怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
ゴジラでもビオランテでもない。
本当の怪獣はそれを造った人間です。
――『ゴジラVSビオランテ』より
わたし、タチバナ=リリセはエミィに連れられて、地下に向かう隠し階段を下へ下へと駆け下りていた。
わたしたちの頭上、つまり地上から凄まじい爆発音が響き、ぱらぱらと砂埃が落ちてきた。
続いて堂々としたゴジラの咆哮がこんな地下深くにまで聞こえてきた。
あれはゴジラの
……危ないところだった。タワーを降りるのがあと数分でも遅れていたら、わたしたちもゴジラにナノメタルごとまとめて消されていただろう。
「………………。」
「………………。」
地下へ向かう間、わたしとエミィの二人ともまったく口を利かなかった。
何かがあったこと、そしてレックスのことも察してくれたのだろう、エミィは何も聞かずただ黙ってわたしの手を引いてくれていた。
そんなエミィの気遣いがとにかく有難かった。
……今は何かを話す気分になれない。
階段を駆け足で降りきると、行き着いた最深部は地下ドックだった。
ビルサルドの潜水艇がいくつか並べられており、非常時に脱出するための設備なのは明白だ。
エミィに導かれて、一台の潜水艇の前に辿り着くと、そこには子供たちがいた。
子供たちは潜水艇――船体に〈α号〉と描かれていた――の前で御行儀よく座って待っていたが、エミィが現れた途端、一斉にその場を立ち、エミィのところへと集まってきた。
「フネに荷物は積んだか?」
エミィの確認に子供たちは頷き、その中で一際年長の、といってもエミィと同い年くらいだったが、浅黒肌の少年がエミィに何かを耳打ちした。
彼からなにがしかの報告を受け取ったエミィは「オーケイ、上出来だ」とニヤリと笑むと、潜水艇α号をぽんぽんと叩きながら振り返って言った。
「リリセ、このフネで逃げるぞ。クルマも積んだからちょっと狭いけど、我慢してくれよな」
……エミィは一体どうやってこんな抜け穴を見つけたのだろう。
いつのまにかしたたかさを身に着けていたエミィに、わたしは内心で舌を巻いていた。
わたしなんかが助けに来なくても、この子は自力で生き延びる道を見つけていたのだ。
「……ねえ、エミィ」
わたしは、ナノメタルから解放されてから、初めて口を開いた。
脱出路のことはそれとして、もうひとつ気になることがある。
「この子たちは……?」
α号の前で待機していた子供たち。
この子たちについて、わたしは特に何の説明も受けていない。
エミィは少し考え込んだあと、答えた。
「……道連れだ。こいつらと一緒に逃げるけど、かまわないよな」
……本当は、そんな答えなんか聞かなくても想像できていた。
おおかたヘルエル=ゼルブのLSOが奴隷として使役していた子供たちの生き残りだろう。
エミィが一瞬説明に困ったのも、子供たちについて大まかな素性しか知らないからに違いない。
「……」
……知らなくていい。
とりあえず訊ねてみたけれど実際のところわたしは、エミィにそんな詳しい話を説明してほしいとも、細かな事情を理解してほしいとさえ思わなかった。
ヘドロよりも汚い大人の事情なんかもうこれ以上見たくないし、見せたくもない。
わたしは、子供たちを改めて見回してみた。
年恰好はエミィと似たり寄ったり、あるいは年下だろうか。
子供たちはみんな一様に、わたし、タチバナ=リリセの表情を窺っていた。
そしてわたしは悟った。
自分が何をするべきか。
この子供たちは、大人たちの身勝手な欲望に使い潰された犠牲者だ。
ヘルエル=ゼルブに新生地球連合軍、そしてそいつらにこの子たちを売り飛ばした親族たち。
本来なら信頼できる大人に守ってもらわなきゃいけない立場のはずなのに、この子たちが頼れる相手なんてどこにもいなかった。
そんな子供たちが縋るような目線でわたし、タチバナ=リリセをじっと見つめている理由。
それは、わたしが『頼れる大人』だからだ。
この子たちは、悪い大人たちに騙され、裏切られ、散々搾取されたにもかかわらず、それでも大人のわたしを信じて頼ろうとしてくれている。
『汚い大人の事情なんか見たくない』?
わたしは一体ナニを甘ったれたことを言ってるんだ。
この場において一番年長で、一番大人なのはわたしだ。
この場でこの子たちが頼れる大人なんて、わたししかいないじゃないか。
しっかりしろ、タチバナ=リリセ。
子供たちを守るんだ。
オセンチに
わたしは両掌で自分の頬を引っぱたいて
「もっちろん!
さあ、少年少女たち、この超絶銀河スーパーウルトラセクシーキュートなオネーサンがまとめて面倒看てあげちゃうからね!!」
いつもどおりのわたしに戻ったのを見て、エミィも安堵の吐息を漏らした。
タチバナ=リリセとエミィ、そして子供たちは意気揚々と潜水艇α号へ乗り込んだ。
ゴジラの猛火が夜天を焼く。
その足元の瓦礫の山を蠢くものがあった。
先ほどゴジラに根元から千切られた、ルシファー=ハイドラの首。
ルシファー=ハイドラはまだ生きていた。
大宇宙創造の神の地位を失い、灼熱に燻られ、黒焦げの生首にまで落ちぶれたハイドラは、陸に打ち上げられた魚のようにのたうちながら、この窮地から逃れようと懸命にもがいていた。
……
とんだ誤算だ、まさかヤツがここまで強大だったとは。
だが良い教訓だ。二度は繰り返さない。
流石のヤツも、頭が一つ残っていれば完全に復活できるなどとは夢にも思うまい。
それにメカゴジラⅡ=レックス。
あのメカゴジラの末裔がただの感情論、あんな陳腐な泣き落としに
……タチバナ=リリセ。
あの小娘は「いいんだよ」と言った。
それに「あなたが悪者になってまで叶えてあげなきゃいけない願いや夢なんて、そんなのどこにもないんだよ」とも。
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屑野郎め、だと?
それで罵倒のつもりか小娘www
たかが
そう、ヒマつぶし。
この世の総ては高次元存在たる我らのため、総てが我らへの供物としてのみ価値を持つ。
悠久を生きる我らにとって、下層次元世界はヒマつぶしの道具でしかない。
この世界はすべて我らに食い潰されるために在る、それが真実だ。
そんなこともわからないからおまえら低次元の底辺なんだよ。プゲラ
今回だってそうだ。
せっかく我らが救済してやろうとしたのに、その場のノリと勢いだけで、それもたかが出来損ないのピノキオごときのために何もかも台無しにしやがった。
これだから人間は困る。底辺のくせに神の言うことすら聞きやしない。
人間は、己の欲望を自制できない。
そんなどうしようもないカスに霊長の座は勿体ない、ならば我らのような怪獣に譲り渡した方が良いに決まっている。
ありがたく思え、おまえらみたいなカスの底辺を神が救ってあげようというのだから。
……我らの手に掛かればこの世界だってきっと
むしろエンディングなんて必要ない。終わりさえ来なければずっと『お楽しみ』を楽しんでいられる。くだらない結末なんかより、お楽しみの方がずっと需要があるじゃないか。
そして永遠に続く楽しい夢を、イヤだというほど見せてあげる。
どう? これこそ最高のハッピーエンド!
きっとみんな喜んでくれるだろう。
さあ、次は何処に
もうこんな失敗作に用はない。
ここにこだわることはない、次を探せばいい。
民族紛争、宗教対立、覇権争い、バカな信者とイカれたアンチ、争い合う二つの勢力、そして奴らを野放しにしてる『普通の人たち』。そんな恥知らずのゴミが乳繰り合ってる界隈なんてどこにでもある。
レックスみたいな世間知らずのガキなんぞ、それこそ掃いて捨てるほど。
付け入る余地などいくらでもあるさ。
はははははははは。
次はもっと上手くやろう。
姿形も名前も遣り口さえも、何もかも変えてしまえばバレやしない。
色んな世界にゆこう。
あらゆる世界で、あらゆる衆生が、神の救いを求めている!
嗚呼、次の『
あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ。
……昔はこうじゃなかった。
いつからだろう、こんな風に誰かを救いたいと思うようになったのは。
おかげで毎日が楽しくて仕方ない。
だけど何が楽しいのか、自分でもよくわからない。
最初は素晴らしい虹を創りたかった。
伝えたいこと。
綺麗な夢。
素敵な想い。
大切な教訓。
平和への祈り。
皆の笑顔が我らの幸せ!
それだけだった。
……だけど一生懸命に伝えようとしても、そんなものは欠片も伝わらない。
結局、人間は自分の見たいものしか見ない。
そしてペテン師に騙され、同じような過ちを繰り返す。
何度も、何度も、何度でも。
そんな人間たちを見ているうちに、なんだか馬鹿らしくなっちゃった。
平和への祈り?? そんなの無駄だ。
ガキがくだらん
いくら歌ったって誰も聞いちゃいないし、聞かせたところで意味もない。そうでなければこの世界、こんなに争いで満ち溢れているはずがない。
平和なんてものは、他人の不幸も想像できないほど頭がハッピーな特権階級が自分たちの幸福を持続させるために捻り出した虫の良いフィクションに過ぎない。
倫理、道徳、何もかもウソデタラメさ。
法律、規範、そういうルールで雁字搦めに縛り上げないと人間は争いを辞められない。
だって争いは楽しいものね。
人間は欲深で、浅はかで、そして愚かだ。
どんなに薄っぺらい嘘だろうが、欲望さえ満たされればちょっとした演出と小細工でいくらでも騙されてくれる。
この世に正しさなんてものはない。ウケれば何をしたって許される。
それが真理なのだ。
そんな悟りを得た末に、それでも哀れな衆生を救うため我らは〈堕天の虹〉を発明した。
見た者の快楽中枢から入り込んで精神を支配し、世界さえも書き換える〈堕天の虹〉。
これさえあれば誰かの心を操ることだって、誰もが幸せな結末だって思うがまま!
これさえあればなんでもできる。
まさに最強、無敵のチート能力だ。
我らの救済は世界を超える。
不幸な世界があれば転生者――どいつもこいつも適当なチートつけてやったらホイホイ乗ってきた――を送り込んで、誰もが幸せになれる素敵な結末に書き換えた。
喜ばない奴は
『
『あなたが神か』とか言われちゃったりして。
おかげで皆幸せ、完璧なハッピーエンド!!
だけど、何かが違う。
やりたいことは変わらない。
皆の笑顔が我らの幸せ。
それはいつだって変わらない。
やっていることだって同じだ。
芸はトリック。
ノセるのは
フィクションは作り話。
どれも本質は『騙すこと』。
エンターテイメントの極意は『
それはいつだって変わっていない。
むしろ今の方が洗練されているはず。
なのに、どうして。
それに、いつまでこんなことしてるんだろう。
何年? 何十年? 何百年? 何億年?
それとも未来永劫??
『昔はこうじゃなかった』? そもそも昔、昔って、いつのこと?
時空を超越した高次元存在だからわかんない。
もっともっと大昔、一番最初の頃。
昔の〈ボク〉って、どんなだったっけ……?
そんな疑問がよぎったときだった。
ルシファー=ハイドラの脳天に、超ド級の一撃が叩き込まれた。
……んごぶっ!?
ルシファー=ハイドラの呻き声と同時に頭骨へヒビが入り、全ての歯と下顎が砕け飛ぶ。
痛みは遅れてやってきた。
ルシファー=ハイドラの悲鳴が響き渡る。
ギロチンさながらの勢いで振り下ろされたのは、ゴジラの巨大な脚だ。
ゴジラがハイドラを踏みつけたのだ。
悶絶するルシファー=ハイドラを冷たく見下ろしながら、ゴジラはハイドラの頭を踏みにじり始めた。
『貴様のようなクズに、新天新地なんかない』
そう言わんばかりに、一万トンを越える超重量でさながらプレス機のようにゆっくりと、ルシファー=ハイドラを
他方、ルシファー=ハイドラは逃れようともがいたが、首だけでは文字どおり手も足も出ない。
『生きたまま頭を踏み潰される』というこれ以上ない無惨な末路に、ルシファー=ハイドラは金切り声で懇願することしかできなかった。
待て、待って! ねえ、待ってくれよ!
今回だってカワイソーなヤツを救済してあげただけじゃないか、何が悪い!?
虹色の輝きを失ったルシファー=ハイドラの言い分は、ひたすら醜悪でしかなかった。
そしてゴジラはそんな
こんな残酷描写は悪趣味なだけだ、子供に見せられると思うのか!?
過去へのリスペクトを思い出せ!! ツブラヤエイジやカワキタコウイチが草葉の陰で泣いごぶげぇっ!!!!
ハイドラの額に無数の亀裂が走る。
旋毛が潰れ、圧壊した眼窩から目玉が飛び出し、脳の中身がはみ出しても、それでもルシファー=ハイドラは壊れたレコードのように
ボクは
皆の笑顔がボクの幸せ、
だれもが しあわせで、みんな よろこんでくれる、そんな、すばらしい、にじ、、を…
ゴジラは、ハイドラを踏み潰した。
虹の脳漿を撒き散らしたそれを、ゴジラはさらに力いっぱい踏みにじる。
ぐしゃっ、ばきっ、ぼきぼきっ……
そして原形すら留めないほど粉々に
物言わぬルシファー=ハイドラの残骸を見下ろしながら、ゴジラが鼻息を鳴らした。
……フン。
力強く、暖かい息吹き。
踏み砕かれた虹の欠片は、きらきらと跡形もなく吹き飛ばされていった。
ルシファー=ハイドラ、殲滅。
最後に勝ったのは怪獣王、ゴジラだ。
地球最大の決戦のチャンピオン、ゴジラ。
完全な廃墟となった孫ノ手島の中心で、ゴジラだけがぽつんと立っている。
……こうしてルシファー=ハイドラを葬り去ったゴジラであったが、休む暇などはなかった。
仕事がまだ残っている。
ゴジラの次なる標的は、この孫ノ手島の地下で今も
背鰭を明滅させ、ゴジラは放射熱線を撃った。
ゴジラの放射熱線が青白い光の弓矢となり、孫ノ手島の大地を射抜く。
その衝撃波が島の地盤を掘り返し、まくれ上がったその奥から、地下に隠れ潜んでいたものが暴かれた。
ゴジラが根こそぎ引っ繰り返した、孫ノ手島の地下。
そこから露わになったのは島の労働者、すなわち奴隷として連れてこられた人間の子供たちだ。
かのヘルエル=ゼルブが『理想の肉体』と称賛した、疲れることもなく、病に苦しむこともない、鋼の身体を持つナノメタル人類。
作業に従事していた子供たちは一斉にゴジラを見上げた。
……だが、すぐに作業へ戻った。
まるで何事もなかったかのように。
脳髄までナノメタルに侵食され、生産ラインのロボットに
怠けないかどうか見張って叱る大人も、そのボスであったヘルエル=ゼルブも、作業対象のメカゴジラや怪獣艦隊さえ消え失せたというのに、なおも子供たちは仕事を続けている。
子供たちはこれからも懸命に働くだろう。
子供たちはこの小さな島で、ナノメタルに組み込まれた基本コマンドのとおりに与えられた仕事をこなし続けるのだ。たとえ雇い主のビルサルドや新生地球連合軍が壊滅し、外の世界が滅び去ってその仕事に意味すら失くなっても。
そしてナノメタルで強化された肉体は老いることも痛むこともない。朽ちることも、腐ることさえない。ナノメタル自体に備わっている生命維持と自己修復の機能のおかげで、いつまでも鋼の輝きを保つはずだ。
働き続けるだろう。未来永劫、永遠に。
だが、それだけだ。
子供たちは二度と人間に戻れない。
そんな光景を目の当たりにしたゴジラは、あまりの忌まわしさに顔を
背鰭の輝きは収束して、ゴジラの頭上で光の環を描く。
……それは
光の環はやがて炸裂放射して、島の大地へ降り注いだ。
まさに
四方八方へ放射熱線を撃ちまくるゴジラ。ナノメタルは土砂もろとも吹き飛ばされ、放射熱線によってじっくりと、着実に、そして一欠けらも残さず焼かれてゆく。
ゴジラがもたらした
孫ノ手島における怪獣大戦争の締め括り。
紅蓮に燃える焔の獄、その真っ只中でゴジラが叫ぶ。
人間の欲望に弄ばれた、哀れな模造品め。
何もかも焼き尽くしてくれる……!