怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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47、Let Them Fight

「子供を食い物にするような人の仲間になんてなりたくありません」

 

 眼下のホール、ナノメタルのエサにされた幼獣を追い立てているパワードスーツ作業員の顔を見たとき、わたしの中でヘルエル=ゼルブの評価は決まった。

 

 ……あの作業員は年端もいかない子供だった。

 おそらくはエミィとさほど変わらないほどの年齢だろう。

 そんな子供に怪獣の世話??

 そんな危険極まりない仕事をやらせるなんて、コイツ最低最悪じゃないか。

 

 

 もうひとつ許せないのは、あのネルソンとかいうクズがヒロセ家の人たちに暴力を振るったことだ。

 ……サヘイジさんは大怪我をしてしまった。

 ゲンゴ君は腕を折られた。生き甲斐のマンガをもう描けないかもしれない。

 ゴウケンおじさんもあんな暴行を受けたら車椅子生活になってしまう。

 ヒロセ家がこれだけの痛手を負ったら、その配下の会社の人たちだって路頭に迷ってしまうかもしれない。

 

 いくらお金を積まれたって折られた腕や脚、受けた暴力はなかったことにはならない。

 それをやらかしたネルソン当人を不問にしておいて『お詫び』?

 『充分な補償はさせてもらう』?

 

 

 

 はあああああああああああ????

 

 

 

 ざけんじゃねぇーっつぅーのッッ!!!!

 

 

 

 怒りに顔を痙攣させるわたしを前にしながら、ヘルエル=ゼルブは考えるように顎に手を当てるだけだった。

 

「……ふむ、タチバナ=リリセ。

 児童労働(ChildWork)は、キミたち地球ではごく普通に行われている風習だと思っていたのだが、キミの文化圏では違うのかね」

 

 口が寂しくなったのか、ゼルブはテーブル上の皿に盛られたチョコレートに手を付け始めた。

 わたしにも勧めようとしたが、わたしが受け取らないのでゼルブはそれを口に放り込んだ。

 

「この美味いチョコレートとて、キミたちの文明においては児童労働の産物だ。

 原料となるカカオ豆は、地球人の子供による労働で生育されることによって、その製造コストを抑えていた。

 チョコレートだけじゃない。薬物(ドラッグ)から紛争地域における戦争行為まで、この星ではあらゆる産業が日常的に児童労働で賄われていたのだ。

 『地球の文明において児童労働は必須な構成要素のひとつ』

 地球入植前に行なった我々の事前リサーチではそういう結論だった。

 ……教育体制が崩壊してから久しいとはいえ、わたしですら知っているこの事実を地球人のキミが知らなかった、というのは流石に勉強不足だと思うがね」

 

 ……たしかに、わたしにとっても、人手が足りずに大人に混じって子供が働いている場面は見慣れた光景だった。

 ちょっと小腹を満たす程度の役割と栄養価しか持っていないチョコレート。自分が食べられるわけでもないお菓子を作るため、日夜、身を粉にして働く子供たち。

 そんな光景なんて、わたしが知らないだけで過去の地球の歴史上においてもしばしば見られたものだったのかもしれない。

 ……それはわかっている。

 

 だが、わたしはそれだけで怒っているのではないのだ。

 

「あなた、怪獣の管理がどれだけ危険か、わかってるはずでしょう?

 それをあんな装備でやらせるなんて一体何考えてるんですか」

 

 体内に危険な細菌が常在している怪獣や、毒を持った怪獣、強い放射能を帯びた怪獣もいる。

 作業中に事故を起こす危険性はもちろんのこと、あんな顔も丸見えの杜撰な防毒装備では病原菌の感染や放射線被爆の危険だってある。

 その危険性をビルサルドのヘルエル=ゼルブが理解していないはずがない。

 

 危険だとわかっていることを、何も知らない子供を騙して、あるいは力づくで無理矢理やらせている。

 そんな外道な行いに手を染めながら平然としているゼルブの態度が、わたしにはどうしても許せなかったのだ。

 

「……危険、ねえ」

 

 チョコレートをぼりぼりと噛み砕きながら、ゼルブはわたしに聞き返した。

 

「かくいうキミこそ、子供に危険な現場でメカの操縦をやらせているではないか。

 同じことをしているに過ぎないのに何をそんなに反感を抱くのか、わたしには疑問だが」

 

 エミィのことを言っているのだろうか。

 わたしは言い返した。

 

「あの子はああいうことをしなければ生きていけないからやってるだけで……」

「そうだ、そのとおり。この子供たちもここで働かなければ生きてゆけない」

 

 わたしの反論に、我が意を得たりと言わんばかりのゼルブだった。

 

「ここで働かなければ怪獣に踏み潰されるか、別の場所で死ぬまで搾取されるか、雨露(あまつゆ)もしのげずに野垂れ死ぬか。

 我々はただ働かせているわけではない、保護を与えているのだよ。

 もちろんタダで保護を与えるわけにもいかないから、教育も兼ねて労働を課している。

 しかも日々を繋ぐだけの無為な労働ではない、人類の未来にもつながる有益な事業だ。

 代わりの稼得手段もないまま仕事を取り上げれば、それこそ彼らは死ぬしかない。

 これ以上我々が何を提供すれば、キミは満足するのかね」

 

 『子供に働かせる』というゼルブの考えはこの御時世、ポスト=ファイナルウォーズに適応したビルサルドとして行き着いた合理的な結論なのだろう。

 かつての地球人だって似たような理屈で子供を働かせていたのかもしれないし、こんな子供の心配をする方が青臭くて浮世離れしているのかもしれない。

 

 だけど、それでもわたしには受け容れられなかった。

 あんな年端も行かない子供たちがこんな命を使い捨てるような生き方をさせられるなんて、どうしても許せない。

 

「あの子たち、感染症か急性被爆で死にますよ。そう長くないうちに」

 

 わたしの指摘に対し、ゼルブは余裕たっぷりに答えた。

 

「なあに、心配ないさ。既に手は打ってある」

「『手は打った』ですって? あんな無防備な装備のいったいどこに手が打ってあるんですか!?」

 

 テーブルに手を叩きつけて怒鳴るわたしに、ヘルエル=ゼルブは恐るべきことを言った。

 

()()()()()()()()()()()

 ナノメタライズすれば放射能被爆などおそるるに足らん」

 

 ……なん、だって?

 この男、今、なんて言ったの。

 絶句するわたしに、ヘルエル=ゼルブは笑いながら説明した。

 

「ナノメタルは死を克服する。

 言ったろう、『ナノメタライズの検証を行なった』とな。

 ナノメタルがこの星の素材(マテリアル)と相性が良いことは、既に検証済だ」

 

 その時わたしは総毛立つ感覚を覚えた。

 その続きを聞くのが恐ろしくてたまらない。

 

 

 

 ……まさか、そんな、嘘でしょう?

 

 

 

「マテリアル、って、まさか……」

 

 そんなわたしにゼルブは呆れた口調で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と察しが悪いな。

 キミたち地球人のことだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……考えてみれば当然のことだ。

 ガイガンという怪獣をナノメタルで改造したと言っていた。

 この星そのものさえ改造できるのだから、人間だってそうだろう。

 ……そのことに思い至らなかったのではない。

 考えたくなかっただけだ。

 

 

 でもまさか、子供を改造するなんて。

 

 

『ビルサルドだって言葉の通じるヒト型種族、話せば分かり合えるかもしれない』

 そんな楽観的な期待は木っ端微塵に砕け散ってしまった。

 愕然としているわたしを見ながら、ゼルブは頭を掻いた。

 ショックを受けたのは流石にわかったようだ。

 

「これでもキミたち地球人には感謝しているのだがなあ。

 新しい故郷を得られたし、飲酒飲食という不合理を楽しむ余裕や価値観も伝授してくれた。

 これは心ばかりの御礼のつもりなのだが、お気に召さなかったかね」

 

 そしてゼルブは語り続ける。

 

「考えてもみたまえ。

 ナノメタライズされた肉体は生体故の制約には縛られない。

 傷病に苦しむことも、老いることすらない。

 さらにキミたちが三大欲求と呼んでいるようなものとは無縁だ。

 食欲、睡眠欲、そして性欲(セックス)。まさに自由だ。

 これこそヒトが長いあいだ望み続けた理想、生命が次のステージへ進化したも同然ではないか。

 いっそキミもナノメタライズしてみてはどうかな。そうすれば考えも変わるかもしれんぞ」

 

 自由、()()だって???

 何が自由なものか。こんなの、製造ラインのロボットに改造してるだけじゃないか。

 そんなわたしを前に、ハハハと快活に笑っているヘルエル=ゼルブ。

 そしてわたしは一つの真実を理解した。

 

 

 こいつは『侵略者』だ。

 

 

 本物の侵略者は『地球を侵略しに来ました』なんて宣言したりはしない、そんなのは独立記念日(ID4)に宇宙人が攻めてくるSF映画だけだ。

 それどころか当人たちでさえ気づいていないのかもしれない。

 『未開の惑星で不便に暮らしているカワイソーな発展途上種族に、我々の先進的な文明の叡智を授けてあげよう!』

 そんな善意のつもりなのかもしれない。

 そして考えもしないのだろう。

 彼らがやっていることがわたしたちの尊厳を踏みにじる行為、すなわち『侵略』以外の何物でもないことを。

 

 

 

 ビルサルドの正体は地球を狙う侵略者だった。

 そしてメカゴジラとは、ビルサルドの地球侵略兵器だったのだ。

 

 

 

「そして、ここの労働者たちには作業前にナノメタルで改造済だ。

 だから放射能汚染も細菌感染の心配もない。

 それどころか一ヵ月以上休むことなく働いた者だっていたくらいだ。

 それで生産性や品質が落ちることもない。

 どうだ、素晴らしいだろう」

 

 そしてこのヘルエル=ゼルブは、人間をオートメーション工場の作業ロボットかなにかとしか思っていない。

 今さっき言った『保護を与えている』がどうとかいう(もっと)もらしい理念なんて、結局は人前で喋るための建前でしかないのだろう。

 怒りのあまりに全身が震えた。

 

「……このこと、ちゃんと説明してるんですか。

 人間をやめることになる、って」

 

 殴り掛かりたくなるのをなんとか抑えて訊ねると、ゼルブは「勿論だとも」と答えた。

 

「聞かれればビルサルドはいつだって丁寧に説明しているよ。

 ……まあ、聞かれればの話だが。

 初めから隅々まで丁寧に言って聞かせたところで、どうせキミたちには理解出来まい」

 

 そのせせら笑うような言葉を聞いたそのとき、考えるよりも先にわたしの身体が動いていた。

 テーブルから身を乗り出し、ゼルブの胸倉に掴みかかろうと腕を伸ばす。

 しかし後ろで控えていた兵士にすぐに抑えつけられてしまった。

 

「アンタ、、アンタって人は……ッッ!!」

「否定するのかね。

 拒否するなら代案があるのだろうね?

 もし無いのだとしたら、そんなものは子供が駄々をこねているのと変わらんよ」

 

 息を荒げてもがくわたしを横目に、ゼルブは悠然とした態度を崩さない。

 

「……キミたち地球人はいつだってそうだ。

 身勝手で、感情的で、非合理的。

 キミたちはいつも『自分たちに理解できない』という理由で無責任に喚くだけだ。

 大局的な視野を持とうともしない」

 

 甘いものを食べたので口が乾いたのだろう、ゼルブは懐の水筒(スキットル)で口を潤してから語り続けた。

 

「現実はひとつしかない。

 その現実を好き放題に解釈して捻じ曲げるのがキミたち地球人だ。

 自分たちに都合良い未来像を勝手に夢想して、それで自分の思いとおりじゃないと察知した途端『騙された、詐欺だ』などと勝手なことを喚き散らして現実を逆恨みする。

 何が『詐欺』だ。キミたちが一方的に身勝手な期待をしていただけだろう。

 ビルサルドのわたしに言わせれば、ただの好き嫌いと道理の正否を感情に任せて混同するキミたち地球人の方がよほど不誠実だと思うぞ。

 仮にも万物の霊長、ヒト型種族とあろうものが感情に振り回されるとはまったく情けない」

 

『メカゴジラもビルサルドも、そもそも最初からそういうものだ。地球人(おまえたち)こそ身勝手だ』

 ゼルブはそう言いたいのだろう。

 しかし互いの理解に重大な食い違いがある、しかもそのことがわかってるのに共通の了解を得られるように説明しない時点でやっぱり詐欺じゃないか。

 (いきどお)るわたしに、ゼルブは問いかけた。

 

「そもそもキミは何故そこまで拒絶するのだ。

 ナノメタライズなど、当人たちの希望に沿って身体を改良してやっただけのこと。

 親族たちの承諾は得ているし、当人たちも喜んでいる。

 たっぷりの給金に管理された安全な職場、しかも鋼の肉体という豪華な特典まで付いているではないか。

 それの何がいけないのか、まったくわけがわからない」

 

 こんなことをいけしゃあしゃあと言ってのけるヘルエル=ゼルブに、わたしは怒りを募らせた。

 

 ……こいつは、年端もいかない子供たちを詐欺同然の手口で騙し、ロボット工場の部品に作り替えてしまう。

 こいつは、そうやってチョコレートを食べるみたいに子供たちの未来を食い潰してゆく。

 しかもそのことに対してちっとも悪いと感じていない。

 こんな腐ったヤツに対して『案外良い人なんじゃないか』なんて一瞬でも思いかけた自分がバカみたいだ。

 

「ところで……」

 

 と、結局一人でチョコレートを食べきってしまったところで、ヘルエル=ゼルブは話を変えた。

 

 

 

「キミの、その左目のコンタクトと、ボタン型の盗聴器は、自前かね?」

 

 

 

 背筋に氷水を流し込まれた感覚があった。

 ウェルーシファたちから『ゼルブの悪行を暴いてほしい』と託されたコンタクトレンズ型のカメラと、ボタン型盗聴器。

 ゼルブはこのことを言っているのだ。

 

 

 ……作戦が、バレてるのか。

 

 

 固唾を呑むわたしの様子を見ながら、ゼルブは満足げにニヤリと笑った。

 

大方(おおかた)ウェルーシファの差し金だろうが、そんな小細工がわたしに通用すると思っていたなら流石に大人を甘く見すぎだな。

 キミがこちらにつくというのならその程度の悪戯は目を瞑ってやっても良かったんだが、そうじゃないならまあ、残念だ」

 

 ……まさかこの男、最初から気づいた上で重要な機密を何もかも見せたのか。

 いや、重要な機密だと思っているのはわたしだけで、ゼルブからすれば知られたところで痛くも痒くもない部分だったのか。

 それどころかゼルブにとってはむしろ見せつけて自慢してやりたい部分だったのかもしれない。

 

 最初からゼルブの手の内だったなんて。

 

 わたしは自分の浅はかさが悔しかった。

 ゼルブやウェルーシファの言うとおりだ。

 わたしは所詮、大人ぶっているガキに過ぎなかったのだ。

 ちょうどそのとき、制御ルームに入室してきた者がいた。

 

「統制官殿! 失礼いたします」

 

 ヘルエル=ゼルブの腹心、マティアス=ベリア・ネルソンだ。

 

「どうだネルソン。やはり()()が動いたろう」

 

 入室してきたネルソンにゼルブが問いかけると、ネルソンは答えた。

 

「はい、統制官殿の予測計算通りであります。

 ヴァバルーダ級エクシフ飛行戦艦:ヴァバルーダを旗艦とする〈真七星奉身軍〉の艦隊がこちらに向かっております」

 

 ……ウェルーシファ率いる真七星奉身軍が、この孫ノ手島に?

 そんなネルソンの報告を聞きながらゼルブはハッと鼻で笑った。

 

「随伴は?」

「ランデスとザグレスであります!」

「ランデス、ザグレス、それにヴァバルーダ。ヴァバルーダ級を三隻か。

 隠していた空中戦艦を全て出してくるとは、あの魔女もいよいよ追い詰められたと見える。

 他はどうだ?」

 

「はっ、その他は……」

 

 詳細な規模を説明するネルソンの報告を、ゼルブはふむふむと相槌を打ちながら聞いている。

 ……わたしは、愕然とした。

 ここまで作戦がバレてるんじゃあ、待ち伏せも同然じゃないか。

 絶句しているわたしに、ゼルブが振り返る。

 

「言ったろう、『エクシフはあまり信用しない方がいい』とな」

 

 笑いながらゼルブは言った。

 

「驚くことはない、ウェルーシファとは長い付き合いだ。

 何を考え、どう動くか、お互いのことはイヤというほどよく知っている。

 あいつがキミを送り込んだのも、キミがタチバナ准将の娘だからだ。

 旧友であるタチバナ准将の娘なら、わたしが気に入って懐まで招き入れると踏んだのだろう。

 ……昔からそうだ。人間をゲームの駒か手札としか思っていない」

 

 ゼルブは手をひらつかせながら続けた。

 

「どうだね、タチバナ君。

 これがあのカルトども、エクシフがのたまう『献身』とやらの正体だよ。

 奴らの言う献身、報身、そんなものは搾取を体よく言い換えた奴隷道徳に過ぎん。

 『あとから助けに行ってやる』なんて言ったかもしれんが、どうせそんなもの来やしない。

 君は奴らにとって宣戦布告の鏑矢(きょうし)、捨て駒なのだからな」

 

 「これから奴らがどう行動するか手に取るようにわかる」とゼルブは言った。

 

「まずウェルーシファが適当なことをほざく。

 『タチバナ=リリセは偉大なる宇宙知性に身を捧げた』とかどうとか、如何にもそれらしいことを抜かすだろう。

 言葉面ばかり飾り立てた、中身など何もない戯れ言。

 エクシフの常套句だ」

 

 そう語るヘルエル=ゼルブの口元には、小馬鹿にしたような冷たい笑いが浮かんでいた。

 

「だがたとえ戯れ言でも、信者どものスポンジみたいな穴だらけの脳内を補完するならそれで充分さ。

 思考停止した信者どもは、ウェルーシファが用意した都合のいい物語に有難く乗っかるだろう。

 キミのことはさも悲劇の英雄であるかのように語り継いでくれるだろうな。

 『自分たちがそういう風に食い物にした』、その事実はあっさり忘れて。

 ……ふん、自分で考えることすら放棄したみじめな畜群風情が。

 家畜なら家畜らしく身の程を弁えていればいいものを」

 

 ソファーを立ったゼルブはコート掛けにかかっていたビルサルドの軍服コートを羽織り、腕を袖に通した。

 

「いい機会だ。

 あのイカレた信者連中はいずれ徹底的に叩き潰しておかねばと思っていた。

 性根まで腐り切ったエクシフとその信者共に、我々ビルサルドの強さをみせてやる。

 おいネルソン、」

 

 胸のボタンを留めながらゼルブが訊ねた。

 

「〈LTFシステム〉は用意できているか?」

 

 ゼルブの指示にネルソンが驚く。

 

「はい、ご指示の通りですが……まさか、アレを対人戦で使うつもりですか!?」

 

 ニンジャ軍団に銃を突きつけられても飄々とした態度を崩さなかったあの冷静沈着なネルソンが、動転している。

 そんなネルソンの様子など気にもかけずにゼルブは平然と言う。

 

「ああ、そう言った。LTFシステムで迎撃しろ」

「し、しかしお言葉ですが統制官、アレはまだ調整段階です。

 実戦投入するのはまだ早計かと……」

 

 そう狼狽しながら固辞しようとするネルソンの口ぶりからすると、LTFシステムというのはLSOの虎の子である一方で相当のリスクがあるものらしい。

 

「かまわん。

 費用対効果を考えればそれが最善だ。

 どこまで制御できるか、テストにもちょうどいいだろう」

 

 ゼルブは不敵に笑った。

 

 

 

やつらを戦わせるのだ(LetThemFight)

 

 

 

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