怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
モスラは言った。
『……たしかに、私では貴女が受けた呪いを
貴女の生命はそう遠くないうちに、禍々しいものに喰い尽くされるだろう。
血筋も残せない』
しかし、とモスラは続ける。
『しかし、そのまま
せめて、安らかな
これなら血筋は残せなくとも、貴女の想いを未来へ繋げられる。
たとえ根治は出来なくとも、蝕まれる苦しみをなるだけ減らしてあげられるかもしれない。
それに、荒野で迎える孤独な死より、親しい者たちに囲まれて穏やかに看取られる方がよほど救いがあるはずだ』
……なんて良い話なんだろう。
わたしなんかモスラにとってはどうでもいい余所者、ナノメタルのことも考えればむしろ手の焼ける厄介者だろうに、それでもモスラはわたしのことを気に掛けてくれていた。
そういえばサエグサさんがわたしをフツアに勧誘したとき、彼女は『モスラの意志だ』とも言っていた。
モスラのことだから、きっとわたしの身体にナノメタルが入り込んでいることなんか最初から御見通しだったろう。
ナノメタルがどれだけ危険な代物なのかもちゃんと理解していたはずだ。
だけどそれでもモスラは、最期までわたしの面倒を看てくれるつもりだったのだ。
とてつもない懐の深さだった。
……だけど、ごめんね。
モスラの提案を、わたしは断った。
『どうして……?』
わたしがこれ以上長居していたら、フツアやモスラ自身がナノメタルに汚染される危険がある。
それに、ナノメタルを抱えてるわたしをモスラが庇えば、今度はこの森にゴジラが攻め込んでくるかもしれない。
わたしなんかのためにそんな危険は冒せない。
モスラとフツアの素晴らしい楽園を、わたしみたいなどうしようもない人間のために壊しちゃいけないんだよ。
『だけど、それでは貴女が……』
大丈夫、大丈夫だから。
独りは慣れてる。
それにわたしはもう大人だ、子供じゃない。
いざというときの始末ぐらい自分でつける。
だから、このまま行かせて。おねがいだから。
……あのね、モスラ。
これはわたしの気持ちの問題だ。
別にイヤイヤ出てゆくわけじゃない。
あなたが責任を感じる必要なんてないんだ。
たしかに、フツアやこの森の虫たちはあなたの子供も同然なのかもしれない。
だけどわたしはあなたとは縁もゆかりもない赤の他人だ、フツアたちとは違う。
守るどころか助ける義理すらない。
それでもあなたは、そんなわたしのために出来るかぎりの手を尽くしてくれた。
あなたはわたしの命の恩人だ。
あなたが助けてくれなかったら、わたしは何も知らないままゴジラに殺されて終わっていた。
そのことについてはとっても感謝してる。
『だったら……!』
だけどあなたの慈悲にも限度がある。
あなたには守らないといけない、もっと大切なものがいっぱいあるはずだ。
もういい、もう充分だよ。
これ以上甘えさせてもらっちゃったら、むしろわたしの方が居心地が悪いよ。
そんな後ろめたさをずっと抱えて、それで幸せに暮らせるはずがない。そういう馬鹿な生き物なんだよ、人間って。
それに、居心地以前に『
『ヒトとして?』
……まあ、アレよ。
一宿一飯の恩人に対する、仁義ってやつよ。
このまま愚図愚図と居残ったりしたらあなたは勿論、あなたの大切なものまで傷つけてしまうかもしれない。
そんなの、人として最低だ。命の恩人に
仁義を欠いてはなんとやら、ずっとあなたに甘ったれて散々迷惑かけてきたわたしだけれど、最後くらい仁義切らせてよ。
だから、おねがい。たのむよ。
『…………』
わたしが両手を合わせて頼み込むと、モスラはじっと押し黙った。
……わたしから伝えなきゃいけないことはすべて伝えた。
あとはモスラが決めてくれればいい。
モスラは長考の末、決断した。
『……お行きなさい、貴女の魂の赴くままに』
タチバナ=リリセ対モスラ。
結局折れたのは、モスラの方だった。
とはいえわたしが勝ったわけじゃない。
モスラはゴジラに匹敵する実力者だ。腕ずくで引き留めることなんて容易かったろう。
それにモスラほど賢明な怪獣なら、力に頼らなくても人間の小娘ひとり論破することなんて赤子の手を捻るようなものだったはずだ。
だけど、モスラはそうしなかった。
わたしの
『……貴女のことはどうしても救いたかった』
……ありがとう、モスラ。
やっぱりあなたは最高に素敵な怪獣だ。
きっとこれからもその慈愛で、色んな生き物を救ってくれるんだろう。
あなたのような素晴らしい女性にそこまで気に掛けてもらえるのはとても光栄だと思う。
だけどわたしなんかに、どうしてそこまで。
そんな疑問がよぎったとき、モスラは言った。
『……タチバナ=リリセ。
貴女は、御両親によく似ている』
……今、なんて?
どうしてわたしの両親を知ってるの?
聞き返したわたしに、モスラは驚愕の真実を打ち明けた。
『貴女は『縁もゆかりもない他人』と言ったが、それは違う。
私は、貴女の御両親のことを知っている。
貴女の両親は、十五年前の〈オペレーション・クレードル〉で共に戦った同志だった。
二人とも命懸けで戦ってくれた。
貴女の御両親も、誰かの未来を繋ぐために捨て身になれる、そういう強い人たちだった』
……初耳だ。
モスラがわたしの両親の戦友だったなんて。
そういえば、わたしの両親が消息を絶ったとされていた南米はモスラの古巣だ。
それにわたしは、自分の両親について『南米で消息を絶った』ということしか知らなかった。
だけど日本との連絡が途絶えただけで、実際は生きていたんだ。
モスラは遠くを見るような調子で続けた。
『御両親はいつだって、貴女のことを気に掛けていた。
日本に辿り着いたら真っ先に会いに行く、いつもそう言っていた。
……もっと早く教えるべきだった。どうか許して欲しい』
詫びるモスラに、わたしは首を横に振った。
許して欲しいも何も、わたしがモスラを恨む道理なんか何もない。
むしろ話してくれてありがとう、モスラ。
このとき、モスラが笑った
……ような気がする。
モスラの笑顔ってなんだろうね。
自分で言っててまったく想像できない。
けれど、この時のモスラはなんだか優しく微笑んでくれたような気がしたのだ。
モスラは言った。
『今の私たちがここにいるのも、あのとき共に戦ってくれた彼ら、人間たちのおかげ。
私は彼らを、人間という生き物のことを決して忘れない』
続けてわたしにもこんな言葉を掛けてくれた。
『そしてタチバナ=リリセ、あなたのことも。
私からは何もしてあげられないけれど、せめて祈らせて欲しい。
どうか、貴女のこれからの旅路が安らかなものであるように』
……うん、わたしも忘れない。
あなたが掛けてくれた慈愛の心は絶対に。
そしてわたしも祈るよ。
どうか、あなたがフツアと築いてゆく楽園の行く先に、素敵な未来が待っていますように!
そんな風に笑うわたしに、モスラは最後まで『……ごめんなさい』と詫びていた。
……本当は笑って見送って欲しかった。
まあ、致し方ない。どうであれ寂しいもんよね、お別れってやつは。
その後、こっそりクルマに乗って村を出ようとしたわたしは、クルマで待ち伏せていたエミィに捕まって現在に至る、というわけである。
以上、補足みたいな回想シーン、終わりっ。
場面は車中に戻る。
「いやー、バレないようにしてたつもりなんだけどなあー」
サエグサさんにはバレていると思っていた。
彼女はモスラの腹心だし、なにより体調の話をしたとき暗い顔したしね。
「しかし、まさかエミィにもバレてたなんてね。
身上といえば正直なことくらいだけど、正直者も時には考えようだね。
あっはっはっは」
そうあっけらかんと笑ってみせたけど、エミィは眉一つ動かさずに淡々と答えた。
「わたしをナメるな。
時々調子悪そうにしたり、モスラに何度もこっそり会ったり。
挙句の果てに拾った猫の里親を探すみたいにわたしの引取先を探し回ったりしてたら、誰でも察する」
「あー、やっぱりそこでバレてたかー」
「おまえこそ、これでよかったのか。手術でナノメタルだけ取り出せたりしないのか」
そんなのムリだよー、とわたしはへらへら笑ってみせた。
「放射線被爆も癒せるモスラですら
……モスラの見立てによれば、もって三年。
それがわかった時点でわたしも覚悟を決めた。
わたしはエミィを見ないように空を仰いだ。
「だいたい、ナノメタルのせいで沢山の人が不幸になったんだ。
そのナノメタルで命を救われておいて自分だけは助かろうだなんて、ムシが良すぎる。
こうなるのは当然なんだよ」
そう、当然のことだ。
だから理不尽とも思わない。
……恐れることなんか何もない。
怪獣に踏みつぶされるか喰われるか、そこらへんのチンピラに襲われるか、はたまた荒野のド真ん中でクルマがエンストして野垂れ死ぬか。
元々いつ死ぬかわからないような、危うい生活を送ってきた人生だ。
いつだったかエミィが『人はいつか死ぬ』と言ったけど、そのとおり人はいつか必ず死ぬ。
むしろ
その日まで一生懸命に生きればいいだけだ。
……嗚呼、空が青いなあ。
真っ暗だった空が、段々と明るい青みを帯びてゆく。
「……それに、いいんだよ。
ナノメタルが取り出せたりしたら、ゼルブやウェルーシファみたいに『上手く使ってやろう』なんて思っちゃうかもしれない。
わたしやエミィがそう思わなくても、ナノメタルのことを知った他の誰かに
ナノメタル、いいや、レックスがこれ以上誰かに弄ばれるのはもう見たくない。
あの子は静かに眠らせてあげるべきなんだ。
だからこれでいいんだよ、エミィ」
その答えにエミィは「……そうか」と頷いた。
そんなエミィの頭を、わたしは撫でてあげた。
……そういやどういう心境の変化なんだろう。
孫ノ手島を脱出してからのエミィは、あれほど抵抗していたわたしからのスキンシップもまったく嫌がらなくなっていた。
そんなことを考えながら、わたしは詫びた。
「ごめんね。また独りにさせちゃうね」
心残りがあるとすれば、エミィのことだ。
ヒロセ家に託そうとも思ったけれど、LSOの一件を気にしているのか、エミィはヒロセ家さえも嫌いになってしまった。
世界との唯一の接点だったわたしがいなくなれば、この子はきっと独りぼっちになってしまうだろう。
ゴジラが闊歩しているこんな世界に、彼女をたったひとりで放り出すことだけは何がなんでも避けなければならなかった。
エミィの今後のためにすべきことは、すべて準備してきたつもりだ。
「別に。独りじゃない。フツアとモスラがいる」
エミィの言うとおりだ。エミィのことはフツアが迎え入れてくれる。
モスラもフツアも、みんな善い人ばかりだ。
人見知りで繊細なエミィが、フツアの村ではちゃんと友達を作れていた。今のエミィには素敵なボーイフレンドだっているのだ。
モスラも『エミィ=アシモフ・タチバナのことはちゃんと面倒を看る。あなたは何も心配しなくていい』と請け合ってくれた。
エミィには、モスラとフツアが創る楽園で生きてゆける未来がある。
独りぼっちになんか絶対にならない。
「エミィったら、『フツアがいるから平気だー』なんて、またまたそんな冷たいこと言っちゃって。オネーサン泣いちゃうぞ?」
「泣けばいい」
「ぴえん ><」
……もう心配は無用だ、と思った。
あとはナノメタルを抱え込んだわたしが、どこかでゴジラに殺されればいい。
あいつの放射熱線なら、きっと痛みも感じないはずだ。
それが
そしてわたしは、世界のどこかに潜んでいるゴジラのことを思った。
……ねえ、ゴジラ。
あんたは言わずと知れた天下無敵の怪獣王だ。
恐ろしい侵略者だって巨大隕石だってブッ飛ばしちゃうあんたにかかれば、人間を根絶やしにすることなんて朝飯前に違いない。
わたしだって、あんたが眼前に現われたら観念するしかないだろう。
……だけど人間ってのは往生際が悪いのだ。
そんな潔く殺されてなんかやるものか。
モスラの庇護下にナノメタルがないと気付いたら、きっとあんたは血眼で、ナノメタルを孕んだわたしを探し始めるに違いない。
もしそうなったら、わたしはこの体が動かなくなるまで、とことん逃げ回ってやろう。
そして、あんたにも思い知らせてやる。
キングオブモンスターだろうが、怪獣プロレスのチャンピオンだろうが、どんなに恐ろしくて強い奴でも思いどおりにできないものがこの世にはあるんだってことを。
そして、最期の瞬間がきたときは堂々と笑って勝ち誇ってやろう。
そんなヒトの強さってやつを見せてやる。
あんたの悔しがる顔が楽しみだ。
……これはわたしとあいつ、タチバナ=リリセとゴジラのケンカだ。
だからフツアもモスラもヒロセ家も、もちろんエミィだって巻き込むわけにはいかないのだと、わたしは心に決めていた。
……おっといけない。
わたしは、掌を打った。
「そういえば忘れ物しちゃった。
ごめん、エミィ、ちょっと引き返して欲しいんだけど……」
途端、エミィがクルマを急停車した。
Uターンでもするのかと思ったけれど、エミィはエンジンを切ってしまった。
怪訝に思ったわたしに、エミィが向き直る。
「ふざけるな。今更何言ってやがる」
そう言ったエミィは、膨れっ面をしていた。
……何か怒らせるようなことを言ったかな。
首を傾げるわたしに、エミィは言った。
「わたしをナメるのもいい加減にしろ。
わたしをフツアとモスラに押し付けてひとり逃げようってなら、そうはさせないぞ。
だいたい、そうやって誤魔化して、強がって、我慢してるのがバレないとでも思ってるのか。
本当はひとりで死ぬのが人一倍怖いくせに」
わたしは、自分が今、どんな表情をしているのかわからなくなった。
エミィは、固まったわたしの顔をまっすぐ見据えながら言った。
「嘘泣きじゃなくて、本当に泣けばいい。
怖くてたまらないなら、怯えて喚けばいい。
わたしのママも最期まで泣いてた。
『死にたくない』『死ぬのが怖い』『ひとりで死ぬのはイヤだ』、それが普通だ。
皆のために潔く一人で死ぬ、そんなカッコつけた真似するのはアニメ映画のヒーローだけでいい」
……運命というのはおかしなものだ。
タチバナ=リリセ最後の強敵は、ゴジラでもなければモスラでもなかった。
ましてやIカップのおっぱいなんかじゃない。
エミィ=アシモフ・タチバナだったのだ。
……『子供は大人が思っているよりも早く大きくなるものだ』なんてよく言うよね。
わたしがそれを実感したのは、孫ノ手島から脱出するときから数えて二度目だ。
エミィはこのわたし、タチバナリリセがこの世界からいなくなってしまうことをちゃんと受け止めて、そのうえで何をすべきなのか、エミィなりに考えて行動に移している。
……うん、大丈夫だ。
まだ立て直せる。
これ以上に
深く息を吐きながら気を引き締めようとするわたしを、運転席から身を乗り出したエミィが抱きすくめた。
「今、ここには、わたししかいない」
エミィのいうとおり、クルマの周りには猫の子一匹見当たらなかった。
小さな身体から伝わる温もりが、わたしの中に巣食った冷たさへと染み渡ってゆく。
……わたしの体は、いつからこんなに強張っていたんだろう。
「だからおまえも、もう無理に笑う必要はない」
……やばい。場の雰囲気に耐え切れなくなってしまいそうだ。
エミィに抱かれながら、なにか茶化す言葉がないかと考えてみたけれど、やっぱり何も出てきそうにない。
思いついたところで、声が震えてしまって上手く誤魔化せないだろう。
覚悟、できていたつもりだったんだけどなあ。
「だから、ここで泣けばいい。
最期の瞬間まで、わたしがずっと傍にいる」
……やっぱりダメだなあ、わたし。
心の中で凍り付いていたものが融け出るように、嗚咽が口から漏れた。
眼帯で塞がっていないわたしの左目から、熱いものが零れだす。
ゴジラとさえ戦うと決めた鋼の決意でも、一度決壊してしまうともう堰き止められなかった。
溢れる涙に任せ、わたしは声を挙げて泣いた。
……本当は独りだけ死ぬなんていやだ。
たった三年じゃ全然足りない。
本当はやりたいことが山ほどある、見たいものも、読みたい物語も、行きたいところだって沢山あるんだ。
それがダメだというならせめてエミィと一緒にずっと楽しく暮らしたかった。
そして二人揃ってしわくちゃのお婆ちゃんになるまで幸せに長生きしたかった。
それだけでよかった。
……それだけでよかったのに。
なのにちくしょう、どうして、叶わないんだ。
神様、あなたは本当に、最低最悪に意地悪だ。
死にたくない、死にたくない。
こんなところで死にたくない。
生きたい。
わたし、タチバナ=リリセは、声を枯らして顔がぐちゃぐちゃになるまで泣き続けた。
エミィ=アシモフ・タチバナは、そんなわたしをずっと、力いっぱい抱き締めていた。
流れる涙が乾いた頃、エミィはクルマのエンジンを再始動させながら、わたしに訊ねた。
「……で、どこ行く?」
「うーん、まずヒロセの家かな。荷物を取りに行かなきゃだし、挨拶にはちゃんと行っておきたいし。そのあとは、どうしようかなあ」
「海はどうだ。今まで森だったし」
「海かあ。せっかくまだ時間あるのに、またゴジラに出くわしたら嫌だし……水場といえば、芦ノ湖は行っておきたいんだよねえ」
「アシノ湖?」
「ほら、レックスの故郷。
近くには温泉もあるらしいし、カレーが美味しい洋食屋さんもあるんだってさ」
「……やってんのか、そんなの?」
「モスラが教えてくれたから多分間違いないよ。
で、そのまま熱海に行って、東海道沿いに名古屋、ついでに琵琶湖も寄って、京都にも行って、中国地方にも行ってみたいかな。
中国地方だったらゴジラ来ない気がするんだよね、なんとなくだけど」
「……そうかあ?」
「で、四国行って、九州にも行って……いっそ思い切って全国一周しちゃおうか!」
「薮入りかよ」
「いやいや、クルマだし三年もあれば行けるよ。
北は北海道、南は沖縄、きっと楽しいよ!
……どうかな?」
「沖縄は無理だと思うぞ。フネなんか出てないだろうし」
「そっか。そうだよね」
「…………」
「…………」
「…………」
「……いや、やっぱり行こう。
海が綺麗なところに行きたいと思ってた。
沖縄なら海も綺麗だ。フネは出ちゃいないだろうけど、まあどうにかなるだろ」
「……ありがと、エミィ」
「勘違いするな。わたしが行きたいだけだ。
それに
「『軍資金』? なにそれ??」
「島から逃げた時にかっぱらった奴だ。
村じゃ使わなかったから全部持ってきた。
あれだけあれば路銀には困らない。日本一周くらい余裕だろうさ」
「さっすが、エミィ! 抜け目なーい!」
「村に置いといたところでフツアの連中も困るだけだしな。余計なもんは持ってくに限る。
……そろそろ、大丈夫か?」
「……うん、行こっか」
「りょーかい」
すっかり日が昇った中、わたしたちの乗るクルマは再び動き出した。
曇りの多いこの季節には珍しく、空はどこまでも鮮やかなブルーだった。
「オマケ設定:モスラの森」
〈モスラの森〉は、『旧人類からフツアへと進化する途上にあったミッシング・リンク』として空想したもの。
二万年後、つまりアニメ本編のフツアには存在していないかもしくは存在していても補助的な役割に留まっていて、メイン稼働はしていない。
というのもフツアは文明を捨てた人類、言い換えるなら『モスラの森のようなシステムを必要としない新人類』だから。
寒さに強い肉体があれば暖房設備は要らないし、夜目が利くなら照明器具も最小限で良い。
モスラの森は旧人類にとっては便利なシステムであるが、文明を必要としないフツアにとっては不要なものだ。
旧人類からフツアへ進化するにつれて虫たちは徐々に数を減らしてゆき、フツアが完成した2万年後にはすっかり退化してしまったのではないかと思う。
かといって「眷族の虫たちは死に絶えてしまったのか?」というと、そうでもないのかなと思っている。
モスラの森の住人たちは、虫を食肉としたり、あるいは彼らの分泌物を食べて暮らしている。
逆に言えば、モスラの森で暮らす限り、虫をその体内に取り込まざるを得ない。
ヒトの体内に入り込んだ虫たちは、モスラの魔力によってヒトのDNAに干渉し、ヒトの遺伝子に自分たちの遺伝情報も書き加えてゆく。
そうやって虫たちと融合して誕生したのが、文明を必要としない新人類〈フツア〉なのだ。
また、フツアの方も、取り込んだ虫たちの遺伝情報を巧みに活用してゆくだろう。
体内に取り込んだ虫たちの遺伝情報は無駄なジャンクDNAではなく、有用な遺伝子資源のデータベースとして活用されており、環境の変化に応じて引き出される。
たとえば、環境が変化してバッタの遺伝子が有利になるのであれば、次代はバッタの形質を発現した子供が生まれてくる。
つまり、モスラが地球の各地から救い出した虫たちは、フツアというヒト型種族に統合される形で生きている。
わたしたち人間の細胞に含まれているミトコンドリアが、かつては別の生き物であったように。
モスラがヒトを素体に創り上げた生命の箱舟、それがフツアの正体なのかな、という妄想。
残り4話。