怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
頭を潰されて即死したはずのビルサルド統制官、ヘルエル=ゼルブ。
その首なし死体がむくりと起き上がっていた。
首の傷口から泡立つようにナノメタルが髑髏を形作り、続いて筋肉、皮膚が包んで顔を形成。
潰されたはずの頭が生え変わり、へし折れていたはずの手足の損傷をナノメタルが縫い合わせて、ゼルブは平然と立ちあがった。
復元されたゼルブの肉体はところどころが金属光沢を放つ部品で補われてはいるが、仕草は健康そのものだ。
そしてヘルエル=ゼルブが口を開く。
「……ゴジラめ、生きていたか。
こう早く、本物のゴジラが現れるとはな。地球人も驚くだろう。
十七年前は戦うまでもなく破壊されたが、今度はそうはいかんぞ」
……なんで、どうして。
頭を潰されたはずの男が、何事もないかのように完全復活を遂げるこの状況。
人知を超えた異常な事態に、わたしはただ驚愕することしかできなかった。
「なにを驚いている、タチバナ=リリセ」
唖然としているわたしに気づいたヘルエル=ゼルブは、首の調子を確かめながら口元をにやりと歪めた。
「言ったはずだ、『ナノメタルは死を克服する』とな。キミたち地球人が眼鏡や義歯といった補助具で、衰えた肉体を補うのと何が違う」
……『ナノメタルは死を克服する』、たしかにヘルエル=ゼルブはそう言った。
しかしわたしの中でその言葉は、人工臓器に置き換えたとか、病気を克服したという意味合いでの理解でしかなかった。
頭を潰されても死なない、両手両足がぐしゃぐしゃになっても元通りだなんて、もはや人体の領分ではない。
ここまで不死身だとすると、おそらく全身をバラバラにされたって死なないのだろう。
そんな存在はまさにこう呼ぶしかない。
「怪獣……」
呆然と呟いたわたしを、ヘルエル=ゼルブは笑い飛ばした。
「怪獣だと? 言ってくれるじゃないか。
そうとも、怪獣で結構だ。文明の
もはやわたしには、ゼルブが何を言っているのかわからなかった。
『喜んで怪獣になるべきだ』って? 一体、何を言ってるんだろう。
そして、レックスのことを思った。
……メカゴジラとして転生したばっかりにLSOと奉身軍、その他大勢の人間の欲望に振り回されたレックス。あの子の不幸を見てもそんなことを言えるのか、こいつは。
そんなわたしの想いなど露ほども知らぬまま、ゼルブは続けた。
「限りあるヒトの身体など制約でしかない。
それを凌駕した先にこそ真の進化があるのだ。
……まあ、その現実を前にしても、未だに肉体と感情への執着を捨てられない下等種族には理解できん話だろうがな」
そうやって勝ち誇り、蔑む目つきで見下してくるヘルエル=ゼルブの表情を眺めているうちに、わたしはゼルブの瞳に光が灯っているのに気付いた。
爛々とした赤い眼光。
エガートン=オーバリーの映画に出てきたメカゴジラそっくりだ。
そしてようやく理解した。
ナノメタルで人間であることを捨て去ったゼルブは頭を潰されても蘇り、そんなゼルブを受け容れられないわたし、タチバナ=リリセは鉄骨に脚を挟まれた程度で動けなくなっている。
科学至上の合理的精神構造を持つ理性主義者。
その指向の産物がナノメタルで、ナノメタルへの合体融合がその極致だというのなら、ナノメタルの結晶として造られたメカゴジラはビルサルドにとって単なる兵器ではない。
メカゴジラの正体。
それは、ビルサルドたちが理想とする〈未来の自分たちの姿〉だったのだ。
ゼルブはもはやわたしのことなど見ていない。
その赤い瞳は、次なる野望を見据えている。
「あいにくわたしは、下等種族と歩調を合わせているわけにはいかない忙しい身でね。
一刻も早く
メカゴジラⅡ=
ゼルブは、アンギラスに抉られたタワー壁面から天を仰ぎ、そして、目覚めたばかりの大怪獣のように咆哮した。
「起動オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
その号令と共に、タワーの各部からナノメタルが洪水のように噴き出した。
白銀に照るナノメタルの大奔流は
〈 ははははははは!! 〉
ヘルエル=ゼルブの高笑いが響いた。
〈 この世のすべてを支配する
〈 取るに足らぬムシケラども! 下等種族はせいぜい
ナノメタルと融合しメカゴジラそのものと化したビルサルド統制官、ヘルエル=ゼルブ。
その次なる目標は怪獣王、ゴジラだ。
ゴジラに散々ぶちのめされたアンギラス。
背中の甲羅のトゲは粉々に砕かれ、内臓はぐちゃぐちゃにシェイクされ、へし折れた四肢では駆け回ることなどもう出来ない。
そんな虫の息の状態だったが、それでもまだアンギラスは生きていた。
どーん、どーん、どーん……
そこまで追い詰めた張本人:怪獣王ゴジラが、砲撃のような重量感のある足音を響かせながら、動けなくなったアンギラスに迫ってゆく。
ゴジラの背鰭は青白く明滅しており、死闘を演じたアンギラスに放射熱線で引導を渡す準備を整えているのは明白だった。
自らの死を確信しながら、アンギラスはなおも立ち上がろうとしていた。
……恐るべきキングオブモンスター、ゴジラ。
きっとアンギラス一族は根絶やしにされる。
だけどせめて最期くらいは、気高く、堂々と。
そんな風に考えていたアンギラスの手前で、ゴジラは足を止めた。
……まさかあの冷酷非情な怪獣の王が、敗残者のおれを見逃してくれようとしているのか?
弱った中で一瞬そんな甘い考えが浮かんだアンギラスだったが、そうではないことにすぐ気がついた。
アンギラスの体を〈銀色の存在〉が侵蝕し始めていた。
ゴジラが立ち止まったのはアンギラスに情けをかけたからではない。
それ以上近づいたらゴジラ自身まで累が及ぶからだ。
錯乱したアンギラスは身を捩らせて、おぞましい銀色のソイツを拭い取ろうとする。
だが、その様子は翅をもがれてグンタイアリの群れの中へと放り込まれた蝶々そのものだ。
ゴジラによって徹底的に痛めつけられた状態では振り払うことはもちろん、逃げ出すことすらできない。
じわじわと全身を包みこんでゆく銀色の存在によって、アンギラスは生きながら貪り食われていった。
アンギラスは叫んだ。
――ちがう!
こんなはずじゃなかった!
おれは誇り高い暴龍の末裔だ!
餌食になんかなりたくない――
絶望の底でアンギラスが絞り出した最期の断末魔は、
――だれか、たすけ……
苦悶するアンギラスの額を、ゴジラの放射熱線が撃ち抜いた。
アンギラスの上顎が爆裂、頭を失った体が力なく崩れ、そして猛火に包まれた。
銀色の存在は〈ナノメタル〉だ。
ナノメタルの群れは燃えるアンギラスの死体を丸ごと覆って鎮火、あっさりと喰らい尽す。
アンギラスを喰らったナノメタルが次に目指したのはゴジラに撃墜されたメガギラスとラドン、続いてメガニューラ、カマキラス、クモンガ、エビラ、そして頭を吹き飛ばされたZILLAの死骸。
そのほか孫ノ手島で囚われていた怪獣たちを次々と呑み込んだあと、各パーツを組み上げながら合体し、ナノメタルはひとつの完成形を作り上げた。
……規則正しい結晶を幾重にも重ねることによって、その姿は織り上げられていた。
単純だが特徴的な形状の
雪の結晶のような、再帰的で連続的なリズム。
しかし単なる自然結晶と違うのは、そのシルエットが怪獣の姿になっていることだ。
背中にはクリスタル状の背鰭を生やし、両手足にはカギ爪を備え、そして脊椎から連なるのはとてつもなく長い尾。
華奢のようで頑強。繊細なようで獰猛。自然結晶のようで人工物。
ヒトを凌駕する怪獣でありながら、ヒトに制御される被造物でもある究極の文明物。
細部の造形は全く似ていなかったが、輪郭だけなら銀で塗られたゴジラの似姿にもなっている。
ゴジラの姿と名前を冠した、
これが〈メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ〉だ。
メカゴジラⅡ=ReⅩⅩが完成するまでの工程を黙って眺めていたゴジラは、出来上がった宿敵に低い声で唸った。
対するメカゴジラは、一切の感情移入を拒む結晶のような顔でゴジラを冷たく睨み返す。
地球の新たなる霊長ゴジラ。
地球人類最後の希望メカゴジラ。
漆黒のゴジラと、白銀のメカゴジラ。
ゴジラの名を冠した二大怪獣の睨み合い。
ゴジラ対メカゴジラ。
地球最大の
え、やってない?ウソでしょ??
伊福部先生はオスティナートがよほどお気に入りだったらしく、御自身のアルバムのタイトルにも使っていらっしゃったりする。