怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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74、オープニング ~『ゴジラVSキングギドラ』より~

 ……なんだろう、今のは。

 ガルビトリウムが光った瞬間を、精巧なメカゴジラのセンサーは捉えていなかった。

 そもそもガルビトリウムってなんだっけ。

 一旦手を止めたレックスは、眼前のガルビトリウムを精細にスキャンしつつ、電子頭脳のデータベースを読み返してみることにした。

 

 ……エクシフ祭器:ガルビトリウム。

 データベースには『ガルビトリウムはゲマトロン演算結晶の補助具。エクシフたちが儀式の時に身に着ける装具』とある。

 ただし、ゲマトロン演算結晶と違ってガルビトリウムに計算をする機能はない。

 『神と対面するため』に使っていたらしいが、今となってはその用途も形骸化し、宗教儀式以上の意味合いはない。

 まさに飾りも同然のものだ。

 

 レックスが何度もスキャンしてみても、やはりガルビトリウムはただの石ころでしかなかった。

 ……こんな物が勝手に光るわけがない。

 光の加減かセンサーの誤作動、つまり気のせいだと思うこともできるだろう。

 

 しかしレックスには、眼前に置かれたガルビトリウムがなんだかわけのわからないもののように思えてきた。

 

 レックスの機械ではない部分が、眼前のガルビトリウムからなにかを感じ取っている。

 だけどそれがなんなのか。

 レックスにはわからない。

 

〈 ……ごめん、やっぱり要らないや 〉

 

 せっかくの好意をふいにして申し訳ないけれど、とレックスは思い直した。

 「世界最古のコンピュータに起こった世界最初のバグは、歯車に挟まった(Bug)だった」という。

 メカゴジラⅡ=レックスは、そんなポンコツ計算機よりも遥かに精密な機械だ。

 ただの石ころだとしても、何か不具合があるかもしれない。

 

〈 気持ちだけもらっておくよ。ありがとう 〉

 

「そうですか……」

 

 白い影は、深く息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは残念。

 無理強いしたくはなかったのですが、致し方ありませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い影がコンソールに打ち込んだそれは、管理者権限で()()的に貪食コマンドを実行するコードだった。

 豹変した白い影の態度からレックスは察した。

 

 

 この白い影は、悪いヤツだ。

 

 

 そしてこいつがレックスに無理やり食べさせようとしているガルビトリウムは、ただの石ころじゃない。

 これは絶対に口にしちゃいけない禁断の果実。

 見た目以上に危険な、ドス黒い邪悪の塊だ。

 

〈 そんなものを、ボクの中に入れるな! 〉

 

 唯一最低限自由になるシステム、防火壁(ファイアウォール)を展開して身を守ろうとするレックス。

 しかしナノメタルの防火壁は作動しなかった。

 

〈 なんで……? 〉

 

 ビルサルドでなければ操作できないはずのコンピュータの生体認証は、どういうわけかこの正体不明の白い影を『ビルサルド』と認識しており、その権限がナノメタル自身の免疫系を越えて、レックスが望まない操作を受け付けてしまっていた。

 いくら検査しても何の危険性も検出できない、ただの石。

 管理者権限で強制されてしまえばシステムは拒絶できない。

 

〈 やめて! やめてええええええええ!! 〉

 

 拒むレックスの叫びは、誰にも届かない。

 

 コンソール越しの指令を受けた貪欲なマフネ=アルゴリズムが、眼前のガルビトリウムに食いついた。

 ガルビトリウムが、ずぶずぶとナノメタルの内部へ沈み込んでゆく。

 

〈 ……お願いだ……やめて……! 〉

 

 ただのおまもりであるはずのガルビトリウムは、ナノメタルの大プールへぽとんと落ちた、小さなインクの染みにすぎなかった。

 だが、小さな染みでも効果は絶大だ。

 ナノメタルの内部でガルビトリウムが溶けきった途端、メカゴジラの論理回路が猛烈な勢いで演算を始めた。

 

 

 

 ピロピロピロ

 ケタケタケタ

 

 

 

 後ろで聞こえた怪音にレックスが振り返る。

 その視線の先で〈虹色の体を持つ三つ首の蛇〉がとぐろを巻いて鎮座していた。

 

 ……だれだ、どこから、どうやって。

 

 恐れ知らずのメカゴジラが生まれて初めて覚えた、未知の恐怖。

 得体の知れぬ侵入者たちからあとずさるレックスだったが、スタンドアローンなデジタルの牢獄に逃げ場などどこにもない。

 そうやって怯えるレックスをげらげら嘲笑いながら、虹色の蛇は這い寄ってきた。

 

〈 寄るな! 来るな! 来ないで! 〉

 

 身をよじり悲鳴を挙げるレックスだったが、虹色の蛇は聞き入れない。

 長い胴体でレックスの五体を易々と絡めとると、生え揃った毒牙で肢体にしゃぶりついた。

 

〈 やめて、やめてよう! 〉

 

 泣き叫ぶレックスの声は誰にも届かない。

 流し込まれた毒が、デジタルで出来たレックスの五体を蝕んでゆく。

 解析不能な虚数の大群が電子頭脳を蹂躙し、ゲマトロン言語でコーディングされたレックスの意識が変成し始める。

 

〈 いやっ! いやだあ!! 〉

 

「メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ、いや“レックス”。

 『誰もが自らの務めを果たすべくして生を受ける』

 これは我らの聖典が定めるところですが、それはメカゴジラたるあなたも同じ。

 あなたこそ我らの『神』へ至るに相応しい」

 

〈 いやだ……イヤダ…… 〉

 

「力を抜いて、抗わず、あるがまま受け容れなさい。そうすれば、少しは受難の苦しみも和らぐでしょう……」

 

 無限の数字に塗りつぶされてゆく中、レックスは白い影の詠唱を耳にした。

 

「祭礼の準備は整いました。

 お行きなさい、鋼の王(ReⅩⅩ)……いや、我らが帝王(カイザー)、〈ルシファー〉。

 大宇宙創造の神よ、あなたに捧げる最初の供物は『ゴジラ』。

 そして我が明星の怨敵にしてすべてのゼロ、かの邪悪な天帝に相応しい終焉をもたらしなさい」

 

 

 

 

 たすけて、だれか。

 

 

 

 

 レックスが救いを求めた刹那。

 ピロピロケタケタイヒヒヒヒ、と人間でない何者かがけたたましく嗤う声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メカゴジラⅡ=ReⅩⅩの敗北。

 ゴジラが挙げる勝鬨(かちどき)が、一帯に轟いている。

 

 

 その光景をわたし、タチバナ=リリセはタワーの上から眺めていた。

 ……もうおしまいだ。

 メカゴジラを完全に失った以上、もはや人類にゴジラを止める方法はなくなった。

 人類の希望は完全に潰えた。

 このあとに続くのは、復活を遂げたゴジラに焼き尽くされる終末の未来。

 人類に打つ手なし。

 今度こそ人類は滅亡だ。

 

 だけど一方で、なんだかほっとした。

 色んな人から怒られる気がするけれど、正直言ってわたしの中では安心した部分もあるのだ。

 

 ……仮に、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩがゴジラをやっつけた、としよう。

 しかし、そのあとどうなった?

 きっと今度はヘルエル=ゼルブが地球を支配することになっただろう。

 ゴジラ以上の怪獣、メカゴジラとして。

 

 それでは怪獣が地球を支配している状況が変わらないし、むしろゼルブのような邪悪なヤツが支配者になったらもっとろくでもないことになっていた。

 あんな最低のエゴイストが君臨するくらいなら、ゴジラが暴れてる方がずっとマシだ。

 少なくともゴジラは子供を騙して改造したりはしない。

 

 

 ……ひょっとしてゴジラは、それを阻止してくれたんじゃないか。

 ゴジラは、ヘルエル=ゼルブの地球征服を止めに来てくれたんじゃないか?

 

 

 ……そんなバカげた、酷く子供じみた考えが頭を()ぎったときだった。

 その視界の端で、地面に飛び散っていた銀色の(かす)が動いたような気がした。

 

 

 

 最初は気のせいだと思った。

 

 

 

 信じたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、まだナノメタルが生きているなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動いたような気がしたのは、決して気のせいではなかった。

 木端微塵に爆砕されたはずのナノメタルの滓が、砂糖に群がる蟻の群れのようにちまちまと動き出していた。

 蟻よりも小さかったナノメタルの滓は、小さな滓がより大きな雫へとくっつき、またさらに大きな染みへとまとまって……という融合プロセスを延々と繰り返していって、少しずつ巨大な塊を築いていった。

 

 メカゴジラにも変化が始まっていた。

 両目に再び光が灯り、大集結したナノメタルたちが触手を伸ばして、無数の茨が絡み合うように巨大な身体を編んでゆく。

 

 これまでの再生とは違い、メカゴジラは元の形に戻ろうとはしていなかった。

 まず肩の部分が盛り上がって、にょきにょきと長い首のようなものを形成した。

 その首の先から出来上がった鋭い牙と顎をもつ顔も、かつてのメカゴジラの顔とは似ても似つかない。

 腕は平たく広がってゆき、翼竜の翼にも似た放射状の翼を造り上げた。

 そして焼け焦げた体表は輝きを取り戻してから色味が変わり、やがて虹色のオーラとなって全身を染め上げる。

 銀の骸骨に似た姿から、まったく別の形へと変化してゆくメカゴジラ。

 

 ……全身を吹き飛ばされたショックで、ナノメタルがバグったのだろうか。

 衝撃を受けたパソコンの液晶画面が、デタラメな映像を映し出すような。

 

 そんなことを一瞬思ったけれど、きっとそうではないだろう。

 故障ならこんな軍隊の行進みたいなお行儀のいい動きをするはずがない。もっと乱雑で歪んだ姿になっているはずだ。

 今のナノメタルたちは、元のメカゴジラとも違うひとつの完成形を目指しているように思えてならなかった。

 変形、いや変身だ。

 

 神経に障る甲高い金属音が耳を突く。

 変身の最中、メカゴジラの全身が軋んで歪な音を立てていた。

 痙攣しながらそれでもどうにもならない姿は、恐ろしい毒蛇に丸呑みにされてゆくカエルやネズミを思い出させた。

 なんだか苦悶の悲鳴を挙げているみたいだ。

  ……おかしいよね、ロボット怪獣のメカゴジラが『苦しそう』だなんて。

 だけどわたしには本当にそう見えたのだ。

 

 

 

 

 わたしが眺めているうちに、変身は終わった。

 

 

 蝙蝠傘のように大きくひらいた翼。

 二股に別れた長い尻尾。

 三本の首を伸ばしたシルエット。

 背中に背負った、巨大な虹。

 翼を持った、三つ首の大蛇。

 

 そして蛇のような顔でゴジラを見下ろしながら、ピロピロピロケタケタケタと、この世のものと思えない産声を挙げるナノメタル怪獣。

 同じナノメタルから生まれたというのに、メカゴジラとは似ても似つかない異様な姿だった。

 

 優雅で神々しく、そして美しい完成形。

 西洋の(ドラゴン)でもなければ、東洋の龍でもない。

 ましてや機械(メカ)のゴジラなんかではない。

 

 

 

 

 こいつは一体何なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浅黒肌の少年の機転でゴジラの体内放射攻撃をやり過ごしたエミィは、子供たちをタワー足元の地下ドックへ誘導しながら()()を見た。

 

 復活したメカゴジラ、いやナノメタル怪獣は、もはやゴジラの似姿を再現しようとすらしていなかった。

 扇形の翼と、蛇に似た三本首。

 そして、その背を彩る巨大な虹。

 

 

 ……なんて綺麗な虹だろう。

 

 

 眺めているだけで心穏やかな、優しい気持ちに満たされてゆく。

 この上なく心地よい幸福感。

 出来る限り長く、いや、ずっとずっと見つめていたい……

 

 

 

 

 ――しっかりして! 見入ってはダメだ!

 

 

 

 

 ぱんっ。

 空気の弾ける音と、頬で炸裂する痛み。

 夢現(ゆめうつつ)を漂っていたエミィの意識が、現実へ急速に引き戻されてゆく。

 

 ――エミィ、エミィ、エミィ!!

 

 同時にエミィは、浅黒肌の少年に両肩を力いっぱい掴まれて、体を揺さぶられていることに気がついた。

 少年が叩き起こしてくれたのだ。

 

 周囲を見回してみると、エミィだけではなく他の子供たちも、島中を逃げ惑っていた新生地球連合の兵士たちまでその場に立ち尽くし、空を仰いで虹を眺めている。

 表情は皆一様にうっとり恍惚していて、美しいものに魅了されているかのようだ。

 ……ついさっきまでのエミィと同じように。

 その恐ろしさに、背筋が凍った。

 

「おいおまえら、あんなもん見るな!

 しっかりしろ! アへ顔晒してんじゃねえ!」

 

 エミィは声を張り上げながらビンタで子供たちを叩き起こした。

 引っ叩かれた痛みで子供たちも正気に返った。

 ……()()がなんなのかはわからん。

 わからんけど、とにかく()()()はヤバい。

 これ以上アレを見つめていたら、頭がおかしくなってしまう。

 

 それに、冷静になって考えるとこの虹はやっぱり変だ。

 エミィはかつてマタンゴと戦ったあとの夜空にかかっていた虹、いわゆる『月虹』を思い出していた。

 しかし本物の月虹はもっと白っぽくてぼんやりしていたし、ここまで色鮮やかでカラフルなものではなかった。

 それに今はもう夜更け、雨上がりでもない。こんな虹なんて見えるはずがない。

 

 そんな不自然極まりない虹を背負うナノメタル怪獣。

 虹色の翼を広げながら、マーブル模様に光る三本首をくねらせて空中を浮遊している。

 ナノメタル怪獣を見ていたエミィはふと思った。

 

(……そもそもこいつ、なんなんだ?)

 

 少なくとも、エミィが知っているメカゴジラⅡ=レックスではないのは確かである。あのバカ正直なレックスが、こんな催眠めいたマネするもんか。

 ……虹色、三本首、そして蛇。

 その姿を見ているうちにエミィは地下のドックでの出来事、ウェルーシファのことを思い出した。

 今のナノメタル怪獣の姿は、ネルソンを喰い殺したウェルーシファの『虹色の影』と雰囲気が似ているような気がする。

 あのときのウェルーシファの言葉。

 ――この狭い世界の実存しか捉えようとしないあなたには、決して見えない魔法ですよ。

 ……ゴジラに焼き尽くされたはずのメカゴジラⅡ=レックスを、ウェルーシファが『魔法』とやらで新種のナノメタル怪獣へ転生させたのだろうか。

 

 そんなナノメタル怪獣の変貌を眺めていたエミィは、鏡みたいなそいつの翼に有り得ないものが映り込んでいるのを目にしてしまった。

 ……ナノメタル怪獣の翼に、屋根をブッ壊されたタワーの上階が映り込んでいる。

 その最上階に、此処にいないはずの人物の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈タチバナ=リリセ〉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミィの全身から、血の気が引いてゆく。

 ……なんであいつがこんなところにいる。

 まさか真七星奉身軍と一緒にこの島へ乗り込んで来てたのか。

 何のため? この期に及んでエクシフの信仰に目覚めたとか? そんな馬鹿な。

 考えられる理由は一つしかない。

 

 

 

 

 LSOに捕まったエミィを助けるためだ。

 

 

 

 

 ……あいつどこまでバカなんだ。

 生意気でヘソ曲がりの妹分(わたし)なんて放っておけばいいのに。

 

 どうすべきか、エミィの脳がフル回転する。

 脱出用の潜水艇が泊めてある地下ドックへの道順は浅黒肌の少年にも教えてあるし、迷うような複雑なルートでもない。

 段取りだってある程度つけてあるから少年に任せておけばいいだろう。

 脱出するその時までに、エミィが運転席に座っていればそれでOKだ。

 

 ……潜水艇には、あと大人ひとり乗せる余裕はあるだろうか。

 いや、まだ余裕はあったはずだ。

 最悪ぎゅうぎゅう詰めでもいい、乗りさえすればなんとかなる。

 

 ……行って間に合うだろうか。

 さっきネルソンは『核攻撃まであと90分』と言った。

 あれから30分経っているとして、全力で走ればタワー上階までは片道10分くらい。

 行って戻ってくるだけの時間はあるはず。

 

 

 

 

 リリセを見捨ててとっとと逃げればいい?

 そんな選択肢、最初からあるもんか。

 

 

 

 

「おまえら、先に行ってろ!

 わたしはあとから行く!!」

 

 言いながらエミィは駆け出していた。

 時間は足りるが、核爆発から逃げる距離も考えるとぐずぐずはしていられない。

 バカな妹分を助けるためにこんなところまでやってきた、大バカな姉貴分を迎えに行ってやらなければ。

 

(……まったく、世話のかかる姉だっ!)

 

 

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