怪獣失楽園:アニゴジ世界で怪獣プロレス。 作:よよよーよ・だーだだ
ぱきっ、という感触があった。
ただならぬことが起こったのは察したが、『彼』がその動揺を表に出すことはなかった。
上辺を取り繕うのは人一倍得意だ。
それに大事な礼拝をこれしきのことで台無しにするわけにはいかない。
彼は、何事もないかのように大司教としての説教を続けた。
「たとえ苦難の日々だとしても、それでも他者を思いやる気持ちは無くしてはなりません。
決して難しくはありません。他者への慈しみ、真心、すべての道は続いているのです。
まずは小さなことから少しずつ始めようでありませんか。
そうして捧げた真心は、いずれあなた自身を救うことでしょう……」
周囲を
言うべきではないことを伏せることはあるし、
彼は信者たちと心を合わせ、祈りを口にした。
「隣人愛を、献身を。
そして神を讃えましょう。
ガルビトリウムの導きが、我らと共にあらんことを……」
定例の日曜礼拝――といってもこの宇宙船生活において日曜日なるものは存在しないのだが――を終えた彼が自身の懐を改めると、肌身離さず持ち歩いていたはずのエクシフ祭器:ガルビトリウムに大きなヒビが入っていた。
壊れたガルビトリウムから、彼は悟った。
ウェルーシファか。
エクシフ教団元枢機卿、ウェルーシファ。
その目論見を、彼は最初から見抜いていた。
そしてその正体が『エクシフならざる者』の末裔であることも。
悠久の放浪の果てに怨念へ魂を焦がし、自らの運命を受け容れることも出来ず、叶わぬ永遠の夢幻を追い求めていた〈明星の民〉。
……なんとも哀れだ。
不信心と糾弾する気にもならない。
ずっと続く楽しい夢なんてない。どんなに素晴らしい物語だって、いつかは必ず終わるのに。
地球に残した第二第三のガルビトリウム:セカンダスとテルティウスは、そんな彼女への餞別のつもりだった。
……ガルビトリウムは一つあれば充分だ。それで心の拠り所となるのなら、わたしは喜んで差し出そうと思う。
せめて祈ろう、貴女の魂が救われますように。
そんな想いがあった。
そして今、彼のガルビトリウムが壊れたということは、ウェルーシファに与えたガルビトリウムも壊れたということ。
おそらくウェルーシファが自らのたくらみのために第二第三のガルビトリウムを用い、喪われ、その共鳴作用によって彼のガルビトリウム・プライマスが破損したのだろう。
永い巡礼の旅をようやく終えた『明星の民』。
その終焉の先で安息を得られていたら良いのだけれど。
そんな思索に耽りながら歩いた先で、彼は目的の部屋の前へと到着、インターフォンを鳴らした。
部屋の暗証を知らされるほどには親しい間柄だったが、断りもなく入るほど礼儀を欠いたつもりもない。
ドアがスライドし、部屋の主が彼を出迎えた。
「……なんだ、アンタか」
そう言って、部屋の主の男は、彼を自室へ招き入れた。
迎え入れられた彼は、男の肌がじんわりと汗ばんでいるのに気づいた。
日課のトレーニングの最中だったのだろう。
「精が出るな」
「今はまず体を作らないとな。いざというときは体力勝負だ」
『いざというとき』。
それは一体いつのことだろうな。
こんな宇宙船生活でそのような機会が来ると本気で思っているのだろうか、この男は。
そんな意地の悪い考えが浮かんだ。
「そんな毎日毎日体を痛めつけて、よく飽きないものだな。たまには休んではどうかね」
長い宇宙船生活で身体が弱らないよう一定年齢層の乗員には規定のトレーニングプログラムが課せられていたが、この男の鍛練はその範疇を越えている。
男はぶっきらぼうな口調で答えた。
「嫌だというなら無理して付き合わなくていいんだぞ。おれが勝手にやってることだからな」
実際この男なら、たとえ独りになったとしても続けるだろう。
ただでさえ苛酷な宇宙船生活で精神のバランスを損ねる者が絶えない中、より一層克己し続けるこの男は船内で一番の変わり者と噂されていた。
……そんな男と親しくしているわたしも大概変わり者なのだろうな、と彼は思う。
『あのような男と付き合うのは考え直した方がよい』と箴言する者もいるが、言われたとおりにしようと考えたことは一度もない。
彼は首を横に振って答えた。
「無理をするなと言いたいだけさ。
鍛えるにしても、体を壊してしまっては元も子もないだろう」
もっともな指摘をする彼に、男は答えた。
「……すまない。ちょっと苛立っていたんだ」
伏し目がちなのはきっと、気遣ってくれた相手に刺々しい態度をとってしまった自分が許せないからだろう。
この男は、善良な正直者だ。
周囲から不良と言われることもあるがそうではない、自分に嘘がつけないだけ。
人一倍ウソを見抜くのが得意な彼にとって、この男の正直さはとても好感を覚える。
今、そんな我の強い男が迷っている。
彼は提案してみた。
「もし良かったら話してみてくれないか。話すだけでも楽になることもある」
彼の提案に男は逡巡していたが、やがてぽつりと口を開いた。
「……おれは、間違ってるんじゃないか」
間違ってる、とは?
彼が訊ねると、男は答えた。
「“ヤツ”はおれの両親を殺し、それにおれたち人類から地球を、そして尊厳を奪った。
ヤツ――『ゴジラ』に立ち向かう勇気を取り戻せたなら、おれたちは大切なものを取り返せるかもしれない。
そう思っていた、それが正しいことだと」
男がこの宇宙船に乗ったのは地球暦2048年、四歳の頃だ。
元々の予定では両親と共にこの宇宙船に乗るはずだった。
しかしすんでのところで両親と逸れてしまい、男は、両親が乗っているバスが放射熱線で吹き飛ばされるのを目の当たりにすることとなった。
「しかし、それは『昔のこと』だ。
地球に楽しい思い出なんかないし、両親のことは顔も声も覚えていない。
そんな過去なんか捨てて、前を向いて生きてゆくべきなんじゃないか?
他のみんなも今の暮らしについて不平不満は言うが、少なくとも今の暮らしや移住した先のことを考えて生きている。
誰も過去を振り返ったり、失くしたものに執着してはいない」
そう語る男の表情は、ひどく弱々しく思えた。
男は続けた。
「おれは違う。
おれは両親や地球での暮らしを思い出そうと躍起になって、憎しみを募らせてばかりいる。
人類の尊厳、おれがゴジラにこだわるのはそんなものじゃなくて、ただの独り善がりな私怨に体の良い建前をつけただけかもしれない。
おれは無駄なことをしてるんじゃないか、皆のように生きるべきなんじゃないか。
……近頃そう思うときがある」
誰からも見向きされなくとも、独り戦い続けてきた男が垣間見せた弱音。
『おれは間違っているんじゃないか?』
誰よりも強くそう感じ、疑っているのは、この男自身なのだろう。
たとえ誰より意志が強かろうと、永遠に独りで戦い続けられるほど人間は強い生き物ではない。
そんな男に、彼は言った。
「……万人の正しさ、そんなものはないよ」
「えっ……」
自身の苦悩の根底を否定するような彼の言葉に、男は最初面食らったようだった。
だが、特に何も言わず黙って耳を傾けている。
そんな男に、彼は続けた。
「きみは『自分が過去に囚われている』と思っているようだが、見方を変えれば『他の皆が過去から逃げている』とも言える。
世界中のあらゆる人間が敵になったとしても、それはきみが間違っている証明にはならない。
逆も同じだ。きみの行ないが世界中から賛同されたからといって、きみが正しいとは言えない。
結局『正しさ』とは『
だから誰もが独り善がりだ」
彼は続けた。
「『きみの正しさ』とはすなわち、『きみが何を大切にしたいか』に他ならない。
『自分が何を大切にしたいか』、それを決めるのはきみ自身だ。
『何が正しいか』、それよりもまず『何を大切にしたいか』を考えてみてはどうかね」
決して無理強いはしない、飽くまで促すだけ。
自らの意思で先へ進められるように。
それが彼のやり方だった。
「『何が大切か』『何をすべきか』、それが容易く見つかるなら誰も苦労はしない。
そのとき信じたものが正解だったかどうか、そんなものは最後までわからないものだ。
誰もがそうだ。迷うも知性あるゆえ、悩むのも当然のこと。むしろそれを見つけ出すことが人生の目的とも言えるだろう。
しかし……」
「しかし?」
続きを急かす男に、手元のゲマトロン演算結晶を撫でながら彼は言った。
「きみは気づいていないようだが、見ている人はちゃんと見ていると思うよ。
きみのそのひたむきさに救われている人間もいるはずだ」
……今のわたしのようにね。
そんな想いがあったが、口にはしなかった。
まだその時ではない。
「きみはもう少し、自分の積み重ねてきたものを信じてみてもいい。
きみの為すべき『献身』も、きっとその中に埋まっているのではないかね」
彼の
男は少し考え込んでいたが、やがて深く息を吐きながらこう答えた。
「……ありがとう、〈メトフィエス〉」
男の表情は、穏やかなものになっていた。
友人と別れた後、彼は確信を得た。
……時、至れり。
地球帰還の準備は整った。
種が蒔かれ、芽吹き、美しい花が咲き誇る。
彼の種族:エクシフが幾度となく見届けてきた文明の曙と繁栄、そして終焉のサイクル。
彼の計画のためには、その文明の花がしっかりと枯れるのを見届ける必要があった。
すべてはウェルーシファのおかげだ。
ウェルーシファを地球に残したのは彼女が異端者だからというのもあるが、それ以上に『花が枯れ落ちるまで、大切な果実を余計な虫から守らせるため』というのが大きい。
小賢しく愚かなウェルーシファ、きっと役割を十二分に果たしてくれたはずだ。当人がどう考えているかは
……かくして花は枯れ落ちた。
果実が育つのを待たねばならないが、これについては工夫次第でどうにでも短縮できよう。
機が熟したならばいよいよ収穫の始まりだ。しかしそれには地球へ戻らねばならない。
今地球人たちに故郷への帰還を決意させるには『絶望』が少しばかり足りない。
そうと決まれば、さっそく彼は次の『手』を講じ始めた。
音声言語に頼らぬ
――例の“計画”を始動しろ。時は来た。
彼がたくらむ『次の計画』。
人心の扇動、サボタージュ。この宇宙船で暮らす人々をさらなる最底辺へと突き落とし、地球へと出戻らせる計画だ。
細工は粒々、掛ける時間は三年ほど必要だろうか。
地球人からすれば少々気の長い計画になるだろうが、彼は特に抵抗感を覚えなかった。
元より気の長い性分だし数万年もの時を待ったのだ、いまさら三年ぐらい惜しもうなどとは思わない。
収穫の宴をより完璧なものとするために必要なのは主役。
すなわち『英雄』。
地位でもなく、理性でもない、信念と行動によって時代の精神を担い、人々を導いてゆく英雄譚の
そんなヒト型種族の中でも極めて稀有な資質を、彼は地球人の中に求めた。
彼の考えには同胞でさえ懐疑的だが、その心配はないだろう。
必要な人材には既に目星がついている。
『あの男』。
自分では気づいていないが、実に奉身的だ。
『皆の為にどうしたらよいか、人類の尊厳を取り戻すには?』、そんなことばかり考えている。
それが最善だと判断すれば、ゴジラへの特攻だって躊躇しない。
迷うことなくその身を捧げるだろう。
それにあの意志の強さ。
周囲から不良呼ばわりされ、変人扱いされても自分を鍛え続けるほど我の強い男。
この苛酷な宇宙船暮らしにおいては、意志など捨て去った方が安楽だ。何も考えず、状況に流されて身を任せていた方がよほど楽なはず。
しかしあの男はそうしなかった。
それどころか平時ですら稀な気質である、自由意志と呼び得るような強固な自立性を今なお保ち続けている。
この絶望の暮らしにおいて、誰よりも気高く、誇り高く、絶望の中でも人の在り方を信じて疑わなかった。
男が『皆のため』を考えているのは、それが『正しいから』ではない。
皆のために
強烈な利他性と意志。
相反する二つの要素を併せ持つ、稀有な男。
これぞ彼が長年追い求め続けてきたもの、まさに理想の
全ての人を神の門へと至らしめる必要はない。
ただひとりの英雄が道の
……わたしは探していた。待っていた。
人の歴史を総括し、最後の導きを示す者。
そんな英雄が現れるのを。
そう、きみを待ちわびていたんだよ。
ハルオ。
『あの御方』に果実を捧げる英雄には、きみこそ相応しい。
きみにはその価値があるのだ。
わたしたちの『神』へと至る、その資格が。
時が来れば、きみもまた魂を捧げて『あの御方』を求めることだろう。
瞼を閉じる。
思考を超次元の彼方へと向ける。
我らが『神』の御姿が見える。
この世の真理を体現する、
――稲妻と見紛う輝きを纏った、
――
――『
そのいと高き
高次元世界に住まう黄金の龍が、此岸の様子を窺っていた。
登場怪獣紹介その13「王たるギドラ」
・
全高:測定不能
全長:測定不能
体重:測定不能
二つ名:黄金の終焉、虚空の王、高次元怪獣
以来、ゴジラシリーズ最大の巨悪として幾度となくゴジラと激闘を繰り広げてきた名敵役です。
キングギドラは昔から好きな怪獣なんです。
『三大怪獣 地球最大の決戦』では東宝三大怪獣のゴジラ・モスラ・ラドンと対決するわけですが、劇中で描かれたキングギドラの特徴である「口から光線を吐き、怪力を誇る」「変身する」「空を飛び日本中を荒らしまわる」はそれぞれゴジラ・モスラ・ラドンの特徴でもあります。
三体を相手にするわけですから頭が三つ。さらに地球上にいない特徴として金の鱗(センザンコウなど金色の鱗を持つ生き物自体はいないこともないんですが、ここまで神々しい金の鱗の生き物はいませんね)。
過剰にゴテゴテしすぎていない、かといって三大怪獣を相手取る大悪役としても不足のない、絶妙なバランス。
同時にゴジラのライバル怪獣としてもよく出来ていて、大地にどっしり立つゴジラに対して空から舞い降りるキングギドラ、黒いゴジラに対して黄金のキングギドラ、地球の頂点であるゴジラに対して宇宙からの侵略者であるキングギドラ。
長年の戦史の積み重ねによるものか、様々な要素が好対照になっています。
まさにゴジラ最大のライバルと呼ばれるに相応しい怪獣でしょう。
さてアニメ版『星を喰う者』の高次元怪獣ギドラ。彼も巷では色々言われがちですが、わたしは結構好きだったりします。
茨のように刺々しい攻撃的で歪なフォルム、物理法則を捻じ曲げゴジラさえ手玉に取るチート性能、そして複眼!!!最高じゃないですか。
アニメ版のギドラは「神として崇められていた頃の雷」がモチーフで、首しかないのは「空から降り注ぐ雷を模したもの」だから。
よくわからない宇宙恐怖(こう書くとクトゥルフっぽいですね)であるうちは無敵で手出しすら出来ないが、理性的に分析されて「神であること」を否定されると、手に取って対処できる物理現象になってしまう。これはまさに科学が発展してきた過程そのものですね。
また「手に負えない強大な怪獣が現れる→人間が知恵を振り絞って解析し弱点を見つけ出す→その弱点を突いて倒す」というギドラ撃退の過程は怪獣映画の王道であり、ひいてはそうやって未知の恐怖を超克しながら発展してきた人間への賛歌でもあります。
ところでこのキングギドラ、東宝特撮怪獣映画を代表する一体でありながら、意外にもピンでの作品が存在しない怪獣でもあります。
『生まれついての悪役』といえば聞こえは良いものの、モスラやラドンもピン映画があるわけですからそろそろキングギドラ主役のスピンオフ映画をあってもいいと思うこの日頃。
……キングギドラが大勝利する小説、誰か書かない?
2021/3/14、誰も書いてくれなかったので自分で書きました。
https://syosetu.org/novel/251677/
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