怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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68、EM20_CH_alterna_03/報告 ~『シン・ゴジラ』より~

 地下ドックでの一件をやり過ごしたエミィは、地上の医務室へと戻った。

 外はなるべく通らないように気をつけた。

 当たり前だ、ド派手な怪獣プロレスをやってる最中に外へ出る馬鹿がどこにいる。

 

 

 戻ってきたエミィを、子供たちが出迎えた。

 特に、浅黒肌の少年の喜び様は凄かった。

 ベッドに寝ていた浅黒肌の少年は、エミィが戻ってきたのを見た途端に跳び起きて、エミィのところへと駆け寄ってきた。

 

 ――エミィ、エミィ、エミィ!!

 

 オイオイ、無茶すんなよ。

 そう宥めるエミィだったが、浅黒肌の少年は全身で喜びを表現したくてたまらないらしかった。

 よほど心配してくれていたのだろう。怪我をして動けない状態のまま置き去りにされて不安だった、というのもあるかもしれない。

 

「怪我はいいのか?」

 

 訊ねるエミィに、少年は笑ってみせた。

 

 ――へーきへーき!

 

 浅黒肌の少年は、先程までのショック状態が嘘のようにケロリと立ち直っていた。

 少し休んだのが効いたのか、それとも見た目が派手なだけでそれほど大した傷でもなかったのか?

 肩をピストルで撃たれるなんて、とんでもない重傷に思えるのだが。

 そんな怪訝な思いは脇に置きつつ、エミィは子供たちへと告げた。

 

 

「潜水艇を見つけた、これで逃げられるぞ!」

 

 

 歓喜する子供たちに、エミィは自分の見たものを説明した。

 医務室の窓からも見える、あのセントラルタワー。その根元に隠し通路があり、隠し通路を進んでゆくと地下ドックがあって、子供十人くらいなら乗れそうな潜水艇が隠してある。

 しかも他の大人たちには誰も見つかっていない、秘密の抜け穴だ。実際、帰り道の途中で大人たちの姿などひとつも見かけなかった。

 それに今はゴジラが外で暴れ回っているけれど、セントラルタワーは怪獣プロレス現場のはずれに位置している。さっき塹壕を使った要領で隅を慎重に歩いてゆけば、踏み潰される心配などないだろう。

 

 ……ネルソンとウェルーシファ、そしてあの恐ろしい『虹』については話さなかった。

 上手く説明できる気がしないし、エミィ自身、自分が見たものが一体なんだったのかよく理解出来ていなかったからだ。

 あんなよくわからないものについて話したところで、怖がらせてしまうだけだろう。

 

 浅黒肌の少年は、セントラルタワー地下のことを知らなかったらしく、エミィの説明にひどく驚いていた。

 あの地下ドックはおそらく、子供たちの隠れ家にあった抜け穴の地図にも描かれていないような極秘中の極秘扱いだったのだろう。

 裏を返せば邪魔が入る余地などないということでもある。

 つまり、安全だ。

 

 エミィは子供たちと共に、これからの段取りを軽く打ち合わせた。

 

 あのあと調べてみたら、地下ドックの潜水艇の制御系は思ったとおりビルサルド十六進コードだった。

 しかもありがたいことに地球人用へ切り替えができるマルチインターフェース仕様だ。

 切り替えのセットアップは自動で終わるように設定してきた。もう終わっている頃だろう。

 

「おまえらの中で、パワードスーツ動かせるヤツいるか?」

 

 エミィの質問に子供たちは一斉に手を挙げた。

 ……そうか、ちょうどいい。

 折角だ、荷積みくらいは手伝ってもらおう。

 打ち合わせを終えたエミィは、すぐさま次の指示を出した。

 

「荷物を詰めろ、とっとと出るぞ」

 

 そんなエミィを見習って、子供たちも各々荷造りを始める。

 子供たちが準備をしている最中、エミィは浅黒肌の少年を呼んだ。

 

「肩、見せろ。やっぱり心配だ」

 

 浅黒肌の少年は顔をしかめて渋ったが、エミィは半ば力尽くで肩の包帯をほどいた。

 包帯の下、下手糞な縫い目が痛々しかったが、驚くべきことに出血は既に止まっていた。

 

(……わたし、意外と手術が上手いのか?)

 

 いや、そんなわけないよな。仮にそうだとしても二度とやるもんか。

 そんなことを思いながらエミィは滲んだ血を綺麗に拭きとり、抗生剤の軟膏を塗ってから新しい包帯を巻き直す。

 三角巾で吊るされた少年の腕。

 しばらくは安静にしておかないといけないが、このまま治れば元のとおりちゃんと動かせるようになるだろう。

 

「これでよし、と……ん?」

 

 包帯を巻いていたとき、エミィの視界に妙なものが入った。

 手術中は血みどろだったしそれどころじゃなかったから全く気づかなかったが、浅黒肌の少年の背中に何か描いてある。

 巻きかけていた包帯を一周だけほどき、エミィはそれを見直した。

 

 

 少年の背中にあったのは大きな文様。

 タトゥーだ。

 

 

 昇龍(のぼりりゅう)ならヤクザ映画でお馴染みの図柄だが、少年の背中のタトゥーはもっと記号っぽい幾何学模様で、白と緑の線が入り組んだとても複雑なデザインだった。

 少年の背中の紋様は、昆虫図鑑を愛読しているエミィにとって、タトゥーというより蝶や蛾の翅を思い起こさせるものだった。

 しかし背中に模様の入った人間なんているわけがない。やはりこれはタトゥーだろう。

 

(……こいつ実は意外とグレてるんだろうか?)

 

 こんな派手なタトゥーを背中に入れてるなんて、やっぱり只者じゃないな。

 そういえば腕っ節も強いし、温厚そうに見えて襲ってくる敵には容赦しないところがある。

 ……ここに来る前はストリートギャングかなにかだったのかもしれないな。とてもそうは見えないけど。

 そんな益体もないことを考えているうちに、ふと思い至る。

 

(そういえば、こいつのことを何も知らないな)

 

 命の恩人なのに名前も聞いてない。

 故郷はどこなんだろう。家族、親兄弟はいるんだろうか。今はちょっとそういう余裕はないけれどちゃんと御礼もしなきゃ。

 全部終わったらゆっくり話をしてみたい、飯でも一緒に食べながら。

 

 

 今まで他人との関わりを拒絶していたエミィ=アシモフ・タチバナ。

 そんな彼女に、生まれて初めて『友達になりたい』と思える相手に出会えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして手当てを終えたエミィが片付けているあいだ、上半身に包帯をグルグル巻いて腕を三角巾で吊った少年は、カーテンの隙間からじっと窓の外を眺めていた。

 手を洗い終えたエミィもつられるようにカーテンをめくり、外の風景を垣間見た。

 

 

 窓の外では、ゴジラとメカゴジラが激闘を繰り広げていた。

 

 

 メカゴジラⅡ=レックスが腕を光る丸鋸に変形させ、それを縦横無尽に振り回してゴジラを(なます)に斬り裂いていた。

 ぎらぎらとしたスパークを放つメカゴジラⅡ=レックスの丸鋸がゴジラの胸をえぐり、金属音と火花が飛び、削りカスのような黒い皮膚片が舞い散っている。

 身体を斬られるたびに、ゴジラは呻き声を挙げ、一歩、また一歩とあとずさってゆく。

 

 メカゴジラⅡ=レックスの丸鋸を脳天から叩き込まれそうになったところで、ゴジラはようやく反撃した。

 頭上から振り下ろされてきたメカゴジラⅡ=レックスの腕を捕まえると、カウンターを仕掛けながらジュードーの技のように担ぎ上げて投げ飛ばし、地面に叩きつける。

 

 大地に引っ繰り返ったメカゴジラⅡ=ReⅩⅩに向けて、ゴジラは背鰭を青く光らせながら長い尻尾を高々と振り上げた。

 死刑囚の首を刎ねる処刑人のように、メカゴジラの首をブッタ切りにしようというのだ。

 他方メカゴジラⅡ=ReⅩⅩはなかなか起き上がれそうにない。

 ゴジラが尻尾を振り下ろす。

 同時に、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの首が独りでに切り離された。

 一足遅く、ゴジラの尻尾がメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの首があったところ目掛けて叩き込まれ、茶色の爆風を巻き上げると共に巨大な地割れを刻みつけた。

 

 首のないメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの胴体がむくりと起き上がり、地面に転がっていた自分の頭を拾い上げると、首のない胴体へと据え直した。

 破壊される前に首を切り離して緊急回避する。

 命のないロボット怪獣だからこそ出来る、とんでもない荒技だった。

 

 手品めいた小細工に一杯食わされたゴジラは、怒りの咆哮を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴジラとメカゴジラⅡ=ReⅩⅩによる怪獣プロレス。

 浅黒肌の少年があまりにも一生懸命に眺めているので、エミィはつい訊ねてしまった。

 

「あいつが気になるのか?」

 

 浅黒肌の少年は、エミィの声かけにも応えないまま熱心に窓の外を見つめている。

 そんな少年に、エミィはふふんと胸を張りながら言った。

 

「あいつは人類最後の希望、メカゴジラⅡ=レックス。

 硬く光る虹色の地肌に、強烈なロケットを着けた、ウルトラCのスゴくて強いヤツだ。

 あいつは何度も何度も、わたしたちのことを助けてくれたんだ……」

 

 アンギラス。

 マタンゴ。

 ラドン。

 メカニコング。

 新宿でレックスと出会ってからの数日。

 ハチャメチャで、危なっかしくて、だけどなんだかとっても楽しかった日々。

 そんなレックスとの大冒険を得意げに語っていたエミィだったが、浅黒肌の少年の顔が険しいものになっているのに気がついた。

 ……いったいどうしたのだろう。

 出会ってからずっと温厚で、撃たれたときですら優しそうな調子を崩さなかったというのに。

 何か気に障ることでも言ってしまったか?

 思ってもみなかった反応にひどく驚きながら、エミィは訊ねた。

 

「どうした?」

 

 少年は答えない。

 しかしエミィには、少年がこう言っているように見えた。

 

 

 

 

「『まがまがしいもの』『毒』……?」

 

 

 

 

 ……やっぱりわけがわからん。

 エミィは首を捻りながら、自分の作業に取り掛かり始めた。

 今後のことも考えて、医務室の救急カバンに包帯とガーゼ、消毒薬、抗生剤、その他使いそうな薬や消耗品の一切合切を詰め込んでゆく。

 

 そんなエミィを尻目に、少年はゴジラとメカゴジラの死闘をひたすらじっと見つめていた。

 

 

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