力仕事と料理番   作:むっきりむきむき

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 子供の頃から、人一倍、いや人数倍、俺は力が強かった。

 何だっけか…………確か、超人体質?とかなんとか。

 要は、人よりも体が丈夫で力が強いって話だな。

 俺の場合、筋繊維と骨密度。どっちも常人以上に発達して、力持ちになって骨折も殆ど起こさない頑丈の体になったな。

 小学校の頃は、力加減に苦労した。それはもう、鉛筆程度なら片手で軽く折れるし、咄嗟に誰かの手を掴もうもんなら痕になる。

 お陰様で化け物扱いだ。

 まあ、そんな事はどうでも良い。要は俺の力が強いってことを理解してくれればそれでいい。

 何でこんなことを語ってるのかって?下準備は、何事にも必要だろう?

 苦労話を聞かせたい訳じゃない。いや、苦労はしてきたけど、それは今更の話だからな。

 これからやるのは、ちょっとした話さ。肩ひじ張らずに話半分に聞くようなそんな与太話。

 どうぞ、お付き合いいただければ幸いです、ってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(スッゲェべとべとしやがる…………)

 

 足元の泥濘を革靴のつま先で掻き混ぜながら、加賀地清隆(かがちきよたか)は学長の長い話に耳を傾けていた。

 本日は晴天。青空の元、某農大の入学式は執り行われいる。

 正直なところ、偉い人の話は小さいころから話半分に聞いてきた加賀地。頭の中で考えていたのは、この入学式前に配られていたビラについて。

 

(長谷川遥さん、ねぇ…………大学院生なら、そんな心配する事なの、か?)

 

 若い女性が一か月もの間行方不明。加賀地としても、心配するのが分からない訳ではない。ないが、ソレはソレとして誰にも告げずに一人になりたい時間が誰しもあると彼は思うのだ。

 何より、大学院という事は既に二十を超えて暫く経っているという事。親に、どこどこに行くやら、小学生ではないのだから告げたりしないだろう、と加賀地は一人そんな結論へと至っていた。

 それからは思考を切り替えて空を遠目に眺めて雲を追ったり、小鳥のさえずりに耳を傾けていればいつの間にか入学式は終わりを告げていた。

 各々解散となり、加賀地も周りにつられるようにして立ち上がる。

 水が抜けているといえども、泥濘。ちょっとばかり足場が悪いが彼は、揺れることなくとりあえず硬い地面のある方へと足を向けた。

 

「おっと」

「ッ!すまん、助かった」

「気にすんな。足場が悪いし」

 

 途中、同じ新入生であろう黒いスーツの小柄な男性が転びそうなところを咄嗟に助けた加賀地。

 袖の上から前腕を掴む様な形となって、()()()引き上げる。

 

「スーツって事は、新入生だよな?俺、加賀地。加賀地清隆ってんだ」

「お、おう。沢木直保、です!」

「僕は結城蛍。加賀地も新入生なのかな?」

「ああ。今日からピッカピカの大学生だな。それより、沢木。腕、痛んだりしないか?」

「え?…………別に何ともねぇけど?」

「そう、か…………良かった」

 

 胸を撫で下ろした加賀地。

 これには、掴まれた当人である沢木も、そして連れである結城も首を傾げるしかない。

 二人の聞きたそうな雰囲気を感じ取ったのか、加賀地は苦笑いを浮かべて手を振った。

 

「いや、な?俺って、昔っから力が強くて怪我させちまったことがあるのさ。さっきも、咄嗟に掴んじまったしそのせいで跡になってたりしたら大変だ、と思ってさ」

「確かに……結構、グッと掴まれた、かも?」

「マジで、ごめんな。一応、加減の勉強はしてきたんだけども…………」

 

 若干暗くなった加賀地に対して、焦ったのは沢木だ。

 彼もまた、ある種の体質によって幼少期から苦労してきた。故に、そんな苦労をしてきた相手には同情してしまう。

 

「き、気にすんなって!ほら、加賀地が掴んでくれなきゃ尻からこの田んぼに突っ込んでたしさ」

「だね。僕もナイス判断だったと思うよ」

「…………悪いな、気使わせて」

 

 そこで一呼吸置き、三人は田んぼからようやく出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――へえ、結城と沢木は幼馴染なのか」

「うん、そう。結構小さい頃からかな。僕の家は酒蔵だったし、沢木の家は室町から続いてるもやし屋だから」

「もやし?」

「あ、もやしって野菜のもやしじゃなくて種麹ことだよ」

「麹?麹ってあの、味噌とか作るときに使う奴、だっけか?」

「種麹は麹を作るときに必要なモノ、って言ったらいいのかな。ごめん、説明下手で」

「いや、俺ってその手の知識無いからな。ふわっとしか分からねぇわ。んじゃ、沢木はそっちの道に進むのか?」

「んあ?あー、俺は、その…………」

「?」

「沢木は実家と折り合いが悪くてね」

「あー、成る程な。悪い、踏み込み過ぎた」

「良いって。俺も言ってなかったし…………ん?」

 

 流れで構内を移動していた三人。気まずそうに頭を掻く加賀地に気にするな、と手を振りながらポケットを漁っていた沢木はある事を思い出していた。

 取り出すのは、くしゃくしゃになった紙。

 

「あ……忘れてた。じいちゃんに人に会うよう言われてたんだった」

「人?沢木のお爺さん、東京に知り合いでもいたのか?」

「樹先生?で良いのかな。僕も、先代にそんな伝手があったなんて知らなかったよ」

「いや、じいちゃんに東京の友達の話なんて聞いたことねぇって」

 

 興味を示した加賀地と結城だが、肝心の沢木は乗り気でないらしい。

 取り出した紙を片手に、その表情は憮然としているというか何とも言えない微妙な表情。

 

「それじゃあ、その人に先に会いに行こうか?」

「えー………俺としては、サークルとか見に行きてぇよ」

「でもよ。折角、お爺さんが用意してくれた伝手だろ?俺は、先に挨拶済ませたが良いと思うぞ?サークルの勧誘は暫くあるだろうしな」

「いやいや、俺はチャラく楽しいサークルに入って、東京のキャンパスライフをエンジョイしたい―――――」

「おーい、二人とも。聞いてきたよ。樹先生の研究室」

 

 ぐちぐちと渋っていた沢木だが、流石は幼馴染。結城は持ち前のコミュニケーション能力を活用して、先輩を捕まえるとさっさと件の樹先生の研究室を聞き出してしまう。

 鮮やかな手並みに、加賀地は感心したように手を打った。

 

「スゲェな、結城。俺なら、二の足踏んでるぞ」

「別にやましいこと聞いてるわけじゃないしね。ここから、向こうの実験林を抜けたら近道だって。どうする?僕は沢木と一緒に行くつもりだけど…………」

「まあ、ここまで来たら気になるし同行してもいいか?先生に追い返されたら、その時はその時考えるさ」

「追い返されたりするのかな……まあ、行こうか。ほら、沢木も」

「えぇー……めんどくせーな…………」

「そう言わない。構内探検だとでも考えようよ」

 

 文句が止まらない沢木だが、彼としても行かない選択肢は取れないらしく渋々ながら場所を聞いた結城の後をついて行く。

 その道中では、幼稚園生の身長ほどに成長した大根を見たり、防護服を着用した集団を見たり、家畜の行列に道を譲ったりあったのだが、事件などは特になかった。

 だが、実習林に差し掛かったところで異変が。

 

「な、なあ、蛍」

「ん?」

「本当にこっちに行くのか?」

「え、うん。ここ抜けたら近道だって」

「…………」

「どうかしたのか、沢木。まさか、霊感があって幽霊見えるとかか?」

「えーっと、その…………」

 

 加賀地の質問に視線を泳がせた沢木は、結城を見る

 何かしら言いずらいことがある事は明白。とはいえ、加賀地としてもそこに踏み込むのは憚られる訳で大人しく何か知ってるであろう結城を見るばかり。

 二人の視線を受ける事になった結城は、困ったように眉根を上げるが直ぐに打開策を提案してきた。

 

「沢木が決める事だよ。話すか、話さないか。加賀地だって、無理に踏み込んでこない。だろ?」

「あ?まあ、な。ここまで露骨に反応されりゃ気になるが…………まあ、人間言いたくない事の一つや二つあるしな」

「だってさ。どうする、沢木?」

「ぬぬぬ…………ふぅ……うっし、加賀地」

「おう?」

「俺、菌が見えるんだ」

「…………きん?きんって、あのきんか?ゴールドじゃなくて、ウイルスとかその辺の菌?」

「お、おお」

「へぇー…………沢木って、目が良いんだな」

 

 スゲェな、と目の前で純粋に感心する新たな友人()に対して沢木は逆に驚いたように目を見開いていた。

 ただそれは、沢木だけであったらしく、結城はそれほどではなかったり。

 

「し、信じるのか?頭おかしいとか思わねぇ?」

「あん?嘘なのか?」

「いや嘘じゃねぇけど」

「なら良いだろ。世の中、幽霊見えるって言って金稼ぐような奴も居るんだぞ?だったら、菌が見える奴だって居るさ。それに、ちょっとしか話してないが沢木も結城も嘘ついてまで騙すような事するような奴とは思えねぇし」

「そう、か?」

「おう。それに、俺もある意味特異体質だし」

「へ……?」

「ま、追々見せてやるよ。この学校なら力仕事もありそうだしな」

 

 それまで内緒な?と笑う加賀地。

 そんな彼に、自分の秘密を一世一代の気持ちで明かした沢木は拍子抜けしたような顔。

 初めての経験だった。それこそ、祖父や幼馴染の結城位しか今まで真面に信じてこなかったこの力を目の前の青年はアッサリと受け入れて信じたのだから。

 似たような体質、というのも気になったが、何より受け入れてくれたことが素直に嬉しい。

 そんな心持だったからか、沢木はアッサリと入る事を躊躇った実習林の中へと足を踏み入れいていた。

 彼らの向かう先、菌の原因とは果たして。

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