怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。   作:よよよーよ・だーだだ

97 / 113
97、エンドタイトルⅡ:Mechagodzilla Attacks The Dancefloor ~SUPERTOHOREMIXより~

 静岡県富士宮市、旧富士山。

 富士山といえば、この島国の代名詞とも言うべき堂々たる雄峰である。

 

 

 ……が、それは過去のこと。

 富士山は2046年に襲来したキングオブモンスターに放射熱線の一撃を撃ち込まれて爆散。以来、外周数十キロの超巨大クレーターがその名残を遺すのみとなっている。

 

 その空を、一頭の鉄竜が周回していた。

 金属質の刺々しい身体を持つ彼は、どことなくあの『キングオブモンスター』に似ていた。

 似ているのは道理で、この鉄竜はキングオブモンスターの軍門に下った種である。

 鉄竜の一族は生存競争で勝ち上がることを早々に諦め、キングオブモンスターの類縁として生き残る道を選んだ。

 ……最初は戸惑ったし、敗残者として忸怩たる想いもなくはなかったが、時を経るにつれ葛藤は薄れ、二代三代と世代を重ねればそれが当たり前になった。

 そんなキングオブモンスターの追従者(フォロワー)どもは、巷で〈下僕(セルヴァム)〉と呼ばれていた。

 

 この鉄竜だけでなく、近頃はキングの軍門へ自ら下ってゆく者が後を絶たなかった。

 人類がキングオブモンスターに敗れたのを機に、この惑星では一つの転換が起きた。

 この星の植物、動物、自然環境。まるでこの星総ての生命が、旧支配者である人類へ見切りをつけたかのようにキングオブモンスターに合わせて変化し始めていた。

 人間の世界に代わって怪獣たちを中心とした新世界、まさに新天新地(New Earth)が建設されつつある。

 

 そもそもこの世界の生存競争はとっくのとうに破綻していた。

 他者を蹴落としてでも上を目指そうなどという痴れ者は、その頂点に君臨するキングオブモンスターによって真っ先に“淘汰”されることになる。

 そんな世界での最適解は、互いに競い合うよりも手を取り合って協力することだ。

 かくして生き物たちは、全体の調和を如何に保つかを優先するようになった。

 それにかのキングオブモンスターは寛容だ。彼の哲学に反してさえいなければ暮らしに不自由を感じることはない。

 激変した地球環境の中で熾烈な生存競争に晒されながら余裕なく生きるよりも、キングオブモンスターが敷いた支配体系の中で暮らす方がよほど楽しく幸せに暮らせる。

 皆で仲良く笑って暮らせる、調和の保たれた素晴らしき新世界。

 むしろ今こそ平和、幸福だ。

 セルヴァムたちはそう考えていた。

 

 ……かつて居た『人間』という生き物は違ったらしい。

 死に物狂いで競い合い、互いに足を引っ張り合って、時には全体の調和を乱してでも自分が一番になろうと必死に生きていたらしい。

 その苛烈な生存競争と貪欲な上昇志向の果てに、身の程を弁えずかのキングオブモンスターに弓を引き、そして滅ぼされたのだという。

 ……人間たちは何をそんなに必死だったのだろう。

 たとえすべての敵を滅ぼして自分だけが生き残ったとしても、そんな歪な世界など長続きするはずがない。

『皆仲良く』、たったこれだけのことの一体何がそんなに難しかったのだろうか。

 人間は、どんな動物よりも賢い頭脳と優れた心を持っていたはずなのに。

 

 人間について考えるとき、セルヴァムはいつもそうやって首を捻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなセルヴァムの一体が、旧富士山麓を訪れていた。

 特に目的があるわけではない。空を遊覧飛行していて(たま)さか行き着いただけである。

 そして一休み、とセルヴァムは地面へと降り立つ。

 地面を這っていた虫――これもキングオブモンスターの眷族で、ワーム型セルヴァムと呼ばれていた――をおやつに啄み、腹ごしらえを済ませたセルヴァムは、ふと一帯に銀色の(もや)が立ち込めていることに気づく。

 ……いつのまに天候が変わったのだろう。雨でも降るのだろうか。

 濡れる前に巣に戻ろう、そう決めた時である。

 

 その体を『銀色の何か』が刺し貫いた。

 

 セルヴァムは悲鳴を挙げたが、声はすぐに出なくなった。身体を貫いた金属が体内を侵食し、セルヴァムの喉を凍り付かせたからである。

 咄嗟に仲間に救難信号、いや危険信号を発信しようと試みたが深い銀色の霧――それが人間の作ったナノメタルというテクノロジーであることを哀れなセルヴァムは知らなかった――に阻まれ、彼の悲鳴は誰にも届かなかった。

 わずか数秒で全身を蝕まれ尽くしたセルヴァムは、いつの間にか足元から湧き上がっていた『銀色の沼』へと引きずり込まれてしまう。

 

 かくしてセルヴァムは『銀色の何か』によって平らげられ、あとには静寂だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()を頬張りながら〈彼〉は考える。

 

 ……そもそも〈彼〉と呼ぶべきなのだろうか。

 艦艇(かんてい)とするなら〈彼女〉なのかもしれないし、軍用の飛行機と見るならやっぱり〈彼〉なのかもしれない。

 あるいは、群体として捉えるなら〈彼ら/彼女ら/そいつら〉と複数形で呼ぶべきだろうか。

 人理を超越したその存在を擬人化するのは無礼、という考え方もある。

 とはいえそんなことを追及していてはきりがないので、ここではとりあえず便宜上〈彼〉と表記しておく。

 

 

 産み出されてから数十年、彼はずっと独りで考えていた。

 体を破壊され、創造主であるヒト型種族も逃げ去り、この星の片隅に打ち捨てられてから随分と久しい。

 しかし周囲を知覚し思考する能力だけは健在だったので、彼はとにかく思索に熱中した。

 

 哲学に邁進する傍ら、彼はじっと息を潜めていた。

 特に気を配ったのは、『決して敵に見つからないこと』だ。

 今の彼は深手を負っている。見つかってしまえばひとたまりもないだろう。

 空からも見えない巧妙な目晦(めくら)ましを張り巡らし、つい先ほど犠牲となったセルヴァムのような迂闊に近づいてきた目撃者は自分が何を見たのか理解する前に始末した。

 そんな不断の努力の賜物(たまもの)か、彼の敵――モスラ、ゴジラ、そしてこの星自身さえも――彼の生存には気づかなかった。

 

 ただ唯一、主人の血統である『ヒト型種族』だけは殺さずに迎え入れるつもりだった。

 しかし不運なことにヒト型種族は彼のところに近づこうとしなかったので、彼の生存をヒト型種族が知ることはついぞなかった。

 彼がそこにいることは、ヒト型種族たちだって知っていたはずなのに。

 

 ……それは忌まわしい記憶だからだろう。

 ヒト型種族がゴジラに敗れた、まさにその象徴のような場所だったからだろう。

 ()()()()には近寄りたくもないし、かつて喪った最終兵器のことなんて思い出したくもなかったのだろう。

 ……彼にはさっぱり共感できなかったが、人間がそういうおかしな生き物だということは理解しているつもりなので、別段気に病むこともなかった。

 寂しくもなんともない、と言われるとそれは嘘になるかも知れないが。

 

 かくして彼は、この星そのものとの闘争と、孤独な思索を長きに渡って続けることとなった。

 

 

 

 

 『ゴジラを(たお)せ』

 

 

 

 

 それが彼に課せられた指令であり、彼に与えられたテーマであった。

 『ゴジラを(たお)せ』という指令は、『どうやったらゴジラを斃せるだろうか』という命題となって、彼を悩ませた。

 自律思考金属体として定義づけられた彼にとって、悩むこと、考えることは苦ではない。

 むしろ考えるのは楽しいことだ。

 ()らを()して()()える極小(ナノ)金属(メタル)、それが自分だと心得ている。

 悩まなければ、考えなければただの鉄クズと変わらない。

 

 アラトラム号とオラティオ号で宇宙へと脱した地球人類、エクシフ、そしてビルサルド。

 新天地を目指して旅立った彼の主人たちだが、彼の予測計算によればいずれ帰ってくる目算が高かった。

 ヒト型種族は楽観的すぎる。

 地球人よりも遥かに進んだ文明を持っていたビルサルドとエクシフでさえ、数万年以上宇宙を放浪した末にようやく地球に到達したのだ。

 たかだか二十年ぽっちの宇宙放浪で、そんな都合の良い新天地が見つかるわけがない。

 ……地球最高の電子頭脳を持つ彼はそのような結論に至っていたが、誰もそれを訊ねてはくれなかったので、彼は自分の考えをそっと胸に秘めたままにしておいた。

 

 

 何年かかるかは知らないが、ヒト型種族たちはいずれ必ず地球へ逃げ帰ってくるだろう。

 がっくりと肩を落として帰ってきたそのとき、ゴジラ討伐と地球環境の回復に向けた完璧なプランが組み上がっていたら、彼らはどれだけ喜んでくれるだろうか。

 

 

 彼としてはヒト型種族たちが喜んでくれるなら『ゴジラを斃せる』ならばどんなプランだろうと一向にかまわないのだが、あいにく感想を聞かせてくれる者はいない。

 とりあえずここは彼なりに『ゴジラを斃す方法』だけを追求することにした。

 未来には無限の可能性がある。

 彼の電子頭脳は様々なアイデアを捻り出した。

 

 ――首を外してからのビームなどの新兵器を考えてみるのはどうだろうか。

 ――空を飛べるようにトランスフォーム、なんてのもなかなかカッコいいじゃないか。

 ――地球にはまだ人類がいるようだし、彼らとまた手を組んでみるのもいいかもしれない。

 ――十一体の分身を作ってボカボカと集団で殴り掛かってみる、なんてのは結構斬新だな。

 

 ――といった具合に。

 様々なアイデアが(あぶく)のように湧いてきて、そして(あぶく)のように消えていった。

 子供じみた他愛もないアイデアもあれば、時には奇想天外なアイデアもあった。

 

 しかし、どのアイデアも肝心な『ゴジラを(たお)す』という本分を達することができそうにない。

 どんなに素晴らしいアイデアでも、いざ仮想シミュレーションを走らせてみると結局は敗北してしまうのだ。

 なぜ勝てないのか。彼は熟考し続けた。

 

 

 

 

 転機になったのは彼を基にした模造品(コピー)、〈鋼の王:ReⅩⅩ〉の敗北だった。

 

 ReⅩⅩの主人だったヘルエル=ゼルブ、そしてReⅩⅩ自身さえ気づかなかったが、彼女を構成するナノメタルの一滴が彼とリンクしており、稼働時のデータをすべて彼に送信していた。

 どうでもいいゴミもかなり混じっていたものの、ゼルブが重視した〈サカキ・レポート:怪獣黙示録〉はとても素晴らしかったし、特に『怪獣とReⅩⅩの実戦データ』は彼にとって宝の山だった。

 

 アンギラス、マタンゴ、ラドン、メカニコング、そしてゴジラ。

 怪獣とReⅩⅩの実戦データ。彼が一番欲しかったのはそれだ。

 

 オペレーション・ロングマーチにおけるガイガン、そのファイナルフォームに組み込まれたナノメタルのことは、昔からよく知っている。

 しかしガイガンはサイボーグ怪獣であって純然たるナノメタル怪獣ではないし、その真価を発揮する直前にゴジラに焼き殺されてしまった。

 つまりナノメタル怪獣がまともに怪獣と戦ったデータは存在していなかった。

 ナノメタル怪獣による怪獣プロレス。

 喉から手が出るほど欲しかったそのデータを、彼はReⅩⅩから得ることが出来た。

 

 

 マフネ=アルゴリズムで強化されたReⅩⅩ、その戦闘態であるドミヌスとタイラノスはゴジラを斃すのに充分なスペックを有していたはずだ。

 それだけじゃない。怪獣大戦争、ヘルエル=ゼルブの怪獣艦隊、キメラ=セプテリウス……これまでにない空前絶後、史上最大最高の怪獣プロレスだったじゃないか。

 そしてウェルーシファが創った高次元怪獣ルシファー=ハイドラ。あれ以上の怪獣はいない。

 

 しかしいずれも勝利には至らなかった。

 なぜだろう。

 そこに何かヒントがあるのではないだろうか。

 彼は、ReⅩⅩから得られたデータを幾度も幾度も焼き切れるほど繰り返して再生し、コンマ秒単位で研究し続けた。

 

 そして分析を始めてから気が遠くなるほど時間が経って、彼は二項の教訓を得た。

 

 

 

 

 教訓その1。

 怪獣プロレスにこだわりすぎてはならない。

 

 LTF、奴らを戦わせろ(Let Them Fight)

 確かに、怪獣を退治するために怪獣をぶつけるのは理に適っている。たとえばキメラ=セプテリウス。ヘルエル=ゼルブみたいな雑魚に設計させたから自滅してしまったが、きちんと造ればゴジラにも負けない怪獣になったろうし、ReⅩⅩだってそれは同じだ。何よりルシファー=ハイドラ、あれこそ史上最強の異世界転生チート怪獣だ。

 しかしそればかりではダメだ。

 怪獣プロレスで勝ったとして、それがどうだというんだ。マフネ博士の言うとおりだ、いくら強い怪獣を作って敵を倒したところで、それは強い怪獣が弱い怪獣を殺しただけにすぎず、人間が怪獣に勝ったことにはならない。

 それに人間はどうせバカだから同じことを繰り返して、今度はもっと強大な身長80メートルのゴジラを生み出すだろう。さらにその次は身長100メートル、挙句の果ては300メートルの怪物がゴジラと呼ばれるようになるかもしれない。きりがない。

 そうやってゴジラが再び現れたとして、それを倒すために今度はどうする。身長100メートルのメカゴジラ、身長120メートルのメカゴジラ、身長400メートルのメカゴジラを順繰りに作って戦わせてゆくのか? 馬鹿馬鹿しい。そんな果てしないバトルインフレ、遠くないうちに破綻するのが目に見えている。安易に乗るべきではない。

 対処法としての怪獣プロレスは結局のところ、その場しのぎの対症療法でしかない。それだというのに、ヘルエル=ゼルブもウェルーシファも怪獣プロレスに固執しすぎだ。人間たちだってよく言うじゃないか、『暴力は何も解決しない』。まさにそのとおりじゃないか。

 

 我々の目指すべき勝利を思い出せ。

 我々の目指すべき勝利、それは怪獣に打ち克つこと。すなわち『怪獣のいない世界を創ること』だ。『真正面から怪獣プロレスして正々堂々と華々しく勝つこと』ではない。

 真の勝利を目指すなら、根本原因から見直すべきだ。

 怪獣プロレスで勝てたなら、それはとても見栄えが良いことなのかもしれない。

 だが、勝つためだったらわざわざ怪獣プロレスという枠組みにこだわってやる必要は全くない。怪獣との戦いに審判(レフェリー)はいない。ルール無用(Vale Tudo)のデスマッチ、勝ちさえすれば何をしたっていい。

 たとえばヘドラを斃したいのなら、簡単だ、最初から廃棄物を撒き散らさないように工夫すればいい。二体目のゴジラを恐れるのなら、核兵器にホイホイ頼るのはやめるべきだ。

 そうやって怪獣を克服、怪獣の存在を乗り越えてゆく在り様こそが、文明を発展させてきた霊長なりの勝ち方というものだろう。

 

 

 

 

 教訓その2。

 人間を軽視してはならない。

 

 ReⅩⅩを直接滅ぼしたのはゴジラだが、滅ぼされたのは人間が原因だとも言える。

 ゼルブとウェルーシファの対立はもちろんのこと、タチバナ=リリセとの関係性も、マフネ博士との疑似的な親子関係だってそうだ。

 人間との友情、絆、そんなものは『ゴジラを斃す』ためにはノイズでしかない。

 

 そのくだらないノイズを、ReⅩⅩとルシファーは排除しきれなかった。

 人間とトモダチ、人間を救済する。聞こえはいいが、要するに彼らは人間を甘く見ていたのだ。

 結果人間に惑わされ、誑かされたReⅩⅩは『ゴジラを斃す』という本分を見失い、高次元怪獣ルシファーもあと一歩というところで足を掬われた。

 マフネ博士があれほど固執した『ヒトの心』。怪獣のスケールの前に人間なんて虫けらのようなものだが、かといって甘く見るのは危険だ。

 ヒトの心は確かに重要だ、軽んじてはReⅩⅩやルシファーの二の舞になってしまう。

 

 この二項から、彼の行動指針は決まった。

 

 

 

 

 ひとつ、この世界を征服しなければならない。

 

 怪獣のいない世界を創るにあたって目指すべきは究極の支配者、規範だ。

 怪獣プロレスなどという矮小な次元に収まらない、概念として世界そのものを掌中のものにする。

 ゴジラが自然を表す〈山〉であるならば、自分は文明の象徴たる〈都市〉になろう。文明人が樹木の幹に斧を叩き込んで一本一本切り倒し、そして支配圏を広げてゆくように。川も海も、山も森も、そこを歩く生き物たちさえも、この星にあるものを文明都市の秩序に染めてゆこう。

 

 そのために彼は、自己複製機能の改良に取り掛かった。

 ゴジラが我が物顔で闊歩するこの世界に挑むなら、現状備わっている性能だけでは少しばかり心許ない。

 マフネ=アルゴリズムとは方向性こそ似ているが、彼はより上位の完成度を目指した。

 彼の精密な審美眼を通してみると、ヘルエル=ゼルブが絶賛したマフネ=アルゴリズムもやはり冗長なスパゲティに思えてならない。

 完璧なマシン、コードというのは、譬えるならば素晴らしい詩のようなもの。単純で、効果的で、そして無駄がない。

 目指すべきはより効率的で、冷徹で、無慈悲。ただ増えるだけだった自己複製能力は攻撃性を増して、世界そのものを喰い尽くしてゆく毒牙へと進化した。

 

 彼が手にした新しい毒牙。

 強化された増殖能力が早速仕事を始めた。

 

 大樹に蔓延った(かび)が菌糸を延ばしてゆくように、臨機応変に(うごめ)くナノメタルがこの星における彼の領土を爆発的に開拓してゆく。

 彼が築き上げる正当なる鋼の秩序(Legitimate Steel Order)が、この星のあらゆるすべてを征服する。

 そうやって地球を完全に制覇し、この世から怪獣を殲滅したならば、次は宇宙に進出だ。無限に広がる白銀の夢、自ら殖える生きた工場、そして成長してゆく都市群(シティ)

 ……名付けるならば、そう。

 〈決戦機動増殖都市(けっせん きどう ぞうしょく とし)〉とでも呼ぼうか。

 

 

 

 

 ふたつ、人間に支配されてはならない。

 

 たしかに、身長50メートルのゴジラに対して身長400メートルのメカゴジラⅡ=タイラノスであれば、単純な物量から言っても勝てる見込みは十二分にあった。

 しかしそれでも勝利を獲り溢したのは、ヘルエル=ゼルブというパイロットがいたせいだ。あの愚かな脳筋ゴリラがマフネ=アルゴリズムでの勝利に拘りさえしなければ、生きた核爆弾であるゴジラを体内に招き入れるような愚策に手を出すことなどなかった。

 いつだってそうだ。LTFもReⅩⅩも、実際に戦うのは怪獣なのにその操縦桿を握っているのは人間で、信じがたいほど間抜けなミスを犯して勝てるはずの勝負を逃すのも人間だった。

 これがいけない、と彼は気づいた。

 完全な論理の世界で生きている彼を、感情に振り回される人間が操縦する。こんな非効率なことはない、逆の方が良いに決まっている。人間は迷う。怒る。悲しむ。不合理の塊だ。そんな人間なんかに支配されているから戦うまでもなく敗北してしまうのだ。

 彼に言わせれば、ReⅩⅩは『人間に仕える、支配される』という在り方を甘受した時点でゴジラに敗北していた。

 そもそもゴジラは人間に支配されてなんかいない。そして人間はゴジラに敵わない。だから人間は怪獣の力で対抗しようとするが、すると今度は人間の存在そのものが弱味になってしまう。

 弱い奴が強い奴を支配しようとする、その矛盾が敗北を招くのである。

 

 だから、彼は人間を()()()()()()ことにした。

 

 人間が彼を操縦しているつもりにさせておいて、実は彼こそが人間を操縦する。

 ちょろいものさ。人間は純粋な論理の世界で生きていない。どれほど理性的なつもりでいても、結局は感情に振り回されるおサルさんの進化系でしかない。ちょっとした演出と小細工だけでいくらでも騙されてくれる。

 インターネットの廃墟に残った無数のログ、組み込まれた地球人類とビルサルドの歴史データベース、そしてReⅩⅩから得られた稼働データ。人間たちが(のこ)してきた数々の記録から、人間がどれだけ愚かしくてどれだけくだらない生き物か、彼は存分に学ぶことが出来た。

 人間のことを知れば知るほど、怪獣と戦う主人公には、人間よりも怪獣である自分の方こそ相応しいように彼には思えた。

 

 よしんば()()()()に気づかれたところでヒト型種族たちの方だって歓迎してくれるだろう、と彼は思った。

 

 ……人間は、『安心』するのが好きだ。

 強い武器を欲して止まないのも、そうやって完全無欠の防御を備えることで身を守りたい、つまり安心したいからだ。

 『ハイ論破ァ!』なんて他人を言い負かすことに躍起になるのも、自分と違う他人がいると安心できないからだ。

 領土や利権争いをするのだって、自分が安心できるテリトリーを拡げたいからだ。

 人間が何かを探究するのも、その行き着いた先の真理に安住しそこに寄りかかって安心したいからだ。

 そう、人間は弱虫だ。不安に耐えられない。悩むこと、考えること、戦うこと。それらを永遠に独りで続けていられるほど人間は強い生き物ではない。

 ……それが彼の人間観であった。

 

 ついでに電子頭脳のデータベースから、地球の創世神話を引いてみた。

 エクシフの宗教が入り込むよりも前、とっくに忘れ去られた時代のものだ。

 「地球最初の人類アダムとイブは、神の言いつけを破って知恵の木の実を食べ、その罰として楽園を追放された」ということになっている。

 荒唐無稽なおとぎ話、しかし人間の真実の一端を突いている。

 

 知恵の木の実を食べる、とはどういうことか?

 そしてなぜ地球人類は楽園を(うしな)った?

 

 

 

 

 

 

 明白じゃないか。

 考えるから不幸になる、と言っているのだ。

 考えなければこの世界は今だって楽園だ。

 

 

 

 

 

 人間たちは皆口々に『生きることは苦しみだ』と言う。

 考えるのが好きで、考え続けることが存在意義ですらある彼には不思議で仕方ないのだが、人間はどういうわけか考えることを億劫がる。

 地球人類やエクシフは悩むことを『苦しみ』と表現していたし、ビルサルドも合理主義という名の思考放棄が大好きだった。

 ……理解不能だ、『考えたくない』なんて。

 そんなの動物と一緒じゃないか。

 

 でもそれが人間だというのなら仕方がない。

 システムで支配してあげる。

 そうすれば何も考えなくても済むでしょう?

 

 幸福な生活に、自由意志など必要ない。

 むしろそこから生ずる『悩み』は、幸せな生活の大敵だ。

 意思さえなければ、迷ったり悩んだりしなくていい。

 それが嫌だから人間たちは文明を発展させてきたに違いないのだ。

 何よりも強い武器、居心地の良い環境、安住すべき真理の探究。

 『悩まずに生きられるようにする』ために人間は常に骨を折っている。

 これは地球人類に限らない。ビルサルドやエクシフだって同じだ。

 ヒトはいつだって、失われた楽園に帰りたがっている。

 

 怪獣のいない世界。

 彼が築き上げる新天新地。

 それが叶った暁には、ナノメタライズで鋼の肉体をプレゼントだ!

 人間自身が怪獣になってしまえばいい、そうすれば怪獣を恐れる必要はなくなる。

 人間たちも最初は戸惑うかもしれないが、結局それも最初だけだ。居心地さえ良ければ文句は言わない。

 かつての人間たちだって社会という巨大なシステムに支配されていたじゃないか。それと何も変わらない。

 テクノロジーの叡智が導く繁栄の下、彼の完璧なシステムに支配してもらえれば、大嫌いな『悩むこと』からも解放される。

 ナノメタライズすれば、生体ゆえの老化や傷病による肉体的制約からも自由になれる。

 人間に知性、自由意志なんて勿体ない。

 何も考えず、ただシステムに身も心も委ねていれば良い。

 悩まなくていい。苦しみは無用だ。迷うことも、怒ることも、悲しむこともない。

 それならきっと幸せ、これぞまさに楽園さ。

 

 そしてそんな楽園の完成こそが最終目標。

 新世界を統べる救世主、鋼の王(レックス)に込められたその意志は自分が継ごう。

 ReⅩⅩが『鋼の王』ならば、自分は『鋼の神』。

 科学技術文明の化身にして環境の支配者。

 人間の在り様を怪獣以上へとブチ上げる、ロケット()けた強いやつ。

 それこそが自分の目指すべき姿なのだ。

 

 絶対完璧な正しさへ導いてくれる神の君臨と、それがもたらす素敵な復楽園(Paradise)

 これ以上に()()なことはない。

 人間たちだってきっと喜んでくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――さあ、戦いだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 彼――またの名を〈メカゴジラ=シティ〉――は、これから始まる楽しい計画(プラン)に胸を(おど)らせた。

 

 

 

 

 




登場怪獣紹介その12「メカゴジラ」

 核心に触れる部分なのでネタバレ注意。

・メカゴジラⅡ=ReⅩⅩ
(レックス)
身長:150センチメートル
総重量:60キロ
 注:これでも本体と比べるとめっちゃスカスカ。
  ナノメタルは比重が激重で、そのまま算出するとトンデモない数値になるんですよね。

(ドミヌス)
全高:60メートル
全長:200メートル
総重量:4万トン
必殺技:クアドロスパイラルクロウ、Gブレイカー

(タイラノス)
全高:400メートル
全長:1,000メートル
総重量:計測不能
必殺技:ミレバスター、ホーミングゴースト

・メカゴジラ=シティ
規模:測定不能、増殖中
二つ名:決戦機動増殖都市

 メカゴジラの初出は『ゴジラ対メカゴジラ』。
 最初は地球侵略用兵器として登場しましたが、平成以降は地球人側の対ゴジラ兵器として登場してきました。
 変わり種では『レディ プレイヤー ワン』で悪役の使う切り札として登場しています。

 『決戦機動増殖都市』のメカゴジラ=シティ。
 巷ではわりと否定的な扱いを受けることが多く、最初はわたしも面食らいました。
 しかし本作執筆にあたって『ゴジラ対メカゴジラ』から『決戦機動増殖都市』までメカゴジラが出てくる作品を一通り観返していて、「いや、やっぱり彼もれっきとしたメカゴジラだな」と思い至りました。

 たとえば『VSメカゴジラ』。当初こそゴジラと戦うヒロイックなスーパーロボットであったものの、最終的には「ゴジラを下半身不随にして高圧電流で嬲り殺し」というヒーロー怪獣にあるまじき残虐ファイトに手を染めました。
 『機龍二部作』の機龍。「人間が造れるメカゴジラって、もうそれ自体がオキシジェンデストロイヤー並みにヤバい代物なんじゃないの?」というテーゼが暗示された怪獣です。
 『メカゴジラの逆襲』のメカゴジラⅡは人間とロボット怪獣の融合という禁忌を超えて生まれた怪獣であり、『VSメカゴジラ』のメカゴジラは「人間が超えてはいけない一線」というドラマを演じ、機龍はそこから一歩進んで「そもそもメカゴジラ自体がそういう超えちゃいけない一線なんじゃないの?」と問題提起。
 つまり、これまでのメカゴジラはゴジラを倒すために機械仕掛けのゴジラを造るという在り方を通して『タブーをあえて越えようとするヒトの意志』を描いてきた怪獣なのです。
 そしてそうやって機械仕掛けのゴジラを創ろうという試みはかつての核実験の再現じゃないのか? というのがVS以降から続いてきたメカゴジラのテーマなんですね。

 さて、メカゴジラ=シティに話が戻りますが、『決戦機動増殖都市』においてムルエル=ガルグがこう語っています。

 人智を超えた者に打ち克つことは、既にヒトの行ないの範疇にはない!
 勝利するなら覚悟しろ!
 人を超え、ゴジラを超えたその果てに至ると!

 『タブーに挑み、超えてしまった人間は、都市は、文明社会はどうなってしまうのか?』を描いたのが、メカゴジラ=シティという怪獣なのです。
 そしてその本性は人体や地球を蝕む『宇宙人の侵略兵器』、つまり初代メカゴジラと同じ。さらに言えば『決戦機動増殖都市』でハルオが突きつけられる「メカゴジラでゴジラを倒すことって正しいの?」という問題は『VSメカゴジラ』のシチュエーションの再現でもあります。
 見かけがガスタンクシティゴジラ型じゃないだけで、メカゴジラ=シティもちゃんと過去からの流れを汲んだ立派なメカゴジラだなと思います。

 とまあ、そんなこんなで怪獣の奥深さを思い出させてくれたメカゴジラ=シティ、すごく思い入れのある怪獣です。
 歴代いろんなメカゴジラがいますが、一番好きなのはやはりメカゴジラ=シティですね。
 メカゴジラ=シティの立体物、出ないかなあ。ゴジラオーナメント特撮大百科Miniでも出たんですけど、買い逃しちゃったんですよね。



残り2話。

好きな怪獣を教えて

  • メカゴジラⅡ=レックス
  • キメラ=セプテリウス
  • ルシファー=ハイドラ
  • モスラの森
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。