ガンダムビルドダイバーズRe:Birth   作:ドラーグEX

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第20話 光、追いかけて

 家を飛び出し、病院へとバイクを走らせたショウマを駐車場の入り口で待ち構えていたのは、ショウマと同様に険しい顔をした麻玖木であった。

 

「先生! 大変なことに──」

 

「落ちつきたまえ。状況は把握している。話は資料室でしよう」

 

 声を発しようとしたショウマを止め、病院内の密談に使う資料室へと連れ込んだ麻玖木がドアの鍵をかけると、ショウマは抑え込まれていた勢いのまま、声を張り上げた。

 

「なんなんですかあれは! どうしてあんな写真が⁉」

 

「わからない。私もこのような事態は想定外だ。よもや、彼女が姿形を持って現れるとは」

 

 椅子に座った麻玖木は、机に置いた携帯端末で例のGBジャーナルの記事を開き、掲載されている写真を拡大する。少女の形をした光に、短く息を吐く。

 

「やはり、間違いなく淡倉花梨だ。写真の角度からは確かに君と話しているようにも見えるが、実際はどうだったんだ?」

 

「いつも通りでした。クインスのディスプレイを開いて、二人で話して……。だけど、こんなものはいなかった!」

 

「だろうな。これが突発的に起きていたなら、こちらの彼女にもなんらかの影響があるはずだ」

 

「そうだ、カリンはっ? 大丈夫なんですか?」

 

「病院に着いてすぐに確認に向かったが、異常は見られなかった。後で君も会ってあげるといい」

 

 ショウマは無言で頷き、写真へと目線を送る。写真の中で寄り添う光に自分が気づいてなかったと思うと、胸がざわついた。

 

「ショウマくん、気持ちはわかるが我々には究明しなくてならないことがある」

 

「誰がこの写真を……ですか」

 

「ああ。心当たりはあるか?」

 

「……あの時、ユーコがいたような気がしたんです」

 

 病院に向かうまでの道中、ずっとあのログアウト前の光景が脳裏で再生されていたショウマは、絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「君を取材していたGBジャーナルの記者か。君のあとをつけていたのかもな。もうひとつの問題は、どうやってこんな写真を撮ったのかだ。加工したにしても抽象的過ぎる。もっとやりようがあるはずだ」

 

「あいつがカリンのことを知ってるとは思えませんし……」

 

「ならば、やはり撮ったのだろう」

 

「でも、どうやって?」

 

「考えられる可能性は、ひとつだけだな」

 

 ショウマはすぐにその答えを見出した。

 

「……ブレイクデカール」

 

「そうだ。ステージにも干渉するほどの力を持つブレイクデカールならば、こうしたことができるとしても不思議ではない」

 

「でも、ユーコは俺やセレジュと一緒に、キョウヤからブレイクデカールへの注意喚起を頼まれてたんですよ!」

 

「次代のチャンピオンからか……。だが人間とは、存外移ろいやすいものだ。危険性を知っているがゆえに、その絶大な力を欲する者もいる」

 

 麻玖木の言葉は、厳しくとも否定できなかった。

 

「こうなったら、会社に直接乗り込んで、ユーコに確かめてきます! 場所はここからそう離れてもいませんし、俺のバイクならすぐです!」

 

「スマートなやり方ではないが、今の君はそうでもしなければ気が収まらないか。いいだろう」

 

 麻玖木は立ち上がり、白衣の襟を正す。

 

「私はこちらで淡倉花梨の経過を見ておく。何かあったら連絡しよう」

 

「お願いします。それじゃ……!」

 

 挨拶もそこそこに、ショウマは病院を飛び出してGBジャーナルを運営する出版社へと移動した。

 

 だが、結果は振るわなかった。彼女は今日、会社を休んでいたのだ。

 

「休みって、どういうことだよ……」

 

 出版社のビルの傍に止めたバイクに横座りして、自販機で買った水を飲む。夏の足音が近づく日差しが容赦なく降り注いでいた。

 

「住所とか、携帯の番号とかの個人情報は教えてはもらえなかったし、どうしたもんか……」

 

 昨日の今日で、突然姿をくらませたとなれば、否が応でも疑念は膨らんでいく。

 

「何が見えていたのか、もっとよく聞きたいのに……」

 

 携帯電話の画面に映した、カリンと思しき光の写真に指を添える。

 

「こんなに、近くにいたんだな。カリン……」

 

 思い浮かぶのは、彼女との思い出。そして、あの日の、カリンがガンプラの中に宿った瞬間。

 

「……よしっ! できること、やらないとな」

 

 気合を入れるために自らの頬を張ってから、ショウマは出版社を後にした。

 

 結局、その日、ショウマは一日GBNを監視していたが、ユーコがログインしてくることはなかった。

 

 セレジュやキョウヤが止めに入ってきてくれるまで、記事を読んだ顔なじみや、以前の依頼主だったダイバーからの質問攻めや冷やかしに遭っていたこともあり、ログアウトしたころにはショウマも疲労困憊であった。

 

「結局空振りか……。明日また、ユーコがいるか聞きに行かないとな」

 

 夜も更け、真っ暗な室内で大きく伸びをするショウマ。ふと、腹が鳴った。

 

「そういえば、昼からなんも食ってなかったな……」

 

 近くのコンビニまで向かい、適当に弁当を買い、帰路につく。

 

「……ん?」

 

 前方、街路灯に照らされているところに、ふらふらと揺れながら歩く女性がいた。酒に酔っているのか、なにやら唸っている。

 

「気楽なもんだな……」

 

 思わずつぶやいてしまったが、聞こえている様子もない。歩く速度を上げて、ショウマはその酔っ払い女性を追い越す。

 

 ドサ、と人が倒れる音がした。振り返ると、その女性がうつ伏せに倒れていた。

 

「……おいおい」

 

 一度は苦笑で流そうと思ったが、どうにも気になってしまい、引き返した。

 

「おーい、大丈夫か? こんな往来で寝たら危ないよ。なあ、起きなって」

 

 肩をゆすると、ショウマよりやや年上らしき女性は気だるそうに身じろぎし、半分だけ目を開けた。

 

「んー……?」

 

「うわ、酒くさ。とにかく、ちゃんと立って」

 

「……ショウマ……」

 

「え?」

 

 思わず身体が強張る。確かにいま、その名前を口にした。

 

「な、なんで俺の名前を――」

 

 問おうとした瞬間、女性は大粒の涙を流し、大声で泣き始めた。

 

「うわああん! ごめんねぇ! 違うの! 私じゃないのぉ! 知らない間にあんなことになっててぇ!」

 

「え、え、え、なになになにっ?」

 

 突然のことに混乱するショウマだが、即座にひとつの結論が思い浮かんだ。

 

「まさか……!」

 

 よくよく見れば、面影がある。髪の長さも色も違うが、髪型も類似していた。

 

「お前、ユーコなのか⁉」

 

 GBNで探していた人間を、現実世界で見つけてしまった。




世間は狭いようです。

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