怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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第四章はここまで。


77、再会、そして…

 

 ピロピロピロピロ

 ケタケタケタケタ

 ウケケケケケケケ

 イーヒヒヒヒヒヒヒ……

 

 

 嗤い続けるハイドラが、動けなくなったゴジラを喰い殺す。

 そんな地獄みたいな光景を、わたし、タチバナ=リリセは呆然と観戦していた。

 ゴジラが神木なら、ハイドラはそれにとり憑いた巨大なヤドリギだ。

 それも単に寄生しているのではなく、融合し一体化しているようにすら見えた。

 ハイドラの触手がゴジラに絡みつき一体化し、どこまでがハイドラでどこまでがゴジラだったのか、いまやその境界までもが曖昧に溶け始めている。

 

 

 そのとき、背後から物音が聞こえた。

 タワーの階段を小走りで昇ってくる足音にわたしは振り向く。

 ……誰だろう。

 LSOだろうか、それとも真七星奉身軍か。

 しかしLSOも奉身軍も、もはや壊滅状態。ヘルエル=ゼルブも死に、ヴァバルーダに乗っていたであろうウェルーシファもおそらく無事ではないだろう。

 そんな騒ぎの中で女一人見つかったところで今さらどうこうされるとも思えないが、()()だけはしておいた方がよいかもしれない。

 そんなわたしの思考を余所に、足音は階下から近づいてきた。

 鉄骨に足を挟まれて、その場に釘付けされた無力な状態で、わたしは身構える。

 

 だが、そこに現れたのはビルサルドでもエクシフでもなかった。

 

 

「……リリセ!」

 

 

 エミィ=アシモフ・タチバナだった。

 足元を塞ぐ瓦礫を蹴り倒し、わたしの元へと駆け寄って、息を荒く吐きながら言った。

 

「……やっぱり」

 

 そしてニヤリと微笑む。

 

「おまえは、わたしがいないとダメだな」

 

 ……エミィの言うとおりだ。

 助けに行ったつもりが助けられるなんて、とんでもないマヌケじゃん。

 

 自分への情けなさと、大切な家族が生き残ってくれていた安堵。さまざまな感情が押し寄せてきた挙句に、わたしは力なく笑ってしまった。

 そんなわたしを見ながらエミィは、そこら辺に転がっていた鉄棒を拾い上げ、そしてわたしの脚を挟んでいる鉄骨の隙間へそれを突っ込んだ。

 

「上げるぞ」

 

 エミィが鉄棒を梃子にして、わたしの脚を挟んでいる鉄骨を持ち上げた。

 わたしはすかさず挟まっていた脚を抜き取る。

 わたしが足を抜いたのを確認してから、エミィは鉄骨を地面に落とす。

 

 わたしは挟まれていた脚の具合を確かめてみた。

 長いあいだ同じ姿勢だったので少し強張ってはいたが、軽く曲げ伸ばしするだけで元通り動いてくれた。

 これで、わたしは自由だ。

 真っ先に、わたしはエミィに飛びついた。

 

「エミィッ」

「どわっ」

 

 思い切り飛びつかれたエミィはバランスを崩し、一緒に床へ転んでしまった。

 

「大丈夫!? 怪我はない!?」

 

 問い(ただ)しながら、わたしはエミィの身体中を丹念に調べた。

 服もボロボロだし全身泥だらけの煤だらけ、あちこちに打ち身や擦り傷が出来ている。

 だが、どれも致命傷じゃない。

 つまり無事だ。

 ……よかった。

 緊張がほぐれたところで、わたしはふと違和感を覚えた。

 

「……あれ、嫌がらないの?」

 

 いつもだったら、こんなにもみくちゃにされたら間違いなく暴れるはずなんだけど。

 エミィの方は転んだ拍子に目を白黒させていたが、珍しいことに嫌がる素振りがまったくない。

 怪訝に思っているわたしに、エミィは眉をしかめて言った。

 

「……嫌がられてる自覚があったのか?」

「いやー、いつもだったらもっと抵抗しそうだなー、と思って」

「それがわかってるならやめろよ」

「やめませーん」

「……はあ」

 

 わたしの言葉に呆れつつ、エミィはわたしの方へ身体を摺り寄せてきた。

 珍しいなあ、どういう風の吹き回しなのだろう。

 いつもこちらからのスキンシップはあんなに嫌がるのに、今は自分から抱き着いてくるなんて。

 

 ……ハッハーン?

 さてはオネーサンの愛の深さがようやくわかるようになったな?

 このツンデレ気質め、とうとうデレおったか。

 この甘えんぼさんめっ、うりうり~

 

 ……という具合で、最初はそんな風に頭を撫で回すつもりだったんだけどやっぱりやめた。

 物言わぬエミィの表情を見ていたら、そんなふざけた気分は吹っ飛んでしまった。

 だって無理だよ。

 

 

 

 

 こんなつぶらな上目遣いで、大粒の涙を浮かべられちゃったらさぁ。

 

 

 

 

 ……エミィの身体からは、なんとも形容しがたいヒドイ臭いがした。

 きっと、ドブや排気口など、人が入れないようなところも沢山くぐり抜けてきたのだろう。

 シャツに血が乾いた茶色い染みが着いていたが、エミィ自身に負傷はない。

 きっと、目の前で誰かが怪我をして、その血を浴びてしまったのだろう。

 

 ここに辿り着くまで、エミィは一体どんな大冒険を繰り広げてきたのだろう。

 悪い大人たちに捕まって、来たこともない島に連れて来られて、しかも怪獣大戦争にまで巻き込まれて。

 眼前で人が殺されたり、ともすればエミィ自身が殺されかけるような場面だってあったはずだ。

 そんな苦境を、エミィは大人に頼らず自分だけで切り抜けてきた。

 

 

 

 

 ……それは、どれだけの苦難で、どれだけ危険で、そしてどれだけ心細かったろう。

 

 

 

 

 わたしは、エミィを撫で回す代わりに、(ねぎら)うように思い切り抱き締めてあげた。

 

「……頑張ったんだね」

 

 わたしの胸へ顔を埋めながら、エミィが不承不承と口を尖らせて呻いた。

 

「……今だけだからな。特別だぞ」

 

 ……ふふっ。

 この期に及んでカッコつけようとするエミィの態度に笑みが零れた。

 ホント、素直じゃないんだから。

 でもせっかくだ、やっぱり思いっきり撫で回してあげちゃおう。

 小さな体を抱きすくめ、泥と煤だらけのエミィにわたしは自分の傷だらけの頬をすり寄せた。

 あったかい、やわらかなほっぺ。

 抱き心地の良い、温かくて優しい体。

 誰よりも大切な、わたしの家族。

 

 

 

 

 もう離すものか、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれ、なんかもぞもぞ動いてる?

 最初はされるがままにされていたエミィだったけど、だんだんもがき始め、ついには力一杯にわたしを突き飛ばしてしまった。

 

「ど、どうしたの!?」

「ぜーはーぜーはー……」

 

 突然のことで(おのの)くわたしに、エミィが荒い息で怒鳴りつけた。

 

「殺す気かッ、このデカパイの女ハルクめ! そんな力いっぱい胸に押しつけたら、息が出来ないだろうがッ!」

 

 あ、ごめん……。

 

「というか女ハルクって、ハルクにはシーハルクっていう女の従姉妹がいてだね……」

「知るかンなもんッ、帰るぞッ」

「アアン、いけずっ」

 

 プリプリ怒りながら、エミィはそそくさと階段へ向かってしまう。

 珍しく可愛いところを見せてくれたと思ったら、途端にコレだ。

 素直じゃないなあもう。

 

 ……ま、いっか。

 あとでいくらでもチャンスはある。

 それに、こうして自由になったのだから、こんな怪獣無法地帯にぐずぐず長居することはない。

 いつ流れ弾が飛んできてもおかしくない、TCXとATMOSとIMAXとMX4Dが同時に総攻撃を仕掛けてきたみたいな、大迫力で大音響で大臨場の大怪獣による大プロレスなんか、もうたくさん。

 

 ……怪獣プロレスと言えば。

 孫ノ手島の中央で死闘を続ける二大怪獣、ゴジラとハイドラの様子を横目で見てみた。

 ゴジラとハイドラの怪獣大決戦は佳境、ハイドラの方が優勢だ。

 ……もしこのままハイドラがゴジラを斃したら、この世界はどうなってしまうんだろう。

 自然を征服しようとしたビルサルドの傲慢:ナノメタルと、亡くした娘を蘇らせようとしたマフネ博士の狂気:マフネ=アルゴリズム。

 その落とし子にしてゴジラさえも凌ぐ恐怖の大怪獣、虹色のハイドラ。

 ハイドラがゴジラに成り変わるだけならまだいいけれど、もっと恐ろしいことになってしまいそうな気がする。

 

 ……とはいえ、そんなのどうでもいい。

 

 このままハイドラが勝とうが、ゴジラが奇跡の逆転勝利を収めようが、どっちが勝ったところで状況は変わらない。

 この星は怪獣が支配する。勝った方がわたしたち人類の敵になるだけ。

 そしてそんなマクロな話は、ちっぽけなわたしたちには関係ない。

 世界のことなんてどうでもいい。ゴジラには悪いけれどとりあえずここは逃げてから、未来のことはあとで考えよう。

 立ち上がろうとするわたし。

 

「へぶっ」

 

 途端こわばった足へ変な力を入れてしまい、ガクッと足がもつれて間抜けな格好で転んでしまった。

 

「あっ、待って、足攣ったかも! あいたっ、あいたたたっ!」

「おい、ふざけてる場合か……」

 

 そこでエミィの言葉が途絶えた。

 エミィの表情が固まっていた。

 エミィは眼球が飛び出しそうなくらい目を見開き、ぶるぶると震えている。

 どうしたの、と聞こうとした時だ。

 

 

 

 

 わたしの背後から、ケタケタケタという電子音が聞こえた。

 

 

 

 

 振り返った先、わたし、タチバナ=リリセのすぐうしろにナノメタルの触手が迫っていた。

 わたしの眼前でナノメタルの触手はどろりと変形し、巨大なハイドラの頭へ姿を変える。

 目と鼻の先で見たハイドラの表情は、まるでにやついた悪鬼(デーモン)のようだった。

 ハイドラが口を開き、喉の奥から伸びる無数の触手でわたしの体を絡めとる。

 駆け寄ったエミィはわたしへ、ハイドラに巻かれたわたしはエミィへと手を伸ばす。

 

 

 

 けれどわたしたちの指先はほんの一瞬重なっただけで、互いの手をとることは叶わなかった。

 

 

 

 ナノメタルのハイドラに飲み込まれる瞬間、エミィが浮かべた絶望の表情が強烈に印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリセッ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そんな顔させてごめんね、エミィ。

 冷たい金属の感触に丸呑みにされながら、わたしは何もわからなくなってしまった。

 

 

 

 

 




「オマケ設定:ゲマトロン言語」

 〈ゲマトロン言語〉とは、ゲマトロン演算によるコードを異種族のハードに実装するためにエクシフが用意したプログラミング用人工言語群の総称。
 それぞれ高水準言語と機械語が存在し、高水準言語でソースを書いて機械語のオブジェクトにコンパイルする、地球上のプログラミング言語と同様の構造を持っている。

 ベースはエクシフの言語であるが、ビルサルドや地球人に合わせた言語もそれぞれ用意されており、異種族でも平易に使うことが出来るという特徴を持つ。
 構文はシンプルで非常に扱いやすいのと同時に高機能で、仮想人格AIやビッグデータ級の巨大なデータベース、ビルサルドのナノテクノロジー等の高度な実装にも対応。
 エイリアンのテクノロジーを実装および運用するのに欠かせない言語であり、地球連合軍士官学校の情報科では必須科目となっている。
 またゲマトロン言語を用いたソフトウェア工学は『ゲマトロン数学』と呼ばれており、作中に登場したマフネ博士もゲマトロン数学者のひとりである。

 欠点として、ビルサルドと地球人の技術格差が原因で、両者の高水準言語には互換性がない。
 特にビルサルドが書いたゲマトロン言語のソースを地球人が読解するのは極めて困難、事実上不可能となっている。
 逆の場合についてはビルサルドであれば地球人の技術をハックすることが出来るので難しくはないものの、やはり手間と時間がかかる。

 実例としてビルサルドが開発したメカゴジラのAIはゲマトロン言語で書かれているが、逆コンパイルしたソースやインターフェイスは十六進数をベースにしたビルサルドの高級水準言語(本文中でいうところの『ビルサルド十六進数』)で書かれており、地球人が勝手に手を加えることはできない構造になっている。
(アニメ本編二作目『決戦機動増殖都市』でムルエル=ガルグがメカゴジラの制御スクリプトについて述べているが、これはこのゲマトロン言語の特質について述べている。)










 ゲマトロン言語の正体は『専用のプログラミング言語と、それらの実行環境を設定するためにゲマトロン演算で構築される専用プラットフォーム』。
 他種族のハードでも動作するのは「ゲマトロン演算による高次元操作で、ハードの物理特性を無視した専用プラットフォームを構築しているから」で、ゲマトロン言語でソースをコンパイルすると同時にゲマトロン演算で専用のプラットフォームが構築されて、プログラマ自身も気付かぬうちにハードへマウントされる。
 この専用プラットフォームはゲマトロン演算で動作しており、その神秘を解さない地球人やビルサルドには存在を認識することすらできない。

 このような仕様のため、ゲマトロン言語で書かれたシステムはプラットフォーム部分にゲマトロン演算で介入できるバックドアがあり、ひいては『エクシフであれば自由自在にクラッキングできる』という脆弱性を孕むことになる。
 そのことを利用可能なのはゲマトロン演算を操れるエクシフだけであり、しかも地球人やビルサルドはその事実すら知らない。

※設定考証に協力してくれた某所の人には多謝!

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