怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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88、三大怪獣 地球最大の決戦

 遡ること少し前。

 『極彩色の翅を持つ巨体』が、遠くの空を駆け抜けていった。

 

 

 

 こんなに速く空を飛ぶのは何年ぶりだろう。

 『私』は思った。

 

 

 

 十五年前から未だに癒えない深手を負った全身が、無茶な加速風を受けて軋んでいる。

 これ以上スピードを出そうとすれば、(はね)がもげて身体がバラバラになってしまうかもしれない。

 鱗粉、毒針、使える武器も残りごく僅かだ。それらを使い切ってしまえばこの空を飛ぶことも出来なくなるだろう。

 しかし私は止まるわけにはいかなかった。

 

 ……向かう先に『あの子たち』と、そして『彼』の存在を感じる。

 

 『彼』ことキングオブモンスター、〈破壊の王〉は心の底から人間を憎んでいる。

 説得してわかりあえるような相手ではない。少しでも遅れれば、間に合わなければ、彼は容赦なく『あの子たち』を手にかけるだろう。

 

 だから、たとえこの身が再起不能になってもこの私、〈慈愛の女王〉は間に合わなければならないのだ。

 『彼』の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 ――人間ってヤツは、まったくどうしようもなく救いがたい馬鹿どもだ。

 

 

 

 

 おれ以上に無慈悲で、おれ以上に貪欲な、おれそっくりの『禍々しいもの』。

 そんな恐ろしい黴菌(ばいきん)を、人間どもは楽しそうに育んでいやがった。

 そいつがぶくぶく蔓延ってゆく様ががどれだけおぞましかったか、目を逸らしていたおまえにはわかるまい――――

 

 続けて破壊の王は私に言い放った。

 

 ――女王にこの星を背負う資格などない。

 百歩譲っておまえの片割れ、あるいはおまえと揃った二頭ならまだよかったさ。

 しかしおまえの片割れは弱すぎたし、おまえだけでは話にならん。

 

 だからこのキングオブモンスターが、この星の何もかもをいただくことにしたのだ。

 

 おまえは手強い。

 おれとて出来れば戦いたくはない。

 だが、邪魔立てするならやむを得まい。

 そんなに人間どもが可愛いなら、お望みどおりまとめて一緒に消してやる――――

 

 そうして破壊の王との戦いが始まり、死闘を幾度も繰り広げた末に私は勝利を収めた。

 しかし、私は彼を殺せなかった。

 

 

 

 

 〈破壊の王〉とは十五年ぶりの再会だった。

 今回の戦いに(おもむ)く前、破壊の王は私にこんなメッセージを残していた。

 

 ――――おい、女王。

 賢いおまえはもちろん覚えているよな?

 あの馬鹿なサルどものために、おれたちが何をしてやったか。

 おまえは風を起こして分厚い瘴気を拭い去り、おれは悶え苦しむ神の山(チョモランマ)を鎮めた上に眷属のツル植物で放射能を片付けてやった。

 『人間たちに最後のチャンスを!』

 おまえがそうやってしつこく説得したから、根負けしたおれも手伝ってやったのだ。

 それを忘れたとは言うまい。

 

 あれから十五年。

 その結果が、この体たらくだ。

 毛のないサルの分際で自分たちこそが霊長であるなどと思い上がった人間どもは、おまえの善意を平気で踏みにじり、おれがくれてやった最後のチャンスまで棒に振った。

 

 もう我慢ならん。

 

 同じ間違いを性懲りもなく繰り返すあの底無しの馬鹿どもには、ほとほと愛想が尽き果てた。

 もううんざりだ。

 金輪際あいつらの面倒など看てやるものか。

 

 哀れな慈愛の女王。

 ヤツらはおまえの犠牲を無駄にしやがった。

 そしておまえは底無しに愚かだ。

 もしもおまえの言うとおりヤツらが利口だったなら、破壊の王たるこのおれが息を吹き返すことなど無かったろう。

 そんなことすらわからなかったなんて。

 

 これからは容赦しない。

 今度こそ根絶やしにしてくれる――――

 

 

 

 

 彼は、怒り狂っていた。

 

 

 

 

 ……〈破壊の王〉は正しかった。

 

 人間たちへの希望を捨てきれなかった私は、それから十五年のあいだ様子を見守ってきたが結果は同じだった。

 彼が一時的に失脚してからというもの人間は再び力を求め、『悪魔の火』に手を伸ばすあやまちを繰り返した。

 

 同じ過ちを何度も繰り返して取り返しのつかない段階になってから絶望し、かといって自らの行ないの報いを甘受することも反省することさえできず、身勝手な救いを求めて神にすがりつく。

 ……結局人間は、そういう自らの愚かしさにも気づかないほど愚かな生き物なのだ。

 彼らの愚かしさは、きっと滅亡したって治らないだろう。

 そんな最初からわかりきっていた現実を、私は今回の件で存分に思い知らされることとなった。

 本当は、そんな人間たちをいつまでも庇い立てする私こそ間違っているのかもしれない。

 

 だけどそれでも私は、〈破壊の王〉のように人間を完全に見限ることが出来なかった。

 

 彼が破壊の王であるように、私は慈愛の女王として生まれた。

 そんな彼と私では、命に対する考え方が全く違う。

 彼はその罪を死で贖わせる道を選び、私は罪人の命も赦して受け容れたいと願い続けた。

 〈破壊の王〉と〈慈愛の女王〉は、どちらかが滅びるまで永遠にわかりあえないのだろう。

 

 

 

 だから私は、今度こそ破壊の王もろとも滅びる覚悟だった。

 

 

 

 痛み分けで終わった初戦、それに人間との共闘で辛勝した前回は彼の命を奪うことに迷いがあった。

 だが今回もしも彼が『あの子たち』を手にかけたなら、その時は刺し違えてでも(たお)すと私は心に決めていた。

 

 力で劣る私だけでは〈破壊の王〉に勝てない。

 しかし捨て身で掛かれば足止めくらい、あるいは彼が手傷を負っていれば相討ちまで持ち込めるかもしれない。

 流石の〈破壊の王〉も、まさか私がここまで覚悟を決めているなんて夢にも思わないだろう。

 あとは私の〈愛しい我が子〉が繋いでくれる。

 

 私にはどうしても守りたい約束があった。

 

 

 

 

 未来を、命を繋ぐ。

 それがあのとき交わした約束――サカキ=アキラたちと結んだ取引だった。

 

 

 

 

 アキラ、ハルカ、ジングウジ、マリ、イチロウたちコスモス。

 散っていった旧地球連合軍の戦士たち。

 〈破壊の王〉との最終決戦で一番力があったはずの私は、一番弱かったはずのサカキ=アキラたちを守り抜くことが出来なかった。

 それどころかアキラたちは私のためにその身を盾にし、勝機を掴んでくれたのだ。

 その結果守護神だった私が生き残り、護られるべきだった旧地球連合軍の人間たちは滅んだ。

 

 だからせめてサカキたちに託された希望、彼らの命を繋いだ『あの子たち』はなんとしても守ってみせる。

 

 壊れかけた翅が激痛で軋む。

 身体の至る所が休ませてくれと訴えかけてくるが、愛する子供の命を奪われた親の悲しみを想像し、私は自身の体に鞭を打つ。

 私が間に合わなければ私も、あの子たちも、『彼』さえも、誰もが不幸な結末を迎えることになる。

 

 

 もうこれ以上、誰も不幸にはしない。

 

 

 私は全速力で空を翔けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……見つけた!

 

 私が『あの子たち』を発見したとき、すぐ傍で〈破壊の王〉が、必殺の雷霆(いかずち)の槍を構えていた。

 

 

 どんなものでも消し去る絶対破壊の雷霆、人間の言うところの『高出力荷電粒子ビームの放射熱線』、彼はその矛先を『あの子たち』に向けようとしている。

 ギリギリだったが辛うじて間に合った。

 〈破壊の王〉を止めようと、私は叫んだ。

 

 ――やめなさい!

 

 〈破壊の王〉も私に気づいたようだった。

 

 ……なんだ、おまえか。

 十五年ぶりのおでましか。

 久しいな、〈慈愛の女王〉。

 

 ところで、随分と登場が遅かったじゃないか。今さら何をしに来た。

 まあ? どうせおまえのことだから?

 「人間を見守る、信じる」だのと甘っちょろい態度でほったらかしていたら『悪魔の火』がドカンと打ち上がったんで慌てて出てきた。

 どうだ、おおかたそんなところだろう?

 

 ……図星だった。

 しかし、この程度の批難は覚悟の上だ。

 そんなわたしに、破壊の王は訊ねた。

 

 ……で、何しに来たんだ?

 怪獣プロレスなら終わった。今まさにおれの勝利のBGMが流れ始めているところさ。

 おまえの出る幕など何処にもない。

 ……まさかおまえ、『このおれと刺し違えてやろう』などと馬鹿げたことを考えているんじゃなかろうな。

 

 隠していた覚悟を見透かされて、私はぐらつく感覚を覚えた。

 まさか見抜かれていたなんて。

 だがそれでも、とカギ爪と毒針をかまえた私を、〈破壊の王〉は呆れたように制止した。

 

 ……まったく、わからず屋ってのは人間だけじゃないようだな。

 もし、おれと刺し違えるつもりならそれは見当違いの的外れ、大間違いもいいところだ。

 おれに挑む前によく拝んでみるがいい、

 ()()()()姿()()

 

 そう〈破壊の王〉に促され、私も『あの子たち』を見通した。

 

 

 

 

 ……そんな、どうして。

 

 

 

 

 『あの子たち』の中に、あの『毒』が潜んでいた。

 

 

 

 

 人間だったら神に泣きつき、その残酷な巡り合わせを呪っただろう。

 だけどここでは、私自身が(Titan)だった。

 そして、神がすがることのできる神はいない。

 

 

 ……わはははははは!

 

 

 〈破壊の王〉の嘲笑が、私の心をえぐった。

 

 ……だから言ったのだ!

 おまえにこの星を背負う資格などない。

 愚かしい女王よ。流石のおまえもこれでわかっただろう。

 もしもおれの立場ならゴリラもカメも、おれが殺してやったおまえの片割れさえもおれと同じ選択をするはずだ。

 おまえの片割れですらわかっていたことを、おまえはわかっちゃあいなかった。

 

 この星を護り抜くためには、例の黴菌を(はら)んだこいつは始末しなければならない。

 だが、おまえにそれは絶対に出来ない。

 

 ……昔からそうだ。

 愚かな人間どもがやらかした不始末は、いつもこのおれが(ぬぐ)ってきた。

 そしておまえは、自分の翅が届く範囲に危害が及ばないかぎり何もできない。

 『この星を背負うのは誰であるべきか?』

 そんな問いの答えなんて、おれとおまえが戦うよりも前からとっくに決まっていたのさ。

 汚れ役ができない綺麗なおまえでは、この醜いおれの暴力も、愚かな人間どもの過ちさえも止められない。

 

 だから何度でも言ってやる。

 おまえに、この星を背負う資格などない。

 

 女王、身の程をわきまえたら、この(キング)()()()()を大人しく見物しているがいい。

 史上最高のハッピーエンドが完成する瞬間を、今からおまえに見せてやる。

 

 ……そう告げながら〈破壊の王〉は、私の出方をじっと窺っていた。

 

 

 

 〈破壊の王〉の言うとおりだ。

 汚れ、傷つくことももちろん恐い。

 

 しかしそれ以上に私が恐れたのは、人間の罪悪を未来に繋いでしまうことだ。

 ここで『あの子たち』を救い私の保護下に加えたら、その体内に巣食った『模造品』が未来に生き延びることになる。

 この星でそんな過ちは繰り返してはならない。

 断じて。

 

 しかしこれは破壊神(かれ)守護神(わたし)の対決でもある。

 ここで〈破壊の王〉の殺戮を見過ごせば、守護神としての私は破壊神としての彼に今度こそ屈服することになるだろう。

 そして二度と〈破壊の王〉の暴力から人間たちを護ることが出来なくなる。

 

 ……そう(こわ)い顔をするなよ。

 

 葛藤に苛まれる私へ〈破壊の王〉は告げた。

 

 こんな海のド真ん中だ、誰も見ちゃいない。

 今回おまえは『()()()()()()()()』、それでいいじゃないか。

 それが気に入らないというなら、腐れ縁の(よしみ)でここはひとつプロレスしてやって『懸命に戦ってみたけど勝てませんでした』ってことにしてやってもいい。

 

 ……手打ちにしよう、というのか。

 しかし、あの子たちは私と共に闘ったサカキ=アキラたちの縁者だ。

 しかも彼らは、救いを求めている。

 そのあの子たちを見殺しにするなど、絶対に出来るはずがない。

 

 そうやって懊悩する私を見ていた破壊の王は、私が迷っている理由を察したようだった。

 

 ……なるほどな。

 道理でおまえが肩入れするわけだ。

 十五年前に命を救ってくれた大恩人、その末裔をおまえが見棄てるはずがない。

 特に『こいつ』を見ていると、あのときドリル魚雷で特攻してきたバカな人間を思い出す。

 あのときの、あの一撃。

 いいや、人間どもさえいなければ、あのときおれはおまえに勝っていたのだ。

 

 しかし女王、そういうことなら喜ぶがよい。

 ひとつ、サービスしてやろう。

 今日のおれはすこぶる機嫌が良いのだ。

 

 『人としてキングオブモンスターに挑戦する』

 そんな気骨のある人間は十五年前に死に絶えたとばかり思っていた。

 近頃の人間どもときたらおれを見た途端に尻尾を巻いて逃げ出す腰抜けか、やぶれかぶれになって『悪魔の火』や『禍々しいもの』に手を出すような屑ばっかりだと。

 

 しかし『こいつ』は違う。

 こいつはおれに勝負を挑んできた。

 こんな小さな分際で、武器も持たず。

 まったく大した度胸じゃないか。

 そんな気概のあるヤツと出会えて、今のおれは実に気持ちが良い。

 おれは根性のあるやつが好きだ。

 最後まで諦めず、見捨てず、なおも絶望に抗おうとする、そんな勇者をキングは尊ぶ。

 

 

 だからこいつのことは、苦しまないように一瞬で焼き尽くしてやろうと思うのだ。

 

 

 出血大サービスだ。

 禍根が残らないように、連れもオマケもまとめて消してやる。

 どうだ、おれは慈悲深いだろう!

 わははははは……!!

 

 

 そうやって獰猛な笑みを浮かべる〈破壊の王〉の様子から、私は察した。

 ……彼は、変わっていない。

 十五年前に出会ったあのとき、いや、おそらく破壊の権能を統べる者として生まれたそのときから、彼はまったく変わっていない。

 『おれは根性のあるやつが好きだ』『機嫌が良い』なんて嘯いているけれど、彼はいつも誰に対してもそうだった。

 〈破壊の王〉はどんな相手でも容赦しなかった。

 

 ……しかし、ただの面白半分で誰かを弄んだことはない。

 

 単なる嗜虐趣味で甚振(いたぶ)(なぶ)る、そんな残忍な暴力など一度も振るったことがない。

 彼はいつだって怒り、そして悲しんでいた。

 どんな敵だろうと、最期の時はいつだって一瞬、刹那だった。

 地球人類だって、ビルサルドやエクシフのような余所者が加勢しなければもっと速やかに、そして安らかに終焉を迎えていたはずだ。

 ()()()()()()()()()()()

 あの強力無比な雷霆(いかずち)の槍、荷電粒子ビームだって、そうするために手に入れたのだ。

 

 

 ……もう誰も不幸にはしない。

 当然、〈破壊の王〉もだ。

 

 

 人間たちが聞いたら『我らの守護神はなんと慈悲深いんだろう!』などと言ってくれるかもしれない。

 だが、私の想いは人間たちが想像するようなものでは断じてない。

 

 〈破壊の王〉はかつての戦いの最中、私にこう語ったことがある。

 

 ――いいか、女王。

 おまえの苦しみは人間どものせいだ。

 『人間たちにもう一度チャンスを』?

 ふざけるな、人間こそ、この星を食い潰してゆく害虫ではないか。

 あんな奴ら、生きるに値しない。他の奴にも訊いてみろ、『そうだそうだ』と言うだろうさ!

 

 そもそもおまえが人間を庇うのはなぜだ。

 ()()()()人間を助ける理由は何もない。

 それどころか人間はいつも()()()をいじめているではないか。

 人間どもはどうせおまえのことなんて、歌って踊ってお願いすれば飛んで助けに来てくれる、都合の良いペットかなにかとしか思っちゃいない。

 おまえほど賢い奴がそれぐらいのことをどうしてわからない。

 

 ……だが、もしも、それがわかっていて、それでもおまえが人間を見棄てられないのなら。

 『人類の守護神』、おまえを縛るその重たい鎖を自力で解くことができない、というのなら。

 

 

 そんなくだらんものは(すべ)て、このキングオブモンスターが粉々にぶち壊してくれよう。

 

 

 この世の不幸の源は、すべてこのおれが絶ってやる。

 平和を乱す不届き者も、この星を食い荒らす害虫どもも、なにもかも皆殺しだ。

 

 そして邪魔者がいなくなったら、そのときは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれとおまえで〈楽園(Paradise)〉を創ろうじゃないか。

 

 

 

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