怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
エミィ=アシモフ・タチバナが立てたプランは、至ってシンプルだ。
エミィと浅黒肌の少年だけが先行して基地内部で騒ぎを起こし、騒ぎに乗じて子供たちを連れ出してボートか何かを盗んで逃げる。
おそらく平常時だったらあっさり捕まるだけの幼稚な作戦だろうが、しかしエミィには勝算がある。
エミィはネルソンの話を覚えていた。
『まったく、あと一時間で奉身軍と一戦おっぱじめようってときに何やってんだか……』
どうやらここの連中、LSOはまもなく真七星奉身軍と戦争を始めることになる
外側の敵に気をとられているあいだなら、内側で騒ぎのひとつやふたつ起こす隙だって出来る
床下に子供が10人も隠れ住んでいるのに、ちっとも気付かないような連中なのだ。
トラブルが重なれば、ボートがひとつやふたつ消えたって見逃す
「らしい」とか「~はずだ」とか、「~かもしれない」ばっかりの、穴だらけの作戦だった。
だいぶ大甘に見た、作戦と呼ぶのもお粗末な子供の考えなのもエミィにはわかっている。戦争するからといって内部の監視が緩むなんてことはないかもしれないし、相手は大人でこっちは子供だ。ちょっと機械弄りが出来るだけの子供と、島の抜け穴に詳しいだけの子供なんて、そんなのアドバンテージでも何でもない。仮に正面から鉢合わせして銃でも向けられたら目も当てられない。そして万一捕まって拷問でも受けたら、隠れている仲間の子供たちのこともバレてしまうかもしれない。
甘い、そして無謀な冒険。
……だけどこれしかない。
子供たちと共に逃げ出すためにエミィが採れる選択肢はこれしかないのだ。
道具の類は、さきほど少年が手錠を外すときに使った工具類がもう一揃いあった。これで少年とエミィ、二人分の道具が揃ったことになる。
ピストルでもあればもっといいのだが、食糧や工具類は盗めても流石に銃器は盗めなかったようだ。
ごめんね、と謝る子供たちにエミィは「気にするな」と首を振った。
「わたしだって銃は嫌いだしな。
それにわたしには
そこでぽんぽんと叩いてみせたのは、腰に付けた工具のポーチに入れた合金製のドライバーだった。
マイナスドライバーでも、ナイフの代わりに振り回せば充分武器になる。いざってときはこれでグサリ!だ。
装備を整えたエミィは、続いて身支度を始めた。
目を引くブロンドの髪はリボンで結わえたうえでニット帽で隠し、服装も暗がりへ紛れられるように黒っぽい上着を羽織り、白い肌は
全身を真っ黒に塗りながら、エミィは「……なんか、こんな映画あったな」と思い出した。
それはかつてリリセと一緒に観た映画で、ジャングルで
……なんだ、なかなか縁起がいいじゃないか。
それにあの主人公のコマンドーを演じていた俳優は、色んなアクション映画に出演していた大スターだ。彼はいつだって大活躍して、悪者をやっつけて、大切な家族を守り抜いていたじゃないか。
あの筋肉モリモリマッチョマンにあやかるというのだからこれほど心強いことはない。そうとも、これならきっと上手くいく!
……実際のところあの映画では泥の偽装は結局バレてしまい、主人公のコマンドーは肉食宇宙人から手酷く痛めつけられる羽目になるのだが、そのあたりの話は都合よく忘れることにした。
そうやってテンションを無理矢理にでも上げておかないとやってられない。
「……そろそろ、大丈夫か?」
エミィは隣で準備を終えた当座の相棒、〈浅黒肌の少年〉に訊ねた。
満面の笑みで力強くうなずく浅黒肌の少年。
そんな少年を見ていたエミィは一抹の不安を覚えた。
(……コイツで本当に大丈夫なんだろうか。)
少年の表情は楽しげだった。
まるでこれから遠足に行くかのようだ。これから決死行に
(フニャフニャした顔しやがって。事の重要さがちゃんとわかってるのか?)
やっぱり置いていった方が良いんじゃないかという不安が拭えないものの、実際のところそういうわけにもいかないのだった。
決起宣言のあと地図を調べてみたが、やはりエミィ一人でここの抜け穴すべてを網羅するのは無理があった。あんなのをこの短時間で暗記するなんて、一切勉強してなかった奴が一夜漬けで大学受験を受けるようなものだ。
メモを取るのもダメだ。捕まったときにこの隠れ家が割れてしまう危険がある。
やっぱりここは抜け穴をすべて把握しているという、この少年を頼るしかない。
(だけどコイツに頼るのもなあ……)
何が楽しいんだかわからないがやけに楽しそうな少年の表情を見ながら、エミィは溜息を吐いた。
たしかに格闘センスは凄いし、地図も暗記してるのは頼もしいのだが、そもそも緊張感がなさすぎる。遊びに行くんじゃないんだぞ、おまえ。
そんなエミィの視線に少年の方も気づいたらしく、少年はエミィの肩をぽんぽんと叩いた。
「『なんとかなるよ、ぼくに任せて!』って?……なんか、楽しそうだな、おまえ」
そんな少年にエミィは訊ねてみた。
「おまえはどうしてそんなに平気なんだ? わたしは不安でたまらないよ」
それに対し少年は『そりゃあ不安はあるけれど』という顔をした。
――だけど今更悩んでも仕方ないでしょう?
……こいつ、なかなか大物かもしれないな。
ここまで自信満々なあたり、何か奥の手のようなものでもあるのかもしれない。
「そこまで言うなら秘策でもあるんだろうな?」
――ないよ、そんなの。あるわけないじゃん。
「ないのかよ」
思わずツッコむエミィに、少年はウッシッシッシと笑った。
――だけど心配すんな、なんとかなるよ。
……だから『だまって俺について来い』か。
エミィは眉を顰めたが、一方でこう思った。
(……まあこいつの言うことも一理あるよな。)
たしかに、今さら怖じ気づいても仕方ない。
それに責任云々いうならわたしの方だ。あんなカッコつけたこと言って焚きつけたのはわたしなんだから。
まずはやらなくちゃ。そのうちなんとかなるかもしれないし。
「おまえの顔を見てたら、本当にどうにかなる気がしてきたよ」
――そう? それならよかった!
フッと自嘲気味に笑うエミィと、エヘヘと楽しげに笑う浅黒肌の少年。
そんな少年の笑顔を見ながら、エミィは内心で頭を抱えた。
(笑ってる場合じゃねえんだけどなあ……)
兎にも角にも。
かくして二人は隠れ家を出発した。
ちょうどその頃、『彼』が目を覚ました。
地上で暮らす者では誰も到達できぬほど深く、光の世界を生きる者では見通せぬほど暗い、遠い遠い海の果て。
マリアナ海溝でさえ浅瀬に思える深奥、マグマの河川が流れる地底空洞。
詩人ジョン=ミルトンが描写した悪魔どもの追放先にもよく似た、この惑星の最底辺。
その最果てに、彼の居城は存在した。
マントルに接する数千度の高温と超高圧、地上生物にとっては致死量の放射線で満ち溢れた地下世界。
しかし、たとえ地上生物には耐えがたい地獄でも、それら全てに耐え得る彼にとっては居心地のよい保養地のようなものだ。
彼にとってこの場所は、誰からも邪魔されることなく孤独と
まさにこの世界でたったひとつの安息地とも言える場所なのだった。
彼はそもそも無敵であった。
何者にも傷つけられない絶対防御の盾と、何者をも貫く絶対破壊の槍。
誰の目にも留まる偉容の巨体を持ちながら、誰にもその出現を予見させない神出鬼没さ。
そんな彼をある者は〈破壊の権能を統べる者:破壊の王〉と呼び。
人類は〈キングオブモンスター〉と呼んだ。
……その
儚く、気高く、そして誰よりも美しく慈悲深い、〈慈愛の女王〉。
かの女王は取り返しのつかないほどの深手を負いながらそれでも
そんな女王との
たえがたい激憤を
……馬鹿なサルめ。
女王への恩義をあっさりと忘れ、性懲りもなくこの星を食い潰そうとしやがって。
『人間たちにもう一度チャンスを』だと?
ふざけるな。
哀れな慈愛の女王。
ヤツらはおまえの犠牲を無駄にしやがった。
そしておまえは底無しに愚かだ。
もしもおまえの言うとおりヤツらが利口だったなら、破壊の王たるこのおれが息を吹き返すことなど無かったろう。
そんなことすらわからなかったなんて。
彼は怒りに震え、すべての元凶たる人類の愚かしさを心の底から憎悪した。
これからは容赦しない。
今度こそ根絶やしにしてくれる。
固く閉じていた
その姿はまさに吼える大地、燃える山。その息吹は嵐、その憤怒は
世界が終わる、〈ゴジラ〉が目覚める。