怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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70、激闘Ⅲ ~『ゴジラ×メカゴジラ』より~

 痛みはなかった。

 

 

 しかし強い打撃とともにメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの知覚にひずみが生じたのを、ヘルエル=ゼルブは感知した。

 静かな水面に巨大な岩塊を放り込んだような、強烈なショックがメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの全身に波及する。

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩを立ち上がらせようとするゼルブだったが、どういうわけか機体が上手く動かせなかった。

 ナノメタルの論理整合性に狂いが生じ、姿勢を安定制御できない。

 人体で言えば、思い切り顔を殴られて脳震盪を起こしたかのような感覚を、ゼルブは覚えた。

 

 だがメカゴジラは飽くまでメカニックだ。

 脳震盪など起こすはずがない。

 単に殴られただけではこうはならないはずだ。

 ――ゴジラめ、いったい何をした!?

 先刻のゴジラの攻撃をゼルブは解析し、その真相をすぐに弾き出した。

 

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩを行動不能にしたゴジラの手品。

 その正体は電磁パルス:EMPだ。

 ゴジラの非対称性シールドを狂わせ、放射熱線を封じ込めたゼルブの干渉波クロー。

 その仕掛けとして使われている電磁パルスを、今度はゴジラの方が拳に込めて放ったのだ。

 

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩが立ち上がろうと四苦八苦するこの隙に、ゴジラは力任せに両足のファングとアンカーを引き千切り、そして背鰭を光らせ始める。

 そんなゴジラの姿を見ているうちにゼルブは冷静さを取り戻す。

 

 ――バカめ。

 御自慢の放射熱線は使えないのを忘れたか。

 電磁パルスなんて使うから少しは驚いたが、やはり所詮はケダモノだ。

 同じことを繰り返すしか能がない。

 やはり貴様ごときにこの星の霊長の地位は相応しくない。

 勝つのはこのヘルエル=ゼルブだ!

 

 計算を修正して立ち直ったメカゴジラはすぐさまスパイラルクロウを再生成し、ゴジラに襲いかかる。

 メカゴジラのコックピットで、ゼルブは勝ち誇った。

 

 ――これで終わりだ、ゴジラ!

 

 しかしゴジラの背鰭の発光は鼻先ではなく、尻尾の先へと(たぎ)り始めた。

 

 

 

 

 

 

 ゴジラは一体どうするつもりなんだろう。

 わたし、タチバナ=リリセは首を傾げた。

 背鰭の発光は、順繰りに灯りをともすように尻尾の先端へ向かってゆく。

 

 尻尾に光。

 そのときわたしはレックスのデストファイヤーを思い出した。

 マタンゴを八つ裂きにした高温高圧の超強力なプラズマジェットのカッター。

 あの強力無比なレックスの必殺技は、尻尾から発射していた。

 まさかゴジラも尻尾の先から放射熱線を出すことができるのだろうか?

 ……いやいや、放射熱線の発射自体が封じられていたはず。

 口から出そうが尻尾から出そうが、放射熱線として放つ時点でゴジラの自滅が確定する。

 

 そんなゴジラの様子に気づいているのか否か、ドリルの触手を振り上げたメカゴジラⅡ=ReⅩⅩがゴジラに飛び掛かってゆく。

 その最中、ゴジラの背鰭に灯った光はやがて尻尾全体へと到達し、ついにはゴジラの長い尻尾全体が青白く発光していた。

 ……まるで光の剣、アニメマンガのアーサー王が使う聖剣エクスカリバーみたいだ。

 わたしがそう思ったのと同時に、ゴジラは光に満たされた尻尾をメカゴジラへ目掛けて振り上げた。

 

 

 

 ゴジラとメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの巨体が重なった刹那、金属を滑る鋭利な音と共に、青白い光の一閃が交差した。

 ざわ、と冷たい風が吹き抜け、両者が動きを停める。

 

 

 

 最初に反応があったのはゴジラだった。

 背鰭の一本が、スパイラルクロウで抉られて粉砕されていた。苦悶の呻き声をあげるゴジラ。

 

 続いてメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ。

 ゴジラに次の攻撃を繰り出そうと振り返った拍子に、()()()()()()()()()()()

 

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの頭が金属が叩きつけられる耳障りな音とともに地面へ転げ落ち、メカゴジラがその場で静止した。

 

 

 

 怪獣同士の立ち合い斬り。

 勝ったのはゴジラだ。

 ゴジラがメカゴジラの喉を掻き切ったのだ。

 

 

 

 エネルギーを蓄えたゴジラの尻尾について「光の剣みたいだ」と思ったわたしの直感は正しかった。

 ゴジラが振り切った尻尾の一撃は、とてつもなく速かった。

 あまりに速すぎて、わたしの目では尻尾の動きが青白い残像のようにしか見えなかったくらいだ。

 

 鋭利に研ぎ澄まされた尾の一撃。

 高熱とパワーの累乗が引き起こす線条の破壊は、引っ叩いたというよりも『斬り裂く』と表現するべきなのだろう。

 

 

 まさに、〈プラズマブレード〉だ。

 

 

 頭を斬り落とされたメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ。

 しかし首を切り落とされた程度で機能を停止するはずもなく、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩはすぐさま立ち直り、スパイラルクロウでゴジラに躍りかかった。

 迫りくる幾本ものスパイラルクロウ。

 しかしゴジラはそれらすべてをまとめて叩き切ってしまった。

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの首、触手、どれも断面がカタナで斬ったみたいに滑らかだ。

 

 続けてゴジラは腕を突き上げ、カギ爪のボディブローがメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの胴体で炸裂した。

 

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩをノックダウンさせた拳の電磁パルスを今度は爪に込めて、思い切り腕を振り上げるゴジラ。

 ゴジラの雷パンチが、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの胸部を深々と抉り取った。

 メガトン級の電磁パルスを叩き込まれて怯むメカゴジラⅡ=ReⅩⅩへ、今度は尻尾の斬撃を袈裟懸けに再び叩き込む。

 電磁パルスのメガトンパンチと撫で斬りの連続攻撃。一発だけでも必殺技と呼べるような大技を、ゴジラはメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ目掛けて交互に繰り出してゆく。

 ゴジラの猛攻を前にメカゴジラⅡ=ReⅩⅩは為す術もなく、反撃はおろか受け身すらろくにとれないまま一方的になます切りにされていった。

 ゴジラの猛烈パンチに、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩは一方的にぶちのめされるだけだった。

 もはや勝負の主導権は完全にゴジラのものだ。

 

 

 ……わたしは一体、何を見せられているんだろう。

 わたしは、大暴れするゴジラの姿を、呆然と眺めることしか出来なかった。

 眼前で繰り広げられているゴジラの大進撃は、もはやわたしの理解などとっくのとうに超越していた。

 

 

 尻尾で敵を斬り裂くプラズマブレードなんて、いくらなんでも無茶苦茶だ。

 

 

 さっきメカゴジラも似たようなことをしたし、レックスだってメカニコングに同様の技を披露したこともある。

 しかし、メカゴジラの尻尾は明らかにノコギリ状に変形していた。

 レックスだって尻尾を斧状に変形させていた。

 どちらも飽くまで刃物で斬った、その範疇だ。

 凄いテクノロジーだとは思うが、直感的には納得がいかないこともない。

 

 だけどゴジラは、ただ尻尾を思い切り叩きつけただけだ。

 刃物でも何でもないあんな太く逞しい尻尾で、頑丈なナノメタル金属を叩き斬る。

 どれだけのパワーとエネルギーを込めれば、こんな常識外れの結果を起こせるのだろうか。

 

 

 

 だけど、これがゴジラだ。

 

 

 

 その無茶苦茶をいとも容易く成し遂げ。

 人の理解を悠々と跨いで超えてゆく。

 そんなとんでもないやつだからこそゴジラはキングオブモンスターなんて呼ばれている。

 

 ゴジラは、我々の常識を超えた生物なのだ。

 

 ゴジラの底無しのパワーに、わたしはただただ驚愕するしかなかった。

 もはや誰にもゴジラを止めることはできない。

 

 

 ゴジラの連続攻撃でついに動けなくなったメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ、その胸部をゴジラの尻尾による強烈な突きが射抜いた。

 斬ることが出来るのだから、突き刺すことだって出来て当然だ。

 

 ゴジラの尖った尻尾は、程よく嬲られて脆くなったナノメタルの積層耐熱装甲を易々と貫通し、ゴジラは自慢の長い尾でメカゴジラを串刺しに釣り上げた。

 串刺しにされたメカゴジラはもがいているが、ゴジラが尻尾を思い切り突き上げるので、もがけばもがくほど深々と刺さっていってしまう。

 

 そんなメカゴジラをゴジラは両腕で掴み、大顎で思い切り食らいついた。

 

 メカゴジラを捕まえる両手に力が籠ってゆき、ナノメタルの身体に爪と牙が深々と食い込んでゆく。

 耳を突き刺す甲高い金属音が響き渡り、メカゴジラの全身に無数の亀裂が走ったかと思うと、メカゴジラの機体は引き千切られてバラバラになってしまった。

 八つ裂きに四散したメカゴジラの破片が辺りに散らばる。

 メカゴジラ本体というコントロールの主体を喪い、干渉波クローが沈黙する。

 

 続けて、ゴジラがその長い尾を思い切り振るった。

 尾の一振りが巻き起こす真空の衝撃波が、それ自体が鋭利な(やいば)となって周囲を一閃し、干渉波クローをすべて薙ぎ倒してゆく。

 

 ヘルエル=ゼルブ自慢のゴジラ処刑装置:Gブレイカーは、あっさりと叩き壊されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴジラとメカゴジラが戦っている最中。

 医務室を出たエミィと子供たちは、タワーへ向かう途中で寄り道をした。

 

 目的は『金目の物』だ。

 

 エミィは考えを巡らせた。

 ……仮に、潜水艇で本土に辿り着けたとして、しかしそのあとどうする?

 着の身着のままで立川まで帰れるのか?

 まずクルマも必要だし、護身用の武器も要る。なにより『カネ』が必要だ。

 何につけてもカネは入用だ。せっかくだから金目の物をいくつか失敬して路銀にでもさせてもらおう。

 

 この『統制官室』とかいう部屋――タチバナ=リリセがヘルエル=ゼルブと最初に対面したオフィスだが、エミィは知る由もない――は、きっと偉いヤツの使う部屋だろう。

 今や警備の兵士など何処にもいなかったので、鍵さえ壊せば容易く入ることが出来た。

 中にはエミィの読みどおり、金庫があった。

 大仰で立派な金庫、如何にも金目のものが仕舞ってありそうだ。

 

「……開けられるか?」

 

 エミィが浅黒肌の少年に訊ねると、『開けられるよ、でも……』と渋い顔をした。

 

「『でも』、なんだ?」

 

 ――これって、火事場泥棒じゃないの?

 

 胡乱な目つきで問い掛ける少年に、エミィは堂々と答えた。

 

「火事場泥棒? いいや違うね、損害賠償さ」

 

 ――ソンガイバイショー?

 

「そうさ。酷いことをされた奴が、それをやった奴からお詫びをもらうことさ」

 

 訝しむ少年にエミィは自分の考えを説明した。

 ……自分たちは散々ひどい目に遭ったのだから、これくらいは貰っておかないと割に合わない。

 それにどうせこの島はあと一時間もすれば吹っ飛んでしまうのだ。

 この島は金目の物だらけだ、このまま跡形もなく粉微塵にされてしまうなんて勿体ない。

 売っ払ってでも世の中に遺した方が世のため人のためだろ?

 

 ……とかなんとか。

 自分でも滅茶苦茶な理屈だなあとエミィ自身も思ったが、そこは触れないことにした。

 そんなエミィの説明に少年は腑に落ちない顔をしつつも、金庫の鍵を壊して開けてくれた。

 

 

 金庫の中身は貴金属類ではなかった。

 データを入れる電子リムーバブルメディアや、データドライブだ。

 きっとこの島の機密が入っているのだろう。

 金庫に仕舞っておくくらいだ、さぞ重要な機密に違いない。

 

(……まあ、知ったことじゃないけどな)

 

 エミィは内心で落胆した。

 こういうメディアやドライブは、専用の電子端末がなければ中を読むことが出来ない。

 物凄い重要機密だったとしても、こういうものを金に換えられるのはスパイとかだけだ。

 つまりはどれも無用の長物。ただのサルベージ屋でしかないエミィが持っていたところで、扱いに困るだけである。

 

 内一本、ディスクドライブを取り出して見てみると、貼られたラベルに『メカゴジラ復活計画』と書いてあった。

 きっとメカゴジラにまつわる色んなデータが入っているのだろう。

 

 そのときエミィは『α試料保管庫』で見たものを思い出した。

 所狭しと棚に並べられていた、メカゴジラII=レックスの失敗作たち。

 ゴジラを超える恐ろしい巨大ロボット怪獣に改造されてしまったレックス。

 そしてそれを奪い合う人間同士の醜い争い。

 ……こんなもん、無くなった方がいい。

 

「ふんっ」

 

 エミィが力一杯に床へ叩きつけると、『メカゴジラ復活計画』はバキッと音を立ててバラバラになった。

 続けてエミィは、金庫に仕舞ってあったメディアやドライブ、書類などを洗いざらいすべて引っくり返した。

 強化型メカニコング、パクス=ビルサルディーナ、地球環境最適化プラン、LTF構想、オルカシステム、ナノメタライズ実験レポ、怪獣の品種改良、怪獣艦隊、セプテリウス、Dominus(ドミヌス)Tyrannus(タイラノス)……。

 中身なんて読むまでもない。

 

 エミィはすべてブッ壊すことに決めた。

 

 ……無駄なことをしているな、と思った。

 先ほど自分で少年に説明したとおり、この島はどうせ総攻撃派が撃ち込んでくる核ミサイルで吹っ飛んでしまうのだ。

 ミサイルか怪獣プロレスか、どちらにせよ放っておいたところでこのデータ類もまとめて焼き尽くしてくれるだろう。

 だからわざわざ壊す必要など無い。

 それくらいのことはエミィもわかっている。

 

 ……だけどそれでも、どうしても。

 エミィはやらずにいられなかった。

 

 

 

 どうしても許せなかったのだ。

 人を傷つけるようなものを造って悦に入っている、そんな人間の愚かしさが。

 

 

 

「こんにゃろっ、こなくそっ!」

 

 こんなもんがあるから、馬鹿げた戦争なんか起きるんだ。

 怒りに任せてメディアたちを捻り潰し、渾身の力で足蹴にして踏み砕く。

 書面はビリビリに引き裂き、ゴミ箱へまとめて叩き込んだ。

 

 ……あるいはゴジラもこんな気分なのかも。

 

 あいつも人間を赦せないのかもしれない。

 人間の愚かしさが憎くて憎くてたまらなくて、ブッ壊さずにいられないのかもしれない。

 そんなことを考えながら、エミィはLSOの重要機密を片っ端から破壊してゆく。

 そして最後の一本。

 『サカキ・レポート』と書かれたディスクを踏み潰そうとしたとき、浅黒肌の少年がエミィを止めた。

 

 ――これは取っておこうよ。

 

 は? なんでだよ。

 首を傾げるエミィに、少年はメディアを手にとって光に透かした。

 

 ――だって、なんだか綺麗じゃないか。

 

 ……言われてみればたしかにそうだ。

 おそらくゲマトロン演算結晶の亜種だろう、小さなクリスタル状のリムーバブルメディアディスク。

 知らない者が見ればガラスで出来たアクセサリーと思うかもしれない。

 ネックレスにでもしたらオシャレかも……

 

 

(……って、いやダメだろ!)

 

 

 一瞬頭をよぎった考えを振り払い、エミィは少年の手からディスクをひったくった。

 少年は「アアン」という顔をしたが、エミィは「ダメダメ!」と眉をしかめてみせる。

 

 危険かも知れない。

 持ち出したのがバレたら、レックスを狙ってヒロセ家を襲撃してきたLSOみたいなクズどもにまた狙われるかもしれない。

 これが宝の地図だっていうなら話は別だが、どうせろくなもんじゃない。

 宝の地図だとしても命あっての物種だ。これ以上厄介事に巻き込まれてたまるか。

 

 そう言って聞かせようと少年の方へ振り返ると、少年はエミィを一生懸命に見つめていた。

 期待の籠った眼差し。

 ……よせよ。

 そんなキラキラの瞳で見るのは。

 やめろってば。

 気が咎めるだろ。

 当初の決意が揺らぎ始めたエミィは、改めて考え直してみることにした。

 

 ……どうせ端末がなければ中は読めない。

 あったところでパスワードが掛かっていればどうせ開けられない。

 それに他の人間ならともかく、浅黒肌の少年はこれが何なのかもわかっていない。

 そもそも『サカキ・レポート』って何のことだ? サカキ、書いた奴の名前か? どこのどいつだ、サカキって。

 エミィにも詳細がよくわからないこの謎のディスク、ラベルを剥がしてしまえばきっと誰にも中身はわからない。

 出処(でどころ)さえ伏せておけば、変な奴に目を付けられる心配もあるまい。

 

(……ま、一個くらい良いだろ。)

 

 迷った末にエミィは、そのメディアを少年にあげてしまうことに決めた。

 アクセサリーみたいに身につけているだけなら大した害にもなるまい。

 

「ほらよ。内緒だぞ」

 

 ラベルを剥がし、適当に見繕った紐を通してから渡してやると、少年は「ヤッター!」と言わんばかりに小躍りしていた。

 エミィの渡した“プレゼント”を首から提げ、無邪気に飛び跳ねて喜ぶ少年の笑顔。

 

 ……まあ、いいか。

 こんなものでも喜んでくれるなら。

 

 そんなことをエミィは思った。

 

 

 

 

 それから五分後。

 エミィたちは、統制官室を根こそぎ漁った末に別の金庫を発見、中の貴金属一式をゲットした。

 

 どうやらこの部屋の主、『統制官』とかいう奴はよほど贅沢な暮らしをしていたらしい。

 高級品の御酒やら美味しそうなお菓子やらがどっさり出てきたし、宝石だとかサルベージ屋垂涎のハイテク電子機器やらがゴロゴロ出てきた。

 『統制官』とかいう奴がどうなったかは知らないがどうせ生きちゃいまい。それにLSOの御偉方なんて、どうせろくでなしの人でなしに決まってる。ちょっとくらい貰ったって構うものか。

 ……持ち帰ったらいくらで売れるだろう。

 リリセには怒られるだろうか。それとも喜んでくれるだろうか。

 エミィがそんな皮算用を叩いていたときだった。

 

 部屋中が揺れ始めた。

 

 

 

 

 ……地震だ!!

 

 

 

 

「おまえら机の下に隠れろ!!」

 

 地震雷火事()()()とか、冗談じゃねえぞまったく!

 子供たちをテーブルの下へ追いやり、閉じ込められないようにドアを開け放ってからエミィ自身も机の下に潜り込む。

 

 揺れは大きく、そして長く続いた。

 激しい横揺れだ。

 酒瓶をはじめとする棚のものが次々と落下し、やがて棚まるごとが転倒、割れた窓ガラスの破片が部屋中に飛び散る。

 エミィ自身も左右に揺さぶられながら、机の下で懸命に身を縮こませた。

 

 揺れがようやく収まった頃、エミィは机の下から恐る恐る這い出た。

 落下した酒瓶が割れたせいで中身が漏れ、辺りが酒でびちゃびちゃになっているが、それ以外は大丈夫そうだ。

 

「……おい、おまえら出て大丈夫だぞ」

 

 エミィの合図で机の下から這い出てくる子供たちに、エミィは「ガラス割れてるから気をつけろよ」と注意喚起する。

 ……もはやここには用はないな。

 貴金属を詰めたバッグを背負い直し、部屋から退散するように指示しようとしたときだった。

 窓の外を窺っていた少年が一行を呼んだ。

 

 ――外を見て!!

 

 少年に促され、エミィと子供たちは一斉に窓の外を覗き込んだ。

 そこに現れていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴジラ対メカゴジラ。

 その結末をわたし、タチバナ=リリセは見届けることになった。

 

 敗北したのはメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ。

 ゴジラの超パワーでバラバラにされてしまった。

 メカゴジラ本体は八つ裂きに、周囲に突き立っていた対ゴジラ用の設備も壊滅状態。

 あとに残ったのはただのガラクタの山だけだ。

 そして四散したメカゴジラの残骸を前に、ゴジラが満足げに唸っている。

 

 ……だが、そんな光景を眼下で目にしても、わたしにはメカゴジラがこれで死んだとは到底思えなかった。

 頭を潰されても復活したゼルブ。

 致死毒を癒し、致命傷を修復したレックス。

 ナノメタルは肉体を凌駕する。

 こんな程度で死ぬとは思えない。

 

 ゴジラによって引き裂かれたメカゴジラの残骸が、蝋燭が燃え尽きるのを早回しにしたようにどろりと融けた。

 ……本当に死んでしまったのだろうか。

 まさかあれで? そんな馬鹿な。

 

 そんなことを思ったとき、わたしの背後で『ごとっ』という音がした。

 

 振り返ると瓦礫が独りでに崩れていた。

 しかし人の気配はない。何かの拍子に崩れたのだろうか。

 

 それはあまりに重低音で、あまりに深いために、わたしは最初気づかなかった。

 響いていたのは地鳴り。

 足元からの揺れはどんどん大きくなる。

 

 

 そして大地が炸裂した。

 

 

 轟く爆音、タワーの外へ再び視線を移す。

 島の岩山は土台から引っ繰り返したかのように崩れ去り、地獄へ続いている深い地割れが砕けた大地に幾本も走る。

 巨大な裂目、そこから止めどなく湧き出る白銀の洪水はナノメタルだ。

 膨大な量のナノメタルが孫ノ手島のありとあらゆる場所から噴き出していた。

 

 同時に、孫ノ手島の地盤が次々と沈んでゆく。

 埋まっていたナノメタルが地上へ移動していたことで、スポンジ状になった地盤が崩れ始めているのだ。

 地盤沈下を起こすほどの量のナノメタル。一体何トン、いや何十万トン埋まっていたのだろう。

 

 全島から溢れ出たナノメタルは続いて変形を始めた。

 胴体、腕、尻尾、背鰭、そして頭。

 ナノメタルが結晶状へと変化し、機体を組み立ててゆくその光景は先ほども見たものだ。

 

 だけど今度はスケールの桁が違う。

 

 上下腕それぞれだけでゴジラの背丈をも超え、伸びた尻尾はまるで万里の長城、真っ直ぐ伸ばせば雲をも突くだろう。

 丸めた背中から三列に並び立っているのは、磨きぬかれた鏡よりも煌々と眩い背鰭の連峰。

 胴体ときたらタイタニック号を沈めた氷山のようだ。どんな豪華な客船だってこいつに掛かればひとたまりもないだろう。

 そしてその氷山の頂点には冷徹無慈悲な顔、太陽よりも真っ赤な両目が獰猛にぎらついている。

 

 

 

 まさに巨神(Titan)、地上最大のロボットだ。

 

 

 

 ……そのときわたしはようやく理解した。

 この孫ノ手島は単なる怪獣プロレスの舞台ではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 真の姿を現したメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ。

 先ほどまでゴジラと戦っていたのは、そのほんの一部分に過ぎなかったのである。

 

 

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