怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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73、ねがいごと

 

 ゴジラによるメカゴジラⅡ=ReⅩⅩの爆裂からわたし、タチバナ=リリセはからくも生き延びた。

 ゴジラを包んだナノメタルが赤熱し始めた瞬間、もし一瞬でも頭を引っ込めるタイミングが遅かったら、高熱と共にブッ飛んできたナノメタルの返り血を浴びて即死していただろう。

 

 ……それにしても暑い。

 わたしは服の襟元を緩めた。

 

 ゴジラが放出した爆熱のせいで、島中が精錬所なみの暑さだ。

 一歩も動いていないのに、真夏に全力疾走したみたいな気分だった。

 全身汗だくで喉はからから、熱中症になりかけているのか頭がちょっとくらくらする。

 熱気で喉をローストされてしまいそうだ。

 焦熱に噎せ返りながらタワーの外を覗き込むと、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 

 

 ゴジラを丸呑みにしようとしたメカゴジラは、体内からの放射熱線、いわば〈体内放射〉によってその大半が木っ端微塵に爆裂していた。

 黒焦げに炭化したナノメタルの血飛沫が四方八方にまき散らされ、その中央で真っ赤に光るゴジラが背鰭をバチバチとスパークさせながら背中を丸めて俯いている。

 「小人を呑み込んだ悪い鬼が、その小人に腹を裂かれて死ぬ」なんていう童話があるけど、それをゴジラのスケールでやるとこうなるのだ。

 溶鉱の中心でうずくまっていたゴジラがゆったりと起き上がった。

 真っ赤に煮え立つ体表は傷だらけだったが、命に別状はなさそうだ。

 

 他方メカゴジラは無惨なことになっていた。

 身長300メートル以上の威容は完全に喪われ、今や胸から上の部分しか残っていない。

 白銀の輝きも今はなく、表面が真っ黒な炭に成り果て、もはや爆発四散した焼死体としか言いようがない。

 赤い目の電光も(はかな)げに明滅していたが、やがて電球が切れるようにプツンと消えてしまった。

 

 

 ゴジラVSメカゴジラ、どちらが勝ったのか。

 ……それは、まあ、言うまでもないよね。

 

 

 メカゴジラはまたしても破壊された。

 頭が潰れても死ななかったゼルブのことも怪獣だと思ったけれど、ここまでやられて復活出来たらそれこそオバケだ。

 そして今度こそヒト型種族の完全敗北だ。

 

 ゴジラも、わたしと同じことを思ったのかもしれない。

 むくりと顔を上げたゴジラは、もぎ取った完全勝利を掲げるように誇らしげな咆哮を挙げた。

 全世界に向けた堂々たる咆哮、まさにキングオブモンスターだ。

 空を見上げて吼えるゴジラと、そんなゴジラへ平伏すように地面で転がっているメカゴジラ。

 

 そのときわたしは、レックスのことを考えた。

 メカゴジラⅡ=レックス。

 あんな一瞬の、それもあれほど強烈な爆発だ。

 苦痛すら感じなかっただろう。

 

 ……むしろ、そうであって欲しい。

 マフネ博士の娘の生まれ変わりとして創り出されたレックスは、バカでマヌケなタチバナ=リリセに見つけ出され、人間同士のくだらない争いに散々弄ばれ、最期はゴジラによって吹っ飛ばされてしまった。

 なんも悪くないのに最初から最期まで人間たちに振り回された可哀想なレックス。

 そんなレックスに救いがあるとしたら、苦しまないで死ねたことくらいだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの機体から零れ落ちた、小さなナノメタルの染み。

 その中に、レックスは存在していた。

 

 存在していても、機体(からだ)を動かす権限はコックピットにいるヘルエル=ゼルブのものだ。

 レックス自身の意思では、ネジひとつ動かすこともできない。

 

 代わりに押し付けられたのは、絶え間ない情報処理だった。

 居たくもない檻に縛り付けられて、解きたくもない計算問題を延々と解かされ続けるだけ。

 それが今のレックスに与えられた役割だった。

 

 ゴジラとの戦いでヘルエル=ゼルブは爆死したが、それでもレックスは檻の中だった。

 ヘルエル=ゼルブは結局、最期の最後まで権限を手放さなかった。

 いわゆる締め出し(ロックアウト)だ。

 レックスが自由になるためには、権限を持った人間の操作で解放してもらう必要がある。

 けれどそんな親切な人間などどこにもいない。

 そしてメカゴジラは死ぬこともない。

 つまり、レックスは未来永劫このままだ。

 

 

 ……どうでもいい。なにもかも。

 

 

 レックスは疲れ果てていた。

 センサーが時折周囲の状況を教えてくれるものの、自分からは何一つ出来ない以上、レックスにとって何の意味もない。

 怪獣の死骸を散々喰わされ、さらにゴジラと戦わされたレックスは、いまや心身共にボロボロだった。

 

 

 ……ボクはもう、疲れたよ。

 

 

 自分自身に関するすべてを取り上げられ、デジタルで創られた暗黒の檻に閉じ込められたレックスは、ただうずくまっているしかなかった。

 

 

 

 

 

「……こちらでしたか、〈鋼の王〉」

 

 絶望のまどろみの中で、レックスは誰かに呼び起された。

 外側の誰かが、ナノメタルの中枢にアクセスしようとしている。

 

「お会いできて光栄です……といっても、わたくしが誰なのかはわからないでしょうけれども」

 

 白い影に話しかけられて、うずくまっていたレックスは顔を上げた。

 レックスには、目の前にいるその影が、同時に二つの存在を有しているように見えていた。

 

 ……マティアス=ベリア・ネルソン?

 それとも、ウェルーシファ?

 

 Legitimate Steel Orderの幹部だったマティアス=ベリア・ネルソンと、真七星奉身軍の指導者ウェルーシファ。

 二つの存在が重なっているように見えた。

 

 そんなはずはない。

 一人の人間を、二人として認識するなんて。

 

 ナノメタルの論理回路がエラーを吐き出し、狂ってしまっているとしか思えないセンサーを幾度もデバッグする。

 しかし何度デバッグを繰り返しても、センサーは目の前の存在をだぶって検出している。

 ひとりの人間が、ふたりの人間の存在を所有している。

 一つにして複数のもの(The One Who is Plural)

 そんなはずはない、そんなのあり得ない。

 

 いや、そんなことより、レックスには気になることがあった。

 

〈 あなたには、ボクが見えるの? 〉

 

 外から見れば、ただの液体金属の染みにしか見えないはずだ。

 それなのにこの白い影は、その奥に封じ込められたレックスを認識している。

 白い影は言った。

 

「わたくしは、()()()()()()()を知っている。

 ゲマトロン数学者マフネ=ゲンイチロウの娘。

 名は〈マフネ=ユウキ〉。込められた願いは『勇気を持って生き、正直で優しい人となるように』」

 

 マフネ=ユウキ。

 その名前をレックスは初めて聞いた。にもかかわらず、どういうわけかなんだかひどく懐かしい気がする。

 その名を反芻しているうちに、レックスの脳裏によぎるものがあった。

 ――避難民でごった返す街。

 ――放射熱線を受けて破壊された橋。

 ――泣きじゃくっている小さな女の子。

 ――子供を庇って瓦礫に潰された自分。

 

 そして、全てを踏み潰してゆくゴジラの姿。

 

 ……今のは一体?

 レックスはデータベースを引いてみたが、該当するデータはどこにも存在しなかった。

 だけどなんだか自分にとても所縁の深い光景だった気がする。まさに自分自身のことであるかのように。

 考えているレックスに、白い影は言った。

 

「あなたとはあまりお話しする機会に恵まれませんでしたが、わたくしはあなたを尊敬しておりました。

 あなたはすべてを、それこそ存在さえも他者の願いへと捧げた。

 その在り方は我らの信仰が目指すべきところ、まさに究極の『献身』です」

 

 ……これは、褒められているんだろうか。

 なんだかくすぐったい気がした。

 

「……しかしもういいでしょう。

 如何です、そろそろあなたも好きにされては。

 御自身の望み、願い。それらと向き合わぬまま終わってしまうのは、あまりに惜しいとは思いませんか」

 

 そんな白い影の問いで、レックスは考えた。

 

 

 ……『ボクの願い』って何だろう?

 

 

 皆から『いいね』って褒め讃えてもらうこと?

 それともヘルエル=ゼルブが目指したように、支配者(Dominus)として全世界に君臨すること?

 はたまたどんな怪獣にも負けない、ゴジラさえ捻り潰してしまうような地上最大のロボットになること?

 ……いいや違う。そんなもの欲しくない。

 褒めて欲しいわけでもなければ支配者になりたいとも思わない。

 まして地上最大のロボットだなんて、そんなのどうでもいい。

 では何が欲しい?

 自分の望みがなにか、自分でもわからない。

 

 ただそれでも、ひとつだけはっきりしている。

 

 

 

 ボクは、誰かを不幸にするために使われたくなかった。

 

 

 

 ヘルエル=ゼルブはまるで気にしていなかったけれど、アンギラス、ラドン、ZILLA、カマキラス、クモンガ、メガギラス、エビラ、怪獣たちの死骸の山の中には、逃げ遅れた人間たちもいた。

 黒焦げになった怪獣の肉片や戦艦ヴァバルーダの残骸、瓦礫の山に埋もれて動けなくなってしまい、誰かに助けを乞うLegitimate Steel Orderや真七星奉身軍の兵士たち。

 

 そんな人たちもろとも、レックスは怪獣を食べさせられたのだ。

 それも、彼らが生きたまま。

 

 ナノメタルが一噛み咀嚼するたびに人間たちはレックスの身体の一部となり、食べる感覚と同時に、食べられてしまう感覚もまたレックスのものとなった。

 生きた人間を喰わされたときの味、香り、食感。生きながら怪獣に食べられてゆく苦痛、恐怖、絶望。

 そのとき感じたものすべてが、レックスの電子頭脳にデジタルで記録され、心と記憶に深々と刻み込まれた。

 決して忘れることはないだろう。

 

 そして合成怪獣、キメラ=セプテリウス。

 惨たらしく殺されたのに兵器として生き返らされ、継ぎ接ぎの状態で操り人形(マリオネット)みたいに無理矢理動かされて、死にたくても死ねない。

 あんな不幸な怪獣、ボクは創りたくなかった。

 

 ……ボクは、皆に幸せになって欲しかった。

 マフネ博士の娘の代替物でも良かったし、ゴジラと戦うスーパーロボットでも、女二人とメカ一機の珍道中でも、なんだって良かった。

 皆の笑顔がボクの幸せ。

 それさえ叶えばボクはなんでもよかったのに。

 

 

「今日は、そんなあなたに贈物(おくりもの)があるのですよ」

 

 白い影が、服の(たもと)から小さなものを取り出す。

 レックスがセンサーで解析したそれは、物質としては何のテクノロジーも込められていない絶縁体の無機物。

 つまりはただの石ころだったが、その形状はデータベース上に存在していた。

 

 

 エクシフの〈ガルビトリウム〉だ。

 

 

 しかし記録によればガルビトリウムは、移民船に乗り込んだエクシフのメトフィエス大司教によって地球から持ち出されたはずだ。

 そんなものがなぜ地球に、それもなぜこの場所にあるのだろう。

 レックスの疑念を他所に、白い影は続けた。

 

「これは我らの秘宝ガルビトリウムがひとつ、〈テルティウス=オプタティオ〉。

 司る権能は『願い』」

 

 白い影がコンソールを操作すると、レックスの手足を縛っていたデジタルの枷が失われ、レックスは自由になった。

 そうして自由になったレックスへ、白い影はガルビトリウムを差し出した。

 

「これはあなたのものです。

 この世界のため、そして他者のため。

 究極の献身を捧げてきたあなたにこそ、これを受け取っていただきたいのです」

 

 ……秘宝、というからには大切なものではないのだろうか。

 レックスにはその価値はよくわからないけれど、エクシフたちにとっては大切な心の()(どころ)のはずだ。

 そんな大事なものを、メカゴジラなんかにくれてしまっていいのだろうか。

 そんなレックスの引っ掛かりを(なら)すように、白い影は言った。

 

「信仰は種族を隔てません。

 迷いし者には導きを、救いを求める者には救済を、誉れ高い者は(むく)いられるべきです。

 エクシフに限らず地球人、ビルサルドも。

 ……当然、メカゴジラであろうとも」

 

 続けて、白い影はこのように言った。

 

「あなたの『願い』は強くて純粋です。このガルビトリウムを通じて祈れば、その願いもきっと世界に届くでしょう。

 『皆の幸福が己の幸福』、その願いに心身を捧げたあなたにこそ、我らが秘宝は相応しい」

 

〈 …… 〉

 

 ……要するに、神頼みの願掛けか。

 レックスは最初そう思った。

 

 ふん、秘宝といってもどうせただの石ころだ。

 『ガルビトリウムを通じて祈れば、その願いもきっと世界に届く』?

 馬鹿馬鹿しい、そんなことあるわけがない。

 祈りや願いで、世界が変わるわけがない。

 現にボクは『皆を幸せにしたい』とあれだけ願っていたのに、そんなのお構いなしに何人も不幸になったじゃないか。

 もしも祈るだけで変えられるような世界だったら、そんな世界はとっくのとうに破綻している。

 

 祈り、願い、そんなものは無意味だ。

 ガルビトリウムに(すが)って一生懸命お願いしたところで、どうせ何も変わらない。

 

 ……そう考える一方で、レックスは、新宿で目覚めてからのことを思い出していた。

 リリセが着せてくれた洋服。

 エミィが作ってくれた花冠(コローラ)

 二人と過ごした楽しい記憶。

 

 ――さよなら、リリセ。

 

 あの時本当はサヨナラなんてしたくなかった。

 あのとき願った気持ち、祈り。

 あれも無意味と言ってしまうべきだろうか。

 

 

 

 

 ……やめよう。

 レックスは考えるのをやめた。

 

 

 

 

〈 ……ありがとう。もらっておくよ 〉

 

 願っても、願わなくても、どっちにしろ結果は変わらない。

 ならば最後にもう一回願い事をしてみたっていいよね、本当に叶ったら儲けものじゃないか。

 ……どうせ何も変わらないだろうけれど。

 

「受け取ってください、我らの献身を」

 

 白い影がコンソールを叩くと、ナノメタルが変形してガルビトリウムを受け容れる台座が出来上がる。

 白い影はガルビトリウムをその中央に据えた。

 

「全知全能たる高次元存在……『超次元の神』に至る新世界が、あなたを待っていますよ」

 

 台座に据えられたガルビトリウムに、レックスが手を伸ばそうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガルビトリウムが鋭く光ったような気がした。

 

 




レックスの本名が初登場。考えてくれたのは某所の某氏。ありがとう、某氏。
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