怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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62、わるいなかま

 ……まったく、とんだ茶番だ。

 

 ウェルーシファと再会したマティアス=ベリア・ネルソンは、改めてそう思った。

 

 『メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの在処を教えてやるからスパイになれ』と言ってきたかと思えば。

 『ヘルエル=ゼルブの古い友人関係を洗え』だの、『タチバナ=サルベージにメカゴジラを回収させろ』だの『ガキを拐え』だの、理解不能なよくわからん命令ばかり。

 ヒロセ家襲撃の時にいたっては、全部仕組んだ張本人であるはずのウェルーシファがヒーロー顔して現れたものだから、噴き出しそうになるのを堪えるのが大変だった。

 あのときはその場でネタばらししてやろうかとさえ思ったくらいだ。一文にもならんからやめたけど。

 

 LegitimateSteelOrderと、真七星奉身軍。

 ビルサルドとエクシフ。

 新生地球連合内部で勃発した一連の抗争が、ネルソンには馬鹿馬鹿しくて仕方なかった。

 まるでアニメ映画の『ピノキオ』だ。

 メカゴジラⅡ=レックスがピノキオなら、その創造主であるマフネ博士はゼペット爺さん。

 エクシフとビルサルドは人形一座ストロンボリと馬車屋コーチマンで、孫ノ手島は子供をロバに変える島の遊園地(Pleasure Island)

 ストロンボリとコーチマンがピノキオを巡って争奪戦をしたら、こんな状況になるだろう。

 

 ……そしてこのおれ、マティアス=ベリア・ネルソンは、さしずめピノキオを誑かして(さら)うキツネか。

 『正直ジョン』『ギデオン』『ピノキオ』。

 立川でのヒロセ家襲撃においてピノキオに因んだ暗号名を使ったのはネルソンなりの諧謔(ユーモア)だったのだが、誰もわかってくれなかった。

 まったくヤだね、洒落(ネタ)の通じねえ奴らは。

 

 

 あの『ピノキオ』との違いがあるとしたら、ジミニー=クリケット程度の良心を持った奴が一人もいないことだ。

 どいつもこいつも私利私欲と独善にまみれた、性根の腐った屑しかいない。

 眼前にいるブルーフェアリーそっくりの聖女サマ、ウェルーシファさえ本性は邪悪ときている。

 

 策略家としてのウェルーシファの手腕は、目を見張るものがあった。

 結果としてLSOは壊滅状態、当のヘルエル=ゼルブは人間すら辞めてしまった。

 いくらメカゴジラがあったところで、ここまでダメージを受ければ組織としては再起不能だ。

 ウェルーシファも手勢の奉身軍を喪ったが、迷える子羊ばかりのこの御時世、代わりの信者どもなんぞその気になれば後からいくらでも補充できる。

 残った連中なんぞ腑抜けばかり。

 ナノメタルを手にしたウェルーシファに仕切られれば、刷り込みされたヒヨコみたいにピヨピヨついてゆくだろう。

 

 もはやウェルーシファを邪魔する者は一人もいない。

 わずかな手駒を動かすだけでこの状況を作り出せるのだから、エクシフの計算高さはやはり馬鹿にならない。

 

 ウェルーシファにとって、戦争の勝敗などもとよりどうでもよかったのだろう。

 自分の目的さえ達成できればいい。

 ウェルーシファにとって、タチバナ=リリセや信者共はもちろん、あんなに忠実な傀儡だったマン=ムウモさえこの状況を創るために準備した使い捨ての駒でしかなかったのだ。

 ……聖人君子みたいな顔してまったくなんて恐ろしい奴だ、このウェルーシファという女は。

 

 

 そんなことを考えつつ、ネルソンは、ウェルーシファに地上の状況を語り出す。

 

「今、地上は大混乱です。

 エクシフとビルサルドが怪獣まで動員して殺し合ってるところでゴジラが参戦、おまけにビルサルドの大将が虎の子のメカゴジラまで引っ張り出してきた。

 怪獣大戦争だか怪獣総進撃だか、どうでもいいですがおれはもうついていけません。

 まあ、ゲマトロンのお導きとやらのおかげで、色々と面白いものも観れましたがね」

 

 もはや何人が死んでいるかもわからない凄まじい惨状だったが、ネルソンの語り口は楽しげだ。

 ……人がパニックを起こしてるのを眺めるのは、最高に面白い見世物だ。

 自分だけがそのタネを知っていて、しかも他人事のように見物できるとすれば猶更。

 

 戦争に乗じてナノメタルを盗み出すのはウェルーシファと兼ねてから打ち合わせていたとおりだが、ネルソンはもう一枚手札を用意していた。

 選んだのはカマキラスだ。

 

 

 

 ……そうだとも。

 カマキラスの檻を開けて基地内に放ったのはこのおれ、ネルソンさ。

 

 

 

 いくら奉身軍が襲撃してきたといっても、それは飽くまで基地外の話に過ぎない。

 内部の監視を混乱させるならもう一手、怪獣が暴れるくらいの騒ぎが必要だ。

 そしてカマキラスならその役割を十二分に果たしてくれるだろう。

 ……『LSOは仲間じゃないのか、仲間を殺すなんて酷いヤツだ』って? お生憎様、LSOの連中を仲間だと思ったことはない。あんな屑の集まり、仲間だと思われてるだけで胸が悪くなる。

 

 計算外だったのは、アンギラスの脱走だ。

 まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何があったか知らないが、ネルソンにとってはむしろ好都合だった。

 アンギラスが盛大に暴れてくれたおかげで他の怪獣も解放され、カマキラスの檻が開いたことも有耶無耶になってくれた。

 そしてネルソンがナノメタルのサンプルを盗んだこと、そしてその口封じでドクター・オニヤマを始末したことに誰も気づかなかった。

 おまけにネルソンがサンプルを盗んだのと前後して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ネルソンが盗みに入った証拠は何も残らなかった。

 

 ドクター・オニヤマには悪いことをしたな、とネルソンは思った。

 カマキラスに罪を被ってもらう都合から生きたまま斬殺したが、こうなるならもうちょっと楽に死なせてやってもよかったかもしれん。

 ……まあ、死んで当然のことをしていた男だから、これっぽっちも可哀想だとは思わないが。

 まったくバカな男だ。『品種改良したカマキラスの実地テストをしてみないか』なんて言ったら、簡単に乗ってきた。

 いくらマッドサイエンティストと恐れられる男でも所詮は象牙の塔の世間知らず、誑かすことなど容易かった。

 

 

 何はともあれ、計画がすべて上首尾に運んだので、ネルソンはとても上機嫌だった。

 ……今日のおれはとってもツイてる。

 

 

「『ビルサルドの本拠地へエクシフが攻め込んだら、ちょうどそのタイミングでゴジラがやってきた』って、“あのバカタレども”に教えてやったら、あいつらヨダレ垂らして喜んでましたよ。

 これで目障りなビルサルドとエクシフを一掃できる、だそうで」

 

 笑いながら語るネルソンに、ウェルーシファは言った。

 

 

 

「やはり〈総攻撃派〉は核を使うつもりですか」

 

 

 

 新生地球連合軍は、大きく分けて三つの派閥によって成り立っている。

 ヘルエル=ゼルブ率いるLegitimate Steel Orderことビルサルド派。

 ウェルーシファ率いる真七星奉身軍を主体とするエクシフ派。

 そして第三の派閥が首魁を持たない〈総攻撃派〉だ。

 

 

 ――地球に残ったすべての核兵器でもってゴジラを()()()しこの地球から滅却せよ。たとえこの地球もろとも滅びようとも。

 

 

 旧地球連合軍の時代からそう強く主張してきたのが〈総攻撃派〉だった。

 ゴジラ討伐のために核の絶対性へすがり続けた総攻撃派は、今となっては核兵器そのものを信奉するほどに狂い果てていた。

 ……メカゴジラは一度しくじった、もはや核攻撃に頼るしかない。その真理を受け容れられず愚劣な内部闘争を繰り広げるエイリアンとそのシンパには核の鉄槌を下すべし。

 それこそが正しい、人類が救われる唯一の道だ、と総攻撃派は本気で信じている。

 

 総攻撃派の生き残りはヘルエル=ゼルブとウェルーシファによって抑え込まれていたが、その両者が対立した波紋に乗じて勢いを盛り返しつつあった。

 そしてその総攻撃派が、孫ノ手島に現れたゴジラへ核兵器を使おうとしている。

 

「そうらしいですね。

 ビルサルドもエクシフもいない連中が使える対ゴジラ兵器なんて、核ミサイルぐらいなもんでしょう。

 核弾頭百五十発に耐えたゴジラが、今さら数発のミサイルぐらいでどうこうなると連中も思っちゃいないでしょうが、ついでに邪魔者をまとめて片付けるには充分、って考えらしいです。

 あと一時間半もすればこの島も、連中が撃ち込んできたミサイルで跡形もないでしょうな」

 

 さしものヘルエル=ゼルブも、自分の派閥内部に内通者がいることまでは察していても、それがまさか腹心のネルソンで、しかもすべての勢力に肩入れしていた三重スパイだったとは夢にも思っていなかったろう。

 ヘルエル=ゼルブ、いやビルサルドの連中は、口では合理主義を気取っているがその本質は地球人よりもよほど感情的だとネルソンは思っていた。

 

 

 なにが人類最後の希望だ、くだらない。

 それがおまえらビルサルドのおセンチな感傷じゃなくて、一体なんだっていうんだ。

 浪花節の体育会系屁理屈ゴリラめ。

 

 

 総攻撃派はもちろん、エクシフだって同じ穴のムジナだ。

 唱えてる御題目が違うだけで、バカさ加減に関してはビルサルドの連中とさほどの違いもない。

 メカゴジラの扱いについて意見が割れた程度のことで、せっかくまとまった組織を割っていいわけがないだろうに。

 だいたい、いいトシこいた大人が玩具の取り合いで喧嘩とか、まったくバカじゃないのか。

 それで先進種族気取りかよ、カスどもが。

 

 

 その点、マティアス=ベリア・ネルソンは、現実主義者であった。

 

 

 ヘルエル=ゼルブが首魁となって再建した新生地球連合軍がビルサルド・エクシフ・総攻撃派に内部分裂して早々、LSOのネルソンだけは水面下で他の二勢力に接触し、これまで隠密裏に連携をとり続けてきた。

 そのおかげで、思想も人種も違うはずの三勢力でありながら、組織を完全に割ってしまうような大規模な軍事衝突を回避できたのだ。

 

 

 ――おれは平和主義者なんだ。

 

 

 日頃から欺瞞にまみれて生きてきたネルソンだったが、ヒロセ家襲撃の際に発したこの言葉だけは真実だった。

 暴力的な人間と思われがちだが、本当は荒事もそれほど好きじゃない。

 たまたまそういう世界で生まれ育ち、たまたまそういう生き方しか出来なかっただけだ。

 たしかに後楯(うしろだて)としての武力は必要だ。だけど使わずに済むならそれに越したことはない。

 

 人間同士の戦争なんてもってのほか。

 

 ……そりゃあ、やんごとなき皆様におかれましては、さぞ責任とやらをお感じにあらせられるだろうさ。

 しかし、戦争に()けたところで、あんたらはレイプされるわけでも殺されるわけでもない。

 戦犯、失脚、冷や飯喰らいとはいうが、冷や飯でもあれば少なくとも飢え死にすることはない。

 むしろ御大層な責任とやらをお取りになってハラキリ決めれば、歴史にも名前が(のこ)ってさぞカッコいいだろう。

 

 しかし上はカッコよくても、現場は悲惨だ。

 前線の兵士たちは血と泥にまみれて戦い、流れ弾だか爆弾だかで傷つき、時には親か恋人の名前を叫んで泣きわめきながら惨めに死んでゆく。

 そして統計における戦死者の数字がひとつ増えるだけ。

 もしくは作戦行動中行方不明(MissingInAction)ってやつで、生死もろくに確認されず、端数切り捨てで記録にすら残らないことすらある。

 

 

 ……ふざけんじゃねえよクソったれが。

 

 

 こちとら怪獣で手一杯なんだ、なんでてめえらのくだらねえパワーゲームに付き合ってやらにゃならんのだ。

 オペレーション=ロングマーチで少年兵として徴用され、その後諜報の世界で『やんごとなき皆様』の実態を知るようになったネルソンには、そんな想いがあった。

 ネルソンが少年兵の一人として戦いに明け暮れていた頃、まだ幼かった彼にこんなことを言った人がいた。

 

 『大人に利用されて死ぬことはない』

 『その43式艇に乗って逃げなさい。そしてもといた場所に帰って、もとのように自由に暮らせばいい』

 『あなたたちのような子供が死んで、わたしたち大人が生き長らえる、そんなのおかしいんだ』

 

 当時43式艇(ホバーバイク)の乗り方を教えてくれた指導教官が、そんなことを言ってくれた。

 ……なあ、イチジョウ教官。

 あのときはあんたの言った意味がよくわからなかったが、こうして酸いも甘いも噛み分けてみるとあんたの気持ちが分かるようになっちまった。

 あんたの気持ちは無駄にしない。

 

 そしてネルソンは、長きにわたって自分なりの戦いを続けてきた。

 誰もが嫌がる汚れ役を担い、権力者のクズ相手に下げたくもない頭を下げ、好きじゃない荒事に手を染めて、時には人命さえ容赦なく奪ってきた。

 すべては平和のために。

 何はともあれ平和が一番、そう思うからこそ三勢力が上手くやれるように、おれは力を尽くしてきたのだ。

 ……誰も信じちゃくれないがね。今更信じてもらおうとも思わん。

 

 ただ、世間の一般ピープルどもは、おれみたいな日陰者に対してもうちょっと()()()()()ってもんを払ってくれてもいいと思うね。

 それに、理想だの信仰だの一億総玉砕だのアホばっかり抜かしてる御偉方。

 現場の苦労も知らずに好き放題やりやがって、おまえらの後始末を今まで誰がしてきたと思ってやがる。おれがいなけりゃ尻拭いも出来ねえくせに。

 ネルソンは長年そう思っていた。

 

 

 まあ、それも今日までの話だったが。

 

 

 自らの苦心の果ての結末に、ネルソンは皮肉な笑いを抑えきれなかった。

 ウェルーシファ、マン=ムウモ、ヘルエル=ゼルブ、そして総攻撃派。

 せっかく下っ端のおれが苦労してバランスを取ってやってたのに、上がクルクルパーなせいで物の見事に台無しにしやがった。

 今後もやれって? おれはイヤだ。

 

「ま、結果オーライですね。これでゼルブの大将の鬱陶しい長話も聞かなくて済みますし。

 さぞ見ものでしょうな。くだらねえ(いさか)いで火種ばらまいてる社会のゴミが、核ミサイルで仲良く消し飛ばされるのは」

 

 肩をすくめながら笑いを噛み殺すネルソンに、ウェルーシファは「随分と他人事ですねぇ」と言った。

 

「その両者の対立に付け入って力をつけたのは、他ならぬあなたでしょうに」

「さっすがー、聖女サマは御明察ゥー!」

 

 ネルソンがおどけた調子で答えたとおり、ウェルーシファの指摘は事実である。

 新参の部類であるネルソンがLSO指揮官の立ち位置になれたのも、三者の対立構造に付け込んだ結果だった。

 

 しかし、それをさも悪いことのように言われるのは心外だ。

 ビルサルド、エクシフ、総攻撃派、新生地球連合軍は何もかもが違う連中の寄り合い所帯だ。揉めないわけがない。

 そこで生じる調整役としての需要をこのおれ、ベリア・ネルソンが埋めてやっただけだ。

 ……その隙間で色々と美味しい思いをさせてもらったのも事実だが、それは役得というものさ。

 

 そんなネルソンの心情を見透かしたように、ウェルーシファが深々と息を吐いた。

 

 

「……あなたのような人間がいるから、この世界は終わってしまうのでしょうね」

 

 

 ウェルーシファの言葉は、口調こそ穏やかで落ち着いているが、辛辣な冷たさを孕んでいた。

 とかく慈悲深いと御噂の聖女サマでも、誰かを軽蔑することがあるのだろうか。

 

「そんな人間をスパイとしてコキ使ってきた御方に、どうこう言われたくはありませんなあ……」

 

 言いながらネルソンが手振りで指示すると、配下の兵士たちが一斉に銃を構え、ウェルーシファへと向けた。

 無数の銃口を向けられながら、ウェルーシファは身じろぎもしない。

 

「我らエクシフの信仰に帰依したと思ったら、さっそく宗旨替えですか。気が早いですね」

「あいにくエクシフは嫌いなもんで」

 

 肩を竦めながら反駁するネルソン。

 口調は軽妙だが、目は決して笑ってはいない。

 

 

 ……おまえらエクシフは昔からそうだ。

 何もわかっちゃいないくせに、何か悟ったようなことをペラペラ喋る。

 そうやって綺麗事を並べる一方で、目的のためには自分の信者どもを捨て駒にするような下劣な真似も厭わない。

 そして、ヒロセ家襲撃後にLSOのアジトへ殴り込んできたタチバナ=リリセを思い出す。

 全身に爆弾を巻き付けた姿で「家族を返せ」と殴り込んできた、思い詰めた悲痛な表情。

 あれを焚きつけたのはウェルーシファだ。

 

 ……悪党の風上にも置けない、ゲロ以下の悪党ってのはテメーのことだ、ウェルーシファ。

 世間知らずの小娘とはいえ無関係な女子供をくだらねえ内部抗争に巻き込んだ挙げ句、あんな自爆攻撃までけしかけやがって。

 

 だからエクシフは嫌いなんだよ。

 

「それに、『幹部の座を保障するなら、ゴジラ討伐の切り札になるナノメタルを渡す』って言ってやったら、総攻撃派の連中が思い切り食いついてきましてね。

 口では『ロボット怪獣なんて必要ない』だの色々ほざいてましたが、連中も結局のところはメカゴジラが欲しいみたいです。

 あいつら正真正銘のイカレポンチだから、世界最大の水爆(ツァーリ・ボンバ)を山ほど載せた『ぼくの考えた最強のメカゴジラ』でも造るつもりなんでしょうよ」

 

 ……まあ、そんなバカはやらせませんがね。

 そしてネルソンは今後の展望を語った。

 

「『エクシフのウェルーシファ様も、ビルサルドのヘルエル=ゼルブも、ゴジラの襲撃に巻き込まれて死亡。遺体は総攻撃派の核ミサイルに焼かれて灰すら残らなかった』

 『そんな中、このベリア・ネルソンがゼルブのナノメタルを回収し総攻撃派と合流、リーダー不在の地球連合軍でゴジラの襲撃からも生き残った英雄マティアス=ベリア・ネルソンが、分かたれていた新生地球連合軍を一つにする』

 ……っていうシナリオはどうです?」

 

 ネルソンの野心を、ウェルーシファはウフフフと声高に笑い飛ばした。

 

「これは、面白いことをおっしゃるのですね。

 あなたがどれだけヒトのあいだで力を振るおうと、怪獣の前ではそんな力など無に等しい。風の前の灰よりも儚いものです。

 ……ビルサルドたちの行く末は見抜いたというのに、未だにそれを理解できていないとは」

 

 そんなウェルーシファの皮肉も、ネルソンには痛くも痒くもなかった。

 どんな御高説を垂れようが、最後に物を言うのは暴力(チカラ)だ。

 せいぜい吠えるがいいさ、聖女サマ。

 

「出世は男の本懐だ。

 まあ、日頃から信者たちに祀り上げられてる聖女サマにはおわかりいただけないでしょうがね」

 

 ネルソンは、眼球に埋め込んだスキャナーでウェルーシファを透視する。

 ……袖口にゲマトロン演算結晶の端末を隠し持っているようだ。

 しかし出力装置がなければあんなものはただの電卓だ。それがいったい何の脅威になる。

 他に銃器や薬物など、こちらを攻撃できる危険性はゼロ。

 通信機すら持っていない、丸腰そのものだ。

 仮に自棄になって素手で殴り掛かってくるとしても、サイボーグ強化したおれたちにかなうはずがない。

 

 遠くからズズウンという地鳴りが響き、塵がぱらぱらと降ってきた。

 もはや長居は無用だ。

 

「さて、そろそろお喋りする時間も惜しくなってきた。言い残すことはありますかな、聖女サマ」

 

 兵士たちが撃鉄を起こす。

 あとは引き金をひくだけで、ウェルーシファは蜂の巣だ。

 ……宗教家ってのはこれだからバカなんだ。

 建前、つまり手前で吐いた嘘に手前で騙されてやがる。

 せめて信者どもを連れてくるくらいの用心をしておけば、盾の代わりにはなったろうに。

 ネルソンは内心ほくそ笑んだ。

 

 

 そんな中、ウェルーシファが自らの仮面に手をかけた。

 

 

 警戒する兵士たちにウェルーシファは告げる。

 

「大丈夫ですよ、仮面をとるだけです。

 最後の瞬間くらい素顔の自分でいたいので」

 

 ……それくらいならかまわねえだろう。

 まさか目からビームを放つわけでもあるまい。

 それに、聖女様が日頃から隠している御尊顔が如何なるものか、興味が湧かないでもない。

 ネルソンは配下に指示を下し、ウェルーシファの希望をかなえてやることにした。

 

「おい、外させてやれ」

 

 ネルソンは配下に指示を下し、ウェルーシファの希望をかなえてやることにした。

 「……お心遣い、感謝します」と礼を言いながらウェルーシファが仮面を外し、その素顔を(さら)け出す。

 

 ネルソンたちが初めて拝んだ、ウェルーシファの素顔。

 その顔の右半分には痛々しい火傷があり、片目には義眼が嵌まっている。

 

 

 

 

 

 

 なんだ、意外とつまらねえな。

 

 

 

 

 

 

 ……ウェルーシファの素顔を見たとき、ネルソンはそう思った。

 勿体ぶって隠すほどでもない。これくらいの火傷ならいくらでも見たことがある。

 

 それにしてもウェルーシファ、なかなか良いオンナだな。

 改めて見れば小娘でもババアでもない、ほどよく熟れた体をしている。むしろ上物だ。

 腐った性根と顔の火傷に目を瞑れば、モノにしてもいい。

 ……それとも、いっそ殺さずに慰み者として人買いにでも売り飛ばしてやろうか。

 ()()()()()が好きな御大尽(おだいじん)もいないことはなかろうて。

 そんな下衆なことを考え始めたネルソンを見ながら、素顔のウェルーシファが口を開いた。

 

 

「……ところで、ベリア・ネルソン。

 あなたは神を信じますか?」

 

 

 ……は?

 何言ってんだこいつ?

 ウェルーシファによる突拍子もない質問に、ネルソンは虚を突かれた。

 戸惑いを隠しつつ答える。

 

「さてね。目に見えるものしか信じないんで」

 

 ぞんざいなネルソンの答えに、ウェルーシファが「ならば」と続けて訊ねた。

 

「目に見える神の神業(みわざ)が、いまこの場に現れたらどうします? 信じますか?」

 

 ……この女、何の話をしてる?

 唐突に禅問答を始めたウェルーシファ、それを怪訝に思うネルソン。

 ウェルーシファの奴、追い詰められた挙句に頭がおかしくなったのか?

 それとも信仰に訴えかけて同情でも誘おうってのか?

 

「流石にそうなったら信じるでしょうな、ひれ伏して拝んであげますよ……ま、そんなもんがいるんだったら、の話ですがね」

「……そうですか」

 

 適当に相槌を打つネルソンに、ウェルーシファが告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ならば伏して拝みなさい。

 我らの“神”を」

 

 

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