怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
わたしは、小さな頃から映画が好きだった。
特に好きなのは娯楽作品、ヒーロー映画だ。
『007シリーズ』や『ワンダーウーマン』、『エクスペンダブルズ』も大好きだし、『スターウォーズ』についてはメディアが擦り切れるほど観た。
勧善懲悪、アクション、スリル、友情、ロマンス、ド派手な特殊効果。
親の顔よりも見慣れた――まあ両親がいないわたしは実際にそうだったりするんだけど――最高のヒーローたちが大活躍して、弱きを助け悪しきを挫き、そして大切なものを守り抜く。
そんな映画たちを家のテレビで観ながら育ったわたしは『あんなヒーローになりたいな』と憧れたものである。
大人たちからは『あんなもの本物の映画じゃない、そんな頭を使わない馬鹿げた映画ばかり観てるとバカになるぞ』なんて言われたっけ。
……『頭を使わない馬鹿げた映画』。
たしかにそうかもしれない。
だけどわたしに言わせれば『それだけしっかり作り込まれている』ということだ。
人間というのは我儘だから、ほんのちょっとの違和感があるだけで観るのが嫌になってしまう。
『頭を使わないで観られる』というならそれはつまり、そんな違和感を徹底的に排除することができた映画、ということに他ならない。
頭を使わない馬鹿げた映画、大したことないように見えて実はとっても凄いことなのである。
そんな夢いっぱいの映画を大迫力のスクリーンと音響で観たいときに観られる、そういう幸せな時代の人たちがテレビっ子のわたしは羨ましくて仕方なかった。
一方、エガートン=オーバリーのメカゴジラ映画はあまり好きじゃなかった。
正直、バカにしていた節すらある。
……だって一作目なんかアレよ?
手作り感満載の着ぐるみで怪獣同士がプロレスするんだよ?
『予算と時間がなかったから』って理由らしいけど、いくらなんでもそれはないでしょうよ。
ゲンゴ君なんかは『わかってないなあ、それがいいんだよ。実写のミニチュア特撮にはCGにはない現実感があってだな……』なんて言い張っていたけれど、わたしには強がりを言ってるようにしか見えなかった。
ミニチュアと着ぐるみなんて、それこそ作り物以外の何物でもない。だいたい実写とCGで作った爆発の区別もついてなかったでしょうが。
確かにミニチュアはよく出来てると思うし、色々工夫してると感心することもある。
だけどそれらにもやっぱり限界はある。
それに、全部CGで出来ていたならそれこそもっと凄い映像になるに決まってる。
想像してみ? フルCGの怪獣とスペクタクル。
最高じゃん。
……なーんて言ったらゲンゴ君と掴み合いの喧嘩になって、二人でゴウケンおじさんに叱られたこともあったなあ。
いやはや子供だったね、着ぐるみ怪獣映画ごときにムキになるなんて。
閑話休題。
……そんな風に着ぐるみ怪獣映画をバカにしていたわたしが今、
運命とはまったくおかしなものである。
そんな話を脳裏に
挑む相手はメカゴジラさえも叩きのめす凶悪なロボット怪獣、メカニコング。
モゲラ対メカニコング。
スーパーロボット
「来やがれ、バケモノ!!」
わたしの挑発に応えるかのように、メカニコングは腕を振りかぶってパンチを繰り出してきた。
メカゴジラⅡ=レックスを叩きのめした、エレクトロンハンマーナックルのストレートだ。
普通のパワードスーツならきっと直撃していただろう。
が、うちのモゲラは一味違う。
わたしが操作すると同時にモゲラも即座に反応。路面をホバリングで滑走し、メカニコングの殺人パンチをすれすれのところで回避することに成功した。
モゲラはシルエットからよくデブと言われる。
ズングリムックリなんていう人もいる。
しかし見かけに惑わされてはいけない。ヒロセ工業のモゲラは動けるデブである。
フットパーツも強化しているから普通のパワードスーツよりも機敏に、そしてしなやかに動くことが出来るのだ。
……いやあ、パワードスーツの運転免許講習、マジメに受けておいて良かったー。
『芸は身を
まあ、わたしのは二級免許だけどね。
ちなみに我が愛しの妹分、エミィは一級免許。クルマだけじゃなくてこんなめんどくさい乗り物まで乗りこなすとかあの子、ひょっとして天才なんじゃないかしら。
とはいえ調子に乗っている場合ではない。
空振ったメカニコングのパンチは傍にあった電柱へ直撃、コンクリートを粉砕してしまった。
メカニコングの動きは大振りだがスピードがあり、何よりパワーは桁違いだ。
こんなのまともに喰らったら、モゲラでも一撃でオシャカだろう。
だからわたしは攻撃を真正面から受け止めるのではなく、身を躱すことに集中した。
飛んでくる必殺パンチをアームで叩いて逸らし、こまめなホバリングで素早く撹乱しながらボディへの直撃を回避する。
まるで香港映画のカンフーだ。
勢いに任せた出鱈目な操縦でしかないが、こちらがスピードで優っているおかげでなんとかやり過ごせそうだった。
……五感を酷使しているからか、頭に血が逆流してる気がする。
頭がガンガンして鼻血が出そうだ。
そうこうしているうちに、メカニコングのパンチがモゲラの装甲をかすった。
金属を引っ掻いた時の、あの神経に
……今のはギリギリだった。
しかしそろそろ限界だ。
まだなんとか捌いているけれど、こんなのいつまでも続けてはいられない。
一瞬でも気を抜いたら、パンチで胴体をぶち抜かれてしまう。
他方、メカニコングはそんなことなどお構いなしに猛烈なパンチのラッシュを繰り出してくる。
こっちはいずれ集中力が切れてへばるが、あっちは疲れ知らずのロボットだ。その気になれば一時間だって続けられるだろう。
長期戦になったらこちらの負けだ。
わたしはアームの操作を切り替え、次の手を繰り出すことにした。
アーム切り替えに伴う一瞬の空白を突いて、メカニコングがパンチを繰り出してきた。
狙うのはモゲラの胴体部分、つまりその中のコックピットにいるわたしだ。
……間に合うか?
操作しつつも衝撃に備え、わたしは咄嗟に身構える。
ガァーン、という金属音が響いた。
メカニコングのコークスクリューブローは直撃する手前で突然軌道が逸れて、わたしのモゲラのアームの拳に吸い込まれた。
腕を上げようとするメカニコングだったが、モゲラのアームから拳を外すことが出来ない。
手品のタネは、鉄材を持ち上げるためのリフティング・マグネット。
つまり〈電磁石〉だ。
スペースチタニウムはチタニウムの名を冠しているものの、性質は全然違う。
比重も強度も違うし何よりスペースチタニウムは強磁性、つまり
メカニコングがどれだけパワフルでも、そのボディの材質からは逃れられない。
もう片方の腕で引き剥がそうとするメカニコングに、すかさずわたしはもう一本のアームからもマグネットを展開し、メカニコングの腕を吸いつけた。
これでメカニコングは両腕がマグネットにくっついたことになる。
……よっしゃ、両腕を封じた!
わたしはモゲラの鼻のドリルを高速回転させ、メカニコングの顔面に突き立てた。
金属の削れる甲高い音。
鮮血のように噴き出す火花。
そしてメカニコングの右目が抉り取られた。
モゲラの鼻に搭載されているのは必殺〈クラッシャードリル〉。
スペースチタニウムの十倍硬いと言われる特殊超合金ミステロイド・スチールで出来ており、ノルマンディー上陸作戦で植物怪獣ビオランテにとどめを刺したといわれる伝説の名器である。
『なんで鼻についてるの? 腕につけた方が便利じゃん』って?
わからんかね、浪漫よ、浪漫。カッコいいでしょ?
片目を潰されたメカニコングが怯んだのを見たわたしは、続いてモゲラのアームをハンマーへ換装する。
……レックスとメカニコングの戦いを思い出す。
メカニコングの装甲はレックスのデストファイヤー、つまりプラズマジェットを
つまり並大抵の工具はもちろん、プラズマカッターでも歯が立たないということである。
……だけどそっちがスペースチタニウム装甲なら、こっちは合成ブルーダイヤのハンマーだ!
「だりゃあぁっ!!」
ようやく立ち直ったメカニコングに、わたしは重たいハンマーのフルスイングを叩き込んだ。
ゴオォォーン……
一帯に、気持ちいい感じの金属音が響き渡る。
レックスの攻撃でもびくともしなかった、メカニコングの顎がひん曲がっていた。
この〈デモリッシャー・ハンマー〉は、旧地球連合軍の超兵器を
戦闘用ではないけれどコレで壊せなかったジャンクは見たことがない。
メーサー戦車、マーカライトファープ、対怪獣兵器をいくつもバラしてきたし、スーパーXⅡの超耐熱合金TA32だって破壊したこともある。
もちろんスペースチタニウムだって打ち砕く。
わたしはメカニコングに、デモリッシャー・ハンマーの殴打を振舞うことにした。
さっきレックスがやられた仕返しだ。
こちらのペースに乗せられて反撃もままならないメカニコングを、わたしはボコボコに叩きのめした。
「オラッ、オラッ、オラオラオラオラッ!!」
リズミカルな轟音、スペースチタニウムの装甲にキズとヒビが入り、凹みが生じる。
工事現場さながらの騒音、ド派手な火花を飛び散らせながらメカニコングのボディへダメージを蓄積してゆく。
このままノックアウトしてやる!
メカニコングも反撃してきた。
こちらの猛攻の隙間を縫いながら、エレクトロンハンマーナックルの一撃を繰り出そうとする。
迫りくるメカニコングの猛烈パンチ。
わたしはその勢いを活かしたカウンターで、ブルーダイヤのハンマーを鼻先にめり込ませた。
ロッキー顔負けのパンチにあとずさるメカニコング、そしてわたしはハンマーで力一杯の下手投げを御見舞いしてやった!
「おんどりゃあァァ――ッッ!!」
ハンマーのラッシュで突き飛ばされ、後ずさるメカニコング。
これでトドメだ!
そしてわたしはモゲラの拳を
直後、メカニコングの足元が爆裂。
周辺一帯が衝撃で揺れる。
メカニコングの巨体が一瞬で地中へ沈んだ。
モゲラ必殺、〈リクファクションアタック〉。
地面に突き立てたパイルからの衝撃波で地面を揺らし、
元々は建物を発破解体するために考案された方法だが、十トントラックよりも重いヘビー級のメカニコングには効果抜群だ。
地中に嵌まったメカニコングを横目に、わたしはぐったりと地面へ倒れたままのメカゴジラⅡ=レックスを見た。
……かわいそうに。延々と叩き込まれ続けた電気ショックとパンチのせいで、今もまだ動けないのだろう。
そしてメカニコングに視線を戻す。
地中へ埋まったメカニコング。
さしずめ蟻地獄だ。這い上がろうと藻掻けば藻掻くほど、どんどん沈んでいってしまい、最初は両脚までだったが、今や下半身が完全に埋まってしまった。
そんなメカニコングの前に、わたしは立つ。
……よくもレックスをいじめたな、機械仕掛けのドンキーコングめ。
おまえのことは絶対に許さない。
モゲラの両腕をハンマーに換装しながら、わたしは吼えた。
「おまえなんかバラバラのスクラップにして、蚤の市で叩き売ってやるッ!!」