というわけで、第三話です。
ぺリシア・エリア。
ガンプラビルダーにとっては聖地とも呼べる、自らの作ったガンプラやジオラマを展示するために作られたGBN屈指の人気エリア。
麻玖木への報告から帰宅したショウマは、再びGBNにログインし、《クインス》を駆ってこのエリアを訪れていた。
「どうだ。見えてるか?」
『わぁ~っ! すっご~い!』
ショウマは自分の肩の上に開いたディスプレイに映る《クインス》に、《∀ガンダム》と《ターンX》の最終決戦を題材としたジオラマを見せていた。
『見てよショウマ! あの∀の作り込み! ディティールもすごいけど、胸に刺さったビームサーベルまでちゃんと再現してる! あれプラ板じゃないよ! 何で作ったんだろう!』
「ああ。すごいな。それにあの《月光蝶》の繭の糸、どうやって再現したんだろうな」
《クインス》の映る画面から発せられる、少女の弾む声に、ショウマも応える。
ぺリシアは中立地帯であり、中東の街を模した空間にガンプラを持ち込むことはできない。ショウマもその例には漏れていなかった。
しかし、使用するためのガンプラは持ち込めなくとも、待機させているガンプラはディスプレイ越しならば問題なく表示することはできるのだ。
『シャフリヤールの新作が見れなかったのは残念だけど、完成度の高いジオラマが見れるのはいいことだよね!』
通路を進みながら、《クインス》は楽しそうな声をあげる。ショウマも笑顔のまま、その言葉に応えていた。
「俺だって、その気になればジオラマの一つや二つ作れるさ」
『え~? もっぱらガンプラ作りしかしないショウマが? どうだかなぁ』
「疑ってるのかよ? 俺にかかれば震える山の《グフカスタム》とか朝飯前だぞ」
『あははっ、ショウマは見栄の張り方のベクトルが面白いね!』
「おいおい……ん?」
『どうしたの?』
「いや、依頼が来たんだ」
『依頼? ヘルパーの?』
ショウマは個人用のチャットの他に、依頼用のチャットを開設している。そこに新たな依頼が舞い込んできたのだ。
「なになに……。『急遽Bランクに上がる必要ができてしまったため、昇級ミッションの経るプをお願いします。総合受付前でお待ちしてmasu』……。なんか変換を間違えてるな」
『慌ててたのかな。どうするの?』
「んー……。今日はもう店じまいだしなぁ」
時間はまもなく日付を跨ぐ頃。ログインしているのは相当なレベルでGBNにのめり込んでるダイバーばかりだ。こんな時間帯に昇級ミッションの依頼を申し込んでくるのはショウマにとっては気乗りがしなかった。
『でも、別にショウマがログアウトしてたわけでもないし。タイミングもいいんだから、話だけでも聞いてあげたら?』
「……そうだな。無視するのも寝覚めが悪い。行ってみるか」
ショウマは《クインス》の声に頷き、ぺリシア・エリアを後にした。
GBN中央受付広場。
日中の時間帯ならば多くのダイバーがいるこの空間も、深夜帯となるとそれもまばらだ。
「さて、依頼主はと……」
受付前にやって来たショウマは首を巡らして依頼主を探す。
「あなたが《ヘルパー》のショウマ?」
背後から声が飛んだ。振り返ると、金色の髪を高い位置で結んだ女性ダイバーがいた。
「そうですけど、あんたが依頼主か?」
「すぐ来てくれるのね。嬉しいわ。私はこういう者よ」
送信されたフレンドコードには、そのダイバーの肩書きが記されていた。
「GBジャーナル記者、ユーコ……?」
「そ! あなたも知ってるでしょ? GBジャーナルのこと」
ユーコと称されるダイバーは、表示したディスプレイにGBジャーナルのホームページを映し出した。
「そりゃ、まあ。おたくらが投稿するおすすめミッションの記事を当てにして、依頼を寄越すダイバーもいるくらいだし」
GBジャーナルはGBNが公認するプロモーションとダイバーのサポートを兼ねた特設の情報サイトである。
ショウマの前に立つユーコというダイバーは、そのGBジャーナルのエース記者であった。
「で? そのGBジャーナルの記者さんがなんでまた? Bランクへの昇級なら、そんな急ぐこともないと思うんだけど」
GBNの大半のミッションはCランク以上であれば参加できる。そこから先はほぼ趣味の域の話だ。
「ふっふっふ、実はね、昇級ミッションの話はウソなのよ」
「は?」
「あなたの噂は聞いてるわ! あなたのガンプラについて、ぜひ話を聞きたくて!」
鼻息荒く詰め寄ってくるユーコに、ショウマは大体の事情を察した。
「ヘルパーのあなたに依頼するわ! 取材に応じて! あなたはうちでもかなり注目されてるの!」
「あー……」
間延びした声を漏らしたショウマが取った行動は、回れ右。そしてダッシュ。
「ちょ、ちょっと⁉ どこ行くのよ!」
「受けるのはミッションのヘルプだ!」
「依頼は必ず引き受けるんじゃないの⁉」
「取材とかそういうは依頼の対象外! 悪いけど、話せることはない!」
「ま、待ってよ! あなたに会うために、ずっと待ってたんだから!」
「知らないよそんなこと!」
中央受付からログアウトするためのゲートはいくらか距離があり、そこからでしかログアウトできない。ショウマは仮想空間で全力疾走を試みた。
「クソッ! 騙された! やることがコスいなGBジャーナル!」
悪態をつきながら走るショウマ。ゲートまであと少し。
しかし。
「ま、待ってください!」
「どわっ⁉」
何者かに腕を掴まれ、急ブレーキがかかったショウマはその場で尻餅をついた。
「痛てて……! おい! 危ないだろ!」
「すっ、すみませんっ! でも、あの、へ、ヘルパーのショウマさんですよね⁉」
中性的な顔つきの小柄なダイバー。色白で、頭には鳥の翼のようなアクセサリーをつけている少年だった。
「そうだけど、君は?」
少年ダイバーは目を左右に泳がせ、意を決したようにショウマに言い放った。
「セレジュです! み、ミッションヘルプの依頼をしたくて!」
不定期更新です。