新型コロナウイルスが憎い。
うららかな日差しを浴びながら草原を滑る風が、花の香りを連れて空へと舞い上がっていく。
GBNの中ではあらゆる季節、気候が再現されるため、ダイバーたちは戦いの興奮だけでなく、安らぎの時間さえも享受することができる。
「気持ちいい所ですねぇ」
「ああ。うっかり居眠り操縦、なんてことになるなよ?」
「あはは、さすがに僕でもそんなことはしませんよ」
前を歩く《クインス》と《ブラストZ》の中で、ショウマとセレジュが暢気な会話を繰り広げる。
「むー……」
しかし、《インサイトフレーム》のユーコだけは不満そうな顔つきだった。
「どうした、ユーコ。依頼人から同行の許可がもらえたってのに、浮かない顔だな」
「許可をもらえたのはありがたいわ。ありがたいけど……!」
コクピットに映ったショウマの顔に応えつつ、操縦桿を握りしめ、ぐぐぐ、と身体に力を溜める。そして叫びとともに一気に解放した。
「なんでよりによって牛運びなのよ!」
ユーコの憤慨した声が澄み切った空にほどけていく。
ショウマがユーコの取材の後に予定していた依頼は、『∀ガンダム』の劇中のワンシーンを再現した、物資運搬ミッションのヘルプであった。
「地味すぎるわよ! 私は派手に戦ってる写真が欲しかったの! なんで武器の使用ができないミッションなのよ!」
かなり身勝手な怒り方にショウマは少しげんなりとした顔つきになる。
「依頼内容を聞かないでついてくるのが悪いんだろ……」
「やあ、悪いねぇ。GBジャーナルさんの取材があるって知っていたら、もっと別のミッションを選んだんだけどねぇ」
そう言って通信に割り込んできたのは、今回の依頼人であるダイバー。同作の登場人物のウィル・ゲイムに似た風貌で、登場するガンプラも《キャノン・イルフート》だ。その両手は5頭の牛が乗っている。
「いや、あんたは気にしないでくれ。あいつの自業自得だ」
半笑いで、明らかにこちらをコケにしているショウマの声に、ますますユーコは顔を紅潮させる。
「ぐぬぬぬ……!」
「ユーコさん、そう気を落とさないでください。すごい写真なら今がチャンスじゃないですか」
「セレジュくん? どういうこと?」
「僕の《ブラストZ》じゃあ、どう頑張っても一度に運ぶのは4頭が限界ですけど、ショウマさんの《クインス》を見てください」
セレジュが示す《クインス》は、両手だけでなく背面に装備したシールドも巧に操り、一気に10頭の牛を運んでいた。
「ね? 十分すごいと思いませんか? あれって、かなりのテクニックが必要ですよ」
「純粋すぎて怒鳴る気にもなれないわ……。まあ、一応撮っておきましょうか」
一行の中で唯一、牛も豚も運んでいない《インサイトフレーム》がバーニアを使って跳躍し先頭に出る。そして右手に携行したガンカメラで写真を撮った。
「統一感のない画だわ。牛を運んでるのもなんかシュールだし……」
縦に並びながら牛を運ぶ三機のモビルスーツの写真に、ユーコは記事で使えるか本気で悩んでしまう。
「ハハ、いいじゃないか。今のお前、フラン・ドールみたいだぞ」
「あんまり嬉しくない!」
そして、50頭の牛を制限時間内に運ぶミッションは、あっという間に終わった。
「ありがとう。ウィルゲムデザインのフォースネストを手に入れるには、どうしてもこのミッションを短時間でクリアしないといけなかったんだ」
報酬を支払いながら、今回の依頼の目的を口にするダイバー。
「力になれて何よりだ。こっちこそ、突然あんなのを連れてきて悪かった」
ショウマが『あんなの』と言ったのは、《インサイトフレーム》の足元で口を尖らせながら撮影した写真を確認するユーコである。
「ハハハ。本人には気の毒だったけどね。僕が頼める義理じゃないけど、次の依頼にも連れて行ってあげたらどうだい? 噂のヘルパーだ。依頼は山とあるんだろう?」
「まだ依頼があるのっ⁉」
耳ざとかったユーコが、M.E.P.Eもかくやという素早さで一気にショウマの傍に立った。
「うおっ、聞こえてたのかよ……」
「次の依頼も同行させて! これじゃあアンタの記事がいつまで経ってもできないわよ!」
「わかった。わかったってば。セレジュ、お前はどうする?」
牛を撫でていたセレジュは呼びかけに振り返り、ショウマのもとへと馳せる。
「もちろんご一緒します! 次の依頼はなんですか?」
「そう! そこが重要よ!」
二人から期待と懇願の眼差しを向けられ、ショウマはふふんと得意げに笑う。
「喜べユーコ。次の依頼は、お前好みの絵が取れそうなバトルミッションだ」
その言葉に、ユーコの表情は一気に華やぐのだった。
生存報告的な更新でした。
久しぶりの更新なので、この話で本作に初めて触れたよーって方は、ぜひ第一話から読んでみてください。短い文字数でまとまってるので読みやすいですよ。
不定期更新です。