怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
ゴジラの雄叫びでわたし、タチバナ=リリセは叩き起こされた。
……ナノメタル怪獣の虹を見た途端、頭の中でゴジハムくんがサークルダンスを踊り出し、我を忘れて見惚れてしまっていた。
わたしは一体どうしてしまったのだろう、そんな場合じゃないはずなのに。
寝惚けた頭を思い切り振るって覚醒させる。
タワーの眼下では、睨み合うゴジラとナノメタル怪獣の姿が見えた。
空を見上げているのは怪獣王、ゴジラ。
隠しきれない憎悪、牙の隙間から荒い吐息と、雄々しい唸り声が漏れ出ている。
まさに臨戦態勢、頭上にいる敵を威嚇しているかのようだ。
そしてその相手は他ならぬ、ナノメタル怪獣。
ゴジラはナノメタル怪獣を鬼の形相で睨みつけていた。
――まさかゴジラのやつ、あいつと戦うつもりなのだろうか?
一方、ナノメタル怪獣も負けてはいない。
地表のゴジラを見下ろしながら、空を覆い隠せるほど大きな翼を蝙蝠傘のように開き、三本首をくねらせながら舌舐りをする。
ケタケタと打ち鳴らした顎動音は毒蛇の威嚇のようでもあり、空を飛べないゴジラを見下してせせら笑っているかのようでもあった。
さあこれから眼前の
ゴジラとナノメタル怪獣。
互いに睨み合い、身構える両者。
開始のゴングは、響き合う咆哮の
ゴジラが吼え、ナノメタル怪獣へ突貫した。
ナノメタル怪獣も
ゴジラVS虹色のナノメタル怪獣。
二大怪獣の頂上決戦、死闘の火蓋が切って落とされた。
噛みつこうと首を伸ばしたナノメタル怪獣、その頭をゴジラは鷲掴みにした。
聴覚を貫くは引き裂かれる鋭利な金属音。
そしてゴジラはナノメタル怪獣の頭を力任せに引っこ抜いた。
ちぎれた部分から出血の代わりに銀色のナノメタル粒子が噴き出し、辺り一面にキラキラと光を散らした。
手の中でだらしなく垂れ下がった首を放り捨て、踏み砕くゴジラ。
頭をもがれたナノメタル怪獣。
ところが、その切断面から植物の新しい芽が生えるように無傷の頭がにょきにょき生えてきた。
続けて襲い掛かろうと伸びてきた別の首が、ゴジラの尻尾で引っ叩かれて上顎を粉微塵に粉砕された。
しかしこちらの首もすぐに新品へと生え替わってしまう。
ゴジラはその新しく再生した首にも喰らいつくが、その千切れた傷口からまたしても新しい頭が生えてきた。
そんな格闘がしばらく続いたが、結果は変わらなかった。
頭だろうが尻尾だろうが、引っこ抜いても、砕いても、食い千切っても、折れたサメの歯が生え変わるみたいに破壊されたその場で新しい部品が生えてくるだけだ。
ただの物理攻撃ではナノメタル怪獣を止めることができない。
ゴジラが苛立ちの唸り声を挙げた。
そんな様子を見ながら、わたしは思った。
……〈ハイドラ〉だ。
ハイドラはギリシアの神話に出てくる、頭がいくつもある蛇の怪獣だ。
頭をひとつ切り落としてもその傷口から新しい頭がどんどん生えてくるから決して殺せないという、恐ろしい毒蛇の怪獣。
もしその怪物ハイドラが実在したとしたら、今ゴジラの周囲で首をくねらせているナノメタル怪獣こそまさしくハイドラだった。
それもただのハイドラじゃない。
まさに〈メカキング
しばらく格闘していたゴジラだったが、やがていったん後ずさって背鰭を青く光らせた。
きっとインファイトでは埒が明かないと悟ったのだろう、放射熱線を撃つつもりだ。
神話の主人公ヘラクレスは、頭を潰した傷口を焼いてしまうことで再生能力を封じてハイドラを退治したけれど、このハイドラは焼き殺せるのだろうか。
ゴジラの鼻先から放射熱線が放たれた。
青白い放射熱線が空間を真っ直ぐ切り裂き、ハイドラの頭一本へと直撃。
ハイドラが悲鳴を挙げ、銀色のナノメタル粒子をまき散らしながら頭が爆裂した。
飛び散った銀粉の煙が晴れると、ハイドラの首の内一本が黒焦げに弾け飛んでいた。
(やったか!?)
そう思った次の瞬間、頭を喪ったハイドラの首が身悶えした。
煙の燻る切断面からナノメタルが滲み出る。
ホイップクリームのように泡立ったナノメタルは形状を変え、ニョキニョキと見覚えのある姿を創り上げてゆく。
こうして完全再生した頭が産声を挙げる。
……駄目だ、また新しい頭が生えてきた。
英雄ヘラクレスが殺したハイドラと違って、このナノメタルのハイドラは耐火性にも優れているらしい。
(……ただ焼くだけではダメなんだ、根本から焼かないと!)
わたしがそう思ったのと同時に、ゴジラが背鰭を光らせた。
そして放射熱線を撃つ。
どうやらゴジラもわたしと同じ考えに思い至ったようだ。
今度撃ち込んだのはナノメタルの頭ではなく、首が生えている胴体だった。
今度はハイドラも防御した。
ハイドラが拡げた翼を吸血鬼のマントのようにひるがえして胴体を覆い隠すと、その翼から虹のベールが巻き起こった。
万物を破壊するゴジラの放射熱線が、ハイドラの虹のベールを撃ち抜こうとする。
途端、ゴジラの放射熱線の軌道が曲がった。
虹のベール、その正体はバリアーだった。
ハイドラが張った虹のバリアーによって放射熱線がそのまま鋭角に折れ曲がり、ゴジラの頬を掠めてすぐわきの岩山を真っ二つに焼き切った。
……なんてヤツだ、熱線をへし折るなんて。
ゴジラの放射熱線を弾くだけならアンギラスもやっていた。
だけどこんな鋭角に反射なんてしていなかったはずだ。
すぐさま三発目の放射熱線を発射するゴジラ。
またしてもバリアーで捻じ曲げるハイドラ。
ゴジラ必殺の放射熱線が通用しない。
しかしゴジラは諦めなかった。
四発目の放射熱線を撃ち込む。
今度は加減が違った。
ゴジラも、同じ技を同じように繰り返すほどバカではない。
発射角度をひねることで反射を調整し、ハイドラ自身が捻じ曲げた放射熱線が、バリアーで守り切れなかったハイドラの頭に直撃する。
突然の目潰しに怯んだハイドラが悲鳴を挙げてバリアーを解除したところで、ゴジラは間髪入れずに五発目の放射熱線を発射した。
……ああ、駄目だ、バリアーの防御の方が素早く、放射熱線は敢え無く弾かれてしまった。
だけどゴジラは放射熱線をやめなかった。
放射熱線を撃ちまくるゴジラ。力押しでハイドラのバリアーを破るつもりなのだろう。
ハイドラも負けていない。翼のバリアーを巧みに使いこなし、撃ち込まれる放射熱線をカンフーマスターのように捌いてゆく。
ゴジラの青白い放射熱線と、ハイドラの虹色のバリアー。
放射熱線の乱打で押し切ろうとするゴジラと、その猛攻をバリアーで防ぎまくるハイドラ。
ビームとバリアーによる怒涛のラッシュ。
両者が烈しくぶつかり合う度に閃光が弾け飛び、大気に激震が走った。
ゴジラはあらゆる角度から放射熱線を撃ち込もうとし、ハイドラはあらゆる角度から繰り出される放射熱線を弾き返した。
ゴジラとハイドラが繰り広げる、放射熱線とバリアーを使った熾烈なビーム合戦。
……もしくはガン=カタか。
ガン=カタとは、あるカッコいいアクション映画に出てくる、ガンアクションとチャンバラとカンフーを組み合わせたとってもカッコいい架空の武術である。
いわく、この格闘技を極めることにより、
・攻撃効果は120%上昇!
・防御面では63%上昇!
・ガン=カタを極めた者は無敵になる!!
……とかなんとか。
ンなわけねーだろと思うし、実際言ってる理屈もやってることも荒唐無稽の極みだ。あんなアクロバットをしながら撃っても当たるわけがないし、あんな至近距離で撃ちまくったらまず間違いなくマズルフラッシュで視聴覚が死ぬ。
とはいえ、ピストルを撃ちまくりながらカンフーで戦うシーンがとにかくカッコいいので映画マニアのあいだでは語り種になっている。実際わたしも小さい頃は昔ガン=カタごっこをして遊んだものだ。
とにもかくにも、ゴジラとハイドラが繰り広げているビーム合戦は、あの映画のガン=カタ対決のシーンにそっくりなのだった。
怪獣によるガン=カタ。
……たしかに、観ている分には見栄えがして、派手で、そしてとてもカッコいい。
だけど四方八方に流れ弾が飛んでゆくのはすっごく迷惑だと思う。
それがゴジラの熱線なら猶更である。
弾き飛ばされた放射熱線があちらこちらへと着弾、花火のシャワーを撒き散らしながら山を吹っ飛ばして地面を深々と抉り飛ばす。
超ド級の怪獣ガン=カタ、このままだと孫ノ手島は更地になってしまうだろう。
わたしがいるタワー上階だってそうだ、いつ巻き添えで吹っ飛ばされるかわからない。
「あんたら、ガン=カタするのはいいけど、ちょっとは周囲の迷惑考えなさいよ!」
わたしは堪え切れずに怒鳴ったが、当然、奴らが聞き入れてくれるはずもなかった。
かくしてゴジラとハイドラのガン=カタ合戦は、完全な膠着状態に陥った。
放射熱線を撃ちまくるゴジラと、バリアーで捌きまくるハイドラ。いずれはどちらかが力尽きることになるだろうが、どちらもスタミナは縮退炉エンジン並だ。このままだと決着がいつになるかわからない。
その状況を破ったのはハイドラの方だった。
翼を広げたハイドラは、翼の外縁に生え揃った爪先を一斉にゴジラへと向け、先端から虹色の稲妻を放った。
ゴジラの体を虹色の電流が幾重にも駆け抜け、表皮を焼いてゆく。
ハイドラによる虹色の雷撃。
ハイドラはゴジラを焼き殺すつもりだ。
眺めているだけで目が眩む光と、聞いているだけで耳を抉られそうな爆音。
巨大なパワー同士の激突。
潰されてしまいそうな視聴覚を庇いながら様子を窺っていたわたしは、その最中ゴジラの背鰭がだんだんと虹色に光り始めていることに気が付いた。
……ハイドラが気づいているのかどうかはわからないけど、なんだろう、ゴジラの方もあまり苦しんでいるように見えない。
ハイドラも違和感を覚えたのか、雷撃を放つのをやめた。
三本の首を怪訝そうに傾げながら、ゴジラを見下ろしている。
それと同時のことである。
ゴジラがニヤッと笑った。
……ように、わたしには見えた。
ゴジラの背鰭からは、零れ落ちそうなほどに蓄えた虹のエネルギーが迸っている。
まさにフル充電、フルパワーだ。
……ヤバいことが起こる!
わたしの脳内でそう叫んだのは理性ではなく本能だった。
すぐさまわたしは鉄骨の陰に頭を引っ込めて身を守った。
ハイドラも自分の失策にようやく気づき、慌てて空へ退散しようとする。
が、その尻尾をゴジラが引っ掴んだ。
――は、離せ!
振りほどこうと暴れるハイドラだったが、しかしゴジラの爪がしっかり食い込んでいて逃げられない。
そうやってもがいているハイドラを見上げながら、ゴジラが“笑った”。
――待たせたな、死ぬがよい。
そんなゴジラの背鰭から光が溢れ、ゴジラは、ハイドラへ目掛けて虹色の放射熱線を浴びせた。
ダメージを喰らっているように見えて、実は逆にエネルギーを吸い取って貯め込んでいたのだ。
空間が揺さぶられる衝撃。
ゴジラ自身の渾身の力に加え、ハイドラから吸収したエネルギーも重ねた、放射熱線の大奔流だった。
すぐさまバリアーを張るハイドラだったが、御自慢のバリアーは濡らした紙よりもあっさりと突き破られ、虹色の激流がハイドラの全身を丸ごと呑み込んだ。
必殺の放射熱線を桁違いの出力で叩き込まれ、ハイドラは爆裂した。
ゴジラの頭上に、特大の爆発が巻き起こる。
強烈な爆風が吹き荒れ、わたしは吹き飛ばされないように鉄骨にしがみついた。