夕日に染め上げられる街を走る一台のバイク。ハンドルを握っているのはショウマだ。
最近になって開発が始まった沿岸都市に住むショウマは、これから向かう場所に行く際は必ずこの道を通る。
赤信号でバイクを停め、ヘルメットのバイザー越しに工事現場を見やる。一際目立つ位置に、その内側に立つものを隠すようにしてシートが張られていた。
「……実物大のエールストライクか。もうできてるのかな」
なんとはなしに呟くと、信号が青に変わった。
やがてショウマは目的地である凰修大学附属病院に到着した。
いつも利用している関係者用の駐車場にバイクを停めて、建物に入ると、顔なじみの看護師が受付に立っていた。
「あら、柊くん。こんにちは」
「どうも。先生は?」
「いつもの所にいると思うわ」
短くも充分なやりとりを終え、ショウマは病院内の一室へと足を運ぶ。
資料保管室という札が掲げられたそこが、これから会う人物の根城だ。
「失礼します」
扉を開けると、椅子に腰かけ、こちらに背を向ける一人の若い男がいた。
「麻玖木先生」
呼びかけると、その男は振り返ってショウマに微笑んだ。
「やあ、ショウマくん。そろそろ来ると思っていたよ」
この病院に勤務する脳外科医で、その容姿も相まって病院内の女性たちからの評判も高い。
そして、ある取引をしてショウマの人生を変えた男だ。
「これ、今週分の活動記録です」
「ありがとう。いつも助かるよ」
ショウマから受け取ったUSBメモリーを机の上のパソコンに挿し、麻玖木はデータの閲覧を始める。
「彼女の調子はどうだい」
「特に問題はないです。働き過ぎじゃないかって、俺の方が心配されました」
「フッ、惚気話だな。しかし、本当に今週の分は多いな。いつもの倍はある」
ショウマが渡したUSBには、《ヘルパー》としての彼の活動記録が、曜日ごとに分類されて入っていた。
「これは、近々開催される期間限定ミッションの参加条件が、Cランク以上のダイバーであることも関係しているのかな?」
「かもですね。今週はほとんどが昇級絡みの依頼でした。みんなそんなにやりたいんでしょうか。10機の《ディビニダド》攻略戦」
「あの場面はインパクトがある。それに、撃墜報酬も欲しいのだろうさ」
二人の会話はGBNに関するもの。麻玖木もGBNのダイバーの一人であった。
「先生も出るんですか? もしかしてついに先生のガンプラが見れるとか⁉」
ショウマの声が弾む。ショウマはまだ麻玖木のガンプラを見たことがなかったのだ。
しかし、麻玖木は眉を下げて苦笑した。
「生憎、イベント期間中は仕事が立て込んでしまってね。すまないが、今回は不参加とさせてもらうよ」
「なんだ、残念。先生のガンプラ、カリンも楽しみにしてるのに」
「そうか。……さて、記録の確認は後でもできる。彼女に会っていくかい?」
その言葉に、ショウマの表情が一変して陰る。
「……はい。会わせてください」
二人は部屋を出て、ある病室へ足を運んだ。
麻玖木によって確保されているこの病室には、一人の少女が眠っている。
「カリン……」
ベッドの上の表札に記された名前は、
「バイタルに問題はない。脈拍も脳波も正常値だ。ただ、植物状態が依然として続いている」
「そうですか……」
事実を述べる若い医者の声に、ショウマは目を伏せる。
「すまない。私も出来る限りのことはしているつもりだが……」
「やめてください! 先生には俺もカリンもずっと世話になりっぱなしです! 先生がいなかったら、カリンは……。だから、先生は悪くありません!」
「そう言ってくれると、いくらか気持ちが軽くなるよ」
「俺、頑張りますから。GBNでカリンと一緒に《クインス》をもっと動かして、データを取って。だから、こっちのカリンのこと、よろしくお願いします!」
「ああ。全力を尽くすよ」
そしてショウマは短い滞在を終え、帰路についた。
病院の廊下からそれを見送った麻玖木は、ショウマの乗るバイクが角を曲がって見えなくなると、その視線を遠くに投げた。
「……柊翔真、淡倉花梨。君たちは私の希望だよ」
GBFがラルさん、GBDがコーラサワーなら、うちの作品はマクギリスです。
そのうち更新します。