怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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記念すべき50話。


50、窮地

 エビラとメガギラスの大活躍を、わたし、タチバナ=リリセはセントラルタワーの上階から観戦していた。

 メガギラスはネルソンが従えているのを見たが、まさかエビラまで操っているなんて。

 

「どうだね、これが我らビルサルドの力だ!」

 

 わたしの隣で、LSO統制官ヘルエル=ゼルブは誇らしげに言った。

 

「このセントラルタワーから半径10キロ以内、操作制御用のA39指令指揮車からでも数キロ圏内であれば自在に制御可能!

 メガギラスとエビラだけじゃない、大ダコ、カマキラス、クモンガ、ゆくゆくはもっとビッグネームも配備予定だ。

 我々ビルサルドの科学力は遂に、怪獣さえも支配したのだ!」

 

 なんて残酷なことをするんだろう。

 昔読んだ科学の本に、昆虫の脳に電極を刺してラジコンのように操作する実験が載っていたのを思い出す。

 仕組みはそれと同じだろう。脳髄に機械を埋め込んで、電波かなにかで無線操縦しているのだ。

 ……それにしてもこのヘルエル=ゼルブというビルサルド、まったく、どうかしている。

 こんなしょうもない人間同士の争いなんかに怪獣を巻き込んで、その上さらに人殺しの道具にするなんて。

 

「見たまえ、タチバナ君!」

 

 わたしがそんなことを考えているとは夢にも思っていないのか、ヘルエル=ゼルブはまるで面白い玩具を自慢するかのように声を弾ませていた。

 

「これぞ、我らビルサルドの輝かしい叡智がもたらす未来像だ!」

 

 海のエビラが、自慢のクライシスシザースで真七星奉身軍の舟艇を次々と捻り潰す。

 空のメガギラスが縦横無尽に飛び回り、戦闘機を片っ端から叩き落してゆく。

 脳に埋め込まれたコンピュータで本来の習性を狂わされ、人殺しの操り人形に成り下がった怪獣たち。

 

 そしてそんな怪獣たちにひたすら蹂躙される奉身軍。

 破壊された飛行機や舟艇から海へと投げ出されたり、爆発に巻き込まれたり、人間がボロクズのように次々と殺されてゆく。

 三隻あったはずの空中戦艦は今や一隻だけになってしまった。

 もう何人死んだのか、想像もつかない。

 

 そんな大殺戮を眺めながら、ゼルブは高らかに笑った。

 

「怪獣などもはやおそるるに足らん!

 統制された怪獣、正当なる鋼鉄の秩序(Legitimate Steel Order)、これぞ我が理想郷〈パクス=ビルサルディーナ〉だ!

 愚劣な反逆者どもなど、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩを旗艦とした怪獣艦隊で捻り潰してくれるわ!!」

 

 ……かつてビルサルドはゴジラひいては怪獣という存在に勝てなかった。

 その雪辱が、怪獣を統制するLTFシステムで晴らされようとしている。

 すべてを支配しているという万能感がゼルブを陶酔させているようだった。

 

「ふははははは、カルトの狂信者風情にやられるようなゼルブ様じゃないわ。はははははは!」

 

 ヘルエル=ゼルブの高笑いが響き渡る。

 ……その様子を黙って見ていたわたしはふと、「こうしてビルサルドは滅んだんだろうか」と思った。

 科学力(テクノロジー)、権力、知力、暴力、チカラがあれば何をしてもいいと思っている。

 きっとヘルエル=ゼルブという男は一事が万事、()()なのだろう。

 

 ――力こそ正義。

 強い方が正しくて、弱い方が悪い。

 そして、強者には弱者を自由に支配してもいい権利がある。

 悔しかったら強くなればいい。

 生きとし生けるものは強くなろうと努力しなければならないし、だからこそ知性ある者は強くならなければならない。

 それすら出来ぬムシケラなど、強者から煮るなり焼くなり好きにされて当然なのだ――

 

 本気で()()思っているのだろう。

 だからこそ弱い子供の命を生産ラインの部品に改造しても気にしないし、怪獣をラジコンに作り替えるような残酷なことをしても平気でいられる。

 だって、自分は強いから。

 強い奴は何をしても許される。

 ……たしかに一理ある。

 力がなければ何も出来ないし、力がある人は批判者を力任せに捻り潰すことだってできる。

 それはどんなに綺麗事でも誤魔化せない現実で、胸がムカつくくらいの正論で、そして紛れもないこの世の真実だ。

 

 そんなヘルエル=ゼルブの生まれたビルサルドの文明が、ブラックホールという巨大な力に飲み込まれて終わったのはなんとも皮肉な話だが、ゼルブの態度を見ているとやはりそれも必然だったのかもしれないと思えた。

 

 

 だからつい、口を突いて出てきてしまった。

 

 

「……『だからビルサルドはダメなんだ』なんて偉そうなこと言える立場じゃないし、ビルサルドをまとめて論じる気もないけどさ。

 少なくとも、アンタが移民船に乗せてもらえなかった理由はわかった気がする」

 

「……なんだと」

 

 振り返ったゼルブに、わたしは愛想よくニッコリ笑って見せた。

 ……これ、言っちゃったらただじゃ済まないだろうなー。ホントに殺されるかも。

 

 だけどそれでも、どうしても。

 ひとこと言ってやらないと気が済まない。

 わたしは言った。

 

 

 

「だって、アンタみたいなエゴイスト、怪獣よりも迷惑だもの」

 

 

 

 わたしからの口撃に、ゼルブが固まっていた。

 まさかわたしみたいな小娘からこんな風に言われるなんて、夢にも思ってなかったんだろう。

 ……バッカみたい。

 そんなゼルブを見ていたら、本当に笑いが込み上げてきた。

 

パクス=ビルサルディーナ(ビルサルドによる平和)? ハァ?

 笑わせないでよ、こんな馬鹿げた戦争ごっこを繰り広げといてどの口が言ってんの?

 それに怪獣を人殺しの道具にしたり、子供を改造したり。

 自分より弱い相手を利用して食い潰して、それが悪いことだなんて微塵も考えちゃいない。

 そこで暴れまわってる怪獣たちより、アンタの方がよっぽどおぞましい怪物じゃない」

 

 ビルサルドって、科学至上主義の合理的精神構造を持つ理性主義者なんでしょ?

 ほら、冷静に反論してみなさいよ。

 クールにカッコよく論破でもしてみれば?

 そうやって並べ立ててごらんなさいよ。

 誰も幸せに出来ない、ゴミみたいな正論(ロジック)を。

 唖然としているヘルエル=ゼルブに、わたしはせせら笑いながらとどめを刺してやった。

 

 

「アンタは地球を手に入れたんじゃない、みんなから見限られたんだ。

 『こんなエゴイストは必要ない、捨ててこう』ってね!」

 

 

 次の瞬間、ヘルエル=ゼルブが叫んだ。

 

「黙れ!」

 

 ゼルブの腕が伸び、わたしの喉を鷲掴みにしてクレーンのように吊し上げた。

 首が凄まじい力で締め上げられ、絞まる喉から呻きが漏れる。

 そしてわたしの視界が酸欠のために一気に充血してゆく。

 

「ぐ…ぁ……が……!」

 

 両手でゼルブの腕に爪を立ててみたけれど、ゼルブの指はまるで重機のアームのように固く、とても剥がせそうになかった。

 

「我々ビルサルドがいなければポスト=ファイナルウォーズはおろか『怪獣黙示録』を生き延びることすらままならなかった下等種族が。

 ビルサルドを侮辱したことを後悔させてやる」

 

 ヘルエルゼルブは憤怒の形相を浮かべながら、わたしを絞め殺そうとする。

 そんなゼルブを、わたしは睨み返した。

 

 ……わたしはビルサルドを侮辱なんかしていない。

 アンタ個人の人間性の話だ。

 なのに、すぐそうやってすり替える。

 なにが『大人として教えてやる』だ。

 アンタこそ、詭弁が得意で力が強いだけの幼稚なガキじゃないか。

 きっとアンタみたいな言い訳だらけのクソ野郎には一生わからないんだろう。

 そうやって得意の屁理屈で、死ぬまで誤魔化し続けていればいい。

 馬鹿は死ななきゃ、いや地獄に堕ちたって直らない。

 

 ……だけどどんな巧い言い訳をしたって、真実からは絶対に逃げられない。

『ナノメタルがあれば死を克服できる』

『メカゴジラで地球はひとつになる』

 そんなの、本当はただの終わらない牢獄だ。

 アンタなんか、みんなから見捨てられた惨めな負け犬人生をずっと永遠に生きていけばいい。

 ざまあみろ。

 

 首を折られかけながら、それでもわたしは後悔していなかった。

 ……力では勝てなかったかもしれない。

 だけど、この下劣な悪党のぴかぴかのプライドに十円キズでもつけられたなら、それで充分わたしは勝ったのだ。

 そう思うことにした。

 

 わたしの首を絞めているゼルブのこと、眼下で戦っている真七星奉身軍のこと、この星のこと、怪獣のこと、自分のこと。

 

 どうでもいいことが次々と通り過ぎていってから、最終的に残ったのはエミィとレックスのことだった。

 

 

 

 ……ごめんね、馬鹿なオネーサンで。

 勇んで来てみたけれど、結局あなたたちを助けてあげられなかった。

 

 

 

 わたしの意識が、遠くなってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈α試料保管庫〉で火をつけてから十分後。

 エミィと浅黒肌の少年は、廊下を全力で駆け抜けていた。

 

「待て、ガキども!」

 

 その後ろから兵士が追っかけてくる。

 

 

 ……α試料保管庫では上手くいった。

 火災報知機を切ってから火をつけたのでスプリンクラーも作動せず、LSOのボンクラどもが気づいたころには大火事になっていた。

 

 

 だが、そこで調子に乗ったのがまずかった。

 他の部屋にも火をつけようとしたところ見つかってしまい、エミィと少年はLSOの兵士と命懸けの鬼ごっこをする羽目になってしまった。

 

 いったん追っ手を()いてから床下の抜け穴に入ろうと考えたものの、敵もさるもので、子供の脚ではなかなか振り切れなかった。

 重装備にも関わらずこの速さであることから考えると、あるいはこの兵士もネルソンのようなサイボーグなのかもしれない。

 

(……もう、限界だ)

 

 浅黒肌の少年は平気そうだったが、エミィの膝がガクガクと笑い出した。

 エミィは必死に足を振り上げて走り続けようとしたが、体がついていかない。

 息が上がり、足下がふらつき始める。

 

 そんなエミィを見ていた浅黒肌の少年は、エミィの服の袖を引っ張って通路の角を曲がった。

 その先にあったのはエレベータ。そして幸運にも今ちょうど降りてきたところだった。

 エレベータの扉が開き、中から兵士が一人、書類のようなものを書きながら降りてきた。

 

「脱走だ! 捕まえろ!」

 

 書類を眺めながら降りてきたエレベータの兵士は、追っ手の兵士の叫び声に反応するのが遅れた。

 浅黒肌の少年は思いきり床を蹴って宙へ舞い、エレベータの兵士が銃を構える前に飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「ごべっ!?」

 

 兵士が不意打ちによろけたところへエミィが渾身の力でタックルし、横へと突き倒しながらエミィと少年はエレベータの中へと転がり込む。

 そしてエミィは、拳を叩きつけるようにエレベータの閉ボタンを押した。

 

 ――はやく、はやく、はやく!

 

 ゆっくり動き始めるドアがなんともじれったくて、エミィは閉ボタンを連打した。

 少年とエミィの連係プレーでブッ倒された兵士はノックダウンされているようだが、背後から追っ手の兵士がぐんぐん迫ってくる。

 追っ手の兵士が、エレベータの前に辿り着く寸前のところで扉は閉まった。

 エレベータの扉の外で追っ手の兵士がボタンを連打しているのを尻目に、エレベータは下降を始めた。

 

(……さて、ここからどうするか。)

 

 ゆっくり下降してゆくエレベータの中で、膝に両手を着いてぜえぜえ息を荒げながら、エミィは思案する。

 どうやらこのエレベータは直通エレベータで、地上階と地下階にしか停まらないらしい。

 下の階に、逃げられる場所でもあったらいいのだけれど。

 

 

 

 

 しかし、そんなエミィの期待に反して、エレベータが停止した先は一本道だった。

 

 エミィと少年が降りた後すぐにエレベータの扉が閉まり、先ほどまでいた地上階の方へと戻ってゆく。

 脇道、抜け穴、そんなものを探す余裕はない。

 真っ直ぐ進むしかない。

 本当はもっと休みたいけれど、とエミィは自分の貧弱な身体に鞭を打って足を前へと進める。

 

 そのとき、膝がふらついてしまった。

 

「……痛っ!」

 

 エミィの足首に痛みが走り、その場にうずくまった。

 どうやら、ふらついた拍子に足首を捻ってしまったらしい。

 立ち上がりたくても痛みで足に力が入らない。

 

 浅黒肌の少年が心配そうにエミィへと手を差し伸べるが、エミィは首を振った。

 もうこれ以上、足手纏いはイヤだ。

 

「わたしに構うな、後から追っ掛けるから……」

 

 そんなエミィを見かねてか、浅黒肌の少年は、エミィを優しく担ぎ上げた。

 

 

 

 姿勢は横抱き。

 つまり『お姫様だっこ』。

 

 

 

「お、おいっ、降ろせ! 降ろせよ!!」

 

 そんな自分の姿に気づいたエミィは、顔を真っ赤にして怒鳴りながらばたばたもがいた。

 

「やめろ、降ろせ、セクハラだぞ!!」

 

 しかし少年はエミィを降ろそうとせず、そのまま先へと進んでゆく。

 少年は、口で強がっているエミィが弱っていることに気づいているし、そんな弱ったエミィを置き去りにする気もないようだ。

 そうやって少年に運んでもらいながら、エミィは思った。

 

 

 ……恥ずかしい。

 そしてダサい。

 

 

 恥ずかしさのあまり、全身が茹で上がってしまいそうだ。

 『走りすぎて足を挫いた挙句にお姫様抱っこ』だなんて、いくらなんでもヘナチョコすぎる。

 それと同時にエミィは、こうも思った。

 

 ……やっぱり、わたし、体力ないんだな。

 

 リリセには散々体を鍛えろと言われてきたけれど、確かにいざってときはやっぱり体が資本だ。

 変に頭脳労働者を気取ってないでちょっとでも鍛えておけば、こんなにカッコ悪いことにはならなかったろう。

 

 ……よし、決めた。

 

 もしもこの島から逃げられたら筋トレして、筋肉と体力をつけよう。

 そして強くなろう。

 せめて十分間、走り続けてもへこたれないくらいには。

 

 少年に抱っこされながら、エミィ=アシモフ・タチバナはそんな一大決心を固めたのだった。

 

 

 

 

 真っ直ぐ廊下を進んでいった少年は、突き当たりの扉を開けて部屋へと入り、中からガチャリと鍵をかけた。

 抱えていたエミィを丁寧に床へと下ろすと、ドアにつっかえ棒をして、さらに外から開けられないように腰のポーチから取り出したワイヤーでドアノブをぐるぐるまきにして固定する。

 これで部屋は完全に封鎖された。しばらくは時間が稼げるだろう。

 

 

 ……とりあえず、一息つこう。

 汗だくで座り込んでいるエミィに、浅黒肌の少年は水筒の水を飲ませてくれた。

 そんな少年を見ながらエミィはふと思った。

 

(……こいつ、タフだなあ)

 

 エミィはしばらく休まないと動けそうにない一方、浅黒肌の少年は部屋の中を物色し始めている。

 浅黒肌の少年も同じくらい、あるいはそれ以上に走り回っているはずなのに全然へこたれた様子が見られない。

 

 

 呼吸を整え、なんとか立ち上がれるくらいにまで回復したエミィは、壁の通風孔を調べていた浅黒肌の少年の様子がおかしいことに気づいた。

 なにか予定外の事態が起こって困っている、という風だ。

 足首の痛みも引いてきたところで、がくがくの膝に力を込めてなんとか立ち上がり、エミィは少年に訊ねた。

 

「どうした?」

 

 浅黒肌の少年が指差す先を見ると、壁の通風孔に真新しい鉄格子が嵌まっていた。

 少年は鉄格子を懸命に引っ張っていたが、がっちりとネジ止めされていてびくともしない。

 どうやら少年はこの通風孔を使うつもりだったようだが、その目論見が外れてしまったようだ。

 

「貸してみろ」

 

 工具ポーチのドライバーでネジを外せないか試してみたけれど、そもそも形状が違っていてネジが回せなかった。

 ペンチで切ろうにも格子が太すぎてまったく刃が立たない。

 

 ……他に抜け道はないのだろうか。

 エミィは部屋中を見回してみた。

 

 しかし他の出入口は、今カギをかけたうえでつっかえ棒とワイヤーで塞いでいるドアだけだ。

 隠れてやり過ごそうにも、子供二人が隠れられそうなところといえば部屋の隅にあるロッカーしかない。

 だけどこんなロッカーなんて真っ先に探されるに決まってる。

 壁にはコンソールが据えつけてあるものの、脱出するための仕掛けのようなものは見受けられない。

 

 

 その段階になってエミィはようやく気がついた。

 逃げ込んだ先が行き止まりで、自分たちが袋のネズミになってしまったことに。

 

 

 そうこうしているうちに、ワイヤーで固定したドアノブががちゃがちゃ動く音がした。

 ドアノブが回らないことがわかると、続いて鉄製の扉をガンガン叩く音が響いてきた。

 

 

 

 部屋の外に追いついた兵士が、ドアをぶち壊そうとしているのだ。

 

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