股間を、レックスの蹴りが穿った。

 

「んごぶっ!?」

 

 金属音と、ネルソンから間の抜けた呻きが響く。

 ……うわあ、痛そう。レックスの身体は鋼のナノメタルで出来ている。その蹴りを股間の急所に食らうなんて、いくらサイボーグでもあれは流石に痛いだろう。

 

「た、タマ、タマがっ……!」

 

 股間を蹴りつけられて力なく悶絶するネルソンの胸倉を、レックスは掴み上げた。

 

「い、いぎぃっ!?」

 

 喉を引きつらせながらもがくネルソンだったが、メカゴジラの腕力を振り払うことなど出来るはずもない。

 

「さっき、ヒロセ=ゴウケンさんやヒロセ=ゲンゴさん、サヘイジさんを痛めつけたのはおまえだな?」

「ま、待て、誤解だ……!」

「さらにエミィを虐めたのもおまえだし、銃で撃つように命令したのもおまえだ」

 

 怒りの(ほのお)をメラメラ燃え滾らせるメカゴジラⅡ=レックスに、ネルソンは顔を青くしながら懇願する。

 

「そうだ、ここは話し合おう! 平和的に!! おれは本当は平和主義者なんだ、だから……」

 

 こんな虫の良い言葉など、当然レックスは聞く耳を持たない。

 

 

「だまれ悪党め! こうしてやる!」

 

 

 レックスはネルソンを両手で担ぎ上げると、思いきり投げ飛ばした。

 投げた方角は窓。大の男が叩きつけられた衝撃で窓ガラスが粉砕され、耳障りな音が響く。

 「ごべげっ!」という間抜けな呻き声を挙げながら、ネルソンは表へと放り出された。

 そのあとを追って、レックスも屋敷の外へと躍り出る。

 

「く、来るなあ、バケモノめ!!」

「うるさい!!」

 

 地面に引っ繰り返ったままのネルソンの足を掴み、レックスは地面に叩きつけまくった。

 

「うぺっ、あぎっ、がぺっ!?」

 

 間の抜けた悲鳴を挙げながらボロ雑巾のようにされるネルソン。

 ……あれ、ヤバいかも。

 悪党が一方的に痛めつけられる展開に最初はわたしも痛快な気分になっていたけれど、アスファルトに何度も叩きつけるのは流石にやりすぎだ。

 そんなわたしの勝手な思いを尻目に、レックスは両目と背鰭を真っ赤に光らせながら怒鳴った。

 

「おまえだけは許さないぞ……絶対に!」

 

 そしてレックスが腕をメーサーブレードに変形させたのを見て、わたしは息を呑んだ。

 

 ……いけない!

 このままだとレックスが殺人マシーンになってしまう。

 

 わたしが飛び出すと同時、レックスが腕のブレードを振り上げた。

 

「おまえなんか、真っ二つにしてやる!」

「ひぃっ!?」

 

 

 

 

 

 

「駄目だレックス!」

 

 

 

 

 

 

 間一髪、わたしは間に合った。

 レックスの肩を強くつかみ、振り返らせる。

 ……危ないところだった。

 もう一瞬遅れていたら、レックスはきっとネルソンを脳天から叩き斬っていただろう。

 

「……どうして?」

 

 手を止めたレックスの表情は、困惑していた。

 『なんで? どうして止めるの?』

 そう言いたげに、レックスはわたしへ問いかける。

 

「こいつは、リリセの大切な人を面白半分で傷つけたんだよ?

 こういう奴が世の中を悪くするんだ。生かしとく価値なんかないよ!」

 

 ……たしかに、レックスの言うとおりかもしれない。

 世の中にはどうしようもないクズもいる。

 このネルソンとかいう悪党はまさにその典型例なんだろう。

 そういう奴は世渡りが上手で、悪いことをしても責任を他人へ押し付けて自分だけ逃げていってしまう。

 そんなズル賢い人間の屑に、報いを受けさせることが出来るタイミングなんて滅多にない。

 本当は情け容赦なんか掛けちゃいけないのかもしれない。

 

 でもね。

 

「だからって、やっぱり殺したりしちゃいけないよ。

 あなた、自分で言ってたじゃない、『みんなが幸せに笑える世界を創る』って。

 そのあなたが人殺しなんかしちゃったら、誰も笑えないよ」

 

 そうやって一生懸命にわたしが言って聞かせているところで、

 

「そ、そうだよー、レックスちゃん、無闇に人殺したりしちゃダメだよー……」

 

 とかなんとかネルソンが余計なことを言い出したので、わたしはその鼻面にブーツのローキックをブチ込んだ。

「てめー、自分のこと棚に上げてんじゃねーよっ!」

「がぺっ!?」

 べきっ、という鼻の骨が折れるような音が鳴り、ネルソンはブッ倒れた。

 

 ……話の腰まで折れてしまった。

 えーっと、何を言おうとしたんだっけ。

 わたしもそんな偉そうなこと言える人間じゃあないんだけど、まあ、とにかく、アレだ、

 

 

「こんな奴のために、あなたが人殺しになんかなっちゃダメだ」

 

 

 言われたレックスは少し考えていたが、やがて答えた。

 

「……うん、わかった」

 

 そして、腕のブレードを収めてくれた。

 瞳と背鰭からは相変わらず赤い光が滾っているけれど、顔つきはさっきよりもずっと落ち着きを取り戻している。

 もう誰かを殺そうとはしないだろう。

 

 ……よかった、わかってくれて。

 これでレックスを人殺しにしないで済んだ。

 

 わたしが安堵した、そのときだった。

 

 

 

 

 突然、ネルソンが笑い出した。

 

 

 

 

 わたしたちが振り向くと、ネルソンはゲラゲラ笑いながらこんなことを言った。

 

「……いやはや、メカゴジラ相手に説教(SEKKYO)ですか。

 まったく大したお嬢さんだ。

 いやあ、おもしれーもん見せてもらいましたわ、ホントに」

 

 ……こいつ、何を言ってるんだろう。

 レックスに痛めつけられたせいで頭でも打ったんだろうか。

 もしやわたしのローキック? いやまさか。

 わたしが怪訝に思っていると、ネルソンはこんなことを言った。

 

「こんな見世物が見られるなんて、痛めつけられてまで()()()()()()()()()()()()ってもんだぜ」

 

 なんだって?

 

「あぶないっ!!」

 

 問い詰めようとするわたしをレックスが抱きかかえ、その場から飛びのいた。

 

 

 

 

 直後、わたしたちの立っていた場所に金属の塊が墜落。

 アスファルトの破片を巻き上げ、地面に大穴を開けた金属の塊は、ガチャガチャと派手な音を立てながら()()()()()()

 

 

 

 

 ()()()の身長は、目算で四メートルくらいはあるように思える。

 体型は逆三角形で直立二足歩行、左右に突き出た肩からは太く逞しい腕がぶら下がっている。

 そして金属のボディ。この独特の目映(まばゆ)い銀色の光沢、材質はきっとスペースチタニウムだろう。

 

 まさにゴーレムだ。

 

 そのゴーレムの傍らでネルソンが立ち上がり、そいつに命令した。

 

 

「やっちまえ、〈メカニコング〉! メカゴジラをやっつけろ!」

 

 

 ネルソンが呼び寄せたスペースチタニウムのゴーレム:メカニコングは、両目を明滅させながらこちらへ歩み寄ってきた。

 わたしたちよりも一回りも二回りも大きい、見上げるほどの巨体。

 みっしりと金属が詰まった密度を感じさせる重い足音、近寄るだけで押しつぶされそうな強烈な威圧感。

 ……なんだこいつ、何者なんだ。

 思わず、身が竦んでしまう。

 

「リリセ、逃げて!」

 

 レックスの指示に、わたしは我に返った。

 ……そうだ、わたしがいてもレックスの足手纏いになるだけだ。

 わたしが屋敷の中へと退避したのを確認し、メカゴジラⅡ=レックスが吼えた。

 

「ロボット怪獣め!

 おまえなんかブッ壊してやる!」

 

 対するメカニコングも、両拳を胸へと打ち付けるドラミングで応えた。

 

 

 

 メカゴジラ対メカニコング。

 ロボット怪獣同士の対決が始まった。

 




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