怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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76、ルシファー

 ……暴風と光熱が収まり、巨大な金属が墜落する音と同時にわたしは固くつぶっていた瞼を開いた。

 

 

 落下したのは、ハイドラの残骸だった。

 

 

 ゴジラの眼前で、巨大な火の玉が燃えていた。

 火の玉の正体は金属の塊、ついさっきまでナノメタルのハイドラだったものだ。

 ハイドラは見るも無残な姿へと変わり果てていた。頭も翼も根こそぎ消し飛び、黒焦げに燃える胴体だけがゴジラの眼前に転がっている。名残らしいものがあるとしたら、ついさっきまでゴジラが掴んでいた尻尾の先っちょだけ。

 完全なスクラップだ。

 ……不死身のハイドラだってここまでされては復活出来ないだろう。

 わたしがそう思ったときだった。

 

 

 突然、ハイドラの残骸から、虹色の火花が噴水のように噴き出し始めた。

 

 

 最初はどこか内部がショートでもしたのだろうと思った。

 けれど、決してそうではなかった。

 虹色の火花はやがて実体を持ったカタチへと変貌してゆき、左右三対計六枚の翼と細長い二本の首のシルエットを形成した。

 燃える炎はまくれ上がるように消し去られ、黒焦げになったはずの体表は再び虹色の輝きを取り戻してゆく。

 そして最後に、さきほどゴジラが食い千切ったハイドラの頭が磁石のように吸い寄せられてゆき、半ばで断裂した真ん中の首へと連結された。

 わたしは、自分が今見ているものを信じられなかった。

 爆死したはずのハイドラが、いとも簡単に完全復活を遂げてしまった。

 

 自在にくねくね動く首でゴジラを見ながら、金属のような甲高い咆哮を威勢よく挙げるハイドラ。

 背中の虹は、長時間見ていると目が眩んでしまいそうなほどまばゆく輝いていた。

 左右の首、翼、その他ゴジラの放射熱線で欠損した各部を補う、虹色の物質。

 

 ナノメタルと虹色の物質で継ぎ接ぎされたハイドラの姿から、わたしは昔観たSF映画の殺人マシーンを連想した。

 一見すると人間にしか見えないがその正体は殺人マシーンで、銃で撃たれようが車にはねられようが、挙句の果てにはバラバラになってさえ主人公を追いかけてくる。

 あの映画の殺人マシーンは人間の皮を機械の骨組みに被せたものだったが、このハイドラはその逆だ。上辺はナノメタル、つまり機械で出来ているが、一皮むいたその下には得体の知れない虹色のなにかが脈を打っている。

 そして、あの殺人マシーンと同じなのは、見せかけと裏腹の本性だった。

 

 ……なんなの、これ。

 なんで無尽蔵に再生できるの。

 質量保存、エネルギー保存の法則は一体どうなってるの。

 これも、マフネ=アルゴリズムなのだろうか。

 それともマフネ=アルゴリズムが変異を起こして、もはや人知を超えた存在へと変貌してしまったのか。

 

 

 何より恐ろしいのは、今でさえ『美しく見えること』だ。

 

 

 ボロボロに崩れ、ナノメタルでつぎはぎされた身体。

 黒焦げにされても一瞬で復活出来てしまう、常識を超えた能力。

 こんな怪物が()()()()()()()()()()()()()

 ……理性ではわかっているのに、それでもわたしの脳はこの怪物を『美しい』と認識しようとする。

 ハイドラの背中で輝いている、あの虹の光のせいだ。

 気をしっかり保っていないと『美しい』という印象で頭がいっぱいになってしまう。

 そもそも光の反射で虹色に見えることはあっても、それ自体が虹色に光り輝くなんてことは有り得ない。

 そんなことはわかっているはずなのに、それでもわたしにはあいつが『美しく思えてしまう』のだ。

 

 

 ……なんておぞましい怪物なのだろう。

 

 

 むくりと起き上がったハイドラは、ケタケタケタと鳴き声を挙げながら飛び上がり、口から虹色の稲妻を発射した。

 ハイドラの口から放たれた稲妻は三つ編みに()()され、虹色の竜巻となってゴジラに襲い掛かる。

 

 ゴジラの放射熱線ほどの破壊力はない。

 しかし目晦まし程度の威力はあったのか、ゴジラは鼻先にその稲妻を喰らって一歩たじろいだ。

 

 その隙を、ハイドラは見逃さなかった。

 三本首をすかさず繰り出してゴジラの身体へと食らいつき、数万トンを超えるゴジラの巨体を、ハイドラは細長い首の力で高々と吊し上げた。

 痛みに呻きつつも、ゴジラがハイドラの顎を振り解くために反撃の放射熱線を放とうとしたそのとき、異変は起こった。

 

 

 

 ……ぽん。

 

 

 

 ゴジラの鼻先で放射熱線が閃く代わりに、白い塵がパーティクラッカーのように弾けた。

 

 以上、ただそれだけで終わってしまった。

 

 今度はバリアーで防ぐまでもない、放射熱線の発射という事象そのものが存在していなかった。

 

 

 ゴジラの放射熱線が不発に終わる瞬間。

 そんな異常な光景を見たのはわたしが初めてで、そして唯一だろう。

 

 

 流石におかしいと思ったのか放射熱線を再度放とうとするゴジラだったが、今度は背鰭の発光そのものが起こらなかった。

 ゴジラが目を見開いている。

 ゴジラは放射熱線を撃つのをやめたのではない、()()()()()()()()()()()()()()

 異変はそれだけに留まらない。

 ゴジラの体表が、黒一色から徐々に華やかな極彩色へ変わっていくように見える。

 

 

 あのゴジラが、どんな敵にも脅威にも負けたことのない無敵無敗の大怪獣ゴジラが、自らの身に起こりつつある変化に途惑っているようだった。

 一体、何が起こっている……?

 

 

 風に乗った何かが、ひらひらとわたしの手元へ舞い落ちてくる。

 掌で受け止めたそれは、白い花びらだった。

 さっき散った白い塵の正体は、花だ。

 ゴジラの巨体から数え切れない(つぼみ)が芽吹き、花吹雪が舞い散っている。

 ゴジラの全身から花が咲いているのだ。

 

 

 花、植物、ゴジラ。

 わたしの中で、繋がるものがあった。

 

 

 ……『ゴジラの正体は放射能の影響で突然変異を起こした植物だ』という話を聞いたことがある。

 聞いた時はただの与太話だと思っていた。

 その手のオカルト話が好きなわたしだけど、あの恐ろしい怪獣ゴジラが道端に生えているペンペン草の同類だなんていくらなんでも流石に信じられなかったのだ。

 『ジュラ紀から白亜紀にかけて生息していた海棲爬虫類から陸上獣類に進化しようとする中間型の生物』なんて変な説(ちなみに動物図鑑を愛読しているエミィが熱弁していたが、このカテゴリの動物は実在していて『単弓類(Synapsid)』というらしい。でも身長50メートルの単弓類なんていないよね)の方がまだ納得できる。

 

 

 けれど、今繰り広げられている光景はまさにゴジラ=植物説を裏付ける証拠なのかもしれない。

 

 

 どういう方法なのかはわからないがハイドラの攻撃によって、植物から生まれたゴジラが元の植物へと還元されようとしている。

 色とりどりの花たちが一斉に咲き乱れ、瞬く間にゴジラの黒い総身を華やかな極彩色へと塗り替えた。

 

 ゴジラの背中でバキバキと硬いものが裂ける音が鳴り響き、背鰭の一本がまるで歯が抜けるように脱落していった。

 砕けた背鰭と牙、表皮がゴジラの身体からぼろぼろと剥がれ落ち、その割れ目を埋めるように花が芽吹く。

 核攻撃にも耐え、怪獣軍団との戦いすらものともしない強靭なゴジラの肉体が、子供でも摘み取れるような小さな花々によって破壊されてゆく。

 ゴジラが今まで聞いたことのない鳴き声を挙げ始めた。

 それはこれまでタチバナ=リリセ、いや地球人類では誰も耳にしたことのない、ゴジラが苦悶する悲鳴だった。

 

 『ゴジラの全身から、美しい花が咲き乱れる』

 ……一見すると、とってもロマンチックだ。

 しかしその実相は『他人の手で勝手に自分の存在を書き変えられてしまう』という、上辺の綺麗さとは裏腹の極めてグロテスクなものだ。

 自身の在り方を捻じ曲げられる当人にとっては、それが凄まじい苦痛であることは想像するまでもない。

 ……戦っている相手を花に変えてしまうなんて、こんなのズルだ、インチキだ。

 出鱈目にもほどがある。

 自分のことでもないのに、わたしはなんだか理不尽さを覚えた。

 

 それと同時に、このハイドラがメカゴジラⅡ=レックスとは別物であることを確信した。

 たしかにレックスは怪獣相手に容赦しない。

 しかしいつだって真っ向勝負だったはずだ。

 そんな正直者のレックスが、こんな卑劣で残酷な暴力を振るうはずがない。

 

 ゴジラの巨体がカラフルな花々で覆い隠されるのにつれて、その動きが目に見えてにぶくなり、力強かった瞳から生気が失われていった。

 かつて地球の支配者として君臨していた怪獣の王ゴジラは、ハイドラの毒によって美しい花園へ変わろうとしていた。

 ゴジラという世界樹が、虹色の悪竜によって貪り喰われてゆく。

 

 ゴジラが、消える。

 

 

 

 ピロピロピロピロピロ

 ケタケタケタケタケタ

 イーヒヒヒヒヒヒヒ……

 

 

 

 雷鳴のように轟く、電子楽器の旋律にも似たハイドラの(いなな)き。

 わたしには、それがゴジラをあざける(わら)い声のようにも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ReⅩⅩ(エックス)から帝王(カイザー)、ルシファーへ。

 メカゴジラから産まれた機械仕掛けの神(デウス=エクス=マーキニース)、堕天の虹〈ルシファー=ハイドラ〉がゴジラの存在を滅ぼそうとしている。

 

 その光景を仮面越しに眺めながら、ウェルーシファは静かに(たかぶ)っていた。

 エクシフの歴史から失われて久しかったガルビトリウムの秘奥義、それをまさか本当に実現できるとは。

 日頃の自分らしくもないことは自覚していたが、体内から湧き上がるその興奮を抑えることはどうしてもできなかった。

 

 

 ――エクシフの祭具、ガルビトリウム。

 そもガルビトリウムとは此岸(こちら)彼岸(あちら)を繋ぐための覗き窓、量子世界の向こう側を観測し、絶対に確かな真理を手にするために造られたものだ。

 いちたすいち。

 にひくことのに。

 さんかけることのさん。

 よんわることのよん。

 四則演算。

 そんなシンプルな算数を気が遠くなるほど細かく解剖して突き詰めた先で、エクシフたちは〈ガルビトリウム〉と〈ゲマトロン演算〉を編み出した。

 不確定性原理を打破しあらゆる事象を観測するガルビトリウムと、そのガルビトリウムからもたらされた無数の乱数を用いた予測演算を可能とするゲマトロン演算。

 そんなラプラスの魔と手を結ぶにも等しい、究極のテクノロジーがもたらす叡智。

 エクシフはそれを『神の預言』と表現した。

 

 エクシフのガルビトリウムとゲマトロン演算が描く未来予測は、ビルサルドたちが小馬鹿にするような不確かで曖昧なオカルトの類いではなく、れっきとした計算と思索の果てに導き出される数学的帰結だ。

 だからこそエクシフ神官やその信者たちは、ガルビトリウムの導きを信じて疑わない。

 エクシフ神官たちは、ガルビトリウムを通じて彼岸の神から預言を受け取り、未来を占う。

 次元を超え、未来を覗き込む。それがガルビトリウムに関して一般に知られる用途である。

 

 

 

 しかし未来予測計算のほかにも、ガルビトリウムには隠された使い道が存在する。

 

 

 

 エクシフが信仰する神の正体は、外宇宙の彼岸に住まう高次元存在だ。

 その神へ献身を捧げて合一することこそが、エクシフの信仰が行き着く究極の目的。

 ガルビトリウム装者に招き入れられた外宇宙存在は、装者の五感を通じて此岸の宇宙を観測することで、此岸の法則に囚われることなく一方的に干渉することが可能となる。

 『神と対面する』

 彼岸の外宇宙存在が、此岸の世界へ手を伸ばすための出入り口。

 それが、エクシフ信仰におけるガルビトリウムの究極の用途だった。

 

 

 ……逆もしかり。

 ガルビトリウムを通じて彼岸の外宇宙存在が此岸に手を伸ばせるならば、此岸から彼岸の外宇宙法則を引用することも可能だ。

 

 

 この世界を一つの物語とするなら、ゲマトロン演算はその物語の本文に干渉するテクノロジーだ。

 本来のガルビトリウムとゲマトロン演算とは、外宇宙高次元世界も含めた全宇宙を掌握し神の次元へ至るために編み出された、その崇高な大義を実現する試行錯誤の産物だ。

 数学というプロトコルで時空を越え、この世界の(ことわり)さえも支配して、自由自在に書き換える。

 神に近づく、むしろこれこそがガルビトリウムとゲマトロン演算の真の存在意義なのだ。明日の予定を決めたり偶像として崇め奉ったり、そんなことのためにあるのではない。

 ……もっとも、未来予測計算の果てに垣間見た絶望の運命に屈服し、全宇宙の救済などという妄想に取り憑かれた愚劣なエクシフ神官どもは、そんな当たり前のことすらとっくのとうに忘れ去ってしまったようだが。

 

 そんなガルビトリウムを、ウェルーシファは有効活用してやることにした。

 ヒトの精神へ外宇宙霊質を憑依させるゲマトリア降霊術。

 エクシフの長い歴史においても禁忌とされてきたその秘術を、ウェルーシファは実行に移した。

 今回、外宇宙存在〈ルシファー〉を迎え入れる器として用意したのは、ビルサルド、エクシフ、そして地球人、それら三者の粋たるメカゴジラⅡ=ReⅩⅩだ。

 ヘルエル=ゼルブが脆弱性、欠陥、バックドアと散々こき下ろしていたレックス。

 

 ――欠陥だなんてとんでもない!

 

 ウェルーシファにとってはマフネ=アルゴリズムこそ副産物、必要だったのはむしろ『ヒトの心を持つメカゴジラ』の方だ。

 ただの人間に降ろしたところで意味はないし、ただのナノメタルでは降ろすことが出来ない。

 心を持たぬもの、ただの機械にガルビトリウムは使えないのだから。

 

 

 

 

 そして、ウェルーシファの目論見は成功した。

 ウェルーシファの計算通り、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩから生み出された新種の怪獣は、ナノメタルの表現力とゲマトロン演算の創造性を併せ持った最強の怪獣、〈ルシファー=ハイドラ〉としてこの次元世界に降臨した。

 

 人工元素の安定生成、質量・エネルギー保存の法則の打破、そして進化過程の逆行改変。

 エクシフのテクノロジーでさえ困難を極める大魔術を、〈堕天の虹:ルシファー=ハイドラ〉はいとも容易く成し遂げてしまった。

 ルシファーの御業(みわざ)はまさに神の奇跡。

 あの強大なゴジラでさえ、ルシファー=ハイドラの絶対的なチカラを前に手も足も出ない。

 

 仕掛けはこうだ。

 外宇宙の法則やエネルギーを高次元ソースとしてガルビトリウムで読み取り、ゲマトロン演算でこちらの世界に反映可能な事象へコンパイルして、ナノメタルでこちらの世界へ出力する。

 外宇宙高次元世界では取るに足らない事象でも、此岸の宇宙からすれば魔法や奇跡のように見えることだろう。

 万能のナノメタルで編まれた鋼の機体(Hard)と、全知のゲマトロン言語で記述された論理(Soft)、そしてヒトとしての意思(EGO)を持つ、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩだからこそ出来る離れ業だ。

 

 ナノメタルがなければ出力が出来ず、ゲマトロン演算がなければ内的な処理が出来ない。

 そしてヒトの心がなければそもそも高次元存在を降ろすことができない。

 まさに三位一体、三つのうち一つでも欠けていれば()()はいかなったろう。

 

 

 

 ルシファー=ハイドラが、ゴジラを足蹴にして両翼を大きく広げる。

 全世界に向けて、凱歌を唄い始める。

 

 

 

 ゴジラを完全に無力化したと確信したルシファー=ハイドラは、動けなくなったゴジラの全身に覆いかぶさり、マシンハンドで全身に絡みついてそのエネルギーをゆっくりと啜り始めた。

 ゴジラから食い物にしたエネルギーで大地に根を広げ、ルシファー=ハイドラはこの惑星そのものと融合してゆく。

 マフネ=アルゴリズムによって付与されたナノメタルの貪食性は、ゴジラ細胞のそれとほぼ同格だった。

 そこにガルビトリウムがもたらす外宇宙の法則が加わったことにより、ハイドラのナノメタルはゴジラを上回る力を手に入れた。

 今ならゴジラ細胞はおろか、ゴジラの存在さえも丸ごと書き換えてしまうことが可能だ。

 ルシファー=ハイドラが流し込んだ虹の猛毒が、ゴジラの存在をこの星を支える世界樹の座から、ただの一植物へと引き摺り下ろす。

 

 

 

 ……なんて素晴らしい理想像(イデア)だろう。

 ウェルーシファは恍惚していた。

 

 

 

 ハイドラの偉大なる咆哮は、ウェルーシファにとって心地良い勝利の賛歌に他ならない。

 この世にあるどのような楽器でも奏でることは叶わない、神々しい完全大勝利のメロディ。

 ……讃えよ、地球終末の瞬間を。

 地球を散々蹂躙してきた醜悪な破壊の権化:ゴジラが、虹色に輝く創造の神:ルシファー=ハイドラによって、平和と再生の象徴である美しい花へと生まれ変わる。

 ゴジラを花へ。まるで美しい詩の一節のようではないか。

 これ以上の地球終末の瞬間(ハッピーエンド)がどこにある。

 

 

 

 

 ウェルーシファが招き入れた偉大なる神には、エクシフの御子(みこ)も英雄も必要ない。

 自らがガルビトリウムを装着したルシファー=ハイドラにとって、代わってこの世界を観測するガルビトリウム装者などもはや不要だ。

 たとえ全宇宙に存在するすべてのエクシフ、それこそ招き入れたウェルーシファ自身が滅んだとしても、ルシファー=ハイドラにとっては痛くも痒くもない。

 

 ルシファー=ハイドラにはガルビトリウム装者という弱点が存在しないのと同時に、その創造行為に歯止めをかける(たが)もまた存在しない。

 無限大の創造性を誇るルシファーは、もはや誰にも停められないまま永遠に、この世界を思うがまま書き換え続けてゆく。

 ここまでくればもう誰にも止められない。

 ビルサルドはかつて地球をナノメタルで改造する構想を持っていたが、ウェルーシファが創ったルシファー=ハイドラはそんな矮小なスケールに留まらない。

 ゴジラのエネルギーを取り込んだルシファー=ハイドラはこの惑星まるごと特異点に変え、そして全宇宙を造り替え続けてゆくだろう。

 

 ……だが、この宇宙がどうなってしまおうと、ウェルーシファの知ったことではなかった。

 ウェルーシファにとってのハッピーエンド、『天帝の破滅』。それさえ満たしてくれればどんなエンディングだろうとかまわない。

 そして我らが創造の神ルシファー=ハイドラならば、予想の斜め上をゆく素晴らしい結末を創り上げてくれる。あとは何がどうなろうと総てがどうでもいい。

 

 

 悠久の時をかけて書き連ねてきた、ウェルーシファの大傑作。

 その壮大なグランドフィナーレは、かの鋼の王(レックス)を拾った本作のヒロイン、タチバナ=リリセに委ねることにした。

 

 

 重大な計画の締めくくりを地球人の小娘に任せることについて、不安など一切感じなかった。

 取るに足らない小娘だ。どう動くか、手に取るようにわかる。

 最後の結果がどうなるか、このウェルーシファには物語を結末から逆さに読み進めたときと同じくらいすべてわかりきっている。

 

 人間が抱いている自由意志などというものは所詮思い込みの妄想に過ぎない。

 人間の本質は『群体』、易きに流れ大勢に巻かれるだけ。

 自由意思と呼び得るような自立性を確立した人間はそう多くない。

 そしてそんな稀有な例外も口先でいくらでも転がせる。

 ビルサルド、エクシフさえそんなものなのだ。

 特に未熟で幼稚な地球人なら猶更。

 

 エクシフが得意とする計算と同じだ。

 各個人が持つ個性や人格と呼ばれる関数に、環境の乱数を加味したうえで任意の数値を与えれば、ほぼ確実に予測通りの結果がもたらされる。

 人間の意志を思うとおりに誘導することなど、文字通り頭の中さえも読めるウェルーシファにとっては赤子の手をひねるよりも容易い。

 

 実際、ウェルーシファは数え切れないほどの博打に手を出してきたが、そのすべてが巧く運んでいた。

 マフネ博士も、マティアス=ベリア・ネルソンも、スヴェトラーナ=エブゲノブナ・モレクノヴァも、ヘルエル=ゼルブも、鋼の王も、新生地球連合軍も、そして『怪獣黙示録』から続くこの星の在り様さえも。

 すべては、この最高のハッピーエンドに捧げられた伏線だったのだ。

 

 ……そしてヒトはいつだって、素敵な未来を夢見る生き物だ。

 タチバナ=リリセに委ねた最後の一手も、間違いなく計算通りに進むだろう。

 ウェルーシファは、エクシフとしての生涯で生まれて初めて心の底から笑んだ。

 プロットを書き終えたウェルーシファは最後に、ルシファー=ハイドラへ祈りを捧げた。

 

 ……我らが大宇宙創造の神、ルシファー。

 すべての献身は我らの『大願』成就のために。

 讃えよ! 全ての道は献身へと続く!

 

【挿絵表示】

 

 そしてかの天帝に相応しい惨めな終焉(エンディング)をもたらしたまえ。

 

 




ゴジラ新作決定ばんざーい!
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