怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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89、黙示録のファイナルイメージ

 ――――すべての頂点におれが立つ。

 

 世界中の誰もがこのおれを(おそ)れ、身を寄せあって小さく縮こまっていればいい。

 そんな世界なら誰も争いなどしていられない。

 互いを気遣い、手を取り合いながら、仲良く暮らすしかなくなる。

 これぞ平和、まさに楽園(Paradise)だ。

 

 ただし人間は駄目だ。

 あのサルどもはおれの楽園に相応しくない。

 加えてやったところで、どうせ狭い世界で醜い争いを繰り広げるだけさ。

 挙げ句の果てにあんな黴菌(ばいきん)まで造りやがって。

 そんな出来損ないの愚かな失敗作どもは、このキングオブモンスターが見せしめに皆殺しにしてやるのだ。

 

 ……『ゴリラ』も『カメ』も来なかった。

 なんて道理の分からん奴らだ、このキングオブモンスターがせっかく誘ってやったというのに!

 ……まあ、あいつらはいいさ。

 ゴリラは色魔だしカメは子供の味方だからな。

 あいつらは人間を見限れないし、世界をより良くしようとも思ってない。

 あいつらにおれの正しさは理解できない。

 あいつらとは手を切った、もうどうでもいい。

 

 

 だが、女王、おまえは違う。

 おまえにはどうしても来てほしいのだ。

 

 

 この世は弱っちい雑魚ばかり、絶望だけじゃ潰れてしまうくらいに。

 畏れられるキングだけでは不十分、愛されるクイーンも必要だ。

 誰にも分け隔てなく愛を振り撒き、皆を希望の未来へ導いてくれる、そんな綺麗なクイーンが。

 

 

 そう、おまえだ、女王。

 

 

 誰も争わない、誰も傷つけあうことがない。

 そんな最高の楽園を、キングとクイーン、おれとおまえで築いてゆこうじゃないか。

 おまえが望むなら、おまえの子供も一緒だ。

 どうだ、素晴らしいだろう。

 それなら、おまえも来てくれるだろ?――――

 

 

 

 

 ……あのとき〈破壊の王〉は、そうやって私に笑いかけたのだ。

 私と共に戦っていたサカキ=アキラたちを、跡形もなく焼き尽くしながら。

 

 ……平和な楽園。

 それもキングとクイーン、彼と私で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて身勝手な言い分だろう。

 私から夫を奪い、ささやかな平和を奪い、そして今眼前でサカキ=アキラたちの命を奪っておいてよくもぬけぬけと。

 護りたかったものを奪われ続けた私が、それら総てを奪い続けた張本人と手を結べと?

 仮に私がその提案を呑み、その『楽園』とやらで平和に暮らすことになったとして、その楽園の主によって父親と恩人たちを奪われた我が子に、一体どんな説明をすればいいというのだ。

 聞かされた当時、私は(いきどお)りすら覚えた。

 

 そもそも破壊の王がやっていることはただの大量殺戮だ。

 その恐怖と暴力で築かれる世界が『楽園』になどなるはずがない。

 『ゴリラもカメも来なかった』? 当たり前だ、こんな暴君についてゆく者など何処にいる。

 

 かくいう破壊の王とて、私の心を手に入れたくてこんな世迷言を抜かしているのではないのだろう。

 彼は単に人間が嫌いなだけだ。

 嫌いな人間を守ろうとする私の在り方が気に入らなくて、如何にもそれらしい大義名分を掲げて揺さぶりをかけようとしているだけだ。

 そんなに人間が憎いのか。

 私は叫んだ。

 

 のぼせあがるのもいい加減にしろ、裁きの神にでもなったつもりか?

 そこまでしてこの星の覇権が欲しいのか!?

 

 私の詰問に、彼は笑って答えた。

 

 おれは覇権など欲しくない。

 人間も憎んでいない、とんでもない、感謝しているくらいさ!

 もし奴らがいなかったら、おれは何も知らぬまま()()()()と暮らしていただろうから。

 ……忘れもしないあの光、あの爆熱。

 そして焼かれる者たちの悲鳴と断末魔。

 あの日、おれは偉大な啓示に目覚めたのだ。

 

『おまえは悪魔の火の化身。

 全てを焼き尽くし、新たな楽園を築くがよい』

 

 ……素晴らしい!

 最高のアイデアではないか。

 人間どもが滅茶滅茶にしてしまったこの世界を、ゼロから再スタートする。

 そして今度こそ、最高の楽園を築くのだ!

 ハハハハハ!!――――

 

 そう語る彼の心には、憎しみなどなかった。

 嗜虐の愉悦もない。

 そこにあるのは歓喜。

 本気で信じているのだ。血塗られた大殺戮の先に『楽園』とやらが待っていると。

 

 

 狂っている。

 

 

 このとき、私は〈破壊の王〉を心底恐れた。

 前々から力に身を任せた性格だとは思っていたが、まさかここまでいかれていたとは。

 

 

 止めなくては。

 

 

 キングオブモンスター。

 こいつを野放しにしていては、いずれ世界を焼き尽くしてしまうだろう。

 なんとしても止めねばならない。

 たとえその命を奪うことになったとしても。

 

 その時はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊の王(キングオブモンスター)と、慈愛の女王(クイーンオブモンスター)

 彼と私の死闘は、サカキ=アキラたちが滅んでから六日六晩続いた。

 海は荒れ、天は揺れ、彼と私は数え切れぬほど刃を交えることとなった。

 

 そして七日目の朝、勝ったのは私だった。

 勝因は破壊の王が負っていた深手。サカキ=アキラたちが捨て身で掴んでくれた僅かな勝機。

 私は遂に勝利した。

 海の浅瀬に倒れた破壊の王、その喉笛を私がカギ爪で抉ろうとした、まさにそのときだ。

 私は、彼が譫言(うわごと)を呟いているのに気づいた。

 

 

 ……あと少しで手が届くと思ったのに。

 

 

 ……ふん、何に届くというのだ、バケモノめ。

 数え切れない命を踏み潰してきたくせに。

 私から大切なものを奪ってきたくせに。

 

 

 おれは、おまえがこれ以上壊れてゆくのを見たくなかった。

 

 

 喉元に掛けたカギ爪が、思わず止まった。

 ……こいつ、何を言っているのだ。

 そんな私に気づいているのかいないのか、彼は呟き続けた。

 

 

 おまえがこれ以上、人間どもに壊されてゆくのが我慢ならなかった。

 

 

 ……だまれ。

 黙るがいい。

 そんな目で私を見るんじゃない。

 

 

 ――人間さえいなくなれば。

 

 

 やめろ、その先は!

 私がたまらずカギ爪を振り下ろそうとしたその刹那、彼はこう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間さえいなくなれば、おまえは自由だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間を護り続けてきた、私が直面した現実。

 人間はどれだけ悲惨な出来事が起こっても、時間が経てばあっさり忘れて同じ過ちを犯す。そのくせ、その愚かしさだけは何度繰り返しても一向に改まらない。

 

 そんな彼らを護る、守護神の私。

 『平和こそは永遠に続く繁栄の道』、しかし人間たちが繁栄するほど終末へのカウントダウンは進んでゆく。

 私が護れば護るほど人間は栄え、人間の文明が栄えれば栄えるほど世界が終わってゆく。

 私がどんなに必死に戦っても、当の人間たちが世界を食い潰してゆく。

 そしてそれを私は止められない。

 

 

 そのことに気づいてしまった、私の絶望。

 夫にすら秘していた、私の苦しみ。

 

 

 ……本当は私もわかっていたのだ。

 人間がいなくなればすべてが解決する。

 だが、それを実行するには私は弱すぎた。

 人間たちを滅ぼす、それは空前絶後の大量殺戮を意味する。破壊の王の言うとおりだ、この身を血で汚す勇気は私には無かった。

 それに私は人間と縁が深すぎる。永きに渡って守護神として君臨してきた私と、その私を守護神と崇拝してきた人間たち。こんな蜜月の関係を築いてきた私に、人間たちを裁く資格などあろうはずがない。

 

 結局、私は外界に対して不干渉に徹した。

 ……私は、私の大切なものへ降り掛かる火の粉だけを払っていればいい。これまで通りだ、何も変わることはない。

 そうやって私は小さな世界に閉じ籠った。

 つまり何もしなかったのだ。

 言い訳ばかりが得意で、見かけばかり着飾った卑劣な弱虫。

 それが私、慈愛の女王の正体だ。

 

 

 

 

 そんな私の弱さを見抜いた〈破壊の王〉は、私を『人類の守護神』という在り方から解き放とうとしてくれた。

 感謝されることもないし、報われることなど決してない。理解されることさえ求めていなかったろう。

 それでも彼は、私を救い出そうとしてくれた。

 『人類の守護神』という呪縛から。

 

 彼がいなければ、私はいずれ壊れていた。

 でなければ守護神としての有り様を踏み外し、ルシファー=ハイドラのようなろくでなしの化物になっていただろう。

 守護神の美名で君臨し、庇護の建前で周囲を支配し、際限なくその権勢を拡げて食い潰す。

 そんな女王(QueenBitch)になっていたかもしれない。

 彼の宣戦布告を思い出す。

 

 ――だからこのキングオブモンスターが、この星の何もかもをいただくことにしたのだ。

 

 今にして思えば、血迷っていたのは私の方。

 彼はこの星が欲しかったわけではない。

 彼は、私が背負いきれなかったものを、代わりに背負おうとしてくれていただけだ。

 

 きっと、それは私だけではなかったろう。

 欲望をくすぐり、心も狂わせ、何もかもを呑み込んでゆく貪欲な経済システム。

 存在自体が災厄として産み出されてしまった、許されざる生命(いのち)

 罪もない生き物の住処を奪い、心身までも汚して冒す、おぞましい環境破壊。

 同族同士で際限なく争い合う、愚かしい戦争。

 そして禁忌を踏み越えた、哀れな模造品(メカゴジラ)

 『文明』という怪物の専横に食い潰された犠牲者たちのために、彼は本気で怒ってくれた。

 そしてあまりにも巨大すぎるそのモンスターへ、たった独りで戦いを挑んだ。

 

 

 

 ……そんな彼の優しさと強さに、私の魂が少なからず救われたのもまた事実である。

 

 

 

 なんて皮肉な巡り合わせなのだろう。

 壊れかけていた守護神(わたし)を救ってくれたのは、壊すことしか知らない破壊神(かれ)だった。

 どうしようもないほど強くて、救いがたいほど醜い、破壊の王。

 彼は、この星を覆う全ての罪や呪いを一身に引き受けようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『あの子たち』をなんとしても守ってみせる」という、サカキ=アキラたちに誓った私の意志は今大きく揺らいでいた。

 『あの子』が死ねば、この星は今度こそ清められ救われる。

 そのための必要悪も、私の弱さも、すべて彼が背負ってくれる。

 他方、私は何もしなくていい。

 この子たちのことなんか見捨てて、皆の前では何事もなかったかのように澄ました顔をしていればいい。そんな素敵な()()()()()を目指せばいい。

 私が清廉潔白を気取るその陰で、彼が憎まれ役をすべて引き受けてくれる。

 ……なんと心地良い、そして虫のいい共生関係であることか。

 そんな卑怯者の私を、彼は快く受け入れてくれるだろう。

 

 これが彼が求めた『楽園』。

 

 殺戮の修羅道を踏み越えた果てに、彼が掴もうとしているファイナルイメージ。

 そして彼が私に用意しようとしてくれている、最高のハッピーエンドなのだ。

 あとはその最後の欠片(ピース)である、女王が収まりさえすればいい。

 

 

 ……だが、そんな結末など、私は許せないだろう。

 ここで彼の暴力を座視したなら、私は守護神の資格を失う。

 いや、そんな称号、もはやどうでもいい。

 そうやって自分だけ綺麗でいようとする己の卑怯さを、私自身が許せない。

 救いを求める『あの子』の祈りを見なかったことになど、私には出来ない。

 

 

 

 

 

 そしてなにより、彼にこれ以上傷ついてほしくない。

 

 

 

 

 破壊の王は無敵だ。

 『悪魔の火』に焼かれようとも死なない。

 どんな敵が来たって負けないだろう。

 

 しかしそれは上辺の話に過ぎない。

 

 私は、彼について『支配欲に狂っているのだ』と思っていた。

 しかしそうではなかった。

 十五年前の最終戦争(ファイナルウォーズ)の後、私は彼の『出自』を知った。

 ……世にも恐ろしい『悪魔の火』。

 その爆発は環礁一つを深々と抉り飛ばし、立ちのぼるキノコ雲は天を突いた。

 その猛火は地表の全てを燃やし、衝撃は海底まで轟いたという。

 その地獄の洗礼を彼は浴びたという。

 この事実を知ったとき、私はようやく彼を理解できた気がした。

 ――人間が造った悪魔の火、その爆心地(グラウンド ゼロ)

 灼熱の劫火ですべてが燃え落ち、自らも猛毒の閃光で髄まで焼かれてゆく。

 

 その直撃を浴びて正気を保っていられる者など、この世にはいない。

 

 

 

 悪魔の火で、彼の心は壊れてしまったのだ。

 

 

 

 ……彼は『おまえが壊れてゆくのを見たくない』と私を救おうとしてくれた。

 踏み躙られた弱者たちに代わって本気で怒ってくれた。

 文明という本物の怪物(モンスター)に戦いを挑んだ。

 

 そんな彼が欲しいと語る『楽園』。

 それは、一体どんなものだったろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、くだらんお涙頂戴はここまでだ。

 

 何も出来ない私を眺めていた〈破壊の王〉は、『それがおまえの限界だ』とでも言いたげにわざとらしく嘲笑いながら宣言した。

 

 おい、女王。

 楽しい怪獣プロレスなら付き合ってやってもいいが、睨めっこで遊んでやるほど暇じゃない。

 おまえにその気がないのなら、おれはおれのすべきことをやらせてもらう。

 

 そして〈破壊の王〉は、『あの子たち』へ荷電粒子ビームの照準を向けた。

 

 この星はおれがもらう。

 この星のすべてを、おれがいただく。

 この星にあるすべての夢、すべての命、水一滴から砂一粒にいたるまで、万物をおれが奪い取ってやる。

 血塗られた因果の呪いも、過去の全ての忌まわしい罪も、それらをまとう苦しみや悲しみさえもがこのキングオブモンスターの所有物だ。

 ……それなら誰も何も背負わなくていい。

 

 ……もう少し。

 あと少しで手が届く。

 誰も争わない、誰も傷つけあうことがない。

 そんな、おれが欲しかった楽園に。

 そんな楽園が手に入ったら、そのときは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんな仲良く笑って暮らせばよいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈破壊の王〉が雷霆(いかづち)を振り上げると同時に、私は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

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