怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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6、緑の砂漠、What Ever Happened to KING?

 クルマの修理を終えて昼食を摂り、荷物を撤収したわたしたちは、廃墟の街をあとにした。

 

 移動する車中から外を見ると、わたしの視界に高層ビルの廃墟が入った。

 ツル植物で緑に染め上げられたビルの上部は、()火箸(ひばし)を突き刺したバターのように、綺麗に丸く抉り取られている。

 単なる地震や自然災害、風化では絶対起こらない、ともすれば芸術的とすら感じるほどに異様な破壊。

 この破壊をやらかした下手人をわたしは知っている。

 

 

 キングオブモンスター、〈ゴジラ〉。

 西暦2046年にゴジラが大暴れして以来ずっと、この東京二十三区は人の棲まない廃墟となっていた。

 

 

 人が棲まなくなったのは、単に破壊されたことだけが理由ではない。

 ゴジラの別名は『水爆大怪獣』、一説によると水爆実験の影響で生まれたらしい。

 由来の真偽はさておき、そんなゴジラは強い放射能を帯びており、周囲を重度の放射線で汚染することがある。

 そんなゴジラが街中で暴れ回ると、適切な除染処置をしないかぎりその土地は人間が棲めなくなってしまうのだ。

 そしてアラトラムとオラティオが出発し、地球連合政府がほぼ完全に壊滅した今となっては、真面目な除染作業などされるはずもない。

 このように、ゴジラの襲撃で不毛の土地へと変わり果ててしまった街は多かった。

 

 にもかかわらず、わたしたちは防護服を着ていなかった。

 自棄(やけ)だからではないし、放射能が平気なミュータントというわけでもない。

 

「リリセ、放射線量計(ガイガーカウンター)はどうだ」

 

 ……そうだね、そろそろ見た方が良いかも。

 運転席のエミィに促され、わたしは持参したガイガーカウンターの目盛りを覗きながら答えた。

 

「正常値だよ。まあ、()()()()()()()()()大丈夫だと思うけどね」

 

 放射能汚染されたはずの危険地帯で、わたしたち二人が素肌を晒していられる理由。

 それは街を覆い尽くす『ツル植物たち』のおかげだった。

 

 ……このツル植物たちは怪獣出現以前には存在しなかった突然変異種だ。

 いかなる原理によるものかは不明だが、このツル植物には放射性物質を吸収し、周囲から放射能汚染を取り除いて無害化してくれる効能があるらしい。

 生物学や放射能に疎いわたしに詳しい理屈はわからないけれど、考えてみればさほど不思議なことでもないのかもしれない。

 歴史の本に載っていたが、かつては放射能汚染を浄化する『抗核エネルギーバクテリア』なんてテクノロジーもあったらしい。

 恐竜時代の古代生物が、核実験の影響で身長50m級の怪獣となって現代によみがえる

 こんなトンデモないことが起きてしまう世界なのだから、放射性物質を取り込んで浄化するツル植物が生まれるくらい別にどうってこともないだろう。

 

 こうして街の放射能汚染は取り除かれたものの、かといってこの街に人が戻ってきたのかといえば必ずしもそうではなかった。

 このツル植物は人類にとって救世主であると同時に、破滅の死神でもあった。

 

 『(くず)』という植物がある。

 ツルを延ばすマメ科の多年草植物で、強い生命力が特徴だった。

 どれくらい強いかといえば最盛期には一日に数十センチも伸びることが出来、またすべてのツルを毟り取ったとしても根が一片でも残っていれば再び復活することが出来るほどだという。

 そして多年草ゆえに、一度根を下ろせば長期間に渡って生き続けることが出来た。

 こんな性質の葛だから一度根を下ろしてしまえば最後、その地はあっという間に(くず)に覆われてしまったという。

 そんな(くず)の征服地は〈緑の砂漠〉とも呼ばれる。

 一見すると緑豊かに見えるが、実際には他の植物が生える余地のない、まさに砂漠も同然の不毛な土地である。

 

 その(くず)による『緑の砂漠化現象』と同じことが、この街にも起こっていた。

 下手人は、放射能汚染を取り除いてくれたこのツル植物たちだ。

 せっかく放射能が取り除かれた土地で作物を植えても、ツル植物によってその土地は緑の砂漠に変わってしまう。

 取り除こうにも、(くず)以上のタフネスと繁殖力を発揮するこのツル植物を完全に駆逐するのは至難の業だ。

 かといって強力な農薬を使えば作物を育てられない土地になってしまって元も子もない。

 

 加えて、ツル植物はコンクリートやアスファルトのような人工物を壊すのが好きらしい。

 ツル植物に巻きつかれて粉々に(ひね)(つぶ)されてしまった建物はあちこちに見受けられたし、アスファルトの道路に至ってはボコボコに掘り返されている有様(ありさま)だ。

 そしてなにより、放射性物質を内部に取り込んでしまうこのツル植物には、食用のデンプンがとれる(くず)と違って農作物としての利用価値は全くなかった。

 (むし)ったツル植物に何か使い道があるならまだしも、そうではないのだから一生懸命に除草したところで結局捨てるしかない。

 日々の暮らしで精一杯な人たちに、そんな無益な草むしりをする余裕などあるはずがない。

 

 街中で火を吐きながら暴れ回るばかりが怪獣ではない。人間の手に負えない存在を怪獣と定義するなら、この街を支配するツル植物たちだって充分に怪獣だろう。

 そういうわけで放射能汚染はなくなっても、この街は相変わらず無人地帯のままなのだった。

 かつてゴジラがブチ()いた高層ビルの穴を眺めながら、ふと思ったことをわたしは呟いた。

 

「……ゴジラは、今どこで何をしてるんだろうねえ」

 

 人類文明を滅ぼそうと世界中を行脚していた破壊神、ゴジラ。

 かつては話題の中心で、誰にとっても関心のマトだったのに、今はどこにいるのかさえ誰も知らない。

 いかなる理由によるものか、ゴジラは西暦2048年の南米襲撃を最後に一度も人前に姿を現していなかった。

 そんなわたしの独り言に、エミィが答えた。

 

「さあな。死んじまったんじゃないか」

 

 エミィの言うように『病気か寿命で死んでしまった』と考える人もいる。

 もしそうだったら地球人にとっては万々歳だ。星間移民船、オラティオ号とアラトラム号で宇宙へ旅立っていった人たちに報せてあげた方が良いかもしれない。

 

 ……しかしながら、あいにく彼らは何光年も遠い宇宙の彼方だった。ひょっとするともう新天地に辿り着いている頃かもしれない。

 しかもゴジラが暴れ回って通信設備を壊しまくったせいで宇宙船に通信を届ける手段がない。

 もしもあったところで、通信が届くまで何年も掛かってしまうだろう。

 

 

 ……もしもの話、もしもなのだが。

 もしも、地球人が最後までゴジラと戦い続けていたらどうなっていただろう?

 わたしは時折、そんなことを考える。

 

 

 いや、勇敢に戦い続けなくってもいい。

 たとえどんなに惨めでもいいから人類が最後まで地球にしがみついていたら?

 オラティオ=アラトラムでの地球移民計画、メカゴジラ建造計画、そんなものを実行に移さなかったら?

 ……たしかに、ゴジラには勝てなかったろう。

 むしろ人類が戦いを続けていたら、ゴジラはそれこそ人類を根絶やしにするまで暴れ続けていた可能性だってある。

 『故郷の星を棄てなければならない』、それがどれだけ大変な決断だったかわたしみたいな若造には想像すら及ばないことだ。

 ゴジラとの戦いで絶望してしまった人たちに『逃げるな、戦え!』なんてとても言えない。

 

 

 だけど、ゴジラはずっと現れなかったのだ。

 

 

 そのゴジラ不在の十五年間で放射能を吸い取るツル植物が出現し、放射能の除染もどうにか目途が立ちつつある。

 そしてゴジラの失踪。

 地球から逃げ出さずにあと数年、いや三年でもしがみ続けていたならば、その先で人類は再び立ち上がれたかもしれないかもしれない。

 西暦2030年の初出現以来三十年に渡るゴジラと人類の死闘の結末がこれなのだとしたら、なんと皮肉で嫌味ったらしいオチなのだろう。

 

 ……しかし、現実はそう上手くはいかない。

 たしかにこの十五年、ゴジラは現れなかった。

 だけどそれは結果論に過ぎない。

 ゴジラはどこに消えたのか、今どうなっているのか。

 生きているのか、死んでいるのか、それすらわからないのだ。

 ひょっとすると明日いきなり復活して、また地球人類を滅ぼしにかかるかもしれない。

 

 

 ゴジラ不在の間、人類は何もしなかった。

 オラティオ=アラトラムが宇宙に脱出したあと、地球連合の政体は完全に崩壊した。

 地球に残された人々も、いずれ復活するかもしれないゴジラの恐怖にひたすら怯え続けるばかりだった。

 そうやって人々は、残された人々でまとまろうともせず、文明を再興しようともしないまま、十五年という決して短くない歳月を棒に振った。

 何もせずに丸ごと一世代を無為に過ごした結果、人類文明が誇ったテクノロジーも意欲も喪われ、人間はただ先人の遺産を食い潰すだけの存在に成り果ててしまった。

 これではもう取り返しはつかない。

 人類文明は砂のお城も同然に時間の波に浚われながら、ゆっくりと崩れてゆくばかりだ。

 

 ゴジラだって、こんな人類の腑抜(ふぬ)けた姿を見たらきっと興醒めすることだろう。

 『こんな有様ではわざわざおれが手を下さなくたって勝手に滅ぶに違いない。もう知らん』

 ゴジラが現れないのも、そんな風に呆れて人類を滅ぼす気分が失せてしまったからなのかもしれない。

 案外、誰もいない海底かどこかでのんびりとバケーションを過ごしているのかも。

 ……そんな他愛もない空想をすることもある。

 

 

 もしもはいつだって夢物語でしかない。

 出来ることは、与えられた日々を懸命に生きてゆくことだけ。

 

 わたしたちはそうやって毎日を過ごしていた。

 

 

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