怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

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91、新しい神

 別れ際、〈破壊の王〉は私を冷たく睨みつけた。

 

 

 ――――おまえは大罪を犯した。

 おまえはもうおれの敵だ。

 

 おまえは、護るべきでないものを護った。

 あの『禍々しいもの』を庇う限り、この星もおまえには味方しない。

 

 それに、『人間を更生させてみせる』だと?

 馬鹿め。やつらは根底からして汚れ続けるように出来ている。

 人間という生き物の在り方そのものを変えない限り、更生させるなど不可能だ。

 

 ……ふん。

 『人間の更生』なんぞどうせ上手くいくわけがないが、まだ時間はたっぷりある。

 それまでせいぜい(あらが)ってみるがいい。

 散々足掻いて、もがいて、死にたくなるほどのたうちまわってから、自分が如何に間違っていたか思い知って後悔すればいい。

 その無様さはさぞ見ものだろうさ。

 

 ……もしも次があったなら。

 そのときは今度こそおれが息の根を止めてやる――――

 

 そうして〈破壊の王〉は去っていった。

 

 

 

 

 ……ありがとう。

 

 

 

 

 私は心から感謝した。

 彼は、私に猶予を与えてくれたのだ。

 

 『もしも次があったなら』。

 その時は、ほかならぬ〈破壊の王〉がとどめを刺してくれるだろう。

 決して苦しむことのない、刹那の優しい結末を。

 これほど有難いことはない。

 〈禍々しいもの〉を恣意で庇おうとした私は、必ず罰を受けることになるだろう。

 その処刑をあの〈破壊の王〉が担ってくれることは、むしろ温情だとすら思う。

 ……だけど、もし叶うものならば。

 

 

 あなたと共に生きてみたかった。

 

 

 あなたの願った『楽園』。

 守護神(わたし)破壊神(あなた)でさえ仲良く暮らせる世界。そんな未来をあなたと共に築いてゆけたなら、それはどれだけ素敵なことだったろう。

 さらば、宿敵(とも)よ。

 (たもと)(わか)つことにはなったけれど、どうかせめて見守っていてほしい。

 私が進める『人間の更生』、その結末を。

 

 ……私が考える『人間の更生』。

 それは、人間たちが言い回すような『生まれ変わるくらい生き方を改めさせること』ではない。

 そんな手緩(てぬる)いものでは到底足りない。〈破壊の王〉の言うとおり根底から手を加えねば、彼らの愚かさを正すことなど不可能だろう。

 

 私が計画している『人間の更生』とは、文字通り人間を『生まれ変わらせること』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間流に言えば、『品種改良』だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の祖先、その近縁で『カイコガ』という生き物がいた。

 純白の翅が特徴の小さな昆虫で、華やかな翅と巨体を持つ私と見かけはあまり似ていなかったが、生糸を紡いで繭を造り上げる技能が私とそっくりだった。

 

 カイコガは、家蚕(かさん)という別名のとおり家に飼われる虫、すなわち人が世話しなければ生きていけない家畜だった。

 幼虫は木にしがみつくことが出来ず、成虫は翅が小さすぎて空を飛ぶことも出来ない。

 そして雪のように真っ白な身体は、自然の森では格好の標的となってしまう。

 自然にそうなったのではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 カイコガたちが作る美しい生糸、それ欲しさのために人間が改造し続けた結果、カイコガは人間の世話がなければ生きていけない生き物になってしまった。

 野生では生きてゆくことが不可能なカイコガほど極端な例は少ないが、人間によって手を加えられてしまった生き物は多かった。

 農作物とされた植物たちを筆頭に、家畜やペットと呼ばれる動物たちも、みんな人間に『改良』されてしまった。

 

 私が行おうとしているのは、まさにそれと同じことだ。

 破壊の王の言うとおり、人間は生まれながらにして汚れてゆくように出来ている。ならば、その有り様そのものに手を入れてしまえばいい。

 行き過ぎた欲望を制御できる強い心と、過酷な環境でも暮らすことができる強い体。憎しみを知らず、平和をこよなく愛する、謙虚で穏やかな気質。そして、自分たちが家畜であることなど考えもしない生き物。

 文明などに依存せずとも生きられるよう、何世代もかけて人間たちを『改良』する。

 方法は難しくない。

 食事、飲み水、空気、生きるために摂取し続けるそれらへ私の因子を少しずつ混ぜてゆくだけ。

 世代を重ねて丹念に刷り込まれてゆく私の愛情は、着実に人間という品種、その在り方を作り替えてゆくだろう。

 

 私が創り出す新種のヒト。

 その名は〈新しい神:フツア〉とした。

 

 私の故郷に近い、ポリネシアの言葉から造った名前だ。

 幼児(おさなご)、すなわち『インファント』とも迷ったのだが、未来(Future)にもかかったフツアの美しい響きが気に入っている。

 

 

 

 

 ……それは彼らの尊厳を冒涜した、罪深い(おこな)いなのかもしれない。

 

 飽くなき欲望も、人間がこの世界で自立して生きてゆくために進化の過程で獲得したものだ。

 それを奪い取ってしまえば、人間の文明レベルは幼形成熟(ネオテニー)のまま発展しない。

 品種改良されたカイコガが飼い主抜きでは生きていけなかったように、フツアも私がいなければ生きていけなくなってしまうだろう。

 それは、この世界で自由に飛ぶための翅を毟り取ってしまう、むごたらしい暴力ではないのか。

 

 生命は限りある時の中にあるべき、在り様を変えてまで無理に延命させようとしてはならないのかもしれない。

 他の動物たちと同じように、人間という種族も滅ぶままに任せるべきなのではないか。

 そのような独り善がりで改造してしまうのは、欲望のままに生き物たちを弄んできた人間たちの愚行と変わらないのではないか。

 庇護の美名で、実際には遠縁であるカイコガをはじめとする可哀想な生き物たちの復讐をしているだけではないのか。

 

 こんな私の思惑など露ほども知らぬまま、人間たちは私を『守護神』だと信じてくれている。

 そんな彼らを裏切っているような、後ろめたい感情がどうしても拭えない。

 霊長気取りで増長しているのはむしろ私の方ではないのか。

 もしも仮に私の目論見通りにフツアが創れたとして、フツアが旧人類と同じ(てつ)を踏まないという保証はどこにもない。

 私に人間の欲望をどうこう言えやしない。『人間を更生させたい』だなんて、これこそ私の身勝手な欲望でなくて、なんなのだ。

 ……そう思い悩むときもある。

 

 だが、人間の欲望をそのままに、あるがままにしていては地球に害をなす。

 欲望の向くままに止まらない発展を重ね、この星を痛めつけて災厄をもたらし、そして〈破壊の王〉のような哀しい存在を生み出す。

 また同じことの繰り返しになってしまう。

 それにこれからの地球はきっと人間たちが暮らすのには適さない。

 破壊された環境、放射能汚染、なにより人間たちを憎む〈破壊の王〉の支配圏だ。生き易いはずがない。

 やがて人間はこの世界で生きられなくなる。

 ヒトという種を生かし続けるためには、多少の改修(リメイク)はどうしても必要だ。

 

 かつて私と手を結んだ『怪獣共生派(コスモス)』が夢見た、人間と怪獣が共生する理想郷。

 そのユートピアの完成形は、人間が怪獣を管理する怪獣ランドでもなければ、人間が怪獣と対等に肩を並べる共同参画社会でもない。

 

 

 私のような怪獣によって、人間がペットとして飼い馴らされる未来なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この星の未来像を想像する。

 人間の文明はそう遠くないうちに自滅する。

 もう取り返しのつかないところまで来てしまっているのだ。もはや誰にも止められない。

 

 そのとき人間はどうするだろうか。

 恐らく大半は、環境に適応できずに死んでゆくだろう。

 しかし、人間がそこで素直に敗北を認めて死んでゆくような(いさぎよ)い生き物だったなら、こんな状況は引き起こされていない。

 たとえどんな絶望的な状況に追い詰められたとしても、誰か一人は絶対に悪足掻きをする。

 それが人間だ。

 

 そんな折に私が救いの手を差し伸べたなら、きっと喜んですがりつくだろう。

 生きる余地のない外の環境で自立して暮らそうとするよりも、私の庇護下に入った方がよっぽど楽しく長生きできる。

 人間の中でも賢い者たちは最後に残された欲望、『生存本能』によってそう判断し、私が織り上げた優しい揺り籠に自ら進んで入ってゆく。

 それが『怪獣のペットになること』と同義だと気づきもしないまま。

 

 家畜化や環境破壊で多くの命を弄び続けた人間の辿る末路は、より大きな怪獣に品種改良されて愛玩用のペットとして家畜化されることだった。

 怪獣のペットに堕ちてゆく人間。それがこの星が下した罰だとすれば、こんなに皮肉の利いたものはない。

 私の底無しの慈愛も〈破壊の王〉の止め処ない怒りも、結局はこの星が人間に差し向けた罰の一部だった。

 いや、そもそもそれらすべてを引き起こした人間の欲望さえも大いなるシステムの一部でしかないのかもしれない。

 きっと私の存在も、そんなシステムの部品のひとつに過ぎないのだろう。

 

 

 とはいえ、そのような話は私の意思とは関係がない。

 私がこんなことをしているのは、星が命じているからではない。

 私の情動が星によって組まれたプログラムで、存在がシステムの部品に過ぎないとしても、私の意志までもがこの星のものである必要はない。

 私が何もしなかったところで、人間たちもかつて自分たちが食い潰してきた他の生き物たちと同じように淘汰されるだけ、別に私は困らない。

 人間ごときのために苦労するのは馬鹿馬鹿しい、さっさと見限って自由に楽しく暮らした方がよい、そういう考え方もあるだろう。

 

 だけど私はそうしない。

 私が人間を更生させてまで生かそうと躍起になる理由。

 簡単なことだ。

 ……言葉にするのは気恥ずかしいのだけど。

 

 

 

 

 それは、『人間のことが好きだから』だ。

 

 

 

 

 ……彼らと初めて出会った時、なんて素敵な生き物だろう、と思った。

 短く儚い生涯の中で刹那に見せる勇気、知恵、愛。三色のトライアングルが織り重ねられて紡ぎ上げられる魂の調和。

 極彩色の翅などでは到底及ばぬその美しさに、私は魅せられてしまった。

 苛烈な争いの日々のなかで忘れかけていたこの気持ちを、サカキ=アキラたちが思い出させてくれた。

 そして、改めて思ったのだ。

 この輝きをなんとしても未来へ繋ぎたい、と。

 

『違うね!』

『人間こそが地球に破滅をもたらす存在さ!』

『何度あやまちを繰り返しても気づかない、愚かな種族だよ……!』

 

 ……そうやって人間を見限ることができたら、どれだけ楽だったろう。

 だけど私の場合、それはやはり無理だった。私は、どれほど迷惑をかけられたところで人間たちを見捨てられないし、守護神であることもやめられない。

 なぜなら、人間のことが好きだから。

 破壊の王はそれを不自由で不幸なことだと言うかもしれないが、私はそうは思わない。

 むしろ、なんと張り合いのある『生き方』だろうとわくわくする。

 

 無論、楽しいことばかりではない。

 私がこれから選ぼうとしている道はきっとエゴだ。破壊の王なら『醜悪極まりない』と一蹴するに違いないし、人間たちも実態を察したら私を怨むかもしれない。

 だけどそれでもかまわない。悩み、惑うこともあったがもう迷わない。

 私は、自分のエゴを貫き通す。

 私は、人間だけでは背負えないあまりに大きすぎる罪科を、人間と一緒に背負うことにした。

 綺麗で美しい部分だけを可愛がり、醜い汚点からは目を逸らす。命あるものと共に暮らす者として、そのような態度はやはり無責任だ。

 ……私は、最後まで戦い続ける。

 そしてこの命が尽き果てるまでに、穢れも罪も何もかもすべて清算してみせる。

 ……罪も、咎も、禍々しいものも、何もかもをあなたたちと共に。

 

 

 

 

 すべては私が愛する素敵ないきもの。

 人間たちと共に生きてゆくために。

 

 

 

 

 そしてこれは、この星への宣戦布告でもある。

 たしかに破壊の王の言うとおり、人間はどうしようもなく愚かで罪深くて汚れ切った、まさに失敗作と呼ぶに相応しい存在なのかもしれない。

 だけどそんな人間だって同じ星で生まれた、つまりはこの星にとってはかけがえのない大切な我が子だったはずだ。

 それを失敗作だからといって、もてあそんで捻り潰していい道理などあるはずがない。

 

 ……星の意思よ。

 あなたは人間を消してしまいたいのかもしれないが、そんな身勝手はこの私が許さない。

 こんな私を止められるものなら止めてみせるがいい。

 私は受けて立ってやる。

 

 

 

 

 そして私は、〈我が子〉のことを想った。

 

 

 

 

 ――私の命を繋いでくれる、愛しいあなた。

 

 よく遊び、よく食べて、よく眠って。

 あなたの幸せ、それがあなたのお母さん、私からの一番の願い。

 本当だったらそれだけでいい。

 お母さんとしては、あなたがちゃんと幸せに生きてくれるだけで充分だ。

 

 ……だけど、現実は厳しい。

 幸せに生きる、それだけを実践することのなんと難しいことか。

 知恵と勇気と愛があっても、力がなければなにも出来ない。

 かといって、力ばかりを求めていては大切なものを見失う。

 自分ひとりで全てを手に入れようとするのは身に余る。

 生きるだけでも精一杯、それがこの世界の現実だ。

 

 

 ……時には、挫けてしまいそうになることもあるでしょうね。

 だけどそんな時、あなたが生きてゆくための御手本になるものはいっぱいある。

 あなたのお父さん、〈バトラ〉。

 サカキ=アキラたち。

 そして誰よりも強い破壊の王、〈ゴジラ〉。

 自分の在り方を貫き続けた彼らみたいに、強い意志を持った、賢くて優しい子に育ってね。

 あなたのお母さんにはそれが出来なかった。そんな私の弱さ、愚かしさまでは、どうか継がないでほしい。

 ……こんな星なんかに、負けないで。

 おねがいばかりで何もしてあげられない、どうしようもないお母さんでごめんね。

 だけど、どうか、どうか。

 

 

 

 

 

 ……ふう。

 

 いつまでも物思いに浸ってはいられない。

 愛する子供たちが、母の帰りを待っている。

 憂いを払った私は、足元の『あの子たち』に告げた。

 

 

 

 

 ――――さあ、帰りましょう。

 

 

 

 

 そして私――モスラは、『あの子たち』を乗せた潜水艇を抱き上げて、自分の住処まで連れていった。

 

 

 

 




登場怪獣紹介その11「モスラ」


・モスラ
体長:36メートル
翼長:170メートル
体重:1万トン
二つ名:慈愛の女王(クイーンオブモンスター)、極彩色の怪獣
主な技:電磁鱗粉、電磁毒針、ボンバーラリアット

 本作のメインヒロインにして隠し球。
 メカゴジラの小説だと思った?
 ヴァカめ、ゴジモスだよ!!

 初出は『モスラ』。
 ゴジラ、ラドンと並ぶ東宝三大怪獣の一角で、『モスラ対ゴジラ』以降からはゴジラ怪獣として知られる東宝特撮怪獣映画屈指のヒロインです。
 またスピンオフシリーズとして『平成モスラ三部作』の主役を務め、ボツになったものの『モスラVSバガン』という企画も存在していました。

 モスラは蛾の怪獣とよく言われますし、アニゴジ本編で「蝶?」って言われたシーンについては「いやモスラは蛾だろ!」とツッコまれてましたけど、実際のところモスラって鳥の怪獣でもあると思うんですよね。
 卵の形は鳥の卵ですし、鳴き声も鳥っぽいですし、あの鱗翔目にしては違和感のある口も鳥の嘴として見るとしっくりくる感じ。
 力強く逞しい猛禽よりかは、華やかな羽根と美しい歌声を持った小鳥のイメージがあります。
 KOMのモスラやちびモスラなどは特に鳥の要素が強いですし、アニゴジでフツアが「鳥」に因んだ形容を多用するのはそういった部分を汲んだものなのかもしれません。

 シリーズ常連だけあってモスラの登場作品は数多くありますが、中の人のオススメは『モスラ対ゴジラ』。
 娯楽性やテーマ性にも優れ、ゴジラとモスラをはじめ人間サイドのドラマパートも魅力的、まさに傑作のひとつです。古い映画ですが、どうかぜひ。
 何しろ歴史の長い怪獣ですし(『モスラの精神史』なんて本が出てるくらい。モスラ愛の滾った名著です)、個人的にも思い入れが強くて語ると長くなってしまうので、これくらい。

 『PMG』に登場した彼女本人です。
 メカゴジラとも所縁が深い怪獣ですし、また話の展開上都合が良かったので登場させました。
 彼女とゴジラの関係性についてはKOM以前に構想したものの、KOMでまんま同じことをやられてしまったので酷く驚いた記憶があります。

 書く前までは「なにさ、怪獣の癖に人間の味方なんてイイ子ぶっちゃって!」とあまり好きではなかったんですが、実際書いてみるとそのヒロイン性に惹かれるようになり、今では一番好きなゴジラ怪獣の一体になりました。
 モスラの主役作品、また何かしらの形で出ないですかねぇ。
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