怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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プロレスです。


53、凶暴な生物 ~『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』より~

 ……潮目が変わった、とムウモは感じた。

 

 

 執拗にヴァバルーダを追撃していたメガギラスは突然ヴァバルーダを狙うのをやめ、文字通りのトンボ返りで島へと引き換えしてその矛先をLSOの基地へと変えた。

 ヴァバルーダ、奉身軍の飛行艇にはもはや興味が無くなったようだ。

 孫ノ手島の拠点を超音速の旋風(つむじかぜ)となって荒らしまわり、破壊の限りを尽くしてゆく。

 

 海のエビラは相変わらず奉身軍のフネを狙っていたが、動きには先ほどまでのような戦略性がない。

 目についたフネを片っ端から手当たり次第に襲っているような印象だ。

 もし仮に目の前にいるのが奉身軍でなくLSOのフネでも、迷うことなく襲い掛かるだろう。

 

 

 メガギラス、エビラ、どちらも先ほどとは動きが全く違っている。

 LTFシステムで統制されたロボットのような規則正しい動きから、怪獣らしい無秩序で制御不能な暴れ方だ。

 こんな状況が起きるとすれば、理由はひとつしかない。

 

「……聖女様、どうやらLTFシステムが崩壊したようですな。

 もう怪獣どもは恐るるに足りますまい」

 

 ムウモの報告に、ウェルーシファはゲマトロン演算結晶を撫でながら微笑んだ。

 

「そのようですね、ムウモ」

 

 LSOのLTFシステムが未完成なのは、『内通者』からの事前情報で既に得ていた。

 このタイミングで動作不良を起こしたのも内通者の差し金だろう、とムウモは思った。

 

 

「いかがしましょう。

 〈ダゴン〉を出すなら今がよろしいかと」

 

 

 怪獣を軍事兵器化するという〈LTF構想〉は、元はと言えば旧地球連合の時代から存在していたものだ。

 開発者のマフネ博士がヘルエル=ゼルブと親しかったために遅れこそとったが、真七星奉身軍(こちら)側も同様のものを実用化していた。

 LSOが複数の怪獣をコントロールできるのに対し、真七星奉身軍が用意した怪獣は一体。

 ただし極めて強力だ。初手でいきなり繰り出さず、機会を待つ必要があった。

 

 そして、LSOが怪獣を制御しきれなくなった今こそが、最大の好機だった。

 ムウモの提言に、エクシフの聖女は優しく頷いた。

 

「そうですね。こちらもひとつ、()()()を切りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠れ家へ帰るにあたって、エミィと浅黒肌の少年は、行きに通った床下の通路は使わなかった。

 

 怪獣が大暴れしてるこの騒ぎの中で子供二人が見つかったところで今更捕まったりするとも思わないし、メガヌロンに見つかる可能性を考えたら狭い隠し通路は逆に危険だ。

 エミィは、道案内を浅黒肌の少年に任せた。

 島の隠し通路はもちろん、地上の通路も把握している少年に従えば安心だろう。

 

 そうやって基地内を走り回る二人は、吊り橋みたいな細い渡り廊下に差し掛かった。

 壁は大きな窓になっていて、外の様子を見渡すことが出来そうだ。

 ……外は今どうなっているのだろう。

 エミィは、少年と一緒に窓の外を覗き込んだ。

 

 

 

 

 孫ノ手島の怪獣大戦争は、とっくのとうに始まっていた。

 

 

 

 

 岩山の壁面を、無数のメガヌロンが懸命によじ登っていた。

 その数、数百匹。とんでもない大群だ。

 

 メガヌロンたちは、壁面をある程度まで昇ったところで立ち止まり、身をぶるるっと揺すった。

 やがて背中の皮が縦に裂け、頭も裂け、背を反り返った姿勢で中身が出てきた。

 そして全身が出てきたところでむくりと起き上がり、しわくちゃの翅と、丸めた尻尾をぴんと伸ばして、全身の粘液を振るい落とした。

 人間(エサ)をたらふく平らげ、空を飛べる成虫へ次々と変化してゆくメガヌロンたち。

 羽化を終えたメガヌロンの成虫。翅や顔つきはトンボに似ているが、両手のハサミとカギ針を備えた尻尾はサソリを思わせる。

 

 飛翔怪虫〈メガニューラ〉。

 トンボの俊敏さと、サソリの凶暴さをあわせもった肉食昆虫怪獣である。

 

 羽化を終え、全身を充分に乾かしたメガニューラたちは、翅を羽ばたかせて岩山から飛び立ち、地表を走り回っている兵士たちを獲物と見定めて、急降下を繰り返していた。

 メガニューラたちは、我先に地表や海上の獲物、つまり人間たちを次々と狩りまくった。

 そこにさらにカマキラスの群れまで加わり、事態は混迷を極めていた。

 まるでバーゲンセールの掴み獲りだ。

 客は怪獣たちで、叩き売られているのは人間の命だった。

 

 そんなメガニューラによる人間狩りの向こう、海では大海老怪獣〈エビラ〉の姿が見えた。

 エクシフの旗を掲げた真七星奉身軍の艦隊に取り囲まれたエビラは、艦艇から集中砲火を喰らっていたが、頑丈な殻を持つエビラはまるで気にも留めていない。

 エビラは自慢のクソデカ極大ハサミ:クライシスシザースを思いきり振り上げ、眼前の戦艦へメガトンチョップを叩き込んだ。

 派手な水飛沫が立ち上がり、頑丈そうで立派な軍艦が空手家の瓦割りさながらに真っ二つにぶった切られた。

 さらにその波紋に煽られて、周囲の艦艇が数隻まとめて転覆し、船上にいた兵士たちが何人も海へと投げ出された。

 

 海に投げ出された無力な人間たちを、エビラは抜け目なく狙った。

 エビラは、めぼしい人間たちを銛のように尖ったハサミでまとめて突き殺し、そして串焼きを食べるようにむしゃむしゃと食べてしまった。

 

 

 

 

 そんな状況を、エミィなりに分析してみた。

 ……メガニューラにエビラ、どっちも厄介だ。

 まずメガニューラ。メガニューラに比べたら、メガヌロンなんてまだ可愛い方である。

 メガヌロンは地面をピヨピヨ這ってるだけだが、メガニューラは空を飛ぶことができる。

 隙を見せれば最後、頭上から急降下してきたメガニューラによって、あっという間に捕まえられてしまうだろう。

 

 そんなメガニューラの空襲を上手く掻い潜れたとして、海上にはエビラが待っている。

 あんな立派な軍艦でも、エビラにとっては紙で作ったフネも同然だ。

 何も考えずに海に出れば、クライシスシザースで他愛もなく叩き潰されるか、そうでなければ串刺しにされて食べられてしまう。

 

 さらに、この通路の窓からは見えなかったが、どこかでアンギラスの遠吠えが聞こえた。

 先ほどエミィが解き放ったアンギラスも、どこかで大暴れしているはずだ。

 アンギラスの恐ろしさについては先日から散々思い知らされているとおりだ。

 さっきは見逃してくれたが、今度見つかったら何をされるかわかったものではない。

 

 おまけにカマキラスまでいる。

 意地が悪くて獰猛なカマキラス。

 メガニューラと違って高く飛ばない分、地表を歩くしかない人間たちにとってはメガニューラよりも危険かもしれない。カマキラスたちはきっと暴走族のように飛び回って人間を殺しまくることだろう。

 大ダコだって危険だ、あるいはもっとたくさんの怪獣が潜んでいるかもしれない。

 エミィは思った。

 

 

 ……怪獣って、なんでどいつもこいつも人間をいじめるのが好きなんだ?

 

 

 蟻を踏み潰して遊んでる子供じゃあるまいし、檻から出られたんだからいつまでも暴れてないでとっとと逃げろよ。

 昔ヒロセ家で飼われてて隙あらば脱走していた、ゴールデンハムスターのハ◯太郎の方がよっぽど分別がある。

 あいつ、脱走への執念にかけてはタンカーの監獄にぶち込まれたスタローン並だったからな。

 

 それに、人間ってそんなにウマイのか?

 

 たとえば映画だと凶暴な人喰いザメがよく出てくるが、あんなものはフィクション、作り物だ。

 人に危害を加えるイタチザメなんてのもいるけれどあれは単に見境がないだけで、実際のサメは人間を特別に好んで食べるわけではない。

 考えてみれば当然だ。

 いつも沖合いで魚やタコを食べているサメにとって、わざわざ浅瀬に行かないと食べられない人間なんてゲテモノ喰いの珍味のようなもの。

 サメが人間を食べるとすればよほど餌がなくて困ったときか、アザラシなど他の獲物と見間違えたとき、そうでなければとてつもなくグルメなサメなのだ。

 ……と、エミィの読んだ図鑑には載っていた。

 ライオンもクマも、ワニもアナコンダもみんなそうだ。

 人喰いの猛獣なんてのは色々な不運が重なった結果そうなったに過ぎないのであって、当の彼らからすれば普段食べ慣れている餌の方が好物に決まっている。

 ()(この)んで人間を獲って喰おうとするのは怪獣だけである。

 

 ……怪獣だって、普段は深海だか山奥だかで暮らしてるんだろ?

 肉食えるくせに笹ばっか喰ってたパンダとかいう動物じゃあるまいし、わざわざ人間を食わなくてもいいじゃないか。

 菜食主義者(ベジタリアン)はいないのかよ。好き嫌いしやがってこの偏食どもめ、どうせなら魚を喰え、魚を。

 エミィがそんな悪態を思い浮かべたときだ。

 

 

 

 沖合から凄まじい鳴き声が響き渡った。

 

 

 

 ガラス窓がビリビリと揺れるほどの爆音。

 メガニューラに覆われた空と、エビラが暴れ回っている海、その向こうを見通すエミィ。

 

 海上を飛ぶヴァバルーダの足元からそいつは姿を現した。

 まず現れたのは三列の背鰭と、長い尻尾。

 その特徴は、エミィにある怪獣を連想させた。

 

 

 

 

 

 

 ……まさか()()()が?

 

 

 

 

 

 

 エミィが身構えていると、続いて顔が現れた。

 ワニを思わせる大きな顎と、巨大な頭、

 ただの爬虫類のように見えて深い知性を思わせる、賢そうな目つき。

 背中に並んでいるのは、カギ爪のように屈曲した青く鋭い三列の背鰭、そしてそこから伸びる長い長い尻尾も含めれば、全長は100メートルを下らない。

 そしてそいつは、優雅に立ち上がる。

 

 長い手足を備えた()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……って、こいつ、〈ZILLA(ジラ)〉じゃねーか!!

 

 エミィは危うくズッコケそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強脚怪獣、ZILLA(ジラ)

 昔リリセと一緒に観たエガートン=オーバリーのメカゴジラ映画に出てきた怪獣であり、そしてあの『キングオブモンスター』から(God)が無くなったやつ、つまりゴジラのパチモンだ。

 ZILLAという名前も、誰かがこの怪獣をゴジラと間違えたことに因んで名づけられたらしい。

 破壊神と呼ばれるゴジラに対し、それほどでもないからZILLA。魚食性、つまり魚を食べるのでついた綽名は〈ツナイーター〉。なんともひどいネーミングである。

 ……ああたしかに『魚を喰え』とは思ったさ。

 けど、だからってマグロ喰ってるヤツ(ツナイーター)が出てこなくてもいいだろうよ。

 

 実際のところ、エミィはZILLAがあまり怖い怪獣だと思えなかった。

 エガートン=オーバリーの映画では、メカゴジラの尻尾の一撃であっさりやられて中性子ビームで焼かれてしまう情けない噛ませ犬だ。

 実際のZILLAもミサイルの集中砲火で死んでしまうくらいらしいが、実物を見てみるとたしかにそんな気がした。

 ……ZILLAの体はスマート、悪く言えば貧弱。他の怪獣と戦ったらすぐに負けてしまいそうだ。

 顔つきも芸を仕込めそうなくらいには賢そうだし、人喰いのエビラなんかよりはよっぽど可愛げがあると思う。

 ZILLAなんてただのデカいイグアナみたいなもんだ、大仰に恐れるような怪獣じゃない。

 

 

 そんなZILLAには巨大な首輪がつけられており、その首輪にはエミィが大嫌いな、エクシフの七芒星が刻み込まれているのが見えた。

 真七星奉身軍の手下として連れてこられたのだろう。

 ……リリセには偏見だと叱られたけど、やっぱりあのスケキヨ女、とんだ食わせモノだったな。

 なにが献身だ。なにが救済だ。クソッタレめ。

 怪獣を戦争の道具にするなんて、LSOとやってることが変わらないじゃないか。

 

 

 かつて真七星奉身軍に対して自身が懐いた警戒心が正しかったと証明されたは良いものの、エミィはちっとも嬉しくなかった。

 エビラ、メガニューラ軍団、大ダコ、カマキラス、アンギラス。

 一頭だけでも手に負えないのに、厄介なヤツがさらにもう一匹増えるのか。

 この国は怪獣だらけかッ。

 

 

 

 

 奉身軍側が繰り出してきた怪獣ZILLAに、LSO側も応戦することにしたらしい。

 島の岩山が変形し、奥から巨大な装置がにょきにょきとせり上がってきた。

 

 鉄パイプを無数に束ねて括り付けたような、奇妙な砲台。

 その形状に、エミィは見覚えがあった。

 昔読んだメカの資料に載ってた奴だ。

 

(……たしか〈二十四連装砲〉とか言ったな)

 

 怪獣の迎撃用に開発された拠点防衛兵器の一種で、拠点に近づいてくる怪獣に対して文字通りの集中砲火を浴びせ、追い払う。

 実に単純明快な兵器だが、狙う標的が数十メートル級の怪獣だから導入当初はそれなりに効果が大きかった

 ……と、エミィの読んだ資料には載っていた。

 そんな二十四連装砲が二台も出現し、ZILLAを標的に定めていた。

 ZILLAの方はミサイルで死ぬような弱い奴だ、二十四連装砲の直撃なんか喰らったらひとたまりもない。

 映画でも『秒殺!』って扱いだったし、案外あっさり死んでしまうんじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に考えたエミィだったが、すぐさま自分の認識が甘かったことを思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二台の二十四連装砲が砲撃を開始、放たれた無数の砲弾が空を覆う。

 

 しかしその弾幕はZILLAに当たらなかった。

 

 左右両方から繰り出される二十四連装砲の集中砲火を、曲芸めいた動きでするりするりと紙一重ですり抜けてゆくZILLA。

 空を真っ黒に塗り潰してしまうほど猛烈な弾幕なのに、ZILLAには一発も当たっていない。

 まぐれではない。空を埋め尽くすような二十四連装砲の一斉砲撃、ZILLAはその弾幕のわずかな間隙を見抜き、機敏な身のこなしで的確に回避しているのだ。

 

 そして細身な見た目に反し、ZILLAは随分とパワフルな奴だった。

 砲弾の雨霰をひょいひょいと躱しながら、ZILLAは足元に停まっていた船を掴み上げると、まず右側の二十四連装砲に向かって思い切り投げつけた。

 その場から動けない固定砲台の宿命で、飛んでくる重さ数トンの剛速球を二十四連装砲は躱すことが出来ない。

 船を叩きつけられた二十四連装砲は、木端微塵に爆発してしまった。

 

 

 続けてZILLAは、思い切り息を吸い込むと、残った左の二十四連装砲に向かって()()()()()

 

 

 ……ZILLAって火を噴くのか?

 だが、エミィにはたしかにZILLAが火を噴いたように見えた。

 

 火を噴くZILLAの姿は、かつて街中で観た大道芸の火吹き男をエミィに思い出させた。

 きっと理屈も火吹き男と同じだ。体内に溜め込んだ可燃性のガスに着火させた、というところなのだろう。

 ZILLAの力強い吐息(パワーブレス)を浴びた二十四連装砲は根こそぎ引っ繰り返され、そのまま丸焦げにされてしまった。

 

 こうして二十四連装砲を殲滅したZILLAは満足げに、象の鳴き声にも似た勝利の咆哮を挙げたのだった。

 

 

 ……『情けない噛ませ犬』?

 

 『ZILLAなんて恐れるような怪獣じゃない』??

 

 『ただのデカいイグアナ』????

 

 

 そんな戯れ言ぬかしてるパッパラパアのバカはどこのどいつだ。

 

 

 全長は100メートルを超え、二十四連装砲の集中砲火をハリウッドのワイヤーアクションみたいな変態じみた動作で俊敏に回避し、おまけに火を噴いて固定砲台を焼き尽くす。

 何処にこんなイグアナがいるっていうんだ。

 こんなのどう見たって立派な怪獣じゃないか。

 予想を超えたZILLAの暴れっぷりに、エミィと少年が呆けて眺めていると、その視界が急に薄暗くなった。

 空を見上げてみると、その原因がわかった。

 

 

 

 

 暗くなったのは空に巨大な影が差したからだ。

 影の主はメガニューラ軍団のボス、超翅竜〈メガギラス〉である。

 

 

 

 

 エミィは肝が冷える思いがした。

 子分のメガヌロンやメガニューラがいるのだから、親玉のメガギラスもいるのは当然だ。

 でもまさか自分たちの頭上にいたなんて。

 

 エミィたちの頭上に現れたメガギラスは、真っ赤な複眼で海上のZILLAをじっと睨みつけている。

 どうやらメガギラスは、新たに現れたZILLAへ勝負を挑むつもりらしい。

 ZILLAと睨み合いながら、メガギラスが左右三対計六枚の翅を小刻みに羽ばたかせ始める。

 

 メガギラス必殺、高周波である。

 

 途端、ガラスを引っ掻いたのを数段ヒドくしたような強烈な高音が巻き起こり、聴覚を突き破られそうになったエミィと少年は咄嗟に耳を押さえた。

 メガギラスの翅の動きがあまりに速いため、羽ばたく音が凄まじい高音になっているのだ。

 メガギラスの翅はさらに加速し、破壊的な高周波が渡り廊下の窓ガラスにヒビを入れた。

 

 ――伏せて!

 

 浅黒肌の少年がエミィを抱えるようにして床に伏せると同時に窓が炸裂、粉微塵になったガラスの破片が二人の頭上から雨霰(あめあられ)と降り注いだ。

 

 そんな眼下のムシケラのことは意にも介さず、高周波を撒き散らしながら、メガギラスは空中でロケットスタートした。

 目にも止まらぬ超スピードのジグザグ飛びで襲い掛かろうとするメガギラスと、そんなメガギラスを睨みつけながら待ち構えているZILLA。

 メガギラスが鋏と尻尾の針をかまえながら、ZILLAに組み付こうとしたまさにその瞬間、

 

 

 

 

 メガギラスの鼻先に、ZILLAの尻尾の一閃が直撃した。

 空気の弾ける破裂音が、床で鞭を打ち鳴らしたときの数千倍の音量で、孫ノ手島全体へ響き渡った。

 

 

 

 

 ……メカゴジラ映画とは真逆の展開だ。

 映画だとZILLAはメカゴジラの尻尾でブッ飛ばされていたけれど、実際のZILLAはメガギラスを尻尾で叩きのめしてしまった。

 硬そうに見えて存外軽いメガギラスは尻尾で叩きのめされ、メジャーリーガーが打ったピッチャー返しのように、キリを揉みながら元来た場所へとブッ飛ばされてきた。

 

「……って、こっちに飛んできてるじゃねーか!」

 

 エミィと浅黒肌の少年は大股で床を蹴り、渡り廊下の端へと飛び移った。

 直後、メガギラスの体が渡り廊下へと墜落、鋼鉄とコンクリートをぐしゃぐしゃに捻り潰す轟音と共に、渡り廊下は崩壊した。

 

 床に転がりながら、エミィは後ろを振り返る。

 渡り廊下はメガギラスに押し潰されて完全に崩落、通行不能になってしまった。

 手痛い一撃を喰らったメガギラスは瓦礫の山に頭から突っ込んで埋もれてしまい、脚と翅をばたつかせてもがいている。

 ……危なかった。

 あと一秒でも飛び移るタイミングが遅かったら、間違いなく一緒に潰されていただろう。

 エミィと浅黒肌の少年は、安堵するように溜息をついた。

 

 海の向こうでは、ZILLAが雄叫びを挙げている。

 まるで自身が飛ばした会心の大ヒットを誇っているかのようだ。

 ……実際大したものだ、とエミィは思う。

 メガギラスはアンギラス以上に俊敏なことで有名な怪獣であり、そのスピードは上から数えた方が早い。

 そんなに素早いメガギラスを叩き落とすなんて、並大抵の怪獣に出来ることではない。

 

 

 そんなZILLAに、無数の羽音が(まと)わりついた。

 

 

 羽化したばかりのメガニューラの群れだ。

 親分のメガギラスがやられた仕返しに、子分のメガニューラが寄って集って逆襲しに向かった。

 

 ZILLAはパワーブレスで追い払おうとするが、メガニューラたちは火達磨になろうが叩き潰されようが、捨て身でZILLAに挑みかかり、針を突き立てて吸血しようとする。

 たまらずZILLAは海中へ飛び込んだ。

 ZILLAがのたうち回るにつれて海が荒れ狂い、溺死したメガニューラたちの死骸が浮かび上がる。

 ようやくメガニューラたちを払い落として立ち上がったZILLAへ、さらに赤い巨体が飛び掛った。

 深海の恐怖:エビラだ。

 真七星奉身軍を追い回していたエビラは、より巨大な獲物:ZILLAが現れたことを察知して標的を変えたのだ。

 

 不意を突かれてハサミで殴りつけられたZILLAだったがすぐさま体勢を立て直し、エビラに反撃の引っ掻きをお見舞いする。

 ZILLAの爪と、エビラのハサミ。

 巨大なパワーがぶつかり合い、海上で激しく火花を撒き散らす。

 かくして、孫ノ手島の浅瀬を舞台にZILLAとエビラの剣戟が始まった。

 

 

 

 ……急ごう、怪獣同士のイカレたチャンバラバトルなんて見物してる場合じゃない。

 エミィと少年は互いの手をとり、先を急いだ。

 

 




登場怪獣紹介その4「メガギラス一族」

・メガヌロン
体長:2メートル
体重:500キログラム

・メガニューラ
体長:2メートル
翼長:5メートル
体重:1トン

 メガヌロンの初出は『空の大怪獣ラドン』。
 ストーリー序盤で発生した謎の斬殺事件の下手人として登場。
 人々とメガヌロンが炭鉱で繰り広げる対決シーンは見所の一つですが、そんな手強いメガヌロンたちも本作の主役である空の大怪獣ラドンにとってはただのおやつでしかなかったのでした。

 虫の怪獣なのになぜかピヨピヨ鳴くのがツッコまれがちなんですが、このピヨピヨ音は『モスラ対ゴジラ』のソノシートでもモスラ幼虫の鳴き声として使われている効果音なので、幼虫っぽい鳴き声としてイメージされたものなのかもしれません。
 『空の大怪獣ラドン』の時点で足の数や体のつくりが普通のヤゴとは明らかに違ったりするので、実際のところは古代から生き残っていたメガネウラから進化した別種で、メガネウラそのものとは違うのでしょう。

 その後は長年忘れられた怪獣だったんですが、新世紀シリーズの『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』でまさかの再登場。
 現代的な昆虫怪獣としてかなりリメイクされているものの、脚の数や両手の鋏などは『空の大怪獣ラドン』に準じたものになっています。
 またこちらではヤゴの特徴でもある「顎の噛みつき」も披露。渋谷の街で人々を襲い、水脈を破壊して水没させるという戦果を上げています。

 成虫メガニューラは『空の大怪獣ラドン』で登場しませんでしたが、『×メガギラス』には登場、ゴジラとも対決します。
 「大怪獣と群れの対決」というシチュエーション自体は『ゴジラVSデストロイア』、ゴジラシリーズ以外にも目を向ければ『ガメラ2 レギオン襲来』に先行されたものではあるものの、夜での対決だった前二者とは違い『×メガギラス』は昼間の対決であり、ドラマの主軸もゴジラと人間の対決にあるので若干差別化されています。


・メガギラス
全長:50メートル
翼長:80メートル
体重:1万2千トン
二つ名:アバドン、超翔竜
主な技:超翔竜高周波(ハイパーフライトドラゴンソニック)吸精死尾針(ドレインデススティンガー)高周波爆熱球(メガソニックファイアボール)

 メガギラスの初出は『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』。またライブフィルムで『ゴジラ FINAL WARS』にも登場しています。

 オルガに続く新世紀シリーズが初登場の怪獣ですが、メガヌロンが羽化したという設定の怪獣であり、厳密なオリジナル怪獣というわけではありません。
 厳密に言うとメガヌロンが羽化したメガニューラの親玉、いわゆる『アルファ』にあたる個体になります。

 モチーフはメガネウラ、つまり古代トンボなんですが、上述のメガヌロンと同様「サソリに似たハサミとシッポがある」「ハサミを含めると肢が8本ある」「翅が6枚ある」「爬虫類に似た顎がある」など、現実のトンボとかけ離れた要素も多く、超翔“竜”の名のとおりドラゴンのイメージも汲んだ怪獣となっています。
 劇中設定では中国で化石が見つかっていると説明されていますが、どんな化石なんでしょうね。

 刺々しいデザインが似ているため『ゴジラVSモスラ』のバトラとも比較されますが、メガギラスの場合は俊敏な動きでゴジラを翻弄しながら肉弾戦を仕掛けるバトルスタイルとなっており、多用な光線技を持つバトラとは明確に差別化されています。
 『×メガギラス』におけるゴジラとの激しい肉弾戦は、とても見応えのある楽しいプロレスなので必見です。

 「アバドン」の名前は文中で説明のあるとおり、イナゴを率いる悪魔の王者から。
 わりと野心家っぽいキャラ付けにしていますが、某ナンバートゥーと違って仲間想いという設定があります。
 最初はそうでもなかったものの、書いているうちに好きになった怪獣の一匹。

※「ソニックは名詞じゃない」? まあいいじゃないですかそんなの。
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