怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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プロレスです。


54、大破局の予兆

 ……なんで空が見えるんだろう。

 さっきまで建物の中にいたはずなのに。

 

 

 わたし、タチバナ=リリセが意識を取り戻したとき、わたしはぼんやりとした頭でそう思った。

 

 次に知覚したのは全身の痛みだった。

 骨が折れるような重傷こそ負っていなかったが、打身(うちみ)切傷(きりきず)で満身創痍だ。

 全身に被った塵と埃を払いながら身を起こす。

 

 しかし、立ち上がることは出来なかった。

 崩れた鉄骨で足首を挟まれてしまっていた。

 引っ張ってみたり、鉄骨を持ち上げようともしてみたがやっぱりだめだ、わたし一人では上手く抜け出せそうにはない。

 その場に釘付けにされたわたしは、顔を上げて周囲を見回した。

 

 

 ビルサルドの高い技術力によるものか、セントラルタワーはなんと奇跡的に崩れていなかった。

 完全な倒壊こそ免れていたものの、最上階から中腹にかけてショベルでがっつりと掻き出したように削り取られている。

 ……さっき空が見えたのは屋根がごっそりなくなっていたからだ、とわたしはふらふらの頭でようやく理解した。

 

 外観はなんとか保っていたものの、代わりにタワー内部は完全にめちゃめちゃになっていた。

 並んでいたコンピュータ機器は盛大に叩き潰されており、当然何の役割も果たしていない。

 

 壊れたコンピュータのすぐ傍で、ビルサルドの統制官ヘルエル=ゼルブが倒れていた。

 表情はわからないが死んでいるのは確実だ。

 

 

 

 なぜなら、崩れてきた瓦礫で首から上を完全に潰されていたからだ。

 

 

 

 一帯が血の海になる代わりに、首の切断面や異様な方向に捻じ曲がった手足の傷口から大量の銀色の溶液――おそらくはナノメタル製の人工血液だろう――が溢れ出ていた。

 『ナノメタルは死を克服する』とかなんとか自慢していたゼルブだけど、流石に頭が粉砕されてしまえばどうにもならない。

 

 力に身を任せた独裁者、ヘルエル=ゼルブ。

 そんな男が怪獣、すなわち巨大な力に捻り潰されて死ぬ。

 なんて皮肉な最期だろう。

 許しがたい悪党だとは今でも思う一方、そんな悲惨な末路を辿ったゼルブがちょっと哀れに思えた。

 

 同時に、背筋が凍るような感覚を覚える。

 そんなゼルブの傍にいたわたしが脚を挟まれる程度で済んだのは、ただの幸運に過ぎない。

 ……もしもゼルブがわたしを投げ捨てたのがもっと窓寄りの方向だったら。

 動くのが一瞬遅かったら、あるいは一歩だけでも飛び出した距離が短かったら。

 そう考えるとぞっとする。

 

 

 身の回りの確認に続いて、わたしはタワーの外を眺めた。

 LSOに操られていた怪獣たちは、セントラルタワーのコントロールから解放されたことで自由気ままに暴れまわっていた。

 

 暴龍:アンギラスは、さっき自分がぶち壊したセントラルタワーのことなど忘れたようにクモンガとカマキラス相手に大立ち回りを演じていた。

 肉食昆虫:メガニューラたちは、タワーからの統制が失われたことで真七星奉身軍だけでなくLSOも含めた地表にいる人間を無差別に狩り始めていた。

 超翔竜:メガギラスは、深海の恐怖:エビラとともに海上でZILLAと掴み合いを繰り広げている。メガギラス、エビラ、ZILLA、決着がつけば生き残った怪獣が上陸してくるだろう。

 

 そういえばZILLAはどこから現れたのだろう。

 そんなわたしの疑問は、ZILLAにつけられた首輪とそこに彫られたエクシフ七芒星ですぐに解消された。

 ……ああ、ウェルーシファと真七星奉身軍が連れてきていたのか。

 やっぱりエミィやゼルブは正しかった、エクシフは迂闊に信用するべきじゃなかった。

 ウェルーシファに良いように利用された自分が、とても悔しい。

 

 

 ……それにしても。

 眼下で広がる凄まじい怪獣大戦争を眺めながら、なんて酷いことをするんだろう、とわたしは思った。

 

 アンギラスやエビラはともかく、単為生殖できるZILLAや群れを作って暮らすメガギラス、そしてカマキラスの逞しすぎる繁殖力は地球環境にとって大きな脅威だ。

 際限なく殖え続ける彼らには、その群れを維持するだけのエサが必要になる。

 そしてその大量のエサを地球の限りある資源で賄い切れるだろうか。

 リョコウバトやステラーカイギュウみたいに、人間が食べるために獲っただけで絶滅してしまった生き物もいる。

 そんなかろうじてギリギリ回っているような地球の現状に、食欲旺盛な怪獣の群れが加わったらどうなるか。

 

 その繁殖力も殺戮兵器として使うなら便利かもしれないが、戦争が終わって用が済んだあと彼らはどうなる。

 飼い切れなくなったペットを野に放すようにはいかない以上は殺処分するしかない。

 だが、もし殺しきれなかったら?

 そして生き残った彼らがこっそり増殖して、いつの間にか地球が怪獣たちの大群で埋め尽くされてしまったら?

 ゴジラなんかいなくたって、たったこれだけで地球は滅亡してしまうのだ。

 

 それに怪獣とはいえ生き物を使い捨ての鉄砲玉みたいに扱うLSOと奉身軍、ひいてはビルサルドやエクシフの考え方には心底嫌悪感を覚える。

 そもそも子供を使い潰し、他人を騙して出し抜いて、人も傷つけても何とも思わない連中だ。

 怪獣なんて便利な消耗品かなにかとしか思っていないのだろう。

 

 そして地球人の身に振り返って考えたとき、わたしは暗澹たる気持ちになった。

 エクシフやビルサルドがいなかったとしても、それが可能なテクノロジーさえあれば地球人だって同じことをしでかしたに違いない。

 地球人のワガママに振り回されて不幸になった動物たちなんてそれこそ沢山いる。

 たとえばカミツキガメ。アライグマ、ブラックバス、マングース。

 どれも人間の都合で殖やされ、手に負えなくなった途端に害獣扱いで狩られるようになった生き物だ。

 もしも怪獣たちが人間に飼われるようになったなら、きっと同じ顛末を辿るに違いない。

 だって、人間はいつだって身勝手だもの。

 

 

 そんなことを考えていたわたしはふと、空を舞うメガニューラの一体と目線が重なった。

 メガニューラは空中でホバリングし、わたしのいるタワーの方をじっと見つめている。

 

 ……ヤバイ、と思った。

 

 空を飛び回るメガニューラにとって、脚を挟まれて動けない人間の女なんて恰好の獲物だ。

 わたしは慌てて瓦礫の影に身を隠した。

 

 しかし、その動作が却ってメガニューラの注意を引いてしまったようだ。

 タワーの上階で動けない獲物、つまりタチバナ=リリセの存在を認識したメガニューラは空中で方向転換してこちらに向かってきた。

 他方わたしは武器など何一つ持っていない。

 それどころか逃げることすら出来ない。

 

 鋏と尻尾を振りかざしながらまっしぐらに向かってくるメガニューラ。

 わたしは自分が食い殺される末路を想像した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき響いたのは、空を裂く風切り音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしの眼前で、巨大な翼を広げた影がメガニューラを攫っていった。

 ……なに、いまの。

 強烈な突風に吹っ飛ばされそうになりながらわたしは目を開け、そして驚愕する。

 

 煮えたマグマのように真っ赤な翼が、空を覆っている。

 まるで噴火する火山が飛んでるみたいだ、その大きさは100メートルにも及ぶだろう。

 そして重機のアームよりも逞しく、刃物よりも研ぎ澄まされたカギ爪。

 そいつのカギ爪でがっしり捕まえられたメガニューラは逃れようと懸命にもがいていたが、無駄な足掻きだ、火山岩から削り出したような嘴で啄まれ、バラバラに食い千切られてしまった。

 

 そうやって一頭目の獲物を仕留めたそいつはひらりと舞い上がり、わたしのいるタワーの上階へと着地。

 セントラルタワーの頂上で仁王立ちした空の大怪獣は、まるでその君臨を宣言するかのように勇ましい咆哮を高々と轟かせた。

 

 

 

 

 そいつは火の悪魔、ラドン。

 かつて多摩川の河川敷でレックスやアンギラスと互角に渡り合った、空の王者である。

 

 

 

 

 襲来したラドンを迎撃するメガニューラ。

 一斉に群がり、尻尾の針を突き立てて体液を吸い取ろうとする。

 集団殺法、単純だが振り払うのには相当骨が折れるだろう。

 

 だけどラドンには通用しなかった。

 メガニューラたちがラドンの肌に触れた途端、メガニューラの体が燃え上がってしまった。

 ラドンを吸い殺そうとしたメガニューラたちは、逆に悲鳴を挙げながら線香花火の火の玉みたいにボトボト散ってゆく。

 ……火山に順応したラドンの体温は融けた岩石、まさに溶岩と同じだ。触れて平気でいられるはずがない。

 そして身を守ろうにも体格が上回るラドンには到底かなわない、メガニューラたちは巧みな制空で追われて捕まるばかりだった。

 

 ……ラドンの方は、なんだか楽しそうだ。

 『わーい、たのしー!』なんて歓声が聞こえてきそうなテンションである。

 まぁ、そりゃそうだ。

 ラドンの主食は昆虫怪獣、特にメガニューラを好物にしているというのは有名な話だもの。

 きっとこのラドンも、大量発生したメガニューラに引き寄せられてやってきたのだろう。

 今の状況はラドンからすれば時間無制限の食べ放題、でなければテレビゲームのボーナスステージみたいなものだ。

 メガニューラ相手に思いっきり暴れられるのが気分よくて仕方ないに違いない。

 

 かくして、つい先程まで一方的な人間狩りに興じていたメガニューラたちは、今度は空の大怪獣ラドンによって一方的に狩り立てられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ZILLAと戦っていたメガギラスは『天敵』が飛来したことに気がついた。

 可愛い兄弟メガニューラたちの窮地を、群れのアルファである超翔竜メガギラスが座視しているはずもない。

 ――ZILLA如きに構っている場合ではない!

 すぐさま島の上空へと舞い戻るメガギラス。

 その赤い複眼で真っ直ぐ睨みつけているのはもちろんラドンだ。

 

 

 ……ラドンとメガギラスには因縁がある。

 

 

 凶暴な肉食昆虫として、古代の森と水辺を支配したメガニューラたち。

 だが、天敵がいなかったわけではない。

 メガニューラたちの主たる天敵、それはラドンである。

 地を這うメガヌロンたちを啄み、空を舞い逃げるメガニューラたちを攫い、そして貪り食らう。

 メガニューラもメガヌロンも、ラドンからすればムシケラに過ぎない。

 一方的に喰われるばかりだった。

 

 ラドンによる乱獲で追い詰められたメガヌロンとメガニューラたちは、ひとつの解決策を編み出した。

 それがメガギラスだ。

 群れに仇なす外敵を倒し、群れの為のテリトリーを広げてゆく。それがメガギラスに課せられた天命だった。

 そしてメガニューラたちにとって最大の脅威と言えば空の大怪獣ラドン。

 すなわちメガギラスとは、ラドンを倒すために生まれた戦闘兵器なのだ。

 

 一方で、ラドンもまたメガギラスのことを生存競争における好敵手として認識した。

 大空の支配者、そんな地位など決して盤石なものではない。

 ラドンの方もメガギラスに負けじと常に競い合ってきた。

 

 

 火の悪魔にして空の大怪獣、ラドン。

 超翅竜のアルファ、メガギラス。

 生まれついての宿敵。

 

 

 飛行怪獣の両雄は共に吼え、超音速で空を駆け抜けて、正面から激突。

 組み合い、縺れ合いながら、空中で文字通りの格闘戦を繰り広げる。

 ラドン対メガギラス。

 宿命のライバルによる大怪獣空中決戦が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミィと浅黒肌の少年がようやく隠れ家に着いた時、子供たちは既に荷造りを終えていた。

 エミィが訊ねた。

 

「みんな、食糧と食器は持ったか?」

 

 エミィの問いに、子供たちがうなずく。

 荷物といっても、リュックの食糧と水、そして食器だけだ。

 その食糧だって、動けなくなるほどの量は持たせなかった。

 この島から本土までせいぜい長くたって三日の船旅だ。

 いっぱい持ってたって邪魔になる。

 

 最初にメガヌロンとカマキラスと大ダコのトリプルコンボに遭遇して以来、エミィと少年は、基地を我が物顔で闊歩する怪獣たちを何匹も見てきた。

 大コンドル、大蜥蜴、大海蛇、大鼠etc……

 

(こんな狭い島にいったい何匹いやがるんだ?)

 

 考えたくもないが、そうもいかない。

 狭い島の中で無数の怪獣たちが苛烈な生存競争を繰り広げているこの現状、じきにここも制圧される。

 のんびりはしていられない。

 

 エミィは、持ち帰ったメガヌロンの臓物から体液を搾り出し、少年と二人で手分けして、搾ったメガヌロンの汁を子供たちの体へたっぷり塗り付けた。

 メガヌロンの体液はかなり臭かったが、堪え切れないほどじゃないし、背に腹は代えられない。

 これだけ臭かったら、メガヌロンたちもきっと騙されてくれるだろう。

 むしろ、そうでなかったら困る。

 

「行くぞおまえら!」

 

 エミィがそう号令したとき、外から、金属をすさまじい力で殴りつける音が響き渡った。

 

 子供たち全員が、音の方へ一斉に振り返る。

 音は隠れ家の入口の方から聞こえていた。

 そしてその向こうから、エミィが二度と聞きたくないと思っていたあのピヨピヨという鳴き声が聞こえてきた。

 

 

 メガヌロンだ。

 ついにここが見つかってしまったのか。

 

 

 ……あるいは自分のせいかもしれない、とエミィは思った。

 エミィが読んだ昆虫図鑑に、こんな話が載っていた。

 巣の外で餌を見つけた蟻は、目印となる臭いの物質、いわゆるフェロモンを垂らしながら巣に帰ってゆくという。

 すると他の蟻たちも、そのフェロモンの臭いを辿って餌の場所へと集まってくるのだ。

 いわゆる『蟻の行列』が出来上がるメカニズムである。

 ……ちっきしょう、ぬかった。

 エミィは舌打ちした。

 身を守るためにまとったメガヌロンの体液が、逆に別のメガヌロンを呼び寄せてしまったのだ。

 

 

 

 

 真っ先に動いたのは浅黒肌の少年だった。

 部屋の隅にあった空のコンテナを引っ張り出し、入口に捻じ込んで、さらに引き戸を閉めてつっかえ棒をした。

 だが、メガヌロンの力が強いのは先ほども見たとおりだ。

 こんなバリケードぐらいでは侵入を防ぎきれないだろう。

 

 ――こっちだ!

 

 と、少年はエミィの手を取って隠れ家の隅へと移動すると、壁に張られていた鉄板を引き戸のようにスライドさせた。

 引き戸を外すと、子供が通れるくらいの通路が現れた。

 別の抜け穴だ。

 思わぬ抜け道に驚いたエミィだが、考えてみれば当然だ、入口がひとつのわけはない。

 浅黒肌の少年が抜け穴へと入り、エミィと子供たちも後へと続く。

 

 

 抜け穴を通過すると梯子があった。

 数メートルの高さがある、長い梯子だ。昇り切った先には明るい蛍光灯の光が見えている。

 きっと基地内、地上階のどこかに通じているのだろう。

 

 ――行こう!

 

 最初に少年が梯子に手をかけ、昇り始めた。

 少年が先導して安全を確保し、エミィが殿(しんがり)を務める。

 互いに合図を飛ばし合いながらエミィと少年は連携し、子供たちを順繰りに地上階へと送り出してゆく。

 

 そうやって子供たちを送り終え、あとはエミィが昇るだけになったときだった。

 隠れ家の奥から金属を叩きつける音が鳴り、さらに引き裂く音が響いた。

 メガヌロンがとうとうバリケードを破ったのだ。

 ……やばい!

 エミィは梯子に飛びつき、大急ぎで昇り始めた。

 

 エミィが梯子の中腹まで昇ったとき、抜け穴の奥からドタバタと大騒ぎの音が聞こえてきて、引き戸を突き破ってメガヌロンの頭が飛び出してきた。

 銀紙を裂くように引き戸を破壊し、メガヌロンの上半身が梯子の下へと這い出てくる。

 

 玉虫色にぎらつくメガヌロンの複眼が、梯子を登るエミィを見上げた。

 獲物を見定める目つき。

 メガヌロンの巨体では通路が細すぎて通るのに苦労しているようだった。

 だが入口の通路はもっと細かったはずだ。

 すぐに這い出てくるだろう。

 

 上の方で子供たちが「急げ! 急げ!」とエミィを急かしている。

 もちろんだ、とエミィは細い腕に鞭を打って、懸命に梯子を昇った。

 しかしメガヌロンの方が素早かった。

 エミィが上階に出るまであと少し、というところでメガヌロンが通路を完全に這い出てきてしまった。

 昆虫怪獣であるメガヌロンにとって、壁昇りなどいとも容易い。

 メガヌロンが梯子を昇り始めるや引き離された距離などあっという間に取り返し、エミィの足元のすぐ下にまで肉薄した。

 エミィの足首に食らいついてやろうとばかりに、顎を開閉して牙を打ち鳴らしたときだった。

 

 

「これでも喰らえっ、ヤゴ野郎!!」

 

 

 エミィが懐からガラスの瓶を取り出し、メガヌロンへ目掛けて思いきり投げつけた。

 ガラス瓶はメガヌロンに直撃し粉砕、メガヌロンは中の液体を顔面から浴びることになった。

 

 エミィが投げつけたのは先ほど〈α試料保管庫〉を焼いた時に使った、薬品の残りだった。

 マニキュアなどの化粧品にも使われるが、目に入れば失明のおそれもある危険な劇薬だ。

 そんな代物を顔面に浴びせられては、流石のメガヌロンもかなわない。

 怯んだメガヌロンは、ピヨピヨと悲鳴を挙げながら梯子を転げ落ちてしまった。

 

 今のうちだ、とエミィが梯子を全力で昇りきると、上階で待っていた浅黒肌の少年がその手を取って引き上げてくれた。

 出入り口の蓋を閉め、しっかりと封印する。

 あんな目潰しが長く通用するとは思えないが、これで少しは時間が稼げるだろう。

 

 エミィが上がった先は、先程までLSOの兵士と追いかけっこを繰り広げた通路と同じような構造になっていた。

 ここは多分、地上のフロアだ。このまま進めば外にも出られるはず。

 

 引き上げてくれた浅黒肌の少年に「ありがとう」と礼を告げ、エミィは子供たちを引き連れて移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫ノ手島 怪獣大戦争。

 怪獣たちの中で真っ先に戦線を離脱したのは、大ダコであった。

 

 ……なんなんだ、あいつは!?

 

 大ダコが恐れたのはアンギラスだ。

 過剰なまでに激しい体内電流とそれが起こす異常な膂力、まるで体内に発電機を積んでいるかのようだ。

 それに、全身にまとったエメラルド状のクリスタル。

 そんなアンギラスに、大ダコは底知れぬ恐怖を覚えた。

 

 あのクリスタル、あの電気を使う能力、どれも地球のものじゃない。

 

 大ダコはアンギラスの『禍々しさ』を察知し、高度な頭足類の知能によってその正体の一端を看破した。

 

 おれはもう御免だ!!

 

 そして大ダコは逃げ出した。

 戦線離脱した大ダコのことは、誰も気に止めなかった。クモンガとカマキラスはアンギラスとまだやり合うつもりのようだったし、海上にいたエビラは相変わらずZILLAとのチャンバラカンフーバトルに夢中で、海中へ逃れた大ダコには目もくれなかった。

 ……もうムシケラどももたらふく食べた。

 このまま沖へと逃れ、海の底でひっそり暮らそう。

 戦いなんてもう沢山だ、あんな恐ろしい奴がいるなんて、もう陸地を支配したいなんて思わない。

 普段は海の底で、たまに海上へ出て人間だか鯨だかを食べて暮らせればそれで充分だ。

 島から全速力で逃れながら、大ダコはそんなことを考えた。

 

 

 

 

 しかし、そんな虫のいい祈りは、眼前に現れた〈巨大な影〉によって破られた。

 

 

 

 

 長い尻尾。

 三列の背鰭。

 そして憤怒に燃える二つの瞳。

 体長100メートルに及ぶ巨体が、しなやかに体をくねらせながら大ダコに迫った。

 そのシルエットで大ダコは思い出す。

 この星で最も恐ろしい存在のことを。

 

 

 まさか、おまえは……

 

 

 すぐさま急速転回で逃れようとした大ダコだったが一足遅く、巨大な顎に噛み砕かれてバラバラにされてしまった。

 




登場怪獣紹介その5「カマキラス、クモンガ、大ダコ」

・カマキラス
体長:58メートル
体重:2,800トン
二つ名:エンプーサ、蟷螂怪獣
必殺技:ハーケンクラッシュ

 初出は『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』。
 ライブフィルムで『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』にも登場している他、『ゴジラアイランド』ではX星人と組む内通者として登場。
 マイナーな割に再登場が多い怪獣ですね。

 操演怪獣の傑作として知られる怪獣の一体。
 『ゴジラの息子』に登場した初代カマキラスと、『ファイナルウォーズ』の二代目カマキラスは造形がかなり違っており、初代カマキラスは「左右の鎌の形状が違う」「体色が茶色」、二代目カマキラスは「左右の鎌が同じ」「体色が緑」になっています。
 実際のカマキリにおいても同じ卵嚢から色の違う個体が生まれることがあるため、あるいは別種ではなくて同一種の個体差なのかもしれません。
 『ゴジラの息子』における三位一体の連係プレーや、『ファイナルウォーズ』における俊敏さが印象的。

 近年は妙な人気があり、『怪獣黙示録』では一番最初に出現した怪獣という設定になっていたり、ハーメルンの著名なゴジラ作品にもいくらか登場。
 またカマキラスの登場がGMKの没案だったのは有名ですが、GMKの監督を務めた金子修介監督は近年のイベントでも同様の発言をされています。
 初出の『ゴジラの息子』からして集団で登場したりクモンガに食い殺されたりとやられ役のイメージが強いので、「ゴジラ以外の怪獣や人間にやられても株が落ちない」というポジションが便利なのかもしれません。

 二つ名の「エンプーサ」は淫魔のことで、ギリシア語で雌カマキリの意味。
 これに因んで、今回のカマキラスは全員メスという設定があります。


・クモンガ
体長:45メートル
 足の高さ:25メートル
体重:9千トン
二つ名:アラクネ、毒グモ怪獣
必殺技:強縛デスクロスネット

 初出は『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』。
 他には『怪獣総進撃』『ゴジラ FINAL WARS』に登場、ライブフィルムで『オール怪獣大進撃』『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』にも登場します。
 カマキラス同様「巨大な毒蜘蛛」というわかりやすくて強そうなビジュアルが使いやすいのか、地味に再登場の多い怪獣だったりします。

 カマキラス、モスラ成虫と並んで操演怪獣の傑作として知られる怪獣の一体。
 ただの大きな蜘蛛と思いきや実は意外な強豪で、『ゴジラの息子』においては不意打ちとはいえゴジラの目を潰して追い詰めており、ゴジラとミニラの親子協力プレーでやっと倒せたほどの実力者です。
 『ファイナルウォーズ』だとブン投げられて終わりましたが、あれはあのときのゴジラが異常に強かったということで。

 ちなみにクモンガに対するツッコミで「蜘蛛は口から糸を吐かねえだろ」というのがありますが、「口から糸を吐く蜘蛛」は一応実在します。
 ユカタヤマシログモという蜘蛛で、この蜘蛛は口から粘液を吐きつけて獲物を捕まえる習性を持っています。
 ただし、ユカタヤマシログモの糸吐きはスパイダーマンのウェブシューターに似ており、クモンガのようなスプレー状の糸とはやはり印象が異なります。

 二つ名の「アラクネ」はギリシア神話の蜘蛛の怪物のこと。
 カマキラス同様、このクモンガも実はメスという設定。


・大ダコ
全長:30メートル
体重:1600トン
二つ名:クラーケン、海魔
必殺技:オーシャンデビルバインダー

 初出は『キングコング対ゴジラ』。その名のとおりデカいタコ。
 他にも『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』にも登場。
 またハリウッドの『キングコング: 髑髏島の巨神』にて、彼のリメイク怪獣に当たるリバーデビルが登場しています。
 ゴジラ映画への出演は一本きりなものの、その後は何かとヒト型怪獣と縁がありますね。

 『キングコング対ゴジラ』での撮影に際し本物のタコが使われたという逸話で有名な怪獣です。
 ただし生のタコだけではなく模型も使われており、後作での再登場はこの模型を流用したものになります。

 実は、「初代ゴジラの初期案では大ダコの怪獣が検討されていた」という話があります。
 真偽はよくわからないものの、もし初代ゴジラが今のような怪獣ではなくタコの怪獣だったら、怪獣映画の歴史そのものが変わっていたでしょう。

 二つ名の「クラーケン」は北欧の神話に出てくる海の怪物のこと。
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