なんとか間に合いました。
凰修大学附属病院のとある病室。
窓際のベッドから身を起こし、物憂げな表情で外を見る少年がいた。
少年名は、成瀬隆一郎。セレジュもとい玲十郎の兄である。
右の手首の先からはなく、包帯が巻かれている。
「………………」
右腕に視線を移したとき、病室のドアが開く音がして、数秒後に仕切りのカーテンが開かれた。
「まだ何か用があるの……か?」
弟かと思って振り向いたが、そこにいたのは、彼にとってまったく面識のないショウマだった。
「お前が、セレジュの兄貴だな? セレジュは……いないか」
「だ、誰だ……? 玲十郎の知り合いか?」
「まあな。柊翔真だ。GBNでヘルパーをやってる。お前の弟は俺の依頼人だった」
「依頼人?」
特に断りもなくベッドの横にあった椅子に座ったショウマに目を白黒とさせたが、すぐにショウマの手に握られているものに気づいた。
「それ……!」
「ん? ああ、そうだよ。《ブラストZガンダム》だ」
「そんなことわかってる! なんでアンタが持ってるんだ!」
「おいおい、落ち着け。これを振り回して遊ぼうとする子どもから取り返しただけだよ」
「子ども……? 玲十郎のことか?」
「いや。ここに入院してるもっと小さな子たちさ」
ますますもってわけがわからない隆一郎をよそに、ショウマは《ブラストZ》をベッドに付いたテーブルに乗せ、その全体を改めて見た。
「いいガンプラだ。パーツも、ディティールも、塗装も、どれひとつとっても丁寧で、心を込めて作られてるってわかる」
隆一郎もショウマが称賛したガンプラに目線を動かすが、すぐに目を伏せた。その様子で二人の間に何かあったことを確信し、ショウマは本題に入る。
「これ、誕生日プレゼントなんだってな。なかなかニクいじゃないか。自分の考えたガンプラ作ってくれるなんてさ。……それがどうして、こんなことになる。お前、セレジュと何があった?」
「これは俺たち家族の問題だ。関係ない人が口を挟まないでくれ」
「そうしてもよかったんだけどな。あいつとリアルの付き合いをしたのが運の尽きだ。だから、依頼後のアフターサービスだ」
「そんな理屈が……!」
「なにより」
ショウマはセレジュと似た雰囲気の顔に詰め寄った。
「なにより、見過ごせないタチなんだ。家族の不和ってやつを」
ワントーン下がった声に、隆一郎は観念したようにベッドに身体を預けた。
「……ガンプラから、離れようと思ったんだ」
絞りだされる声を聞き逃さないように、ショウマは隆一郎に意識を集中する。
「玲十郎にはモデラ―の才能がある。けど、俺にはそれがない。だから、こんな腕になったのも、いい機会だと考えた」
「それでノートを渡して、GBNのアカウントも譲った、と」
知ってるのか、そう言いたげに少年の目が揺れる。
「でも、日を追うごとに、また作りたい、GBNに行きたいって気持ちが強くなっていった。けど、そこにこれさ」
隆一郎は左手で《ブラストZ》を自分の正面に向けた。
そう長くない静寂のあと。突然、隆一郎の目から涙が溢れだした。
「お、おい……」
「完璧なんだ!」
隆一郎の肩に触れようとしたショウマの手が、張り上げられた声にびくりと止まる。
「は……?」
「アンタの言う通りだ。完璧だよ……。パーツも、ディティールも、塗装も、全部! 全部俺が考えていた通りのものだ!」
賞賛であるはずの言葉が、慟哭と共に吐き出される。
「だけど違うんだ! これは玲十郎が作った、玲十郎の《ブラストZ》だ! 俺のじゃない! 自分で、この手で、完成させたかったんだよぉ……!」
喉を震わせて泣くばかりになってしまった隆一郎に、ショウマはため息をついた。
「だから贈られた《ブラストZ》を拒絶して、仲違いか。……バカだなぁ、お前」
「え……」
「大方、この《ブラストZ》を当てつけだとでも曲解したんだろ。もう一度、よく見てみろ」
隆一郎は、弟から贈られた《ブラストZ》をもう一度見た。
「こいつのパーツには、GBNをでなきゃ手に入らないパーツがいくつも使われている。総額で考えればかなりの額のBCが必要だ。でも、大事なのはそこじゃない」
ショウマの脳裏に、GBNで懸命に戦っていたセレジュの姿がよぎる。
「あいつはそれをほとんど一人でやってたんだ。お前に喜んでもらうために。抜け殻みたいになっちまった、お前のためにだ」
「俺の、ため……?」
「よく考えてみろ。お前のアイデアをここまで忠実に再現してくれたんだぞ。その意味がわからないわけじゃないだろう?」
《ブラストZ》を手に取った隆一郎は、頬を伝う涙で《ブラストZ》の肩を濡らした。
「わかってたさ。本当はあの時、ありがとうって言うべきだったことは……。わかって、いたのに……!」
「そこまでわかってるなら上等だ。ちゃんとセレジュに言ってやれよ」
涙をぬぐった隆一郎の表情はなおも暗い。
「でも、ひどいことも言ったし、しばらくは、来てくれなさそうで……」
「何言ってんだ。これから会うんだよ」
「これから……?」
「なぁに、これもサービスのうちだ。ちょっと待ってな」
そう言って、ショウマは得意げに笑ってみせた。
セレジュ君のお兄さんがさらっと登場です。
気持ちはわからんでもないですね。
そんな彼にショウマは一体何をしようと考えてるんでしょうか。
近いうちに更新します。