怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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86、怪獣大戦争の終結

 燃える雪が降り注ぐ、灼熱の銀世界。

 もちろん本物の雪ではない。ゴジラの熱線に焼かれたナノメタルが、火の粉と混じって舞い落ちているのである。

 

 その中心でエクシフの聖女:ウェルーシファは呆然と呟いた。

 

 

「我ら、『明星の大願』も、これで潰える……」

 

 

 明星の大願。

 かつてウェルーシファがタチバナ=リリセに語った、明星の民の伝説には続きがあった。

 

 天帝ニヒルに追い詰められた明星の民は、亡ぼされる寸前のところで研究途上だった『永久不滅の技術』を実行に移した。

 『エーテルに意志をやつし、延々と転生して生き延びる』

 第五原質エーテルを超えた異世界であれば、天帝ニヒルであろうと手を出せない。

 かつて明星の民が追い求めた永久不滅の意志は、皮肉な形で実現した。

 

 

 ……だが、そんな永久不滅など、終わることのない永遠の地獄と変わらなかった。

 

 

 在りもしない安住の楽園を追い求め、果てしなく彷徨い続ける日々。

 不滅であっても不変ではない意志(こころ)は永い放浪の末に変質してゆき、神々しく光り輝いていたはずの明星は、いつの頃からかドス黒い邪悪の星へと変わり果てた。

 

 明星の民は、宇宙の伝道師エクシフへと()()し、長い時間をかけてエクシフを侵蝕。やがてエクシフ教皇に次ぐ大神官の地位さえも手に入れた。

 十五年前、地球脱出の混乱に乗じてガルビトリウムを詐取し、ナノメタルにガルビトリウムを宿した機械仕掛けの神:ルシファー=ハイドラを造り上げ、世界の(ことわり)を書き換えることすら目論んだ。

 〈堕天の虹〉から与えられた(チート)は凄いものだ。メトフィエス大司教のような卓越した弁舌がなくとも、馬鹿な信者がわらわら群がってきて進んで捨て駒になってくれた。

 すべては、復讐。

 明星を滅ぼした天帝ニヒルへの報復。

 ただ、そのために、明星の民は怨念だけの存在に成り果ててもなお生きていた。

 

 

 エクシフの聖女:ウェルーシファ。

 その正体は明星の怨念を継いだ転生者だった。

 

 

 ……長年の怨敵だった天帝には、復讐どころか一太刀浴びせることすら叶わなかった。

 新生地球連合軍は、ヘルエル=ゼルブ率いるLegitimate Steeel Orderと、マン=ムウモの真七星奉身軍という脊椎を失った。

 残るのは核によるゴジラへの無謀な総攻撃を主張する総攻撃派だけ。

 今度こそ跡形もなく瓦解するだろう。

 史上最高の怪獣として作り出されたはずの堕天の虹:ルシファー=ハイドラは、あと一歩で神の座へ至らないまま、ナノメタルとガルビトリウムもろともゴジラの手でただの鉄屑へと帰した。

 明星の民による壮大な復讐劇、明星の大願。

 憎しみ(hate)の果てでウェルーシファが手にしたものは、苦い灰燼ばかり。

 価値のあるものなど何一つ得られなかった。

 

 ……すべての敗因は、たったひとつの計算違いだった。

 その計算違いのために、何もかも(はかな)く崩れ去ってしまった。

 

 なぜそうなったのか、ウェルーシファには最後までわからなかった。

 底無しに愚かな地球人類どもの幸福を考えれば、()()()()()こそ最適解だったはずだ。

 この星を真に救うならば、あの方法以外に選べる道などなかったはずなのに。

 ……かつて明星の帝国がそうであったように、この世界もいずれ天帝の餌食になる。

 それをルシファーの力で防ぎ、天帝を滅ぼし、世界を救って明星の帝国を再建する。

 それが明星の大願、ウェルーシファに課せられた天命だったのだ。

 

 

 

 

 それを、()()()()は。

 

 

 

 

 あの小娘、タチバナ=リリセはすべてを台無しにした。

 たかが一個人の、それも一時の激情に駆られた挙句に、種族全体の未来をも捨て去る。

 理解不能だ。

 まさか地球人がそこまで愚かだったとは。

 

 

 

 

 そしてウェルーシファ自身もここで滅びようとしていた。

 孫ノ手島は燃えるナノメタルによって灼熱地獄と化しており、周囲を劫火に巻かれたウェルーシファに逃げ場などない。

 

 『明星の大願』は乗員選抜プログラムによって『地球文明再建における異物』として排除され、地球を脱する移民船に継ぐことが出来なかった。

 かつて繁栄を極めた明星はこの世界に何一つ痕跡を残せないまま消し去られ、この小さな星で完全に終焉を迎えることとなるだろう。

 

 

 空を仰いだウェルーシファは、先ほどまでナノメタルの焼却作業に熱中していたはずのゴジラが、こちらをじっと見下ろしていることに気が付いた。

 大怪獣ゴジラと聖女ウェルーシファの視線が重なりあった。

 

怪獣の王(キングオブモンスター)、荒ぶる神の化身、GODZILLA(ゴジラ)……」

 

 ……この破壊の権化は今、何を考えている。

 直に見たい。

 ひび割れた仮面を剥ぎ取り、ウェルーシファは素顔を曝け出した。

 

 

 ウェルーシファの虚ろな右眼に嵌まっているのは、第二のガルビトリウム。

 〈セカンダス=ソムニウム〉だ。

 

 

 しかしそこにかつての輝きはない。

 ソムニウムはメカゴジラⅡ=ReⅩⅩに与えたオプタティオと共鳴した結果、ひび割れて使い物にならなくなっていた。

 その身に宿していた(Somnium)の力など、今のウェルーシファの体には一欠片すら残っていない。

 

 

 そのとき、ウェルーシファの右眼窩を幻像が駆け抜けていった。

 

 

 

 ――――場所はこの星の何処か。

 時期はいつなのかはわからないほど遠い未来。

 

 そこでは今よりたわわに実ったゴジラが、あの〈天帝〉によってこの星ごと収穫されようとしていた。

 

 必死に抗おうともがくゴジラだったが、天帝が放つ黄金の魔力で鎧も武器も剥ぎ取られ、生きながら丸呑みにされてゆくしかない――――

 

 

 

 セカンダス=ソムニウムが告げた最後の神託。

 この手で掴むはずだった輝かしい勝利(イデア)

 亡くした夢の欠片を垣間見たウェルーシファは皮肉に口元を歪めた。

 

「……おまえが王だと。(GOD)だと。これで勝ったつもりか。おまえごとき、けだものが」

 

 ……うふふははは。

 過去も未来も力もすべてを喪い、清らかな聖女の仮面すら捨て去ったウェルーシファは、声を挙げて笑っていた。

 おかしくてたまらなかった。

 なんの冗談なのだろう。まったくこの宇宙を創った神は、意地の悪いジョークが好きらしい。

 ……あははははは!

 なんという皮肉だろう。

 忌まわしき天帝に天上の玉座を追われ、その憎悪の光熱に魂を焦がしてきた我々が最後に縋ったものが、よりにもよってその怨敵、天帝とは。

 

「……地球はいずれ『怪獣惑星(おまえのもの)』になる。

 鋼の王(メカゴジラ)堕天の虹(ルシファー=ハイドラ)ですら、おまえを止められなかった。

 もう誰にも止めることはできん」

 

 しかし、すべてが失われたわけではない。

 ウェルーシファは笑いながら叫んだ。

 

「我々だけでは死なんぞ。

 おまえは、自らも死せるさだめの中にあることを知らない。

 おまえは、この宇宙に潜む『絶対的な破壊の力』も、そして『絶望さえ焼き尽くす黄金』さえも知らない!

 おまえもいずれ思い知るだろう、この世界の真の(キング)は何者か!」

 

 ウェルーシファの叫びは未来への呪いであり、哀れな敗北者に残された最後の希望だった。

 足元で叫ぶ惨めな虫けらの憎悪を感じ取ったのか、ゴジラは背鰭を青白く発光させた。

 

「我々は、未来に向かって脱出する。

 ゴジラめ、そのとき伏して拝むがよい。

 〈黄金の終焉〉を――――」

 

 けたたましく嗤い続けるウェルーシファの呪詛へ応えるように、ゴジラが放射熱線を浴びせる。

 総身を焼かれる刹那、ウェルーシファの脳裏にケタケタケタと嘲笑うような天帝の(いなな)きが聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明星が呪い続けた怪物。

 黄金の終焉、天帝ニヒル。

 

 その真名は〈王たる(キング)ギドラ〉といった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タチバナ=リリセとエミィ=アシモフ・タチバナ、そして子供たちを乗せた潜水艇。

 操縦席で運転しているのはもちろんエミィで、浅黒肌の少年を筆頭とする子供たちはシートベルトで行儀よく座席についている。

 わたし、タチバナ=リリセは潜望鏡を覗き込み、背後の孫ノ手島の様子を窺った。

 

 ……遠く離れた孫ノ手島は炎に飲まれ、夜空が真っ赤に染まっていた。

 まるで巨大な火の玉が海に浮かんでいるかのようだ。

 

 その紅蓮の火炎地獄の中心で、真っ黒なゴジラが猛威を振るっていた。

 背鰭を青白く光らせながら放射熱線を撃ちまくり、孫ノ手島全体を赤の爆炎で塗り潰す。

 孫ノ手島の何もかもが、劫火に呑まれて消えてゆく……。

 

 

 そのときわたしの中で、幼少の記憶が蘇った。

 

 

 忘れもしない西暦2046年。

 かつてテレビ中継で視た、ゴジラが東京を襲ったときの光景だ。

 今のゴジラの顔は遠すぎて見えなかったが、きっとゴジラは、あのときわたしがテレビ越しに見たのと同じ表情をしているのだろう。

 

 怒り狂っているような、号泣しているような。

 あるいは悶え苦しんでいるようでもある。

 どれとも言えるしどれでもないような、とにかく言葉では言い表しがたい、物凄い形相。

 ……きっと、あんな顔をしているのだろう。

 

 そんなゴジラを眺めながら、わたしは思った。

 

 

 

 

 ……ねえ、ゴジラ。

 

 あんたは何をそんなに怒っているの?

 

 あんたは何が悲しくてそんなに泣いているの?

 

 無敵のあんたをそこまで苦しませるものって一体何?

 

 もしあんたと話が出来たなら、わたしにも教えて欲しい。

 

 

 

 

「……セ、リリセ!」

 

 ゴジラによる地獄絵図を呆然と眺めていたわたしは、エミィの怒鳴り声で我に返った。

 運転席の方へと振り返ると、エミィは時計を指して眉を(しか)めていた。

 

「ぼーっとするな。もたもたしてると核ミサイルが降ってくるぞ」

 

 ……おっと、そうだった。

 

 エミィが盗み聞きしたところによれば、これから新生地球連合軍の過激派〈総攻撃派〉による核攻撃が行なわれるらしい。

 だからわたしたちはなるだけ孫ノ手島から遠く、そして深い海の底に逃げなければならない。

 さもないと核ミサイルの爆発で孫ノ手島もろとも消されることになる。

 

 ゴメンゴメンと謝りながら、わたしは潜望鏡を引っ込めてシートに着く。

 

 

 わたしたちを乗せた潜水艇は孫ノ手島から猛スピードで遠ざかりながら、その船体を海中深くへと沈めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数十分後。

 

 ナノメタルをすべて始末したゴジラは、死の灰が積もった中心に座り込み空を眺めていた。

 ゴジラが見上げる視線の先。

 遠い空の彼方に、核弾頭を搭載した無数の自律誘導弾――すなわち核ミサイルの群れが見える。

 

 新生地球連合軍過激派、〈総攻撃派〉による核攻撃。

 その一発一発が、ヒロシマ・ナガサキの原爆を凌駕する威力だった。

 すべて着弾したならば、こんな小さな島などひとたまりもなく消し飛んでしまうだろう。

 

 LegitimateSteeelOrderや真七星奉身軍たちが使役していた怪獣の死骸と、エクシフの神に迫ろうとしたナノメタルの残りかす。

 そして人間の欲望にまみれて穢れきったこの島を滅却する、破滅の核ミサイル。

 

 それら全てが、この島にいるゴジラ一匹を標的にしていた。

 一発だけでも街ひとつ吹き飛ばすのに充分な破壊力を有したミサイルたちが、迷うことなくゴジラを目指して進んでゆく。

 

 

 対する、ゴジラはどうか。

 かつて百五十発の核弾頭にも耐えた自慢の非対称性透過シールドは、(はげ)しい戦いで使い物にならなくなっていた。

 ゴジラの背鰭はへし折れ、牙は砕けて、全身のあらゆるところが不死身のゴジラ細胞でもすぐには癒しきれない深手だらけだった。

 

 それもこれも怪獣軍団とセプテリウス、メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ、そしてルシファー=ハイドラとの連戦を経た結果だ。

 そんな満身創痍にもかかわらず、さらに核ミサイルの集中砲火を受けなければならない。

 深手を負ったゴジラに、果たして耐え切れるかどうか。

 

 

 

 

 ――いいだろう、受けて立ってやる。

 

 

 

 

 ゴジラはミサイルたちを見つめながら、大地を揺るがす低い声で唸った。

 力強く立ち上がると、長い尾を(アンカー)として地へ打ち込み、逞しい脚でしっかりと踏ん張って、そして背鰭で火花を散らし始める。

 ゴジラから溢れ出る闘気と踏み込みの衝撃により、死の灰塵が舞い上がる。

 

 ゴジラは決して逃げようとはしない。

 怯えることも竦むことも決してない。

 それどころか、これくらいのハンデはあって当然だと言わんばかりだ。

 

 

 

 背負った光が一気に迸り、キングオブモンスター:ゴジラは、降り注ぐ核ミサイルたちを真正面から迎え撃つ。

 

 

 

 核ミサイルたちが起爆したのと、ゴジラが放射熱線を撃ち込んだのはほぼ同時だった。

 地球を揺るがす大爆発が炸裂し、ゴジラと孫ノ手島を丸ごと白い光で包み込んだ。

 




登場怪獣紹介その10

 オリジナル怪獣編。


・キメラ=セプテリウス
身長:100メートル
体長:200メートル
二つ名:合成怪獣、キメラ怪獣
主な技:ベースとなった怪獣の技をすべて使える

 「ゴジラシリーズに合体怪獣を出すなら?」という思いつきで出した怪獣。
 元ネタは『VSビオランテ』の没案だった合成怪獣デューテリオス。
 デューテリオスが二重のキメラなのに対し、こちらは七体合体なのでラテン語の『七(ラテン語でSeptem)』をもじってセプテリウス。
 また「プ」を名前に使った怪獣というのも面白いかなと思うんですよね。
 絶妙に弱そう。


・ルシファー=ハイドラ
全長:250メートル
翼長:200メートル
体重:3万トン
二つ名:ルシファー、堕天の虹、大宇宙創造の神

 当初の構想ではメカキングギドラやカイザーギドラとして登場させる予定でしたが、彼らに相応しい活躍をさせられなかったのであえてオリジナル怪獣にしました。
 モチーフにしたのは『地球最大の決戦』に登場予定だったキングギドラの没案。

 ギドラに似た特徴が多いですが飽くまで別種。高次元怪獣ギドラと同じ方向で進化した結果似た姿になったという設定。

 名前はもちろん堕天使ルシファーから。
 南極で氷漬けになっていたKOMのキングギドラってGMKとか物体Xのオマージュもあると思うんですけど、『神曲』のルシファーのイメージもあると思うんですよね。
 『神曲』のルシファーも氷漬けだし、顔が三つあるし。


・ヒヨコの怪獣
全長:10メートル
翼長:7メートル
体重:1トン

 モチーフはガイガンですが、敢えて名前は登場させませんでした。
 ガイガンの鱗は本来なら羽毛の設定だったと聞いたことがあり「もしガイガンの子供がいたらヒヨコっぽいのかな?」なんてことを思って出しました。
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