怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

51 / 113
いわゆる『怪獣大戦争マーチ』のアレンジ。
『The Best Of Godzilla 1984-1995』は輸入盤ですが、平成VSシリーズが好きならマスト・バイです。


51、Monster Zero March ~『The Best Of Godzilla 1984-1995』より~

 行き止まりの部屋に閉じ籠められた、エミィと少年。

 唯一の出入り口、その外では追手の兵士がドアをぶち壊そうとしている。

 

 

 ……どうする、どうすればいい?

 

 

 エミィは額の汗を拭い、脳をフル回転させる。

 今、素直に出て行ったら間違いなく殺される。

 かといってこのまま籠城していても、いずれはドアを壊して入ってくるだろう。

 

 

 ……やっぱり、皆の言うとおりだったかも。

 

 

 逃げるにしてもすぐに出発せず、地下の隠れ家でもうしばらく機会を窺った方がよかったのかもしれない。

 子供だけで大人たちと闘おう、なんていう方が無謀だったのかも。

 エミィの中にそんな弱気な気持ちが湧いてきたとき、隣にいた浅黒肌の少年と目が合った。

 ……もともと少年はこの冒険に反対していた。

 変にカッコつけたことを言ってその気にさせてしまったのは、自分の責任だ。

 

「……ごめんな、おまえまで巻き添えにして」

 

 エミィが詫びると少年はふるふると首を左右に振り、そしてポーチからドライバーを手にとってナイフみたいに構えた。

 ……少年は、この期に及んでもなおエミィを守るために戦おうとしてくれている。

 頼もしいかぎりだ。

 

 しかしその一方で、これがかなり勝ち目の薄い戦いであることもエミィは理解していた。

 たしかに少年一人だったらどうにか切り抜けられるかもしれない。

 しかしこっちはエミィというとてつもない足手纏いがいる。

 いくら少年の格闘センスが抜群でも、非力なエミィを庇いながら戦えるほどのカンフーマスターではないだろう。

 それに相手は銃を持った兵士、殺しのプロだ。

 戦えばきっとその場で撃ち殺されてしまう。

 

 

 だけど、少年が見せてくれた勇気のおかげでエミィは立ち直ることが出来た。

 

 

 ……こいつだって闘おうとしてくれてるんだ、言い出しっぺのわたしが弱気になってどうする。

 なにか、なにかないか、他に使えそうなものは。

 部屋の中を見回していたエミィは、この部屋の壁がシャッターで閉ざされている、つまり〈窓〉があることにようやく気が付いた。

 ……おかしい。

 さっきはエレベータで()()()()()んだ。

 地下から下、だったら地下のはずじゃないか。

 なんで地下に窓なんかあるんだ?

 

(外はどうなってるんだ?)

 

 シャッターの開閉ボタンを押すと、ガラガラと金属の擦れる耳障りな音が響き、シャッターが持ち上げられてゆく。

 そうして開いた窓の外を覗き込んだとき、『なぜこの部屋に窓があるのか』、その理由をエミィは理解した。

 

 窓の外では、巨大な怪獣が鎖と枷で雁字搦めに縛り付けられていた。

 エミィはその怪獣に見覚えがあった。

 

 

 ――全身を覆う、クリスタルのトゲ。

 ――尖った爪を生やした強靭な四本足。

 ――鋭い牙を備えた獰猛な顔つき。

 

 

 

 

 

 

 暴龍:アンギラスだ。

 

 

 

 

 

 

 忘れたくても忘れられるものか。

 新宿で出くわして以来、多摩川河川敷まで執念深く追いかけてきたあのアンギラスだった。

 

 リリセの捨て身の攻撃で瀕死の重傷を負いながら、それでもなお襲い掛かってきたアンギラス。

 流石にあの時は肝を冷やした。もしもあのときLSOのメーサー戦車部隊が現れなかったら、エミィもリリセも今頃天国で自分たちの両親に再会していただろう。

 ……そういえばあの後アンギラスがどうなったのかエミィは知らなかったのだが、あれからどういう経緯があったのか、今のアンギラスの姿で大体想像がついた。

 LSOの集中砲火で倒されたアンギラスは虜囚(とりこ)にされ、孫ノ手島にまで連れて来られたのだろう。

 同時にエミィは理解した。

 ……この部屋は怪獣を捕える牢獄の監視塔だ。

 だからここから見張ることができるように、ガラス張りにしてあるのだ。

 そこでエミィは閃いた。

 

(……そうだ、窓を破ればいい!)

 

 そうすれば檻の中を通って外へ逃げられるかもしれない。

 エミィは早速置いてあった椅子を担いで頭上に掲げると、窓に向かって力一杯殴りつけた。

 ……だが、ダメだ。

 ガン、と大きな音が響いただけで、椅子の一撃はあっさり跳ね返されてしまった。

 ここの窓はどうやら強化ガラスのようで、非力なエミィの腕力では破るどころかキズひとつ入っていない。

 ……せっかく良い案だと思ったのに。

 エミィが歯噛みしていると、浅黒肌の少年がコンソールに触れているのに気が付いた。

 チカチカ光っているボタンが気になったのか、浅黒肌の少年は指で(つつ)こうとしている。

 思わずエミィは叫んだ。

 

「触るな!」

 

 エミィの怒鳴り声に、伸ばしていた手をビクッと引っ込める少年。

 まったく、変なところに触って事態が悪化したらどーする。

 実際、少年は、危うく『解放(Release)』と書かれたボタンを押しそうになっていた。

 

 ……危なかった。エミィは額に浮かんだ汗をぬぐった。

 このボタンを押せば、眼下のアンギラスは解放されてしまうだろう。

 アンギラスは先日から散々思い知らされているとおり、とても凶暴な怪獣だ。

 解放されたら最後、この監視塔も含めて島中をめちゃめちゃにするに違いない。

 当然、エミィたちのことなんておかまいなしだ。下手をすれば踏み殺されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……って、押した方がいいじゃん。

 エミィは気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも自分たちは何のためにここに来た?

 騒ぎを起こしてどさくさに紛れて逃げるためだ。

 アンギラスを大暴れさせるなんて、この上ないくらいの“騒ぎ”じゃないか。

 上手くいったらこのピンチを切り抜けられるし、目的も達せられる。

 まさに一石二鳥だ。

 

 ……これはかなり危険なギャンブルだ。

 

 そもそもアンギラスがLSOに捕まったのはエミィたちが原因だ。

 アンギラスがその因果関係を理解しているかどうかはわからないが、少なくとも二度も取り逃した獲物のことくらいは覚えているだろう。

 もし失敗すればLSOの兵士だけではなく、アンギラスからも付け狙われる羽目になる。

 ……しかし今何もしなければ、外の兵士に突入されて結局殺されるだけだ。

 それに、きっとアンギラスはLSOの連中に対しても容赦しない、さぞ大暴れしてくれることだろう。

 そうなれば大騒ぎだ。島から逃げ出せるチャンスだって大きくなるに違いない。

 もし失敗してアンギラスに踏み潰されるとしてもその後LSOのクソッタレどもに一泡吹かせられるわけだし、そう考えるとなかなか悪くないアイデアのような気もするのだ。

 

 相談しようと、浅黒肌の少年を見る。

 エミィが何をやろうとしているのか察したのか、少年は深々と頷いた。

 

 

 

 ……決まりだ。

 エミィは容赦なくボタンを押した。

 

 

 

 エミィがボタンを押したのと、外の兵士がドアを破って入ってきたのはほぼ同時だった。

 

「捕まえたぞこのガキども、大人しく投降しろ!」

 

 ドライバーを逆手で構えて立ち向かおうとする少年を、エミィが制止した。

 

(やめとけ。銃にそんなチンケなドライバーじゃあ勝てない)

 

 エミィの目配せを理解した少年はドライバーを床に置き、エミィと一緒に(ひざまず)く。

 兵士は、やけに素直に投降したエミィと少年を訝しみつつも、他の仲間へ無線機で通信を始めた。

 

「こちら巡邏(パトロール)、M-11。

 少佐、例の脱走者を確保しました……」

 

 突然、何かに気づいた少年がエミィを押し倒すように飛び掛かり、エミィごと床へと伏せた。

 おいちょっとなにすんだ正気かとエミィが拒む間もなく、

 

 

 

 

 

 エメラルド色の棘を満載した巨大な一撃が、窓の外から飛んできた。

 

 

 

 

 

 耳をつんざくような音と共に窓ガラスが粉微塵にされ、備え付けの機器類が根こそぎ薙ぎ払われてゆく。

 通信に気をとられていた兵士は、一瞬反応が遅れてしまった。

 

「うぺっ」

 

 兵士の断末魔は、おそらく本人も意図していなかったような間の抜けたものだった。

 監視塔の部屋の中で、床に伏せているエミィと少年以外の何もかもが、巨大な尻尾に張り飛ばされて粉砕された。

 地下牢の内部で、雄叫びが高鳴る。

 ガラクタの詰まった箱を巨大な棒で掻き回しているときの音を数百倍にしたような轟音と、兵士たちの怒号、警報のブザー、そして銃声がそれに続いていった。

 

 騒乱の最中、監視塔にはエミィと少年だけが残されていた。

 エミィが口を開く。

 

「……助けてくれてありがとう」

 

 そして目線を逸らしてポツリと言う。

 

「でも、そろそろ退()いてくれ」

 

 少年は、エミィを抱きすくめているような形になっていた。

 そのことに言われて初めて気づいたらしい少年は、飛び上がるようにエミィから離れた。

 そんな少年を見ながらエミィは思った。

 

(……さっきから気になってたけど、コイツ、なんでこんなに勘が良いんだ? わたしと同じ光景を見てたはずだろ)

 

 ちらっとそんなことを考えていると、ラッパのように堂々とした咆哮が、不意にエミィの鼓膜を突いた。

 思わず耳を抑え、エミィはガラスが吹き飛んだ窓から地下牢内部をおそるおそる覗いてみた。

 

 

 雄叫びの主は大怪獣アンギラス。

 響き渡ったのは逆襲開始のファンファーレ。

 

 

 地下牢内の状況は、ダンプカーサイズのゴミ箱をいくつも引っ繰り返して中身をぶちまけたにも等しい、凄まじい阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 その中心に座り込んでいるのはアンギラスだ。

 大騒乱のド真ん中で堂々と鎮座するその姿は、まるで部屋中に玩具を散らかして駄々をこねて暴れている子供のようだった。

 

 この騒ぎを聞きつけたらしい見張りの兵士が、アンギラスを止めようと四方八方から銃撃を仕掛ける。

 アンギラスの頭上から鋼鉄の網が被せられ、その体表で激しい電撃の火花が(ほとばし)り始める。

 だが、アンギラスには効かなかった。

 電気ショックなどものともせず、悠々と立ち上がるアンギラス。

 アンギラスは巨大な前脚を振り上げ、手元から撃っていた兵士たちめがけて、特大サイズのビンタを叩き込んだ。

 脇の銃座には、棘が生え揃った長い尾のフルスイングを叩き込み、根元から引き倒した。

 取り押さえようとパワードスーツやロボットアームがアンギラスに掴みかかったが、アンギラスが身を揺すっただけで蜘蛛の巣を払うようにバラバラに壊れてしまった。

 暴れ回る暴龍:アンギラスを、LSOは止めることが出来ない。

 

 クリスタルのトゲをギラギラ光らせながら、地下牢獄の設備を片っ端から壊してゆく大怪獣アンギラス。

 ……敵に回すととんでもない厄介者だが、味方になるとこんなに頼もしいとは思わなかった。

 その雄姿にエミィが思わず見惚れていると、突然アンギラスが動きを止め、こちらへと振り返った。

 

 アンギラスと目が合った。

 

 アンギラスの巨大な瞳にじっと見据えられ、エミィと少年は思わず抱き合って身を竦めた。

 ……ああ、殺される。

 きっとゴミみたいに捻り潰されるのだ。

 そうじゃなかったらパクリとおやつにされるか。

 

 刹那、エミィはそんなことを思った。

 

 

 

 

 が、アンギラスは何もしてこなかった。

 

 

 

 

 ……ふん。

 アンギラスはなんだか不機嫌そうに鼻を鳴らすと、プイとそっぽを向き、そのままエミィたちのいる監視塔とは真逆の方向へ去って行ってしまった。

 そんなアンギラスを見ていたエミィの脳裏に、ふとおかしな思いつきが頭をよぎった。

 ……いや多分、気のせいだ。

 流石にどうかしている。

 

 

 

 

 

 

 まさかアンギラスが、人間へ御礼を言ったように見えるなんて。

 

 

 

 

 

 エミィたちに背を向けたアンギラスは地下牢獄を散々蹂躙したあと後ろ足で立ち上がり、天井を突き破って地上へと躍り出ていった。

 そんなアンギラスを見送りながら、エミィは心の中でエールを送った。

 

 

(やっちまえアンギラス! 全部ブッ壊せ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミィ=アシモフ・タチバナの手引きで見事脱獄を果たした大怪獣、アンギラス。

 人間風情に捕獲されたことへの腹いせに地下施設を散々踏み荒らしたあと、アンギラスは次に地上を目指した。

 地上の様子を窺おうと地盤を突き破り、頭の上にちょうど乗っかった戦車を振り飛ばして、唸り声を挙げながら顔を出す。

 

 アンギラス出現に対するLSO兵士たちの動揺は、とても大きいものだった。

 驚くのも無理はない、基地の真ん中で突然アンギラスが暴れ始めたのだから。

 脱走した児童労働者による放火、地下牢獄からのアンギラス脱獄。

 飛び交う怒号、悲鳴、阿鼻叫喚。

 真七星奉身軍との戦闘中に立て続けに起こったトラブルで、孫ノ手島基地内部は軽いパニック状態になっていた。

 無論そんな人間風情のくだらない事情など、大怪獣アンギラスの知ったことではない。

 クリスタルのトゲが生え揃った背中の甲羅で地盤を突き破り、アンギラスの巨体が地上へと躍り出た。

 全身に着いた土砂を身震いで振り落とし――このとき一帯に飛び散った土砂と瓦礫がLSO基地のあちこちを破壊した――アンギラスは地上での進軍を開始した。

 

 我が物顔で暴れ回るアンギラスを、LSOの兵士たちは野放しにしておかなかった。

 パワードスーツ、メカニコング、自走式二十四連装砲車。

 温存していた予備兵力まで引っ張り出し、アンギラスを鎮圧にかかる。

 

 だが、そんなものは身長60メートルの暴龍にとってはただ鬱陶しいだけだ。

 巨大な前脚のビンタと尻尾の一撃、さらに強靭な後脚のキックで、それらはまとめて吹っ飛ばされてしまった。

 アンギラスの大進撃。

 その途上アンギラスはある兵器へ目を留めた。

 

 

 メーサー殺獣光線車。

 先日アンギラスが弱ったところへ集中砲火を浴びせ、虜囚(とりこ)の屈辱を味わわせた兵器。

 それが島の駐車場にて、乗り手のない状態でずらりと並べられていた。

 

 先日の敗北を思い出したアンギラスは、怒りの雄叫びを挙げながらメーサー殺獣光線車をひとつひとつ踏み潰して回った。

 長い砲塔を食い千切り、丸い車体を尻尾で捻り潰し、鋭い爪で八つ裂きにする。

 当然メーサー戦車は為す術もない。

 稲妻のメーサービームを放つ兵器だろうと、操縦する者がいなければただの置物だ。

 強力なメーサー殺獣光線車はいとも容易く全滅させられてしまった。

 

 

 そうやってメーサー殺獣光線車を全滅させたアンギラスは、続いて頭上の高台から届く『電磁波』を検知した。

 このアンギラスは電磁波を知覚できるレーダーを持っている。そんなアンギラスにとって、その繊細なレーダーを掻き乱そうとする電磁波は耳障りな不協和音のようで、ただでさえ荒ぶっているアンギラスの神経を余計に昂らせた。

 発信源を辿ってみると、島の中央に高いタワーが見えた。アンギラスを苛立たせる電磁波は、タワーの頂点から発せられているようだ。

 

 ……叩けば潰れるムシケラの分際で、このおれを飼い馴らそうとしやがって。

 思い知らせてくれよう。

 

 アンギラスは、そのセントラルタワー目掛けて高く飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたし、タチバナ=リリセが絞め殺されようとしていたまさにその時、一人の兵士が駆け込んできた。

 

「統制官殿! 緊急事態です!! 調整中だったアンギラスが、暴走しています!」

「なんだと」

 

 ヘルエル=ゼルブから放り捨てられ、わたしは床に身体を打ちつけた。

 突然気道が解放されてゲホゲホと激しく咽せながらわたしは喉に触る。首の関節に少し違和感があるが、痛めていないようだ。

 ……凄まじい握力だった。あともう数秒でも絞められていたら、窒息死するよりも先に首が折れていただろう。

 そんなわたしを尻目にヘルエル=ゼルブは報告を受けていた。

 

「暴走だと。何があった」

「戦闘の衝撃で、地下牢のアンギラスが解放されたようでして……」

「バカな!

 地下牢はゴジラの荷電粒子ビームにも耐える設計だぞ、なぜアンギラス風情が脱走する!?」

 

 理解不能な事態に、ゼルブも戸惑いを隠せないようだった。

 怪獣が脱獄、よりによってこんな時に。

 

 しかし、動揺したのはほんの一瞬だ。

 すぐにゼルブの表情は、冷静なビルサルド統制官としての顔に戻っていた。

 ……敏捷なアンギラスが相手なら、パワーはあっても地表を鈍重に這うしかないエビラより、パワーがなくても制空権がとれるメガギラスの方が有利だろう。

 そんなビルサルドらしい合理的判断でもしたのだろう、ゼルブは部下の兵士へ迅速に指示をした。

 

「メガギラスで対処しろ」

「メガギラスは現在真七星奉身軍のヴァバルーダと交戦中で、手が離せません」

「他の実験体はどうした」

「まだ調整中で、実戦投入にはまだ遠く……」

 

 そのとき地面が揺れ、タワー内の電灯が一瞬ブラックアウトした。

 まるで桁違いに大きいなにかが飛び跳ねたかのような、強い縦揺れだった。

 

「い、今のは一体……!?」

 

 様子を窺おうと窓の外を見た兵士が言葉に詰まった。その表情には、恐怖と絶望が浮かんでいる。

 

「なんだ、どうし……」

 

 兵士の視線の先、つまりうしろの窓へ振り返ったゼルブもまた絶句した。

 その正面に高速回転しながら突っ込んできたのは、『暴龍怪球烈弾(アンギラスボール)』。

 

 

 

 

 

 すなわち、こちらめがけて全力全開で飛び掛かるアンギラスの巨体があった。

 

 

 

 

 

 わたしは咄嗟に横へ跳び退いたが、暴風のような衝撃でタワーの上階まるごとが滅茶苦茶になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミィ=アシモフ・タチバナが解き放ったアンギラス。

 その反乱は、孫ノ手島の戦局に大きな変動をもたらした。

 

 

 真っ先に我へと返ったのは深海の恐怖、エビラであった。

 痺れるような感覚が脳髄を駆け抜けてゆく。

 ……なんだ、今のは。

 パチリと目を覚ましたエビラは、高々と構えていた巨大鋏脚クライシスシザースをゆっくり降ろし、自分の状況を改めて考えてみることにした。

 ……自分は今まで何をしていたのだろう。なんだかひどく楽しい、かつ極めて屈辱的な夢を見ていたような気がしてならなかった。

 そしてひどく腹が減っている。

 エビラ自身は知らないことだったが、孫ノ手島の防衛を任せられるにあたってその獰猛性を十二分に引き出すため、LSOはエビラに充分な餌を与えていなかった。

 おまけに今日は散々大暴れしたばかり。

 すなわち、今のエビラはとてつもなく空腹であった。

 

 エビラが見せたほんの僅かな隙を、奉身軍たちは見逃さなかった。

 すぐさま姿勢を整えた奉身軍の艦隊は、海上でぼんやりと突っ立っているエビラ目掛けて一斉攻撃を加えた。

 重砲撃と重爆撃の多重奏。砲弾はすべてエビラに命中し炸裂、真紅の身体を持つエビラの体表に、鮮やかなオレンジ色の爆炎が彩りを加えた。

 

 

 無論、エビラは無傷であった。

 

 

 大型貫通爆弾(MOP)にさえ耐え抜く、エビラ自慢の頑丈な外殻。メーサー砲の集中砲火ならいざしらず、戦艦の砲撃ごときでは傷一つつかない。

 苛立ったエビラはクライシスシザースを振り回し、海面を思い切り左右へと薙いだ。

 エビラの巨大な一振りが大波を起こし、エビラを包囲していた奉身軍の戦艦と戦闘艇はまとめて転覆してしまった。

 

 ……しかし腹が減った、腹ペコだ。

 エビラは本能に則り、食事を摂ることにした。

 生まれた時から人除けの番犬として躾けられてきたこのエビラの好物。

 それは眼前を無様に泳ぎ回っているムシケラども、つまりは人間であった。

 

 海面に放り出された奉身軍の兵士たちを、エビラは左の尖った鋏で突き、そして顎脚(がくきゃく)が舌なめずりをする口元へと運ぶ。

 串刺しにされながらも逃れようと懸命に藻掻いている奉身軍の兵士たち。

 そんな彼らを、エビラは巨大な口へと放り込み、そのまま断末魔と共に丸呑みにしてしまった。

 

 ……うまい!

 

 ギーッと殻とをこすり合わせるような歓喜の雄叫びを挙げながら、エビラは食事に熱中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次いで心を取り戻したのは超翔竜、メガギラスであった。

 

 脳が混乱して一瞬我を忘れたが、すぐに正気に還る。

 人間どもの戦闘艇が撃ち放った弾幕を、空中サーカスめいた高速機動でひらりひらりと躱しながら、メガギラスは思案した。

 

 狡猾なメガギラスがまず思い浮かべたのは、島に囚われた同族たちのことだ。

 檻の中に囚われていた、可愛い兄弟たち。

 メガギラスに負けず劣らずの獰猛さをもつ兄弟たちだったが、狭い檻の中で生まれ育ったため、右も左もわからぬ奴らばかりであった。

 洗脳されていたとはいえ外の世界を知る地上最強の飛翔昆虫メガギラスは、そんな兄弟たちを群れのアルファとして導かねばならぬ責務がある。

 

 

 ……よかろう。

 ゆくゆくはこの星すべてを、この偉大な超翔竜の一族、メガギラスの血統で征服してやろう。

 そしてその生態系を統べる覇者、キングの座を手に入れるのはこのおれ、メガギラスだ。

 そんな野心にメガギラスは魂を奮わせ、そして不敵に笑んだ。

 

 

 ……そうと決まれば、こんなつまらぬムシケラどもと()()()()()()場合ではない!

 メガギラスは囚われの仲間を解放するため、孫ノ手島へと舞い戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫ノ手島の地表では、暴龍アンギラスが闊歩していた。

 忌々しいメーサー戦車を蹂躙し、耳障りな電波を放ち続けるタワーを叩き壊してやったことに満足したアンギラスは、自身の立つ大地が揺れ動き始めているのに気づいた。

 

 アンギラスが引き起こしたセントラルタワーの崩壊は、メガギラスとエビラに自由をもたらすのと同時に新たな怪獣の参戦を誘発した。

 大地を突き崩し、新たな怪獣が姿を現した。

 

 

 山を砕き、岩を崩しながら現れた一体目の怪獣、その姿は昆虫のカマキリに似ていた。

 黄色い複眼が爛々と輝く三角形の頭に、鋸のような鎌を備えた両手、茶色い体色。

 その名は蟷螂怪獣(エンプーサ)〈カマキラス〉。

 怪獣と呼ばれる生物としてこの世界に初めて出現した生物であり、そしてこの世界の在り様を変えた怪獣たちの先鋒である。

 

 

 カマキラスが祈るように鎌を擦り合わせる隣で地割れが生じ、隙間から細長い脚が這い出る。

 槍とも銅戈(どうか)ともつかぬ鋭い爪を備えた脚が幾本も生えてきて、やがて立ち上がり、二体目の怪獣が地中からその全貌を現す。

 黄色い縞模様(ストライプ)の警告色と、けばけばしいパープルの複眼。

 毒グモ怪獣のアラクネー、〈クモンガ〉だ。

 

 

 そして最後に現れた三体目の怪獣、それは一言で表せばタコである。

 市街地に攻め込んだ重戦車のように周囲を蹂躙しながら、目のまえを走って逃げているLSOの兵士を触手で搦め獲り、ばりばりと噛み砕いて丸呑みにしてしまった。

 突然変異の結果として陸上への進出に成功した頭足類の大型海洋類(クラーケン)

 人間たちからは身も蓋もなく〈大ダコ〉と呼ばれていた。

 

 

 カマキラス、クモンガ、そして大ダコ。

 孫ノ手島の地下から現れた彼らは、ヘルエル=ゼルブが構想した『パクス=ビルサルディーナ』のために新生地球連合軍が捕獲した怪獣たちであった。

 LTFシステムで洗脳改造が施された彼らは現在調整中のはずだったが、セントラルタワーが崩壊したためにシステムの統制から逃れ、混乱に乗じて脱獄を果たしたのだった。

 

 鋭利な爪と毒牙を打ち鳴らすクモンガと、翅をばたつかせて飛び掛かるカマキラス、そして触手を振りかざしながら突進する大ダコ。

 突如出現した三大怪獣に、アンギラスは雄叫びを挙げながら挑みかかった。

 大ダコの触手による締めつけに身をよじり、クモンガの爪を背中のトゲで防ぎ、カマキラスを尻尾のトゲで叩きのめす。

 

 カマキラス、クモンガ、大ダコ、そしてアンギラス。

 四大怪獣が組み討つその光景は、毒虫同士を殺し合わせて最強の毒薬を作るという古代中国の呪術、蠱毒の術にもよく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ここに地球最大の、怪獣軍団による暴威が始まろうとしている。

 

 超翔竜、メガギラス。

 

 深海の恐怖、エビラ。

 

 蟷螂怪獣、カマキラス

 

 大蜘蛛怪獣、クモンガ。

 

 海魔、大ダコ。

 

 

 そして暴龍、アンギラス。

 

 

 

 

 怪獣の、

 怪獣による、

 怪獣のための、

 怪獣大戦争が始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。