怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
……まさかこれを繰り出すことになるとはな。
ヘルエル=ゼルブは内心で感服していた。
メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ、〈タイラノス〉。
全高400メートル、全長1,000メートル。
孫ノ手島に埋蔵したナノメタルの
怪獣艦隊の司令塔としての機能に特化したドミヌスに対し、ゴジラとの総力戦を想定した究極の戦闘態がタイラノスだ。
ドミヌスと違って小細工は一切ない。
君臨したタイラノスを見上げていたゴジラが、背鰭を光らせた。
放射熱線を放つつもりだ。
タイラノスも腕をかざし身構える。
その直後、空間電位が急上昇し、ゴジラの鼻先からかつてないほどの出力の放射熱線が放たれた。
しかし、ゴジラの放射熱線はタイラノスの掌へと吸い込まれ、消えてしまった。
……バカめ。
ヘルエル=ゼルブはほくそ笑んだ。
タイラノスの爪は、先ほどゴジラの放射熱線を完封したGブレイカー:干渉波クローと同じものだ。
タイラノスにかかれば、ゴジラの放射熱線など指先一つで揉み消すことが出来る。
必殺の放射熱線が通用しなかったことに、ゴジラは動じていない。
……あるいは愕然としているのか。
そんなゴジラに、ゼルブは勝ち誇った。
なあ、ゴジラよ。
貴様にはまったく恐れ入ったよ。
このメカゴジラⅡ=ReⅩⅩに、ここまでさせたことについては敬意を表してやる。
だがそれもここまでだ。
今度こそ貴様の息の根を止めてくれる。
ゼルブの操作でメカゴジラⅡ=タイラノスの全身が変形し、その各部からハイパワーメーサーの砲台が針山のように展開される。
その数、一千台。
人類の総力戦だったかつての戦いにおいても、なかなかお目にかかれなかった光景だ。
……かつてゴジラは百五十発の核爆弾でも平気だったという。
このハイパワーメーサーの集中砲火だって、その気になれば耐えられるだろう。
平時であれば、の話だが。
核爆弾百五十発を防いだ非対称性透過シールドは今、タイラノスの干渉波クローで無効化されている。
まさに剥き身も同然の状態で浴びるハイパワーメーサーの大攻勢。
果たしてゴジラは耐えられるだろうか。
ヘルエル=ゼルブは号令した。
――
メカゴジラ=タイラノスの全身すべてのハイパワーメーサーが、ゴジラ目掛けて稲妻を放った。
「……なにこれ」
呆気に取られて零れ落ちた言葉。
孫ノ手島の大地を割って現れた、超巨大メカゴジラ。
地上最大のロボット、その馬鹿げたサイズ感にはただただ呆気にとられるしかない。
あのゴジラが人形遊びの人形に見える。
身長はゴジラの八倍として400メートル……400メートル!? かつてゴジラがブッた斬ったあの東京の電波塔より大きい。
頭から尾先までの全長は……わからない。だってあまりに大きいんだもん。
とにかくデカい、デカ過ぎる。
まさにクソデカ・メカゴジラだ。
そんなクソデカ・メカゴジラが、足元のゴジラを見下ろしながら戦闘態勢を取った。
ナノメタルの軋む音が無数に響き、金属音のオーケストラとなって重なり合う。
孫ノ手島全体が目覚めの雄叫びを挙げているかのようにさえ錯覚する、メカゴジラの咆哮。
そして繰り出されたのはハイパワーメーサーの一斉砲撃だった。
直視していたら目が潰れていただろう。
瞼を固く瞑っていても眩みそうな強烈な閃光が収まったところで、わたしは外の様子を窺った。
氷山みたいな巨躯で悠々とゴジラを見下ろしているメカゴジラⅡ=ReⅩⅩ。
身長50メートルのゴジラと、300メートル超えのメカゴジラ。
一目瞭然の戦力差、まるで巨大な山と戦っているみたいだ。
スケール違いなんて邪道だろう、いくらなんでも反則過ぎる。
他方、ゴジラは膝を屈していた。
ハイパワーメーサーを総身で浴び、全身が隈なく黒焦げになっていた。
……見るのも痛々しいほどだ。
そんなゴジラに、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩはどこまでも無慈悲だった。
次に動き出したのは干渉波クローだ。
さっきゴジラのプラズマブレードでまとめて薙ぎ倒された、干渉波クローたちの残骸がむくりと立ち上がった。
そして屈曲した爪から鋭く尖ったスピアへと変形し、まるで幽霊みたいにふわりと浮き上がる。
無数の矛先を向けられたのはゴジラ。
追尾する幽霊:ホーミング ゴーストと化した無数のスピアが、ゴジラ目掛けて一斉に突貫した。
襲い来るスピア群を咄嗟に尻尾で叩き落とすゴジラだったが、これだけの本数による集中砲火は流石に捌き切れない。
うち何本かがゴジラの体を刺し貫き、ゴジラは苦痛の呻きを挙げた。
全身を串刺しにされて生きた針山地獄と化したゴジラを、すかさず背鰭のハイパワーメーサー砲台が狙う。
落雷なんて目じゃないハイパワーメーサー光線の一斉砲撃。
出力で言えば数百億ボルトを優に超えているはずの大出力がゴジラの全身を焼いてゆく。
ホーミングゴースト、ハイパワーメーサー、電磁波のシールド。
情け容赦ないメカゴジラによる猛攻撃と、なす術もなくいたぶられて悲鳴を上げるゴジラ。
直視に堪えない光景にわたしは目を覆った。
しかし目を背けても無駄だ。
焦げた臭いと焼けた空気、そして苦悶するゴジラの呻き声から、目の前でどんな惨状が繰り広げられているか存分に伝わってくる。
このまま続けていたらゴジラは消し炭になってしまうだろう。
……むごい。
こんなのフェアじゃない、一方的に痛めつけているだけじゃないか。
さすがにやりすぎ、
……可哀想??
そこでわたしは首を捻った。
わたしは何を言ってるんだ???
こんなの、普通のことだ。
人類とゴジラの戦いなんていつも
フェアかどうかを言えばゴジラの方こそフェアじゃない。
あいつにはミサイルも砲弾も、人間の作った武器は何一つ通用しなかった。
わたしたち人間が造った街を不意打ちで襲って焼き払い、逃げ遅れた人たちを巨体で一方的に踏み潰す、そういうフェアもクソもないことをしてきたのはゴジラの方だ。
そういえばヘルエル=ゼルブも言っていた。
――我々の『メカゴジラ』こそが統合された最後の希望だった。
ヘルエル=ゼルブは最低なゲス野郎だけど、このことに関してはやはりあいつが正しい。
理不尽なゴジラを相手に人類は勇気を出して団結し、知恵と創意工夫で立ち向かう。
人類とゴジラの戦いはそういうものだった。
その人類の叡知の結晶であるメカゴジラがゴジラを倒す、何もおかしいことはない。
こっちは悪いことなど何もしていない。
人類らしい戦いの結果、わたしたちのメカゴジラがゴジラをやっつけようとしている。
ただそれだけのことじゃないか。
だけど何故だろう。
物凄く『やってはならないこと』をしている気がする。
ここを越えたら取り返しがつかない、そんな恐ろしいタブーを犯している気がしてならない。
……あれ?
わたしはなぜゴジラの方を応援してるんだ?
ゴジラを倒す、人類の悲願だ。
良いことのはずじゃないか。
それのどこが問題だ。
スケール感のイカれた怪獣大戦争をずっと見続けていたせいで、わたしは頭がおかしくなってしまったのだろうか。
それとも新手のストックホルム症候群?
わたしが自身の変化に途惑っていると突然、どーん、と地を打つ音がした。
見ると、ゴジラが大地に立とうとしていた。
屈した脚に力を込め、ふらふらの頭を持ち上げて身体を起こす。
ここまでやられても、ゴジラはまだメカゴジラと戦おうとしている。
たとえ全身を焼かれようとも、針串刺しにされても、桁違いに巨大な敵が相手でも、それでも瞳に灯る闘志は失せてなどいない。
……一体何がそこまでゴジラを駆り立てているのだろう。もう白旗を上げたっていいのに。
だけどゴジラは屈しない。
メカゴジラを毅然と睨み返すその表情はこう言わんばかりだ。
『おまえにだけは絶対負けない』と。
……流石にタフだな。
ヘルエル=ゼルブは、不死身とも言えるゴジラの生命力に驚嘆していた。
ハイパワーメーサー砲一千台による三十分間の集中飽和攻撃。
他の怪獣なら肉片すら残らぬ猛攻撃だというのに、ゴジラは未だその原型をとどめているばかりか立ち上がろうとさえしている。
出力が足りぬのか、ならば……とゼルブがさらにハイパワーメーサーの出力を上げようとしたときである。
ゴジラと目が合った。
……いや、気のせいだ。
視線が重なるはずがない。
ヤツはメカゴジラを見ただけ、このヘルエル=ゼルブを見たわけではない。
しかし、ゴジラの目つきは、何かを見通しているかのようだった。
メカゴジラの体内その深奥、ナノメタルへ完全に溶け込んだヘルエル=ゼルブの存在を見抜かれているかのようにゼルブは感じた。
……もしかすると我々は、ゴジラについて大きな思い違いをしていたのかもしれない。
身長50メートル、体重1万トンに及ぶ巨体。
荷電粒子ビームの放射熱線を放つ能力。
百発以上の核爆弾にも耐えるタフネス。
いずれも脅威的だ。
が、考えてみればどれも表層的なことでしかない。
ゴジラは何を考えているのだろう。
ゴジラの内面について我々は何も知らない。
生憎、言葉を持たないゴジラとコミュニケーションを取ることは叶わなかった。
あれだけの攻撃性を発揮してくる相手とのコミュニケーションなど絵空事だろうが、もしゴジラと話が出来たならゴジラは一体何を話すだろうか。
あるいは高度な知性を持った存在なのかもしれない。
ヒト型種族と同等、ともすればそれ以上の……
……ふん、馬鹿馬鹿しい。
ゼルブは一瞬浮かんだ
……ゴジラにわたしが見えているはずがない。
たかがケダモノ風情がそんな知性など持ち合わせているものか。
『ヒト型種族種族と同等、あるいはそれ以上の』だと? ヒト型種族以上の存在、そんなものなど在ってたまるか。
いるとすればそれはいわゆる『神』だろうが、そんなものはあの愚かなエクシフ信者共が縋っているような薄弱な連中の妄想、いわゆる『宗教』の中にしかいない。
『神』、それは我々ヒトであるべきだ。
霊長の最上位を『神』と呼ぶのなら、我々ヒト型種族こそが『神』と呼ばれなくてはならない。
絶対的な力を持つ神。そう、ゴジラさえ捻り潰せる、このタイラノスのような。
……興が醒めた。火刑も串刺しもやめだ。
ここはメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの真髄たる
ゼルブはコマンドを送信した。
クソデカ・メカゴジラによる飽和攻撃は三十分も続いたろうか。
わたしが固唾を飲んで見守る中、ハイパワーメーサーとホーミングゴーストでゴジラを嬲っていたメカゴジラの動きが変わった。
背鰭に並んでいたハイパワーメーサーの砲列が規則正しい動きで一斉に格納され、間髪入れずに射出され続けていたホーミングゴーストも動きを停める。
代わって変化が起こったのは胴体部、胸部装甲が観音開きに展開した。
開かれたメカゴジラの胸襟。
中からワイヤーとマシンハンドが放たれた。
動けないゴジラをワイヤーが雁字搦めにし、マシンハンドが一斉に取り押さえ、そして体重一万トンのゴジラの巨体を軽々と引っ張ってゆく。
ゴジラも懸命に抵抗していたが、やはりパワーが違い過ぎるのだろう、ただ引きずられてゆくだけだった。
そして引きずり込んでゆく先は体内。
液状化したナノメタルがまるで餌を見つけた粘菌のように蠢き、一斉にゴジラへ纏わりついた。
先ほどヘルエル=ゼルブに見せられた、あのヒヨコの幼獣をナノメタルが処刑する風景の再現を思い出す。
あのヒヨコの怪獣も、最後はナノメタルに引きずり込まれて分解されてしまった。
今度の犠牲者はゴジラだった。
侵攻してくるナノメタルを引き剥がそうと暴れるゴジラだったが、無駄な足掻きでしかない。
まるで銀色の底無し沼に嵌まったみたいだ、這い出そうしても抜け出せず、引き剥がそうにも掴めない。
そんなゴジラの抵抗をものともせず冷徹に侵食してゆく無慈悲なナノメタル。
それでもゴジラは怒りの唸り声を挙げながら暴れていたがやがて尻尾、下半身、お腹、首元と引きずり込まれ、ついには全身がナノメタルに呑み込まれてしまった。
最初の内は、内部のゴジラの抵抗につられてかナノメタルの表面も波打っていた。
しかしナノメタルが硬化するにつれて動きも大人しくなり、最終的には完全に沈黙した。
ナノメタルに丸呑みにされたゴジラ。
そのとき、わたしは先ほど聞かされたゼルブの長話を思い出していた。
『ゴジラを模したナノメタルで怪獣を喰い、それらを糧に自らを増殖強化して、ついには本物のゴジラを喰い殺す』
メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの真骨頂はマフネ=アルゴリズム、その本質は『怪獣を喰らう』こと。
ナノメタルの動き、それを制御するゼルブの狙うところが何なのか。
傍から見ているわたしにもようやくわかった。
ゴジラを食べようとしてるんだ。